Ex9 佐倉瑞希の本能2 女の子だってえっちの話はしたいんです
注:このお話は本編第二部を読み終わってからお読みください。
×××
二年の夏、甲子園が終わった。
瑞希は膨大な記録を整理しつつ、堅く決心していた。
セックスの勉強を始めなければいけないと。
佐倉瑞希は優等生である。
教師の話は素直に聞くし、誰かの悪口を言ったりはしないし、ちょっとした悪戯も自分ではしないし、身だしなみも清潔である。
だがだからといって堅苦しい、話の通じない人間というわけでも、もちろんない。
友達は多いし、誰とでも普通に会話が出来る。勉強の時は真面目な顔をしているが、誰かと話すときは大概が笑顔だ。
男子とでも普通に喋るし、今まで誰かと付き合ったことはないが、密かに彼女を「俺だけのマドンナ」と思っている男子は多かった。
だからそんな彼女が、直史と付き合いだしたらしいというのは、実はかなりの衝撃であったのだ。
佐藤直史は白富東高校のスーパースターである。
一年の夏から岩崎と共に実質的なエースであり、甲子園でノーヒットノーランを達成した、高校野球界の全国レベルでのスーパースターだ。
瑞希は彼と比べると自分は、ごく普通だなと感じることがある。
だがそんな自分を、彼は特別な人間として扱ってくれる。
初めてそれを意識したのはいつだったのか。
初めて出会った時から好きだったような気もする。だけどはっきり自覚できたのは、試合で投げる姿を見てからだ。
「初めて出会った時から、綺麗な子だなっては思ってたよ」
直史はそんな台詞をさらっと言ってしまうのだ。
他の女の子に対する彼の態度は、もっと機械的なものだ。
もちろんマネージゃーのシーナや、新しく入ってきたマネージャーには親しく、そして親切にする。
双子の妹に対する彼は、お兄ちゃんとしていつもよりも頼もしく、しっかりとして見える。どこか投槍なのも面白い。
だがそれと比しても、別格に自分を扱ってくれているのが分かる。
彼は割りと無表情に見える時があるし、それは角度によっては不機嫌に見えることもある。
しかし瑞希にはそんな顔を向けない。
大切にされている。
日々感じる親からの愛情とも違う。親戚たちや友人たちの親愛の感情とも違う。
自分は、直史に愛されている。
それに応えたいと思うのは自然な感情だろう。
瑞希は正式には文芸部に所属している。
今でも週に三回の活動には、ほとんど出席している。だが夏休み期間は作品を制作するだけで、特に活動をしたりはしない。
それに文芸部の面々を思い浮かべても、こういったことで頼りになりそうな、それでいて繊細な関係を築いている者はいない。
母に相談できれば一番なのだろうが……さすがにこれは、そういうものではないだろう。
あと身近にそういったことで頼りになりそうな者は……。
一応、思い浮かばないでもない。
思い立ったら即行動、というわけでもないが、たまたま用事は色々とあったため、瑞希は野球部の部室へと向かった。
現在建築中の新部室は、セイバーがまたしも自分の私財から持ち出して作っているものだ。
秋季大会前には完成して、今のものは維持費がかかるので解体するそうだ。
そこまでお金を使って大丈夫なのかとも思うが、セイバーはさらっと話してくれたことがある。
「10分の取引で二億円儲けたことありますよ。もちろん、10分で一億円溶かしたこともありますけど」
あの人はお金に関する価値観だけは確実に狂っている。
というか、そういう人たちも存在すると認識すべきか。
ノックをしてから野球部の部室に入る。長机と椅子が置かれた、一番広い部屋に、目当ての人物がいた。
ただし彼女だけでなく、一年のマネージゃー全員が集まっている。
野球部のマネージャーは皆、仲がいい。二年のシーナを頂点に、まとまっている。
野球部関連の女子勢は他にもいるが、おおよそシーナの影響下にある。瑞希も彼女を無視して話を進めようとはしない。
しかし瑞希にとってシーナは、この話を振るには少し微妙な人間だった。
シーナはそれほど仲が良くもなかったとはいえ、直史とは小学校時代からの知り合いであるのだ。
「あ、瑞希姐さん、ちーっす」
「ほほほ、ごきげんよう」
瑞希だってこの程度のおちゃらけはするのだ。
「お~、お嬢様モードっすか~」
「ええ、似合うかしら?」
「似合う似合う~、で、何の用すか?」
「用がないと来ちゃダメなの?」
「用があるんすよね?」
瑞希は基本的に、無意味なことをしない。
下級生からは随分と大人びてるようにも見えるのだが、胸は割とぺたーんである。
ただ腰の細さははっきりと分かるので、そこは羨ましい。いや、ここはそういう話ではない。
「そうね、少しフミちゃんに……」
と思いかけて、瑞希は改めて考える。
こういうことの相談は、より人数が多い方がいいのではないか。
これまでこんな相談事をしたことのない瑞希には、そのあたりの判断がついていなかった。
ギャル系と見える文歌に相談するのも、女マネの二人に相談するのも、それなりに参考となる意見が聞けるのではないか?
……瑞希は本当に、こういうことを相談するのが下手くそで、相手の選別にも長けていなかった。経験不足なので仕方ない。
「そうね、これは友達の話なんだけど――」
(それ絶対本人の話なやつ!)
三人の心は一つになった。
恋愛相談!
およそ女子と生まれたからに、完全な陰キャ属性でもない限り、これほど面白い相談はない!
陰キャであっても自分の推しカプ論争は出来るぐらいなのだから、色恋沙汰とは女子にとって至上の快楽なのである!
「えっと……皆はその、付き合い始めてからセッ……までの期間って、どれぐらいが適正だと思う?」
(思ったより生々しいのキター!)
またも三人の心は一つになった。
今更であるが紹介しておこう!
現在白富東野球部には、四人の女子マネが存在している!
二年の椎名美雪は男子の練習に混ざれるほど別格であるが、他の三人もそれなりに体育会系であったのだ!
北村文歌。言わずとしれた手塚の前のキャプテン、北村の妹である。
ちょっとした見た目はギャルであり、本人の好みもおおよそギャル系であるのだが、やっていたスポーツは弓道。
スポーツに入ることは入るのだが、かなり毛色が違う。
清水礼子と五木夏美。
清水はガールズの女子野球をやっていた。それほど強いチームではなかったが、しっかりと四番を打っていて、実はノックもそれなりに出来る。
五木はソフトボール部のエースであり、なんと県大会の準決勝まで進んだほどのガチ勢である。だが高校では野球部のマネをやるとずっと前から決めていた。
強いチームのマネをしたい。それが二人の共通認識である。
そして甲子園に連れて行ってもらうのだ!
あたしたちだって南ちゃんになりたい!!!
なお、先に言っておこう。
この三人には、男性と交際した経験などない!!!
……いやマジで。
文歌などはそこそこお付き合いしていそうなイメージがあるが、彼女は基本的にと言うか、生粋のお兄ちゃんっ子である。
そのくせ母性的なおっぱいなども持っているが、本人は割と純である。
ほらあの、ヤンキーこそ逆に純的な?
だが文歌は同時に、耳年増でもある。
なにせ兄とその幼馴染がやたらとイチャイチャしていたのを、小学校高学年の頃から見ていたのだ。
一線を超えた女子がどう変化するのかも、至近距離で見ている。
だからやはり、この中では比較的相談に向いていると言っていい。
「そうっすね、一概には言えないすね」
文歌は自分ではなく、兄とその恋人のことを思い出しながら話す。
「それまでの関係がじれったい両想いだったら、告白後すぐセッ……というのも考えられます」
なお文歌は、兄が恋人にどういう風に言って告白したかまで知っている。
同じく幼馴染であった文歌に、それとなく相手の意向を探るように言っていたからだ。
このあたり兄は、まだ繊細であったと言える。
瑞希は衝撃を受けていた。
考えてみれば当たり前である。お付き合いをするとしても既に親密な関係から恋人へ移行するのと、知らない人に告白されてとりあえずお友達からでは、進展のスピードが同じなわけがない。
少女マンガを読むこともあまりない瑞希は、そのあたり徹底的にアホの子であった。
「その……あなたたちはどう思う? 野球部の子たち、かっこいいでしょ?」
清水と五木に質問を投げた瑞希であるが、返って来たのは血を吐くような叫びであった。
「野球部は部内恋愛禁止なんです!」
「うちらが入ってきた時にそう決まったんです!」
そうなのだ。
およそ人間の集団が崩壊する場合、女が絡むことは珍しくない。
可愛い可愛い後輩マネが入ってきた時、ジンと手塚が決然として、このルールを作った。
なおこの時既に、手塚には趣味の合う彼女が出来ていた。
自分の利権が絡まなければ、人間はいくらでも綺麗になれるものだ。
ただし、この決まりにも一つ例外はある。
「意中の相手が部外の誰かと付き合いそうになった時だけは、その人にアプローチしていいんです」
文歌の語るそれは、必要な付帯事項である。
部内恋愛禁止だから、自分も好きなモテる野球部男子が、外部の女に持っていかれるのを見るしかない。
それはあまりにも残酷であろう。
なおこの付帯事項を求めて了承させたのは、文歌たち三人である。まだ彼女持ちでなかった男子部員の圧倒的な支持を受けて、これは成立した。
なるほど。
野球部というのは特殊な世界であるらしい。少なくとも白富東においては。
「野球部の男の子って、そんなにモテるの?」
自分も野球部のエースを彼氏にしているくせに、瑞希は問いかけた。
「モテます!」
「三年は全員彼女いるし、二年もジン先輩とガンちゃん先輩、それに大介先輩以外にはいます!」
「その三人にいないのが、けっこう不思議なんだけど……」
瑞希は思う。いかにもモテそうな岩崎に、スーパースターの大介がモテないのは、不自然とも言える。
その瞬間、二人は遠い目をした。
「まあ、少なくとも大介先輩は、ねえ?」
「あの双子がついてるから、ねえ?」
ああ、と瞬時に瑞希は納得した。
大介に熱烈にアプローチをしている佐藤家の双子の姉妹は、色々と奇妙な噂がある。
それにしても、野球に全てを賭けているジンはともかく、岩崎にいないというのは不自然に思える。
ジンと仲がいいから、彼に付き合って彼女も作っていないのだろうか。
いやいや、話が外れている。
「高校で知り合って、なんだかんだ両想いになって、それなりにデートもした後だったらどう?」
「あ~、そりゃパコるしかないっしょ」
あまりにも直接的な言葉が文歌の口から出た。
「パコる?」
瑞希の知らない単語であった。彼女の性知識は偏っている。
「そりゃその……セッ……のことですよ」
説明しようとした文歌も顔を赤くした。
なるほど、なるほど。
勢いで約束したことだが、自分たちの関係を深めるには、時期的には全く不自然ではないわけだ。
ならば、どう具体的に事態を進めるべきか。
いよいよ核心に迫ろうとした時、部室のドアが開かれる。
「あら、瑞希もいるの」
野生のイリヤが現れた。
伊藤伊里矢。誰もがなぜか自然とイリヤと呼ぶ少女。
文歌とはまた別の方に、大人びた雰囲気を持っている。
神秘的な印象を与えるが、同時にひどく女性的でもある。
正直なところ、瑞希はイリヤが苦手だ。
性格が合わないとか、イリヤの人格に悩まされるとかそういうことではなく、単純に恋人に馴れ馴れしい異性がいたら嫌なのである。
イリヤの場合は他人との距離が極端に近かったり遠かったりするので、彼女自身は人の好き嫌いが激しいというか、興味のあるなしがしっかりとしている。
「何か問題でも?」
そう言うイリヤの姿を見て、瑞希はふと思ってしまった。
「イリヤはその……誰かと深い仲になったことある?」
「寝たことがあるかって言う意味なら、あるわよ」
間髪いれずに返事があった。
さすがは帰国子女。さすがは芸能人といったところか。
いやそれは偏見かもしれない。
「ちなみに初体験の年齢は?」
わくわくした顔で文歌が問う。こういうことには興味が尽きない。
「14歳だけど、これは男性経験の話?」
「もちもち」
「じゃあ私もまだね」
「さっきと言ってることちが~う」
「私が寝たのは女同士だから」
簡単に空気を凍りつかせるイリヤであった。
ごくり、と誰かが唾を飲んだ。
だがこの中で最も、デリケートな問題に強いのは瑞希である。
彼女は自分の信念として、人間の性向はそれが周囲に迷惑をかけない限りは、理解出来なくても許容はしなければいけないと考えている。
「イリヤは同性愛者なの?」
「ああ、違う違う。私はバイセクシャル。でもどちらかと言うと恋愛は男として、セックスは女としたいタイプ」
言いおった!
こいつこれまでセッ……で隠されていた言葉を、簡単に言いおった!
「いちいち説明するのが面倒だけど、そうね……。私の友達には色々とセクシャルマイノリティな人がいて」
アメリカはリベラルの社会である。
政治は保守であっても、全体的な国民性はリベラルなのだ。
……時々リベラルは、バカの代名詞として使われることもある。
イリヤの説明は、なんだかんだ言ってノーマルであった女子マネ軍団を震撼させた。
清水と五木は、実は野球部のメンバーで推しカプ論争を繰り広げることがあるのだが、幸いにも今まで不毛ないい争いをしたことはない。
二人はリバを許せるタイプなので、それだけでも戦争が起こる確率は大変に低くなる。
推しカプ論争とは、つまり野球部の男子同士で、どの組み合わせがカップルとして成立しそうか、という腐った話である。
今二人の間で一番熱いのは、岩崎とジンの組み合わせである。
女房役という言葉通りなら、岩崎×ジンが正しい。
しかし両者の関係を見るに、これはジン×岩崎だろうと二人は考えている。
この攻めと受けの認識が変わっても平気なのを、リバ許容派と呼ぶ。
それはともかく、イリヤはセクシュアリティの問題には詳しく、そして寛容であった。
ジェンダーについてもそうだが、最近の彼女が気になっているのは、アセクシュアルの人間である。
アセクシュアルと言うのは一番多い例で言えば、恋愛感情はあるけれど、それが性欲に結びつかない人間だ。
イリヤはこれに近い。
普通に男を好きになるが、セックスはしたくないのだ。
そして女友達でも、合意が取れればセックスをする。
「なんでそうなるの?」
瑞希としては、そこが奇妙でたまらない。
セッ……というのは究極的には、子孫を残すための繁殖行為だ。
お互いの愛情を確かめ合う行為でもあるだろうが、単に性欲を解消するなら、自分で慰めればいいのである。
「そうね。男性とする場合、あれを挿入れなければいけないわけでしょ? 私はそれが痛そうだから嫌なの。女同士だとどうすればいいか、おおよそ分かってるし」
単に快楽追求のためであった。
だがイリヤが他人との関係を用に近づけてしまう理由は分かった。
彼女は恋愛に関して、非常にフリーダムだ。
「あの、嫌なら言わなくていいけど、この中でイリヤがしてみたいとしたら誰かな?」
Wo~wな質問を文歌が投げた。
イリヤは一同を見回した後、わずかに考え込む。
「私は抱くより抱かれる方が好きだから、この中には特にいないわね。強いて言うなら瑞希を抱いてみたいけど」
瑞希は混乱した。
「大丈夫よ。快楽の追求と言ったでしょ? 相手の合意がないセックスは私はNGなの」
瑞希は安心した。
「そうね、抱いて欲しい人間なら、エコーとシーナかしら」
「あ~」
納得する。
エコー。セイバーのマネージャーである早乙女は、女から見てもかっこいい。男子よりも女子にモテそうなお姉様タイプだ。
それにシーナも分からないでもない。彼女の積極性や野球に対する姿勢は、尊敬に値するものである。王子様系ではないが男前だ。
イリヤの好みは分かった。
「あ、それならオカリナなんかもそうじゃない?」
野球部の応援に来てくれる、背の高い女バスの女の子。
彼女もまた、圧倒的に女子人気が高い。イリヤも単なる顔見知り以上の関係ではある。
だがイリヤには分かる。
「彼女は一番ノーマルなタイプね。むしろリードされたい人間だと思うけど」
単に容姿が王子様系だからと言って、ベッドでの立場も攻撃側とは限らないのだ。
さて、話は戻る。
「お互い初めて同士の男女のセックスねえ……」
イリヤはこの話題に関しては、常ならず客観的で冷静であった。
「男側の事情は分からないけど、女が準備しておくのは、まず避妊でしょ? 他はなくてもまず避妊」
めさくさリアルである。
「それで、次は場所をどうするかね。日本には専用のホテルがあるけど、この辺りにはないわね」
国道まで出ればあるのだが、あそこは車で行くような場所だ。
電車を乗り継いで行けばそういった繁華街にも行けるが、イリヤはそれはオススメしない。
「初めての後はすごく痛いそうだから、自宅の方がいいんじゃない?」
「あ、それそれ言われる!」
文歌も同意した。他の二人はなるほどーと頷いている。
なるほどーと瑞希も頷いた。確かに両親が家を空けていることは多い。直史のところは家族が多いので、あまり機会はないだろう。
場所は決定した。次はなんだろうか。
「人の好みだと思うけど、シャワーを浴びて下着を新しいものにしておくのはいいと思うわね」
イリヤの意見にしては、まともすぎる。
「可愛らしい下着よりも、清楚系が受けるらしいよ」
文歌も友人のギャルから、下手にフリフリの可愛らしい物よりも、そちらの方が男受けするとは聞いている。
メモを取る瑞希であった。
あとは、といくらでも事前に準備しておくことはある。
「瑞希さんって、産毛ほとんどないよね」
「あ、それ思った。生まれつき?」
一年からの問いに、瑞希は苦笑する。
彼女は体質的に、腋毛も生えてないのである。
「別に腋毛ぐらいあっても問題ないでしょ?」
「イリヤの常識はアメリカの常識!」
「そこは譲れない!」
ムダ毛処理は日本の乙女の、かなりこだわりのあるところである。
実践を考えていくなら、まだまだ注意すべき点は多い。
「オーラルセックスは練習しておいた方がいいんじゃない?」
「ダメダメダメ!」
「初めてでそれは男が引くから!」
処女であってもそういった知識は持っているのだ。
かくして瑞希の準備は、知識的には整った。
あとは武装を確認し、タイミングを見計らうだけである。
去っていった瑞希のいない部室で、マネージゃーたちは机に突っ伏した。
「いいな~」
「あたしも彼氏ほし~」
「部内恋愛禁止が痛いよ~」
ひとしきり嘆いたのち、文歌はイリヤに視線を戻す。
「あたしイリヤって、ナオ先輩のことが好きなんだろ思ってたんだけど」
「あ~それそれ」
「あたしもそう思ってた」
イリヤが直史を特別視しているのは、誰の目から見ても明らかである。
ちなみに普通に仲がいいのは手塚だ。彼からは色々と資料を渡してもらっている。
「直史ね……」
髪をばさりとかきあげるイリヤ。彼女はこういった動作がよく似合う。
「そうね、彼となら私もセックス出来ると思うけれど……」
それは不思議な関係だ。
「興味であって、恋愛ではないわね」
分析するならそうだ。
「イリヤも芸能人なら、イケメンとか見放題なんじゃないの?」
そこは素直にうらやましい文歌である。
「別に日本の芸能人には詳しくないし。特にこちらから見物しようとは思わないわね」
なおあちらからはイリヤに接触したい人間は多いのだが、下手に扱うと芸能人生命が終わるので、慎重になっている。
「じゃあタケは? イリヤってタケとはあ~、なんか相性いいっぽくない?」
相性。
恋愛関係から、また逸脱したものである。
だが否定出来ない。
不思議なものだ。恋愛とはかなり違うのだが、イリヤにとって武史は、妙に安心出来る存在ではある。
多分彼とも、しようと思えば抱かれるのも出来なくはないだろう。
だがそんな、性欲の解消でお互いを貪ってしまうような、そんな関係にはなりたくないとも思った。
「そうね……」
イリヤはうっすらと、魔女のような笑みを浮かべた。
「一度ぐらいは試してもいいかも」
魔性の笑みを浮かべながらも、イリヤにはそんな安易な気持ちは全くないのであった。
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