第4話 繰り返された村祭り

 展望台は村の北東にある。そこは村の人なら誰もが知っている

せせらぎ祭りの名物、花火大会がよく見える場所だ。

ただそこは周りに街灯がないから、夜になると暗がりで不気味なので

普段から人が寄り付く事がなく、祭りの日でも人が来ない。

そのため知る人ぞ知る穴場スポットとなっている。


 ようやく灯台に到着し、辺りを見回す。暗がりではあるが

怪我をするほど見づらい訳でもないのでくまなく探す。

途中で天狗のお面をつけた人を見る度に

そいつが呼び出した奴なんじゃないかと疑心暗鬼になってしまう。

僕は落ち着いて灯台の周りを歩いてみる。だが、人の気配はない。


 「誰も、いない...」


 その時に、遠くの方で鐘が鳴り響く。


 「せせらぎ祭りの最中に鳴る、鎮魂の鐘、か。

  たしか0時ちょうどだったな...もうそんな時間か...」


 それから僕は展望台にたたずみ、手紙の主を待ち続けた。

しかし、展望台には誰一人現れる事なく、ただ時間だけが過ぎていった...。


 まゆみの死について分からない事がある。

まゆみの遺体は何故湖から発見されたのだろうか?

湖は村の外れにある。何か用でもなければわざわざ行かない場所だ。

あの日まゆみは何故湖に行ったんだろう?

そもそもまゆみは自分で湖に行ったんだろうか?


 考えれば考えるほど、新しい疑問がわいてくる。

僕の家に届いたこの手紙も...やはり悪戯だったんだろうか?

一体誰が?何のためにこんなことを?


 .....そろそろ朝日がのぼる。祭りが終わる時間だ。

結局展望台には誰も現れず、何一つ分からないまま

新たな一日が始まろうとしている。


 僕は展望台から身を乗り出し、改めて景色を眺めてみた。

田舎の夜は暗い。近くにあるはずの山々も、光がないせいで全然見えない。



 ...あぁ、そうか。『光』がないんだ。

今の僕には...『光』がない。

僕は暗い暗い、夜の中にいて...

光を見つけられないまま辛い記憶や思い出から

手探りで逃げ回っているだけ...。


 「このままじゃ...駄目だ。」


僕はこぶしを固く握りしめた。

...知る必要がある。

まゆみの死に囚われた僕がここから前に進むためには

まゆみの死について知る必要がある。


 間もなく昇り始めるであろう

朝日を待ちながら僕は強く、強く願った。

真実を知りたい。たとえそれがどんなに僕を打ちのめしても...。


—————————————————

————————

——


 目が覚めると、僕は自分の部屋にいた。


 「雄一!いつまで寝てるの?もう夜の21時よ。

  東京に出て学校に通っている間に生活リズムが

  おかしくなっちゃってるんじゃない?」

 

 展望台からどうやって帰ったのか全く覚えてないが

きっとぼんやりしていたんだろう。


 「そうそう。あんたに手紙がきてたわよ。

  めずらしいこともあるものね」


 ...また?

僕は母さんから手紙を受け取りじっくり見てみた。

何の変哲も無い、茶色の封筒。消印はない。

慌てて中身を確認すると、中にはノートの切れ端が一枚だけ入っていた。


『お祭りの夜、展望台で待ってます』

『小野まゆみ』


 ...同じだ。

同じ手紙がまた届いた。一体どうして?


 「今夜は村のお祭りの日ね。あんたも少し行ってきたら?

  きっと同級生にも会えるわよ」

 

 ...え?

 

 「母さん。今何て言った?」

 「え?だから...今夜は村のお祭りの日ねって」

 「祭りは...昨日だったでしょ?」

 「何言ってるの。東京に行ってる間にお祭りの日も忘れちゃったの?

  だったら尚更行ってきたらいいわ。

  久しぶりの村祭り、きっと楽しいわよ!」


 母さんの言っている意味が、よく分からない。


 「...あ、そうそう。雄一、誕生日」おめでとう!

  あんたももう19歳になるのね。時間が経つのは早いものねぇ。

  お母さん、困っちゃう!」

 「.....母さん。今日は、何日なの?」

 「え?あんた自分の誕生日も忘れちゃったの?

  さすがにそれはどうかと思うわよ」

 「今日は...8月15日だよね?」


 「8月14日よ」


 ...どういうことだ?


 「村祭りの日も自分の誕生日も忘れちゃうなんて...

  雄一、あんた疲れてるのよ。どうせ一人暮らししてる間

  いいもの食べてないんでしょう?駄目よちゃんと食べないと。

  お祭りには出店も出てるから、そこで何か食べるといいわ。

  気分転換に楽しんでらっしゃい」


 8月14日の次の日は、またも8月14日だった。

僕は自分の身に何が起こったのか分からず、しばし呆然としていた。

8月14日が繰り返されている...一体なぜ?


 『今夜は村のお祭りの日ね』


 これは死者を呼び寄せるという、せせらぎ祭りの不思議な力なのか?


 『お祭りの夜、展望台で待ってます』


 それとも死んだまゆみが僕に何かを伝えようとしているのか?

...調べよう、まゆみのことを。真実に少しでも近づくために。

まゆみの遺体を最初に見つけたのは...誰だったんだろう?

まゆみの家族に話を聞いてみるのがいいかもしれない。


 僕の...『2回目の8月14日』が始まった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る