第3話_研究所襲撃_

「お前は発電量が、他の雷人と比べて極めて高い。

 その為に、自身の肉体に高い負荷をかけてしまっている 」


 権は、数年前のことを思い出していた。

 権の師である山中やまなか 深明しんめいは、彼の右腕にリストバンドを巻いた。


「これはただのアクセサリーではない。

 雷封穴らいふうけつという、雷人らいじんの発電量を抑えるツボを、刺激するアイテムだ

 外せばお前の命が危うい、タイミングを誤るなよ」


 何故、今になってこのような記憶が、思い出されたのだろう?

 疑問を振り払いつつ、研究所へと足を進める。


怨寺おんじ博士、雷人らいじんが現れたと報告がありました」


「大方、政府が我々の研究に気付きおったな。

 まあいい、どのみち兵器はもうほぼ完成しておる」


 怨寺おんじ博士は、余裕を持ってお茶を飲んでいる。


「データ分析と、兵器の試運転を済ませたら、この基地を放棄ほうきして別の拠点に移るぞ。

 戦争を起こすには、まだ準備が足らん 」


「現在、傭兵ようへい部隊が応戦中。

 モニター映します 」


 小林助手が起動した大スクリーン

 その中ではたった二人の少年に、銃を持った男たちが倒されていく、信じ難い光景が映っていた。


「雷人共は、何故避けてもいないのに、銃弾の雨の中でも平気なのでしょうか?

 よほど皮膚が硬いのですか? 」


「それは違うぞ、小林君。

 雷人共ではなく、銃弾の軌道を分析してみなさい 」


 言われた通り、小林助手は銃弾の軌道にフォーカスする。


「こ、これは!

 銃弾の軌道が、不自然に変化している? 」


電磁力でんじりょくというように、電気と磁力には密接な関わりがある。

 奴らのまとうう強力な磁場じばが、あらゆる機械を狂わせ銃弾を弾くのじゃ 」


 銃を捨てて、逃げようとする傭兵が現れる。

 権が、瞬間移動でもしたかのように、逃げる傭兵の前に回り込んだ。


「相当速いな。

 今の速度、測定できたかの? 」


「計測値、秒速300m!

 信じられない、亜音速あおんそくです!! 」


 この報告には、怨寺おんじ博士も目を丸くして驚いている。


「クラゲに電流を流すと、3倍の速さで泳げるという論文があったな。

 理屈は同じじゃろう、だがそこまでの速度が出るとは思わなんだ! 」


「我々の兵器は、亜音速の敵など想定していません。

 敵の戦力を見誤りました、博士は逃げてください。 」


 小林助手の進言に、怨寺おんじ博士はデコピンで答える。


「馬鹿もの、逃げるなら老い先短いワシではない、小林君じゃろうが! 

 それに、確かに想定外の性能じゃが、同時に弱点も見えてきた。

 やはり生のデータに触れることは、研究の発展に必要じゃな 」


 怨寺おんじ博士は、不敵に微笑む。


「写真と同じだ、間違いない。

 怨寺おんじ 秀作しゅうさく、そして小林こばやし 優次ゆうじだな? 」


「いかにもそうじゃ。

 初めまして、人類の敵“雷人らいじん”よ」


 研究所内部の白い部屋に、権と正一は辿り着く。

 分厚いガラスと、高さのある監視部屋に、怨寺博士と小林助手はいた。


「なんで、俺達おれたち雷人らいじんと人間の戦争なんて、起こそうとしている? 」


「貴様ら雷人らいじんは、いるだけであらゆる機械を破壊する、現代社会の天敵。

 もしお前たちがその気になってみろ、現代社会はたちまち崩壊ほうかいし、多くの人間が死ぬ 」


「今までそれが起こったことがあったかよ。

 その為に俺たちを殺そうっていう、あんたの方が危険じゃないか? 」


 権の問いに、小林助手が激昂げっこうする。


「今まで起きなかったからと、これからもそうであり続ける保証はない! 

 これまでが奇跡だっただけだ、そして現代社会が崩壊してからでは遅い!! 」


「その通り、だから貴様ら雷人らいじん絶滅ぜつめつせねばならないのじゃ。

 そうでなければ、人の世に安寧あんねいは訪れぬ 」


 正一が、口を開いた。


「現代社会の雷人からの保護が目的なら、他に穏便な方法はいくらでもあるはず。

 それに人間の死をいとうのに、戦争を起こすのも矛盾むじゅんしてる。

 まるで、最初から戦争を起こすのが目的で、それに口実を付け足したみたいだ 」


 博士が、初めて怒りの表情をあらわにした。


「黙れ、それはコラテラルダメージじゃ。

もっと多く失われるかもしれなかった、将来の人命は救われるのだ。

 雷人どもとの対話など、無駄でしかなかったようじゃな 」


「そうです博士、奴らは5%も遺伝子配列いでんしはいれつが違う、と教えてくれたのは貴方だったでしょう?

 はやくあれを投入し、耳障みみざわりな音を発する奴らの口を、ふさぎましょう! 」


 天井が開き、そこから黄色い鎧を着た、人の形をしたものが落ちてくる。


「行け、対雷人戦用鎧アンチサンダーマンアーマー

 そこの二体を捕獲するのじゃ 」


“鎧”は、博士の命令に従い攻撃動作に移る。

 異様な風体に警戒した正一は、まず放電で牽制けんせいを試みる。


 放電はまともに直撃した、だが“鎧”の動作は止まらない。

 想定外の事態に反応が遅れて、正一はまともに被弾しそうになる。

 その直前に権はわりこみ、カウンターでパンチを当てる。


 権の渾身こんしんの一撃だった。

 だが、強い弾力で攻撃は跳ね返され、権と正一はまとめて壁に激突する


「今の感触、あの鎧の素材は“ゴム”か! 」


「そう、貴様らの放電を防ぐために用意した、特別製のゴムの鎧!

 これを人間に遺伝子改造を施した、超筋肉の怪物に着用させる。

 貴様ら雷人どもを殺すに、十分な性能があるわい!! 」


 権は即座に起き上がるが、権と壁に挟まれた正一は、ダメージが大きく立ち上がれない。

“鎧”は、追撃の為再び体当たりの姿勢を取る。


 避けることは可能だった、だがそれをすれば正一がマトモにくらう。

 権は、迷わず受け止める為に腰を落して前に出る。


 地面との摩擦で、火花が散る。

 3メートルほど滑ったが、体当たりそのものは止めることに成功した。


 だが、衝撃しょうげきを殺しきれず、権は血を吐く。

“鎧”は権の首根っこをつかんで、顔面を何度も地面に叩きつける。


「ははいいぞ、もっとやれ対雷人戦用鎧アンチサンダーマンアーマー! 

 私の姉は足をいで殺された、その雷人らいじんも同じ目に合わせてやれ! 」


「小林君、気持ちは分かるが落ち着くのじゃよ。

 今必要なのは生きたサンプルだ、そういった事は後にしなさい 」


 小林助手が狂喜きょうきし、しきりにガラスを叩いている。

 怨寺おんじ博士も言葉では小林をたしなめているが、声色に喜びがにじみ出ている。


「そうか、そっちがてめえらの本当の理由か 」


 権が、痛む体を気力で動かして、立ち上がる。


雷人らいじんというのは存外に頑丈がんじょうじゃな、その方がこちらには都合がいいがのう。

そうでなければ、復讐ふくしゅうのしがいもないわい」


「また“復讐”って言葉を使ったな?

 やっぱり、正ちゃんが指摘した通り、さっきの言葉はただの口実ってわけか 」


「黙れ、復讐ふくしゅうの何が悪い?

 それに、身内を殺された我らの恨み、貴様らに分かるものか? 

 いつの時代でも、我々人間をしいたげてきた、貴様ら雷人らいじんなぞに! 」


「分かんねえよ。

 絶対に殺したいほどの恨みや、復讐したいだなんて思ったことはないからな 」


 両手を組み、振り下ろしてくる“鎧”の攻撃をかわし、背後に回り込む


「だがな、俺達雷人にも、家族がいるってことを忘れてねえか? 

 アンタたちが失って悲しかったもの、ここまでの非道ひどうを行うほどに憎んだのと同じ行為を、他ならぬアンタ達が演じようとしてるだろうが! 」


 密着して、“鎧”の首を絞めようとしている。

 だが、さほど効果はないようだ。


うるさいぞ、人の言葉を話す化け物が!

 生体サンプルは一匹で十分。

 小林君の望み通り足をいだ後、我が妻が殺されたときのように、腹をき殺してやる! 」


 博士の怒りに応じるかのように、“鎧”が暴れまわり、権を振り落とす。

 権は自らの右手首のリストバンドを確認する、死のリスクがあると忠告されたリミッター。

 正一を守るのと引き換えならば、と覚悟を決めようとした時だった。


「それを外す必要はない、僕たちの力だけで倒すんだ 」


 正一が権の右手首を掴み、それを静止する。


「だけど、どうやって? 」


山中流奥義やまなかりゅうおうぎ球電砲きゅうでんほう、あれしかない 」


 正一が、“鎧”の目があるあたりを指さす。


「あの場所だけは素材がゴムじゃない、球電砲きゅうでんほうならつらぬけるはずだ! 

 溜めの時間は、僕が稼ぐ 」


「分かった。

 信じてるぜ、正ちゃん 」


 権は、右掌を開けて振りかぶる。

 正一は、“鎧”の注意を集めるべく、無謀な攻撃を仕掛け続ける。


怨寺おんじ博士、雷人らいじん右掌みぎてのひらの周囲に高熱反応! 

 あれはなんでしょうか? 」


球電現象きゅうでんげんしょう

 ……まさかプラズマか!

 いかん、それをたせるな!! 」


“鎧”は博士の指示で、権の掌で輝く青い光に気が付く。

 撃たせまいと権に標的を変える“鎧”、その攻撃から身をていしてかばう正一。

 権の目には、力尽きて倒れる正一の姿。


球電砲きゅうでんほう! 」


 咄嗟に、まだ溜めの完了していない奥義を、“鎧”に向けて放つ。

 激しく何かが焼ける音、そしてゴムがけた時特有の臭い。


 光が収まったとき、“鎧”は両腕を交差しガード体勢たいせいになっていた。

 両前腕はただれているが、内部は露出ろしゅつしておらず、本来の目標にも届いていない。


「いいぞ!

 もうそ奴らに打つ手はないはず、止めを刺せ!! 」


 命令に従い、“鎧”が止めを刺そうと拳を振り上げた__


「よく耐えたね、二人とも

 後は、私に任せてくれ 」


 権と正一のピンチに駆け付けた人物

 それは、他ならぬ彼らの師、山中 深明であった。


 次回予告

 権と正一のピンチに駆け付けた、深明

 彼の強さはどれほどのものか?

 また、権たちは無事旅に出られるのか?

 第4話もお楽しみに!

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