第7話_冥府攻略_

屯田とんださん、お代わり! 」


 ごんが元気よく、茶碗を屯田とんだに差し出す。


「了解、まだまだあるから、正一しょういち君や竜也りゅうや君も遠慮しなくていいからね 」


 屯田とんだが、茶碗にご飯を盛る。

 食卓に並ぶ、ハンバーグ、ポテトサラダなどの食品。

 それらを美味しそうに、三人が食べている。


「これ全部、屯田とんださんが作ってくれたの? 」


「そうだよ、私は炊き出しに何度か出動したことがあってね、慣れているんだ 」


 屯田とんだは、腕まくりして見せる。


「私には君たちのような戦闘能力は無いが、こういった支援ならできる。

 幾らでも頼ってくれ 」


「ごちそうになって、悪いんだがな。

 一つ聞いていいか? 」


 先ほどまで、貪るようにハンバーグを頬張っていた竜也りゅうやが、姿勢を正している。


「何かな?

 私が知っている事であれば、なんでも答えよう 」


 その様子に、真剣な話だと気付いた屯田とんだも、竜也りゅうやに正対する。


「純正の雷人らいじんは、政府の命令が無いと里から出られない。

 例外は、身内が人質になった時。

 ……深明しんめいのやつ、二人にそのことを話さず、人質になったんだな? 」


「……その通りだ、黙っていて悪かった。

 深明しんめいさんに、言わないようお願いされていたんだ 」


 屯田とんだは、白状して頭を下げる。


「そんな、先生が俺の為に人質に…… 」


 ごん正一しょういちも、少なからず衝撃を受けている。


「辛いと思うが、今はこらえてくれ。

 ごん君が目標を達成することが、何より深明しんめいさんの望みなんだ 」


「それじゃあ、今日の天真教本部襲撃は、余計に負けられない戦いになったね 

 あの上位幹部とかの言葉が真実なら、ごんちゃんの両親は、ここに閉じ込められているはず 」


 正一が地図を広げる

 そこに書いてあるのは、天真教本部の内部詳細図だ。


「まさか権ちゃんが、ゼウスの末裔まつえいだなんて思わなかったよ 」


「遠い先祖が何者だろうと、俺は何も変わらないよ。

 なにより神様の末裔まつえいだとか言われても、実感が沸かない 」


 権は食事を終えて、準備運動などをしている。


「準備ができたら、突撃だ 」


「何者だ、名乗れ! 」


「名乗らぬなら、この場で捕らえるぞ 」


 天真教本部の入口にて


 ごん正一しょういちの二人が、堂々と正面から歩いてくる。

 当然、見張りに発見されて、大量の人員が出てくる。


 敵が陣形じんけいを整える前に、ごん正一しょういちは亜音速の突撃をかます。

 狙ったのは最も階級が高そうな人物、彼の気絶により敵は指揮をる者が不在となる。


 ごん正一しょういちは背中合わせに立ち、向かってくる敵を打ち倒すことに専念する。

 互いに癖も技を知り尽くした身、その信頼と連携は、かしらのいない烏合うごうの衆では崩せない。


 しかし、仮にもここは教団の本部である。

 その数は馬鹿にならず、二人が消耗しきって倒されるのも、時間の問題だ。


「二人とも、下がれ! 」


 竜也りゅうやの声が響くと同時、囲みを突破し撤退する権と正一

 一瞬遅れて追いかけようとする使徒たちだが、初動しょどうの僅かな差が命取りだった。


球電砲プラズマキャノン十面埋伏テンサレンダー! 」


 地面や建物の陰から、無数のプラズマが出現し使徒たちを襲う。

 密集状態にあった彼らは成す術なく、プラズマ球によって気絶させられていく。


「「「作戦成功! 」」」


 使徒達の全滅を確認した後、三人は本部の中に侵入する。


「これから戦うことになる、三大使徒ってなんなの? 」


「ギリシャ神話の神のもとになった、雷人らいじん達の末裔まつえい

 そして、その神そのものの生まれ変わりを自称する、雷人らいじんだ 」


 正一の疑問に対して、竜也りゅうやが答える。


「何故ギリシャくんだりの末裔まつえいが、日本にいるかは知らねえが。

 奴らは全員、とんでもない兵器へいきを持っていやがるらしい 」


「でも竜也はタイマンで、三大使徒の一人を倒したんだよな? 」


 ごんの問いに、竜也りゅうやは首を横に振る。


「ポセイドーンは確かに倒したが、あの時の奴はトリアイナを本部に置いて来ていた。

 その状態でさえ、奇襲をかけて辛うじて倒せたんだ。

 兵器を持った状態で待ち構えている奴らは、比較にならない脅威きょういだ 」


 一つ目の、大きな扉を勢いよく開ける。


「よく我らの膝元ひざもと辿たどりついたな。

 神を愚弄ぐろうする罪人ざいにん達よ 」


 中にあった玉座に座っていたのは、鎧を纏った40前半の男。

 三人が構えを取り、警戒を示す。


「我こそは三大使徒が一人、冥府神めいふしんハーデースなり。

 案ずるな、雷人らいじんは全て神の愛し子、殺しはせぬ 」


 彼がかぶとを被ると、姿がき消える。

 そして、真っ先に正一しょういちが吹き飛んだ。


「ただし、痛い目にはあってもらおうか 」


「隠れかぶと光学迷彩こうがくめいさいか!

 周りの景色と色が同化してやがるんだ、目では見えない! 」


 竜也りゅうやが、その仕組みを看破かんぱする。


「ご名答。

 だが分かったところで、どうしようもあるまい? 」


 竜也りゅうや背面はいめんから攻撃される。

 竜也は吹き飛ばされるままに、距離を取り空中に逃れる。

 しかし上空からでも、光学迷彩を見破ることはできない。


「空中浮遊か、地球の磁場と自身の磁場を反発させておるな。

 相当の発電能力が無いと出来ぬ芸当だが、われにはいいまとだ 」


 空中で、竜也りゅうやが追撃を食らう。

 ダメージにより、墜落ついらくする竜也りゅうやを、回復した正一が受け止める。


「助かった」 


「いいよ、困ったときはお互い様さ 」


 ごんは、目をつむり微動だにしない。

 ただ、拳に力を込めている。


「そっちの少年は、音の出どころから我が位置を探っておるな。

 無駄だ、特殊な声の出し方で、位置を探られぬようにしておる。

そして、その他の音も消す技を心得ておる 」


 ハーデースは、光学迷彩を維持したまま、ごんの正面まで近づく。


「ほーら、近くにおるぞ。

 どこにおるかわかるかな? 」


 ごんは、微動だにしない。

 竜也りゅうや正一しょういちも、敵の場所がわからず、ごんを巻き込むのを恐れて手が出せない。


「それ、急所ががら空きだぞ! 」


 ハーデースの拳が、ごんの脇腹にめり込む。

 そして、ごんの拳もハーデースの顔面をとらえた。


「馬鹿な! 

 何故我がいる場所が分かった! 」


「分からねえよ、だけど最初から、一発もらう覚悟で体を固めてた。

 そして、攻撃の感触から当たりをつけて、殴っただけだよ 」


「なるほどな。

 しかし、我が体はこの鎧に守られておる、一撃では仕留められぬ。

 そして、同じ手はもう食らわぬ 」


 大きく距離を取り、別の標的を狙おうとするハーデース。

 まず、最初に一撃食らわした正一に、背後から接近しようとする。

 だが、正一の視線を感じて、距離を取り直した。


「何故だ、先ほどは見えていなかったはず! 」


光学迷彩こうがくめいさいは、既に解けてるんだよ 」


 竜也りゅうやの指摘に、ハーデースは自分の手を確認する。

 確かに、光学迷彩こうがくめいさい解除かいじょされていた。


「俺があの時攻撃したのは、拳でだけじゃねえ。

 直接電流も流した、許容量を超えれば機能しなくなると思ったんだ 」


 ごんの説明に、窮地きゅうちに追い込まれた事を今更理解するハーデース。


「くっ、だが我にはこの鎧兜よろいかぶとがある!

 正面から殴り合っても、勝算は…… 」


「生憎だったな、硬い敵を破る方法は知ってるんだ 」


 ごんが、球電砲きゅうでんほうの構えを取る。

 ハーデースは、直感的に危険だと判断し、ごんに向かって攻撃を仕掛ける。

 しかし、攻撃は正一しょういちに妨害される。


 正一しょういちを跳ね除けようと踏ん張ったところを、竜也りゅうやに後ろから羽交い絞めにされて、動きを封じられる。


球電砲きゅうでんほう!」


 ごん球電砲きゅうでんほうが襲う直前に、竜也りゅうやは離脱する。

 ハーデースは球電砲きゅうでんほうを食らって、激しく痙攣けいれんし、その場に崩れ落ちる。


「二人とも、ナイスアシスト! 」


 ごんが、竜也りゅうや正一しょういちめる。


ごんちゃんも、いい判断だったよ! 

 あれがなかったら、正直詰んでた 」


「でも、気は抜くよ。

 俺がポセイドーンを倒したとはいえ、まだ三大使徒は最強の男が…… 」


 こつん、と誰かが歩いてくる音が聞こえる。


「馬鹿な、ゼウスは玉座から動かない!

 ここに残る戦力は、もういないはずだ 」


 そして、扉から姿を現したのは__?(第7話 終)


 次回予告

 三大使徒のハーデースを倒し、勢いに乗る権たち

 しかし、彼らの前に謎の敵が立ちはだかる。

 その正体と目的は?


 第8話、物語はいよいよ佳境かきょうに入ります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る