葉桜琴乃にはストーカーがいる。


読者様のご期待が……というわけで、急遽考えた第二話目です!


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 葉桜琴乃はざくらことの。高校二年生。

 可愛い小動物系女子。我が学年のアイドル。超人気者。

 そして、俺、阿僧祇あそうぎ けいと付き合っている、らしい。

 彼女の両親が俺の両親と幼馴染だ。だから、小さい頃からウチに遊びに来ていた。そういう点では、俺たちも幼馴染と言えるだろう。

 でも、一週間ほど前、俺たちの関係は変わった。俺は、放課後の教室で偶然告白現場に遭遇し、琴乃に彼氏がいるという話を聞いてしまった。その日は丁度ウチに泊まる予定だったらしく、家にいた彼女に質問してみた結果……


『京は私の彼氏。私は京の彼女。異論反論認めません。気づけ馬鹿』


 と、さらっと言われたのだ。だからまあ、俺たちは付き合っているらしい。

 その日を境に、琴乃も公に彼氏がいることを認めた。

 生徒たちは大パニック。女子たちは大興奮で、男子たちは意気消沈。あまりの興奮と落胆により保健室送りや早退した生徒が多かったという。

 一週間ほど経った現在も、その話題で賑わっている。

 俺は不安で胃が痛い。もし、琴乃が俺の名前を出したら……男子たちに処刑されるだろう。あぁー胃が痛い。


「おーう。阿僧祇どしたー? ここ最近顔色悪いぞー」

「ちょっとな。胃が痛くて」

「胃潰瘍か? ご愁傷様」


 普段つるんでいる田中が心配して声をかけてくれたが、バシバシと背中を叩かないで欲しい。とても痛いから。


「トイレ行ってくるわ」

「おーう。いっといれ~。お大事に~」


 いや、別にお腹を壊してはいないんだが、まあいいや。

 学校の昼休みは賑やかだ。小中学校よりも大人しいが、高校生になっても走り回る生徒は必ずチラホラいる。

 ヨロヨロと歩く俺を追い越して遊ぶ男子生徒たちをボーっと眺めていると、大声で盛り上がる女子たちの一団が目に入った。

 その中心にいるのはもちろん人気者の葉桜琴乃。笑顔で仲良く喋っている。

 チラッと一瞬だけ目が合った気がする。お互いに無視するけど。学校では、俺たちは一切接点がないことになっているのだ。


「みんな! ちょっと早いけどそろそろ教室戻ろー! 次、体育だよ」


 琴乃の一声により女子たちが、そうだね、と移動し始める。

 俺と女子たちがすれ違う。


 カシャッ!


 んっ? 今、何か音がしたような。最近よく聞く音だな。一体何の音だろう?

 俺は疑問に思いつつも、男子トイレに入った。



 ▼▼▼



 放課後。俺は一人ぼっちで帰宅する。目の前には女子の一団。

 よりにもよって琴乃たちと同じタイミングになってしまった。ちょっと気まずい。

 追い越しづらいスピードだし、帰る方向も同じだ。

 仕方がないので、ボケーッとしながら少し離れてついて行く。


 カシャッ!


 んっ? またあの音? 最近ずっと変な音が聞こえる。登校中や昼休み、今みたいな放課後も。俺の頭がおかしいのか? まあ、元からおかしいな。


 カシャッカシャッ!


 やっぱりまただ! この音はどこかで聞いたことがあるんだけどなぁ。一体何の音だったっけ?

 くそう! 思い出せない!


「ねえ! 琴乃の彼氏ってどんな人なのぉ~? 写真見せてよぉ~」

「えぇー! だめぇ~! 彼、写真嫌いなの」

「さては、彼氏いないなぁ~!」

「いるも~ん!」


 目の前の女子たちがわちゃわちゃしている。

 俺はハッと気づいた。写真。そうだ! あのカシャッという音はカメラのシャッター音だ!

 思い返せば、あの音がするのは決まって琴乃が近くにいた時だ。


 ……もしかして、琴乃には盗撮魔、もしくはストーカーがいる?


 可能性は十分ある。琴乃は可愛い。それは誰がどう見てもそう思うだろう。

 琴乃ほどの美少女ならストーカー被害は十分あり得る。

 ちっ! 相談しろよな! 俺はお前の彼氏だろうが!

 周囲を確認するが、怪しい人影は見えない。俺は琴乃が家に帰りつくまで、ずっと警戒し続けるのだった。



 ▼▼▼



 その日の夜。

 漫画やゲームや参考書が少し散らばった俺の部屋。琴乃は、俺のベッドの上で、俺の背中にもたれかかって座り、ラノベを読んでいる。

 何故か最近、平日でも阿僧祇家に泊まっている。ウチでご飯を食べ、お風呂に入り、ベッドで寝て、学校に行く。

 何? 俺ん家に住んでるの?


「なあ?」

「………」

「おい聞けや!」

「なーに? 今良いところ。邪魔するな」

「……今どこだ?」

「主人公がヒロインを襲うところ」

「その描写、結構生々しくないか?」

「んぅー? エロくていいんじゃない?」

「そっか」

「そうだよ」


 学校では見せない素の琴乃。まさか学年のアイドルががっつりラノベを読むとは誰も思わないだろう。いや、俺だけは思っている。昔から知ってるから。

 ふむ。普段の琴乃と変わらないな。怯えた様子もない。恐怖心も感じられない。

 もしかして、ストーカーに気づいていないのか? ……あり得る。でも、それはそれでとても危険だ。一応注意しておこう。


「琴乃」

「なーに?」

「お前、今日ストーカーされてたぞ」

「うん、知ってるー」

「そうかそうか。知って……はぁっ!? 知ってただと!?」


 思わず身体ごと振り向き、俺の背中という背もたれを突如失った琴乃はそのまま後ろに倒れ込んだ。俺も巻き込まれて、お腹の上に琴乃の頭が降ってくる。

 重くはないのだが、これはこれでいいかもと、ぐて~っと俺のお腹を枕にして、何事もなかったかのように読書を続けないで欲しい。

 事の深刻さを理解しているのか?


「あのストーカーね。私のことがだ~い好きな人だね」

「誰だ? 正体知ってるのか?」

「んっ? 京が一番知っている人」

「はぁっ? 山田か? いや、田中? 鈴木? あいつらめ!」

「今、私が枕にしている人」

「今、琴乃が枕にしている人……って、俺かよ! 何で俺がストーカーなんだ!?」

「だって、物凄い顔でずっとついて来てたじゃん。友達も『うわ怖っ』って言ってたよ。次から気を付けてね~」


 た、確かに、目を光らせてた今日の俺は怪しく見えただろうな。ストーカーに見えるよな。次から気を付けよう。

 琴乃の友達の皆さん。怖がらせてしまってごめんなさい。


「何かあったらすぐ相談しろよ。俺は琴乃の、その…か、彼氏、だから」

「ぶふぅっ!?」

「おいコラ! 笑うんじゃねぇ!」

「わ、笑って…ない…よ? くふぅっ!」

「思いっきり笑ってるじゃねぇか!」

「ほ、本が面白かった、だけ……ぷぷぷ!」


 くそう! 俺を馬鹿にしやがって! 折角心配してたのに、もう心配しねぇぞ!

 ひとしきり身体を小刻みに震わせていた琴乃は、本を一旦閉じて、コテンと横向きになった。

 笑いすぎて涙目になった琴乃が、悪戯っぽく微笑んで、人差し指を伸ばして俺の鼻をチョコンと突く。


「頼りにしてるぞ、私の彼氏(笑)」


 琴乃はとても可愛い。頼られるのもとても嬉しい。でもな……


「彼氏(笑)って馬鹿にしてんだろぉぉおおおおおお!」


 ムカついた俺は、琴乃に飛び掛かった。逃げられないように捕獲して、体中をくすぐり始めた。じゃじゃ馬が暴れるが、無理やり言うことを聞かせる。


「あははははは! ひぃ~! ストーカーに犯されるぅ~! あひゃひゃひゃ! ご、ごめん! もう止めてぇえええええええ! そこはらめぇぇえええええ!」


 エロい声をあげる琴乃。ふむ。スッキリしたから止めてあげよう。

 ピクピク痙攣している琴乃を置いて、トイレに行くことにする。廊下でばったり呆れ顔の母さんと出会った。声が聞こえていたらしい。


「あんたってばもう! ずっと昔から琴乃ちゃんの後ろをトコトコついて回って! 今でもストーカーしてるの? どんだけ琴乃ちゃんのこと好きなのよ。別に避妊はしなくていいけど、ちゃんと家族計画しなさいよね!」


 孫を期待しているわ、と俺は背中をバシッと叩かれた。

 何だろう。この何とも言えない苛立ちは。これが親の言うことなのか?

 部屋に戻ったら、この苛立ちを琴乃にぶつけよう。泣き叫ぶまでくすぐってやろう。恋人同士なら許されるはずだ。

 彼氏(笑)の想いを、彼女なら受け止めてくれるよな?

 学年のアイドル葉桜琴乃。彼女にはずっと昔からストーカーがいたらしい。







 この時の俺は、あのカメラの音のことをすっかり忘れていたのだった。



<続く?>


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お読みいただきありがとうございました。

続くかどうかは読者様の反応次第……




すいません。作者のノリと勢い次第です。


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