第4話 LlNE
萌笑から届いたLlNEの内容が衝撃的過ぎて驚いた。
対面で話していると恥ずかしくて言えないようなことも、顔が見えなくては言えるのだろうか。
「なんて返信しよう……」
盛大に驚いてドアに足をぶつけたから落ち着いた。今でもじんじんと痛む。
「…………ここでヘタレてたら父さんになるか」
母さんみたいにヘタレをかわいいといってくれるほど萌笑は余裕ないし。
──ありがとう、俺も
これだとそっけないか?とりあえず、スタンプだけ送っておこう。
──よかった。で、「俺も」ってどっちの言葉に?
萌笑ってLlNEになるとこんなに積極的になるんだな。いつもの態度からは感がられないほど余裕に満ち溢れた内容だ。
──どっちにもだよ。大好きだよ
俺だって緊張はするが、このぐらいは送ることができる。
何故か返信が来るまでにかなりの時間があった。心臓が嫌な方向で音を立てる。俺は、何か失敗したのだろうか。
──ごめん!!!妹にLlNEとられてたから………変なこと送っちゃった……
あ、やべ。俺も結構調子乗って返しちゃったか。
遅れて顔が熱くなってくる。自分が言ったことを思い出して恥ずかしいやら何やらで居心地が悪い。
──あ、あの………私も……大好きだよ………
萌笑の恥ずかしそうな感じがそのまま文に出てきている。こっちまで恥ずかしくなってくる。
──ありがとう。嬉しい
スタンプと一緒にそんな文を送る。実際はめちゃくちゃうれしくて、めちゃくちゃ動揺しているがそれを悟らせないように返信する。
っていうか、なんで萌笑はこんな文章なんだ?
ま、いいか。
──明日、一緒に行くの……楽しみ……
──俺も楽しみにしてる。明日は七時半でいいんだろ?
──うん……無理しなくていいからね?
やっぱり萌笑は優しいな。こういう風に心配されるだけで胸が温かくなる。
──ありがとう。いつもより早く寝る予定だから大丈夫だよ
──ごめんね………でも、やっぱり……い、一緒に行きたい………
──大丈夫だよ。じゃあ、今日は早く寝るね
──う、うん!……体調崩さないようにね!
こんなこと送っちゃったし、今日は早く寝ないとな。まだ、父さん帰ってきてないみたいだし。
とりあえず、課題終わらせとくか………
………………
………
…
───ジリリリリリリリッ!!!!!!!!
重い腕を上げて、目覚まし時計を叩いて止める。朝が弱くて起きるのが苦手なので目覚まし時計は大きな音が出るものにしているのだが、それが頭にがんがんと響く。
カーテンの隙間からの朝日がまぶしかった。
いつもは憂鬱な朝だが、今日はなんだかすがすがしかった。
「………萌笑と……一緒に行くんだ」
まだ起きるのを激しく拒否している頭を叩き起こし、離そうとしない布団を振り払う。
急に立ち上がった立ち眩みでふらふらとしながらも、学校の準備を先に終わらせ一階に向かった。
そこには朝ごはんの用意をしている母さんがいた。
「あら、早いのね」
「………まあね。ちょっと早く出るからね」
「萌笑ちゃんと行くのね。ちゃんと身だしなみ整えていきなさいよ?」
なんでこういうときだけ察しがいいのか。
「……おう」
ソファに倒れこむ。朝のソファでの二度寝は最高だ。ここにいれば母親も起こしてくれるし、寝心地がいいし。
気が付くと朝ごはんができていた。
「………おはよう」
「ほんと朝弱いわよね。親子そろって」
「俺は悪くない……父さんが悪い……」
朝弱い遺伝子を残しやがって………
おいしそうな朝ごはんのにおいに寄せられて自分の席につく。
「父さん起こしてくるから……何なら先に食べてな」
「…そのぐらい待つよ」
まだもうろうとする頭で父さんと母さんのことを待つ。
案の定いちゃつきながら寝室から出てきてイラっとしたが気にしないように努めて朝ごはんを食べきる。
いつもより早いペースで歯を磨いて二階へ戻ろうとする。
「どうした……柊人急いでんな。…………女か?」
父さんに声をかけられた。なんなんだろうこういう時に限って察しがいい家族って。昨日母親に暴露されたりしなくて安心していたのに。
仕方がないから無言で小さくうなずいて逃げるように自室に戻った。
………………
………
…
「お、お待たせ………」
「おう」
待ち合わせ場所に萌笑が走ってきた。まだ集合する予定だった時間の五分前ぐらいだが、思ったよりも早かった。
「柊人君早いね……」
「楽しみだったから、早めに来た」
「そ、そう…………楽しみ……か…」
朝から萌笑に会えるなんて幸せな気分だ。
「そりゃな。彼女とだからな。めちゃくちゃ楽しみだよ」
「か、かか彼女だもんね……」
萌笑が動揺して顔を赤く染める。
「手、つなぐか?」
「あ、朝はちょっと………みんな見てるから………」
確かに、いろいろな人にそういうのを見られるのは少し恥ずかしかもしれない。
「……二人、きり……のとき……だったら……」
恥ずかしそうにそっぽを向きながらそう言う。
「……かわいいな」
「へ、は………はうぁ………」
小さく漏らした俺の本音に、ぼん、と顔が赤くなる。
俺は妙に上機嫌で学校に行くのだった。
ちなみに、眠気が覚めたときに自分が言った言葉を思い出して恥ずかしくなったのはここだけの話だ。
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