SS15.after.もう一つのカップル

「めりくりー」

「はい。メリークリスマス」


 夕方に悠月と翔斗が遊びにやってきた。この三年くらいは二人きりのクリスマスだったので、少し新鮮味がある。


「んー、でもいいの? あたしらいたら邪魔じゃん?」

「ちょっと思ったのですが、悠月ちゃんたちも私たちと同じようにしてればいいと思うんです」

「イチャつけと?」

「イチャついてません」


 こういう会話もあまりすることがないので、遥香も楽しそうにしている。

 近況報告はよくしてはいる。とはいえお互いになにか大事があったわけでもないので、結局は遥香と悠月がただわいわいと遊んでいるような構図になってしまうのだが。


「いやー、今年はいろいろあったよね」

「だなー。やっぱ蓮也と月宮もいろいろあったみたいだしな?」

「は?」

「本当に八神くんはデリカシー身につけた方がいいと思います」

「そんな言う?」


 なんのことかわからずに首を傾げていると、遥香がこっそり耳打ちしてくれた。


「……実は、いろいろ蓮也くんがしてくれたことを悠月ちゃんたちにも話していたり」

「というと?」

「……いろいろ進展しましたよ、ということとか」

「なるほどな。翔斗、デリカシー」

「すんませんした」


 これに関しては真面目に悠月に聞かれたことを隠さず答えてしまったことにも問題があるのだろうが、クリスマスに遥香を責めたりするのは嫌なので翔斗に責任転嫁しておくことにした。それもどうかと思ったが、翔斗が笑って流してくれたのでよかった。


「今日はちょっとお酒持ってきたよ。遥香はまだ飲めないけど」

「仲間はずれは嫌ですが、仕方ないです。ですが、どうせなら酔って頭が回らなくなるくらいに蓮也くんをしてくれると助かります」

「おー、嫁さんから許可もらったから飲ますかー」

「まあ、潰れない程度ならな」


 大学の付き合いで何度か飲むこともあった。とはいえあまり飲み慣れているというわけではないので、気疲れもしない相手だから飲む練習ということで飲むのもたまには悪くないかもしれない。


「んで、悠月ちゃんからプレゼント。遥香はポーチで、結城はごめん、わかんなくて商品券」

「えっ。ごめんなさい、突然だったので何も準備してません」

「いーよ」

「んで俺からはクッションとネックレス。なんか月宮はクッション抱えてるイメージあるし、蓮也はあんまアクセサリー持ってないから」

「マジですまん」

「いつか必ずお返しを準備します……」


 ぺこぺこと頭を下げ続ける遥香を二人は慌てて落ち着かせる。


「まあデートとか行ったときに写真とか送ってよ。あたしらは遥香たちがそうやってんの見るの、結構好きだからさ」

「悠月ちゃん……そういう趣味だったんですか」

「ねえ結城、最近遥香もしかして反抗期みたいなの来てる?」

「冗談じゃないで……」

「そうかも」

「蓮也くん!?」


 実際のところは高校のときよりも少し冷たくなったと感じるときもあるが、それが距離が近づいたからのものだというのもわかっているので反抗期というわけではない。

 そんなやりとりをしながら、蓮也はいつも通りに遥香を膝に寝転がらせる。


「あの……二人だからいいですが、人いますよ?」

「始まった」

「見るのが好きらしいから」

「見せるようなものじゃないんですがねぇ」


 そういいつつも、それを聞いた遥香は蓮也の太ももにいつものように頬を擦り付ける。


「顔真っ赤だぞ」

「う、うるさいですよ八神くん。あなたたちこそどうなんですか。私たちにばかりですが、二人は私たちなんかよりずっと長く恋人です。気になります」

「んー? 遥香たちよりマシ」

「嫌です聞きたいです。ねっ、蓮也くん」

「まあ、俺たちだけってのも納得はいかないよな」

「話すこともねぇけどなぁ……」

「ま、去年のクリスマスの話とかでいんじゃない?」






 これは、去年のクリスマスの話。

 遥香と結城がイチャコラしまくっているらしいからあたしと翔斗はあたしの家でクリスマスパーティーをすることにした。


「そういや翔斗。聞いてなかったけどお前らまだ付き合ってんのか?」

「いやー当たり前っすよ。こいつ、めちゃくちゃいい女なんで」

「刺すよ? そういうの本人を前に言うなって」

「すません」


 正直、照れる。やめてほしい。

 こういうのを結城と違ってさらっと吐く野郎だけど、それがわかっていても嬉しいし恥ずかしい。


「ほんとに、翔斗くんもこんな娘に付き合ってくれてありがとうね」

「こんなって。母親から出る言葉じゃないでしょ」

「うっさいわね。もうちょいしっかりしなさい」

「えぇ……どっちかといえばこいつ……」


 いや、貶したいわけではない。勉強はしてほしいしデリカシーも身につけてほしいし一緒に寝るときにしっかり抱きしめてくるのとかもやめてほしいけど、しっかりしていないわけではない。

 あたしと翔斗の付き合いは割と長い。幼馴染みとまでは言えないが、実はあたしの方の一目惚れだったりする。思い返すだけでも恥ずかしい。


「悠月ももっと素直になりゃいいじゃねぇか」

「やだよ。親の前でなにさせるつもりだよ」

「翔斗かっこいーってやればいいのに。昔みたいに」

「やらんし。いつの話だよ」

「いつってことは、やってたのか」

「翔斗があたしを弄るのは許されないから」

「理不尽……」


 照れ隠し。それに気づいてるから翔斗も笑ってくれる。

 そう。かっこいいとか、そういう話じゃない。ただめちゃくちゃ優しいのだ。

 自分のことを後回しにしちゃうようなとこもあるし、あたしが殴ったりしても絶対怒らないし結城の弄りとかも笑って済ませられるし。そんなところがめちゃくちゃかっこいい。もう、はちゃめちゃに好きだしでもそれを伝えるのは柄じゃないからしたくない。

 でも、クリスマスくらいは。


「翔斗、部屋行こ。親がうっさい」

「ん? いいけど」


 半ば強引に部屋に連れて行く。抵抗をせずに引っ張られる翔斗を見てると、なんかただヘラヘラしてるようにも見える。


「んで、どうした?」

「いやー……なんでも?」

「ねぇのかよ」


 なんか、労うのが恥ずかしい。


「座りなよ」

「ん」

「んでそのまま寝転がったら?」

「ん」

「……いや、なすがままじゃん。疑問ない?」

「あるけど、なんか難しい顔して言われたから」

「その気遣いありがたいけど辛い……」


 気を遣わせるつもりはなかったけど、気を遣わせてしまったらしい。


「いや、なんかさ。いっつも翔斗に笑ってもらってばっかだなって思って。だから、今日はあたしが翔斗になんかしようと思ったわけ」

「ああ、そゆことな」

「でもまた気を遣わせてしまいました、と。ごめんね」

「いや、気にしてないし。まあでもそういうことなら……」


 ベッドに寝転んだ翔斗は、あたしの腕を思いっきり引っ張ってベッドに入れた。


「クリスマスだしな」

「ちょ、まっ? 親いるからね?」

「何想像してんだ。さすがに起きてるときにはしねぇよ。お前をこうやって抱きしめてるだけで十分幸せだって話だよ。気を遣うとか気にしなくていいから」

「……ごめん、今のはごめん、とちった」

「まあお望みなら」

「……よろしく」






「こんな感じだけど、なんか面白かった」


 さらっと話を終えた悠月に対して、蓮也はただ悠月から顔を背けて遥香は蓮也の膝に顔を埋めていた。

 翔斗たちが持ってきていた酒をちまちまと飲み続けていた蓮也の方はまだしも、素面で聞いていた遥香は顔を真っ赤にしている。


「ううぅぅぅぅ!」

「え、なに遥香」

「お前らそれでよく俺たちにイチャつくなって言えたよな」

「えっ、そんなに?」

「……なるほど、そんなふうに誘惑すればいいと……いやでも蓮也くんだと……無理ですね……」

「遥香? 聞こえてるぞ?」

「うるさいです。紳士的なところはやっぱり大好きですが、またもうちょっと積極的になってほしい時期が来ていますよ」

「おーい、俺らがいることまた忘れてるよな?」

「……どうしましょう。さっきの話を聞いた後だとめちゃくちゃ文句を言いたくなります」

「わかる」


 顔を真っ赤にしながら遥香と蓮也は一緒に悠月たちを見つめる。蓮也たちのことを絶対に言えないような話を聞いた後だからか、二人の顔を見るのも恥ずかしい。


「えっと、帰るわ。うん」

「だなぁ。んじゃまた来る。お前はもっと積極的になれよ、蓮也」

「うっせ。風邪には気をつけろよ。特に天宮」

「ん、ありがと。じゃね」

「またね、悠月ちゃん」


 手を振って見送っている、まだ顔がやや赤い遥香に目を落とす。


「あんな話あるのによく自分たちは違うって言い張れるよな」

「そうですねぇ……と、ところで。いやあの、うん。さっきの話なんだけど」

「……お望みとあらば」

「えっ!?」

「するぞ……ほら……行くぞー」

「ちょ……そんな強引な!?」

「言い始めたのは遥香だぞ?」

「ちょっと酔ってる……」


 満更でもなさそうな遥香をぼーっとした頭で蓮也は部屋まで連れて行った。



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 ノリと勢いで書いたので内容がいつものこの作品にはない感じになった気がします。不快になられた方がいらっしゃったら非公開にしますので言ってくださると助かります……!

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