三 異なる噂
説明書きにもある通り、本作は著者が亡き祖父に聞いた話の備忘録的な意味合いの強いものでったが、前章までのものをとあるサイトに投降後、思った以上に反響あり、お読みくださったUさん(※本人希望によりイニシャルで記載)より大変興味深いお話が寄せられた。
それはWikipediaにも載っていない、ひょっとすると世に知られている「口裂け女」という都市伝説の根幹をも揺るがしかねない内容のものだったので、著者一人だけが知っているというのも大変にもったいなく、学問的にも大損失であると思われるため、ここに研究者の利用に供すべく、そちららも記しておきたいと思う。
○Uさんの証言
※証言は原文のまま記載。一部省略、また著者が注記記入。
私は岐阜県の出身で、この噂はリアルに経験しています。
当時、私の住んでいた岐阜県の某市(※注 柳ヶ瀬のある岐阜市ではない)ではこの噂で持ちきりでした。子供たちだけでなく、大人までが話題にし、皆、怖がっていました。
けれど、噂はすぐに消え、すっかり忘れていた頃に、全国的な都市伝説として話題になり驚いたものです。
地元での噂と都市伝説には、いくつか異なる点がありました。
「口が裂けた恐ろしい存在が、通りすがりの人を脅し、危害をくわえている」というのが、地元での噂でした。
「口裂け女」は女ではなく、性別不詳の存在として語られていたのです。
もちろん、「私、きれい?」という女性ならではの台詞も存在しませんでした。
代わりにあったのは、口裂け人間に襲われたとされる被害者の勤務する店の名前です。
(※以下、その後、追加でお聞きした話)
前回のコメントに少し、追加させていただきます。
地元の噂での口裂け人間は、××病院の精神科病棟から逃げて来た患者だと云われていました。
また、「○○○の店員」というワードが付随して語られることが多かった記憶があります。
口裂け人間の被害者が「○○○の店員」だったのか、口裂け人間の前職がそれだったのか、記憶が曖昧なのですが、両方のバージョンがあったんじゃないかと思います。
如何だろうか?
まさに全国的にこのウワサが広まる少し前、その発信源とされる岐阜(※柳ケ瀬のある岐阜市ではないが…)にいたUさんの話によると、以下の点において一般的に知られている「口裂け女」の話とは異なる点がみられる。
・子供だけでなく、大人も真剣に信じていた。
・男女の区別はなく、性別不詳(呼称も「口裂け人間」、「口の裂けた恐ろしい人間」)
・「わたし、きれい?」などの具体的な言動の情報はなく、ただ「人を脅し、危害を加える」という表現のみ。
・精神科病棟から逃げ出した患者という具体的な過去(※これは全国版でも語られることがある)
・具体的な被害者の情報(勤務先)が知られている。
これが真に最初のオリジナルとまではいえないが、Uさんの暮らしていた時間と場所からして、1979年当時、全国的に広まった「口裂け女」伝説の〝原型〟に近い話であることは確かだろう
(※おそらく起源は一つではなく、もっと遥か昔、江戸や明治の頃に語られていた話のモチーフも合わさって、この「口裂け女」伝説はできたものと思われる。第一章参照)。
昨今、ただのウワサまでがなんでもかんでも「都市伝説」と呼ばれてしまっているが、厳密にいうと「誰もが本当の話と信じて疑わない」というのが「都市伝説」というカテゴリに入る条件である。
例えば、東日本大震災の際に広まった「被災地に外国人窃盗団が出る」だとか、「有毒成分の含まれた雨が降る」などと言った嘘情報などがまさにそれだ。
逆に言えば、「そんなのただのウワサだろ?」と思われるようになってしまうと、最早、それは「都市伝説」ではないのである。
その点からしても、Uさんの話と全国版の話を比較すると、
大人も信じていたリアルな犯罪者の話 → 子供が好むような超常現象的な妖怪の話
へと変化していった過程が覗い知れる。
「わたし、きれい?」云々の、いかにもテンプレなストーリーが付け加えられたのも、全国版の方が後期の発展型であることを物語っているだろう。
とすれば、無論、都市伝説であるので、その話自体がただの眉唾か、あるいは何かの勘違いだった可能性もいなめないが、もしかすると実際にそんな犯罪者(またはそれに類似の存在)がいて、その目撃談に尾ひれがついていったことも考えられるのである。
我、夢の内にそんなことを思いぬ(鳥山石燕風w)。
※また注目すべき、世に知られざる有力情報を入手した場合はご紹介します。
「口裂け女」起源異説 平中なごん @HiranakaNagon
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