第6話_改造宿命_

「やった、成功したぞ。

 これで、雷人らいじんどもの天下は崩壊するのじゃ! 」


 麻酔が覚めて最初に聞いたのは、そんな言葉。


「俺を家に帰してくれよ! 」


「君は戸籍上こせきじょう、死んだことになっておる。

 クローニングを用いて作った死体で、葬式も行われたわ 」


 その動画に映っていたのは、俺にそっくりな死体に泣きつく、おふくろの姿。


「死人が姿を現すと、どう思われるか、分かっておるよな?

 まして、今の君のそんな体ではな 」


 自分のてのひらを見つめる。

 正確には、その周りに生じている放電を。


雷人らいじんは全て殺すだと?

 ふざけるな、そういうお前は雷人らいじんじゃないのか? 」


「違う、俺は人間だ! 

 怨寺おんじとかいうジジイに改造されて、こんな体になっちまったがな! 」


 強力な放電が、周囲を襲う。

 権と正一はガードしたが、倒れている使徒達はもろに食らう。


「止めろ、いくら雷人らいじんでも、気絶状態でそんなの食らったら…… 」


「だから、最初に宣言したろ? 

 雷人らいじんは殺す、一人残らずな 」


 少年の周囲に、いくつものプラズマ球が発生する。


「あれは、球電砲きゅうでんほう! 

 しかも、ほとんめ無くこんなに…… 」


「自己紹介がまだだったな、俺の名前は谷崎たにざき 竜也りゅうや

 怨寺おんじ博士の作った改造人間。

 そしてお前たちは知らない、山中やまなか 深明しんめいの弟子だ! 」


 竜也りゅうや照準しょうじゅんを合わせるように、指でごんを指し示す。

 それに合わせて、ふよふよ浮いていたプラズマが、指向性しこうせいを持った動きになる。


球電砲プラズマキャノン絶対包囲網オールディレクションズ!! 」


 無数の小さなプラズマ球が、逃げ場を無くすように権を取り囲み、回転しつつ包囲網ほういもうを段々とせばめていく。

 そして、プラズマ球の回転が収まった時、ごん正一しょういちはボロボロの姿で立っていた。


しょうちゃん!

 無茶しやがって 」


 包囲が完成する直前、権の前に割り込み、大半のプラズマ球を正一が受け止めたのだ。

 そのおかげで、権の受けるダメージは軽減されたが、その分正一のダメージは大きい。


「大丈夫、一発ごとの威力は低めだ、急所を避ければ死にはしない 」


「目の良いやつだ、だが二度目はしのげまい! 」


 再び、竜也りゅうやの周囲に大量の小さなプラズマ球が生まれていく。


「そんな、あれだけの球電砲きゅうでんほうを出しておいて、まだもう一度同じ技を出す余裕が…… 」


「身体能力は、お前ら雷人らいじんには遠く及ばないかもしれないが。

 この俺は発電能力に特化して、遺伝子改造いでんしかいぞうを施された実験体だ。

 だから発電能力・放電能力は、お前たち純正の雷人らいじんの10倍はある! 」


 竜也りゅうやは、依然空中いぜんくうちゅうにとどまっている。

権達ごんたちにその方法は分からず、空を飛ぶことは出来ない。


 跳躍ちょうやくでは撃ち落されるだろう、できる攻撃手段が放電攻撃しかない。

 だから技を完成させないために、権と正一は放電攻撃を開始する。


「言ったろ、放電能力はお前たちの10倍

 絶対包囲網を作りながらでも、対処できる 」


 竜也りゅうやは、無数の放電で、権たちの攻撃を迎撃する。

 発電量に差があるために、ある程度力押しが効くため、正確に迎撃する必要が無いのだ。

 結局、ごんたちの攻撃は時間稼ぎにしかならない。


竜也りゅうやとか言ったか、先生の弟子っていうのは本当か? 」


「事実だ、それがどうした? 」


「先生の弟子なら、何故雷人らいじんを滅ぼそうだなんて考えている? 」


 プラズマ球が、一度目とほぼ同じ数まで増えてきた。

 それを操り包囲網を作りながら、竜也は答える。


「決まっているだろう? 

 お前たちの存在が無ければ、俺はこんな体に改造されることは無かった! 

 雷人らいじんの存在を消せば、俺は晴れて人間に戻れる! 」


 竜也りゅうやの技が完成した。

 無数のプラズマ球が権たち二人を包み、今度こそ絶体絶命の状態だ。


深明しんめいとかいうやつは、俺のその目的のために、利用しただけに過ぎない!

 さあ、無駄口もここまでだ

 さっさと死ね、球電砲プラズマキャノン絶対包囲網オールディレクションズ! 」


 包囲網の内部で、異変が起きた。

 突如として大量の放電が起こり、プラズマ球が崩壊する。


「そんなのは、ただの八つ当たりだ!

 悪いのは雷人らいじんの存在じゃない、お前を改造した怨寺おんじ博士じゃないのか? 」


 ごんが深明に外すなと厳命されていた、発電量を抑えるリストバンドを解いている。

 そして、竜也りゅうやをも上回る放電能力で、周囲のプラズマを掻き消したのだ。


「そんなことは分かっている!

 でも、そうしないと、お袋や親父の元に帰ることはできない! 

 失ったものを取り戻そうとすることの、何が悪い? 」


 竜也りゅうやは、自身の技が破られたことよりも、権の言葉の方に動揺していた。

 涙を流して、がむしゃらに放電攻撃を行う。


「本当にそうか?

 お前は、実際に人間の世界に戻ろうとして、両親に拒絶されたのか? 」


「試してはいない! 

 だって試さなくても、結果は分かりきっているだろう?

 恐怖されて、化け物呼ばわりされて終わりだ! 」


 権は、竜也の放電を受け止めながら、答える。


「違うな。

 俺は本当の両親を知らないが、深明先生は父親みたいなものだから、その気持ちはなんとなく想像できる。

 親なら自分の子供の事は、受け入れようとしてくれるんじゃないか? 」


「そんな綺麗事は、お前たち雷人が、人間の醜さを知らないから言えるんだ! 」


「知ってるよ、俺達も怨寺博士には会った 」


 その言葉を聞いて、竜也の攻撃が止まる。


「へえ、お前らもあのジジイの事は知ってるんだ?

 もしかして、まだ俺みたいな被害者を量産してるの? 」


「雷人に対抗する武器を操るために、身体能力を増強して、知性を奪われた人がいた 」


 竜也は眉を吊り上げて、不快感を露わにする。


「惨い事しやがる、人格が残ってただけ俺の方がマシかもな 」


「だけど竜也、人間は悪い人ばかりじゃない。

 僕たちは、屯田とんださんみたいな存在も知ってる 」 


 正一も、竜也に話しかける。


「屯田?

 誰だソイツ 」


「僕たち雷人の事を良く考えてくれて、いつか人権が認めてもらえるようにって、頑張ってくれてる人だよ 」


「お前だって、人間の悪い面ばかり見てきたわけじゃないはずだ。

 そうでなきゃ、人間の世界に戻りたいとも考えねえだろう?

 少しでも拒絶される可能性が怖くて、それから目を背ける為に、雷人に八つ当たりしてるんじゃねえか? 」


 竜也の顔色が悪くなる。

 薄々自分でも、気がついていたのだろう。


「もしそうだとして、だからどうした! 

 もうこの力を手放すことはできない、できないんだ! 」


 竜也は、巨大な球電砲を作り出す。

 リミッターを外して命も危うい権に、それを避ける術はない。


 権も、球電砲を作り出して対抗しようとする。

 けれども、普段より大きな力を扱っているせいで、巧くプラズマを制御できない。


 権の右掌に、正一の左掌が添えられる。

 そして、プラズマ球の制御を補助している。


「この施設ごと消し飛ばす!

 球電砲プラズマキャノン最大砲撃フルバースト! 」


「「させるか!

 球電砲きゅうでんほう双重ふたつがさね! 」」


 竜也の撃った球電砲と、権・正一の球電砲がぶつかり合う。

 激しくバチバチと音が鳴り、拮抗している。


 少しずつ、竜也の球電砲が押され始める。

 負けを認めない、と竜也はより一層力を籠める。


 権と正一は、喉よ裂けよとばかりに、同時に大声で叫ぶ。

 拮抗は破れ、竜也が球電砲をその身に食らう。


 意識を失って、空中から地上に向けて落下する竜也。

 権と正一は、全力で竜也の落下地点まで走って、受け止める。


「大丈夫か! 」


「……てめえら、なんで俺を助けた。 

 お前らだって、瀕死には違いないだろ? 」


 意識を取り戻して、竜也が最初に口にしたのが、その質問だった。

 権は、首を傾げて答える。


「だって、目の前で誰かに死なれたくないだろ? 」


「僕は、権ちゃんがやりたいことを、全力で助けるって決めてるからね 」


 正一は、そううそぶいてから、座った。


「はは、てめえら狂ってやがる! 

 とんだお人よしだ、俺じゃあ勝てない訳だ…… 」


 竜也は、心底おかしそうに笑う。


「八つ当たりは止めだ、こんな善人ども憎む気にはなれねえ。

 でも、まだ家に戻ろうって気にもなれない、やっぱり怖いや 」


 ひとしきり笑った後、竜也は生気を失ったような表情になる。

 目的を失った今、何をすればいいのかわからないのだ。


「それじゃあ、権ちゃんの旅に協力してくれない? 

 悪い事をする雷人は確かにいる、君みたいな犠牲者をこれ以上増やさない為に、君の力は役に立つと思う 」


 正一の提案に、竜也は目を丸くしている。


「良いのか、俺はお前らを殺そうとしたんだぞ? 」


「あれは口だけだろ?

 ポセイドーンとかいうのも、さっき攻撃した使徒どもも、誰一人死んでないしな 」


「確かに、そうだったのかもな。

 全く、俺はとんだホラ吹き野郎じゃねえか 」 

 

 竜也は、吹っ切れた顔で、握手を求める。


「さて、これからよろしくな。

 雷人の先輩方 」


次回予告

竜也を仲間にした、権と正一

彼らは、天真教の本部を襲うこととなる。

その理由は、権の出自の秘密にあった__


次回、いよいよ物語が大きく動きます!



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