葉桜琴乃は一緒に寝たい。
第五話目です。そろそろネタが……。
==================================
可愛い小動物系女子。我が学年のアイドル。超人気者。
そして、俺、
金曜日の夜。俺と琴乃はソファに座ってテレビを観ていた。恋愛ドラマだ。
琴乃は特等席、すなわち俺の足の上に座って、食い入るようにテレビを観つめている。
現在テレビに映っているのは、白いシーツに包まった裸の男女だ。二人で朝を迎えたところ。ドラマでよくあるベッドシーンだ。
気まずい。とても気まずい。琴乃と付き合い出してから、こういうシーンを観ると思わず意識してしまうようになった。彼女の琴乃は今、俺の太ももの上に座ってるし。
「……いいなぁ」
琴乃がボソッと何かを呟いた気がした。
「なんか言ったか?」
「京……今日一緒に寝ない?」
「はぁっ!?」
寝るってそういうことか!? そういうことなのかぁ~!?
落ち着け俺。落ち着くんだ。ゆっくり大きく深呼吸を……琴乃の甘い香りがして余計に興奮してしまうんだが!?
「偶には一緒に寝よ? 昔みたいに」
「ね、寝るって普通に寝るのか。びっくりしたぁ」
「他にどういう意味があるの? あっ。うわぁ……」
「止めて! そのドン引きした眼差し止めて! 蔑むのも止めて!」
俺はお年頃の男子高校生なんだよ! 恋人と寝るっていったらそういうことを想像してしまうだろうが!
「まあいいやっ! 一緒に寝よぉ~! ねぇねぇ~!」
「却下だ却下! ほらドラマも終わったな! 寝るぞ!」
「一緒に?」
「別々だ!」
「ぶぅー!」
そんなに膨れても一緒に寝ません。可愛くてもダメです。
琴乃の膨れた頬を指で突いて潰して、頭をポンポン叩いて、俺は寝室に向かった。
忍び込んでこないかと警戒していたが、いつの間にか俺は眠っていた。
▼▼▼
「ぐえぇっ!?」
突然、お腹の辺りに衝撃が走り、俺は目が覚めた。夢から覚醒したばかりでボーっとしながら、重い瞼をこじ開ける。
眩しい。もう朝なのだろう。ぼんやりする視界。徐々に輪郭がはっきりしていく。
目の前に、スマホを構えた少女が笑っていた。すぐに目を閉じる。
「おはよーございまーす! 愛しの彼女が午前7時半をお知らせしまーす」
「…………今日は土曜だろ。もっと寝させろ」
「ジリリリリ~ン! 目覚まし彼女で~す」
「うるさい」
「ジリリリリ~ン! 寝顔、撮ったよ」
「過去形ですか。もう好きにしろ。俺は眠い。退いて。重い」
「ジリリリリ~ン! いいのかなぁ~? 体、動かすよ?」
勝手に動かせば、と思ったが、急速に頭が冴え渡り、その危険性が理解できた。
眠気なんか吹っ飛び、ニヤニヤ笑いの琴乃が目に入った。
「おまっ!? それはヤバいって! そこは敏感なんだよ! 今すぐ降りろ!」
「きゃっ!?」
ガバっと起き上がったせいで、琴乃がバランスを崩し、後ろに倒れ込む。倒れていく琴乃を慌てて抱きしめ、小柄な体をヒョイッと抱き上げて、ポイっとする。
「ひど~い! 彼女の扱いの改善を要求します」
「それ、俺も要求していいか?」
「却下しま~す!」
「ダメなのかよ……」
はぁ……。何で朝からこんなに疲れないといけないんだ。折角の休日なのに。もっと寝たかった。琴乃のせいで目が覚めてしまった。眠気は微塵もない。
目覚まし彼女。何という効果だ。平日に起こして欲しいかも。
俺はベッドの上で伸びをする。
「んぅ~! 起きるか」
「そうそう。起きて私に構え~!」
「へいへい。着替えるから出てけ」
「は~い。二度寝したらダメだからね」
あっさりと琴乃が部屋を出て行く。着替え見るとか言い出しそうなのに。
部屋を出かけた琴乃が、ドアの隙間から笑顔を覗かせる。
「そうだ。起きている京の写真、撮っちゃった」
「それがどうかしたのか?」
うふっ、と妖艶に笑った琴乃が、舌をチロッと出して、撮った写真を見せてくる。
それを見た瞬間、俺の時間が止まった。血がサァーっと冷たくなるのを感じる。なんて写真を撮ったんだよ……。
「昨日一緒に寝なかった罰。大切にするねっ!」
バタンと音を立ててドアが閉まる。その音で、俺は我に返った。
「ちょっ! お前! 今すぐ消せ! それは洒落になんねぇえええ! 今すぐ消せぇぇえええええええ!」
俺は、朝から絶叫して、うはははは、と笑い声をあげて逃げる琴乃を追いかけた。
▼▼▼
次の日の朝。日曜日。昨日のことがトラウマになって朝早くに目覚めてしまった。
まったく! 琴乃のやつ、なんてものを撮ったんだよ。服の上からだからギリギリセーフ……じゃないな。アウトだアウト。捕まえても消してくれなかったし。
何故そんな写真を保存しておくんだ、という疑問もあるが、深く踏み込んだらダメな気がする。俺を脅すための材料ということにしておこう。
テーブルについてぼけーっと水を飲んでいたら、朝食の準備をする母さんから声がかかった。
「京。琴乃ちゃんを起こしてきて」
「……なんで俺が」
「彼氏なんでしょ。彼女の寝顔を見るチャンスじゃない。お姫様をキスで起こせば?」
「断る。だいたい、琴乃の部屋に勝手に入ったら怒られるだろ」
「はぁ? アンタそれ、本気で言ってる? 馬鹿ねぇ」
実の息子に向かって馬鹿とはなんだ。失礼な。
漫画やアニメや小説では、勝手に入ったら殴り飛ばされるだろ。俺は自ら進んで痛い目にあいたくありません。
「ほら! さっさと行って襲って起こしてきて! このヘタレのバカ息子!」
「痛い! わかったから叩くな!」
叩かれた頭を撫でながら、琴乃の部屋に向かう。
あれが親の言うことかよ。ウチの母親って本当におかしいな。襲うつもりもないし、俺は馬鹿ではない。ヘタレ……ではあるかもしれないけど。
これが普通で育った俺って実はすごいのか?
そんなことを考えているうちに、琴乃の部屋についた。ドアをゴンゴンとノックする。
「おーい! 起きろー! 起きてるかー?」
部屋からの反応はない。何度も叩くが返事は返ってこない。
仕方がない。入るか。
「入るぞー。入るからなー。起きない琴乃が悪いんだぞー」
俺はドアを開けて琴乃の部屋に入った。
部屋の中は、綺麗だが、あちこちに物が散乱している。ゲームだったり、漫画だったり、小説だったり、脱いだ服だったり。生活感があって生々しい。
机の上には、仕舞っていない洗濯物が畳んでおいてあった。一番上には下着が……。
俺は目を逸らした。つけている姿を想像はしていない。していないったらしていないのだ。
ベッドの上では、琴乃が気持ちよさそうにスヤスヤと寝ていた。寝顔は幼く見える。
遅起きということは、昨夜は夜更かししていたのだろう。近くにゲームが置いてある。
もっと寝顔を眺めていたいけど、母さんからのご命令だ。起こそう。
「おはよーございまーす! 愛しの彼氏が午前7時半をお知らせしまーす!」
「……んぅ~」
琴乃は起きることなく、嫌そうな顔をして寝返りを打った。
「ジリリリリ~ン! 目覚まし彼氏で~す! ジリリリリ~ン!」
「……うぅ」
「ジリリリリ~ン! 琴乃さ~ん! 起きてくださ~い」
「……うるさい」
「ジリリリリ~ン! ジリリリリ~ン!」
「……ちょっと顔を近づけて」
目を閉じたまま不機嫌そうな声の琴乃。俺は目覚まし時計みたいな声を出しながら、言う通りに顔を近づける。
「……んっ!」
ポフッと頭に手を置かれた。琴乃は満足そうな顔で、そのまま寝ようとする。
「ジリリリリ~ン! 起きろー」
「……んっ!」
また頭をポフッと叩かれる。
「ジリリリリ~ン! ジリリリリ~ン!」
「……止まって」
またまた頭をポフッと叩かれた。琴乃は一体何をしたいのだろう。
あっ、そういうことか。目覚まし時計の俺を叩いて止めているのか。大抵の目覚まし時計は、上部に止めるボタンがあるから。
でも、残念ながら、俺はそんなことでは止まらないぞ。
「ジリリリリ~ン! ジリリリリ~ン! 朝ですよ~」
「……しゃらっぷ」
「んごっ!?」
小さな手でむぎゅっと鼻を摘ままれた。息が、息がぁ~って、鼻じゃなくて口で息をすればいいのか。
琴乃は、目を開けることなく、不機嫌そうに顔をしかめて俺の鼻を引っ張った。
「うおっ!?」
そのまま、布団に引きずり込まれる。温かくていい香り。突然のことで固まっていたら、琴乃によって抱きつかれてしまっていた。身動きが出来ない。
「えへへ~京だぁ~」
「こ、琴乃?」
「一緒に寝るぅ~」
「おーい。琴乃さ~ん?」
にへら~、と笑顔になった琴乃は、すぐにスヤスヤと寝息を立て始める。あまりに気持ちよさそうなので、起こすのが申し訳なく感じる。
なんだろう。この安心する感じは。超緊張すると同時に、とてもリラックスする。こうやって一緒に寝るのはいつぶりだろうか? くっつくことはあったけど、寝ることはなかった気がする。
琴乃の寝顔が可愛い。そんな嬉しそうな顔をするなよ。起こせなくなるだろ。
何分したら起こしてやろうかな? 5分? 10分? 15分くらいか?
あぁ……気持ちいい。温かい。良い香り。身体が言うことを聞かない。目が閉じて意識が遠のく。
いつの間にか、俺も琴乃を抱きしめて寝てしまっていた。
目が覚めた時には一時間が経っていて、腕の中の琴乃は目覚めており、超ご機嫌でニコニコしていた。
学年のアイドル葉桜琴乃。彼女は俺と一緒に寝て満足したらしい。
==================================
これで甘さが足りないと思う作者はおかしいのでしょうか?
次回の予定は未定。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます