君は笑顔でそう言った
明日香
第1話 謎の手紙
祭りの夜にはお面をつけて、死者がこの世に戻ってくる。
これは僕の村、儚月村(もうげつむら)に伝わる、不思議な言い伝えだ。
僕の村は都心から5時間半程かかる海沿いにあり、周りは高い山に囲まれていて、人口もそんなに多くない。雑草の生い茂る、今時コンクリート舗装も無い様な時代に取り残された田舎の村だ。
村のシンボルは天狗。天狗は山から降りてきて
死者の送り迎えをすると言われている。
そんな村だからこそ、死者が戻ってくるなんて言い伝えが
いまだに信仰されている。
でも僕はそんな言い伝えは全然信じていなかった。
そう...あんな手紙が僕のところに届くまでは。
実家は自慢出来るほど大きな家ではなく
ボロ一軒家でぽつんと村にたたずんでいるような寂しい家だ。
僕は大学の夏休みを使って、久しぶりに実家に帰省していた。
この村では毎年8月14日に、村ならではの伝統行事である
『せせらぎ祭り』が開催される。今日がその日だ。
実家に帰ってきて母さんの手料理をありがたいと感じるのは
一人暮らしで何でも自分でやるようになってから
実家に帰ってきて母の手料理をありがたいと感じる様になった。
母さんは普段から口うるさいが、いつも美味しいご飯を作ってくれる優しい人だ。
村から逃げる様に東京の大学に行ってしまったのに
そんな僕の背中をいつも見守ってくれる。
ひどく疲れていたのか、朝帰ってきてベッドですぐ横になり
気がつけばもう夜になっていた。
「雄一!いつまで寝てるの?もう夜の21時よ。
東京に出て学校に通っている間に
生活リズムがおかしくなってるんじゃない?」
「別に実家に帰ってきたときくらい、自由にしてたっていいじゃないか」
「そうそう、あんたに手紙がきてたわよ。
めずらしいこともあるのね」
「手紙?」
母さんはそう言うと、俺に手紙を渡してきた。
どうやらその手紙には消印がなく
何の変哲も無い茶色い封筒に入っていた。
それは、中を見る前から少し不気味だった。
封筒を開けると、中にはノートの切れ端が一枚だけ入っていた。
『お祭りの夜、展望台で待ってます』
手紙にはそう書かれていた。そして差出人の名前を見て背中が凍り付いた。
『小野まゆみ』
嘘だ、そんなことあるわけない。だってまゆみは...4年前に死んだんだから。
「今日は村のお祭りの日ね。あんたも少し行ってきたら?
きっと同級生にも会えるわよ」
母さんはそう言うと、一階へと降りていった。
”祭りの夜にはお面をつけて、死者がこの世に戻ってくる”
僕の頭の中に、村に伝わる不思議な言い伝えが不気味に響き渡っていた。
この手紙...これは一体何なんだ?消印がないということは、この手紙は直接僕の家のポストに入れられたことになる。
誰が?何のために?死んだまゆみの名前まで使って?
『今夜は村のお祭りの日ね』
『お祭りの夜、展望台で待ってます』
...まさか...いや、そんなはずない。
悪趣味な誰かの悪戯だ。そう思い込もうとしたけれど...
消印のない死んだまゆみからの手紙は、僕の心の中に暗い影を落とした。
今夜、祭りの夜に何かが起こる。そんな気がしていた。
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