葉桜琴乃は褒められたい。
第六話目です。
書けてしまいました。
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可愛い小動物系女子。我が学年のアイドル。超人気者。
そんな彼女と付き合っている俺、
ぼっちで帰っていると、校門を出たところで、ふと足が止まる。
門のすぐそばに、段ボール箱に入れられた子犬が捨てられていた。
アニメや漫画ではよくある展開だが、本物は初めて見た。今どきこうやって捨てる人がいるんだ。驚きだ。犯罪なんだぞ。
箱の中のモフモフの毛玉がクリクリとした瞳でじーっと見つめてくる。
気が付くと、俺は子犬をわしゃわしゃと撫でまわしていた。
「おぉー可愛いなぁー。ここか? ここが良いのか?」
薄汚れているけど、モフモフは十分だ。子犬は気持ちよさそうに目を瞑る。
俺は子犬とか子猫とか好きである。家では飼えないのが残念だ。まあ、お世話できるとも思わない。親任せになりそうだ。
子犬をモフモフしていると、何かが気になった。
んっ? 何だろうこの既視感は。どこかで似たような光景を見たことがある?
モフモフしながら首をかしげていると、背後からクスクスと笑う女子たちの声が聞こえてきた。振り返ると、女子の一団が俺と子犬をチラチラと見ていた。
「あれって捨て犬? えっ? 可愛くない?」
「可愛いけど、触って大丈夫なの? ノミとかダニとかいない?」
「ちゃんとしないと大変なことなるよー。ウチ、経験済み」
「「「 うわぁー 」」」
お気の毒に、という憐みの視線が向けられる。
そ、その可能性は考えなかったぁー。えっ? どうしよ。ノミとかダニとかついてないよね? いないよね? どうなの、ワンちゃん!?
あたふたと内心で猛烈に焦っていると、チラッと女子の一団の中央にいた少女と目があった。学年のアイドルの琴乃だ。
じーっとこっちを見つめていたのは気のせいか?
スッと目を逸らし、琴乃は友達に問いかける。
「ねえ! みんなは犬派? 猫派? 私は断然猫!」
「犬!」
「猫でしょ!」
「私はハムスター派」
「えっ? あたし蛇」
うえぇー、と女子たちが盛り上がり、俺と子犬を忘れて遠ざかっていく。
俺は一人残されて、可愛い子犬と見つめ合う。
「……ダニとかノミはいないよな?」
「わふぅっ!」
ごめん。犬語はわかんない。『いるよ』なのか『いないよ』なのか、それとも別の返事なのか俺には理解不能だ。
モフモフしながら俺は決めた。
帰ったら真っ先にシャワーを浴びよう、と。
▼▼▼
「よっしゃー! 宿題終わり!」
う~ん、と背伸びをして凝り固まった体を伸ばす。遅くならなかったぞ!
ちょうどいいタイミングで、部屋のドアがノックもされずに開いた。腕を上に伸ばしたまま、椅子をクルリと回転させて、身体ごと振り向く。
「ノックくらいしろよ、琴乃」
「なんで?」
可愛いパジャマ姿の琴乃が、コテンと首をかしげた。今さら何言ってるの、と顔に書かれている。
確かに、今さらだな。琴乃は昔から俺の部屋に入る時はノックをしない。何度も言っているが、無駄である。俺の部屋以外ではするんだが。
「京の部屋は私の部屋。私の部屋は京の部屋」
「ジャイアニズム! ……ではないな」
「コトノニズムです!」
ふんすー、とドヤ顔をして胸を張る琴乃。小柄だから小動物にしか見えない。
トトトッと琴乃が目の前に来た。じーっと俺を見つめる。
「私、お風呂洗いをしたの」
そして、軽く一礼する。頭を下げたまま、じーっと動かない。
「……はい?」
突然の報告に、俺は訳が分からない。頭を下げている理由もわからない。
琴乃は一体何をしたいのだろう?
むぅー、と唸った琴乃が顔を上げた。ムスッと不満げだ。
「お風呂。京が帰ってきたらすぐに入れたでしょ? 私のおかげ」
な、なるほど。だからお風呂が準備されていたのか。捨てられた子犬をモフモフしたから、ダニとかノミとかが心配で、帰ってすぐにお風呂に入ったのだ。用意されていてびっくりした。琴乃のおかげか。
「それはありがと」
「んっ!」
だから、頭を下げる理由がわからない。頭のてっぺんを見せられても、俺にどうしろと?
むぅー、と不満げな琴乃がまた顔を上げる。
「夕食の準備を手伝った。んっ!」
「は、はぁ……」
「むぅー! 洗濯物畳んだ。んっ!」
「そ、そうか」
「むぅー! 畳んだのは京の部屋に運んだ。んっ!」
「そ、そうなのか?」
「むぅー! タンスに仕舞った。んっ!」
「だから置いてなかったのか」
「むぅー! むぅー!」
ペコペコ頭を下げては、不満げに頭を上げる琴乃。
いや、だから、そんなに頬を膨らませてもわからないから! プルプルと震えても、可愛いだけだから! 一体何がしたいの!?
「京は犬派? 猫派?」
「どちらかというと犬派」
「私は、自分がマルチーズに似ていると自負しております。だから、んぅっ!」
んぅっとお辞儀して頭を差し出されても……。確かに、マルチーズに似てるけどさ!
時々、琴乃の行動がわからない。謎生態だ。
「宿題はもう終わった。んっ!」
「そ、そうか」
「歯も磨いた。んっ!」
「よ、よかったな」
「パジャマも着てる。んっ!」
「に、似合ってるぞー」
「むぅー! むぅー! むぅー! むぅー!」
だから、お餅のようにぷくーっと膨れて唸っても俺には伝わりません。
可愛かったので、両手で挟み込むように膨れた頬を潰してやった。ぷすーっと潰れて、甘い吐息がかかる。歯磨きをしたのは本当のようで、ミント系の香りがした。
そのまま頬をぷにぷにしながら質問する。
「一体何がしたかったんだ?」
「…………」
琴乃は、不満そうな顔をして、無言で俺の片手を両手でつかみ、自分の頭の上に誘導する。ぽてっと落とされた。サラサラな髪が気持ちいい。
「……撫でろ」
「はい?」
「……頭撫でろ」
あーはいはい。そういうことね。ぺこりとお辞儀して頭を差し出してきたのは撫でて欲しかったのね。やっと理解した。犬の話題も撫でられたかったからか。
もしかして、捨てられた子犬をモフモフしていたのが羨ましかったとか……?
いや、あり得ないでしょ。琴乃だぞ。
「むふぅ~!」
…………この様子だと、とてもあり得るな。
頭を撫でられて気持ちよさそうにしている琴乃。実に幸せそうだ。
パタパタと激しく振られている尻尾を幻視してしまう。
「もっともっと! 私が満足するまで撫でるのだぁ~!」
「はいはい。琴乃はお手伝いも頑張って、寝る準備も出来たんだな。偉いぞぉ~」
「むふぅ~! もっと私を褒めて撫でまわせ~!」
もっとか? もっとなのか? 琴乃によって培われた俺のナデナデ
俺は、マルチーズに似ている琴乃が満足するまで撫で続けた。琴乃は終始ご満悦だった。
学年のアイドル葉桜琴乃。彼女は褒められて、撫でられたかったらしい。
<続く?>
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お読みいただきありがとうございました。
次回の予定は未定。
ネタが思いついたら書きます。
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