第2話 同級生

 僕は簡単に身支度を済ませると、玄関まで小走りした。

手紙の事を考えない様にするのは難しかったけれど

玄関を出た時に聞こえてきた子供達のにぎやかな声と

出店から漂う美味しそうな焼きとうもろこしの香りがして

さっきまでの沈んでいた気持ちに少しだけ光が灯った。

時刻は夕方21時すぎ。もう少しで村の広場で総踊りが始まる。

 

「村のお祭り...か。久しぶりだな」 

 

 僕の名前は金田雄一。この村で生まれ、高校を卒業するまで

この村に住んでいた。卒業した後、現在は東京の大学に通っている。


 「そう言えば神社に住んでた犬、元気にしてるかな」


 雄一は昔を懐かしみながら、村の広場まで歩いて行く。

村の広場ではステージが組まれていて、そこでは太鼓を鳴らしている男達と

その周りをお面を着けた村の人達が踊っていた。

せせらぎ祭りの総踊りは昔から死者を迎え入れ

村の風習でお祭りに参加する人はお面をつけて周回する。

理由は、この村に初めて来た人と元から村に住んでいる人が

分け隔てなく仲良くなれるためだとか

死者は恥ずかしがりだから、お面をつけて死者だとバレずに

みんなと楽しく過ごせる様にしているとか、色々な説がある。


 昔学校の先生にその伝説を教えてもらったけど

未だに本当かどうか定かじゃないし信じていない。

 

 村の広場の手前で誰かが立っている。その人は僕を見つけると

飼い主を見つけた犬のような顔で手を振りこっちまで走ってきた。


 「雄一!?何だよお前久しぶりだな!こっちに帰ってきてたのか!」

 「え?久しぶりって...お前誰だっけ?」

 「俺だよ!高校の同級生の相田だよ!いやぁ懐かしいなぁ!」

 「相田?相田って、あの万年肉玉男の相田か?お前、随分と痩せたなぁ」

 「俺も歳取ったからなぁ...お前は相変わらずな感じだよな!」

 「よせよ、僕と同い年のくせに年寄り臭いぞ」

 

 こいつの名前は相田みつる。僕の高校時代の同級生。

いつも僕はこいつとつるんで悪さばかりしていた。

ずる賢さは天下一品だけど勉強はまるでだめで、いつも僕の書いたノートを写してた。


 「突然なんだけど、実は今仲の良い同級生数人で集まっててさ!

 ちょうどよかった!お前も来いよ!」

 「え?あ、おい!引っ張んなって!」


 僕は相田に、強引に広場の裏まで連れて行かれた。

そこには僕と相田以外に二人集まっていて、僕達を待っていたようだ。


 「おーい、みんな!遅くなってごめん!それより、驚くなよ?

  こいつ!誰だか分かるか?」


 こいつはどうやら僕の意思は関係ないらしい。相田、覚えてろ。


 「...あれ〜?雄一だ!なっつかしー!あたしのこと、覚えてる?

  花屋の娘の佐藤千景(さとうちかげ)だよー!...って言っても

  雄一がうちの花屋に花を買いにくる事なかったしねぇ。

  花屋の娘なんて言ってもあんまり印象はないかな?あはは、まぁいっか!」


 この子の名前は佐藤千景。実家が花屋なのは知っていたが

千景の言う通り、今まで店に行った事は一度もない。

いつも女の子達と楽しそうにしていて、男女関係なく仲良くしてくれるタイプだ。


 「じゃあ次、藤田くん!」


 無愛想に僕をちらっと見てきたこいつは、藤田勝(ふじたまさる)

冷静でいつも物事にたいして真面目に考えている癖がある。

そのため冗談があまり通じないことが多々あった。

それでも根は優しくて、いつも皆みんなの博士と呼ばれていた。

だけど、今の藤田は心無しか怒っているような気がする。


 「...雄一、久しぶりだな。ここに居る三人はみんな別々の高校に行っても

  連絡を取ったり、たまに会ったりしていたんだ。なのにお前は電話しても

  メールを送っても返事の一つも寄越さなかった。少し...冷たすぎるんじゃな  いか?」


 ...藤田の言う事はもっともだ。僕は高校を卒業してから

同級生達を避けていた。いくら連絡をもらっても誰とも会う気がしなかった。


 「原因はやはり...小野の事か?」

 「っ!」

 「...図星か。そういうことなら仕方ない。何も言わなくても分かるよ。

お前は昔から分かりやすい奴だったからな。」


 僕は何の反論も出来ず、ただ藤田の言葉を聞く事しか出来なかった。

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