第3話  付き合うことになった

「だ、だからね。……私も、一緒にいたいなあって………」

「…ありがとう、俺も嬉しい」


というか内心がいろいろとやばい。今までずっとあきらめてきた萌笑が実は俺のことが好きだなんて、めちゃくちゃうれしい。


「俺、ずっと萌笑のこと好きだったから、さ……」


やっぱり自分の思いをそのまま伝えるのはまだ気恥ずかしいものがあって、それを紛らわせるように頬をかきながら言う。


「あ、あり………がと…………」


ぼん、と萌笑の顔がばら色に染まっていく。


「ちょっと……幸せ過ぎて………」


そう言って両手で顔を覆う。かわいい。凄いかわいい。どこ行った俺の語彙力。もっと、このかわいさを表現する言葉を………


「わ、私も多分……だけど……ずっと好きだった………と思う………」

「あ、ありがとう」


かわいい。


「……じゃ、じゃあ帰ろうか」


萌笑が少し寂しそうに上目使いでこっちを見てつぶやく。


「……もうちょっと話したい……な」

「わ、分かった」

「あのね……柊人君といるとね、すっごい幸せなの……だ、だから、話したいの…」

「……な、何話す?」


なんでそんなこと聞いてるんだ俺。いつもと少し違う萌笑に明らかに動揺して、心臓がバックバックと大きな音を立てている。


「な、なんでも…いい……柊人君と一緒にいたい………」


恥ずかしそうに、視線をそらしながらそういう。



萌笑がかわいくて、愛おしくて、いつもの調子で話せるようになるまで時間がかかった。



………………


………





「じゃあ、帰ろっか」

「うん……」


結局その日は陽が傾くまで話し続けた。


最初のぎくしゃくとした雰囲気はいつの間にか消え去り、普段のように仲良く語り合いながらゆったりと流れる時間を過ごした。


「そこ、気を付けてね」

「分かった…」


二人で石段を飛び降りて誰も通っていない夕焼けの道路を歩く。


安らかな無言の時間が過ぎる。


「手、つなぐ?」


ぽつり、と俺が口を開いて言う。


「………あ、え……つなぎたい……です……」

「じゃ、じゃあつなごっか」


もともと夕日で染まっていた顔をさらに赤くした萌笑が小さく答える。


恥ずかしさを押し殺して手を差し出すと、萌笑がおずおずと手を伸ばしてきた。触れた手を優しく握りしめる。


「……ちょっと恥ずかしいな」

「そ、そうだね……でも、柊人君に触れてられるから……幸せ……」


お互いに緊張してしまって甘酸っぱい雰囲気で会話を重ねていく。


萌笑の手は想像していたよりもやわらかくて、小さかった。萌笑と手をつないでいるということを認識するだけで触れている部分が熱くなっていく。


「て、手汗大丈夫かな……」

「…わ、私もちょっと危ないから………多分だいじょぶ……」

「そ、そうか」


こんなぎこちなくて初々しい会話が、萌笑と好きあっているということを思い出させてくれて胸がじんわりと温かくなった。




………………


………




萌笑と話しているのは本当に楽しくて、いつの間にか萌笑の家の前についてしまった。


沢山話した。学校でのこととか、好きなものはなんだとか……


萌笑のことをもっとよく知れた気がして楽しかった。


「じゃあ、また明日」

「うん………また明日」


萌笑が嬉しそうにまた明日という部分を反芻する。


帰り道の途中で、明日の朝一緒に学校に行くことを約束した。いつもより早く起きることになるから、萌笑が少し心配してくれたが萌笑と一緒に登校するためならば別に早く起きるのは苦じゃない。


「ね、ねえ!!夜に……そ、その……ら、LlNEで連絡していい?」

「……嬉しい。今まではあんまり連絡とらなかったから……」

「い、今まではちょっと………き、緊張しちゃって……」


俯きがちに、恥ずかしそうにそう言う。連絡は取らないほうがいいと思っていたので素直にうれしい。


「じゃ、じゃあ柊人君も気を付けてね」

「ありがとう。すぐそばだけど………連絡待ってるよ」

「うん!」


今まで以上の楽しい夜になりそうだった。



………………


………



俺の家は萌笑の家をもう少し先まで行ったところだ。歩いて五分もしない。


帰り道では、今日の萌笑の音を思い出していた。いつもよりも愛おしくて、かわいく感じた。より一層ずっと愛していたいと感じた。


家の扉を開ける。


「ただいま~」

「遅かったわね………どうしたの?嬉しそうだけど」

「……実は萌笑と付き合うことになった」


親にこれを一番に報告するのもどうかと思うが、聞かれたら答えるしかない。それにしてもすぐにばれるものだ。


「あら、やっと?」

「やっとってなんだよ」

「付き合ってないのに、ずっといちゃいちゃしてたじゃない」

「……あれは、萌笑のほうは無意識だからな」


萌笑は、女友達とおなじような態度で俺と接していたのでいろいろと危ないシーンはあった。


「よかったわね。で、今日はどこまで進んだの?」

「告白しただけ褒めてほしいんだけど」

「………このヘタレめ。誰に似たんだか…」

「父さんだと思うよ」


父さんは重度のヘタレだったという。一度告白しているのに、もう一度好きと伝えるのができないほどには。


「まあ、父さんはあれぐらいがかわいくてちょうどいいのよ」

「……バカップルめ」


父さんと母さんはもう四十近いというのに仲が良すぎる。


「で、今日父さんは?」

「仕事だからちょっと遅くなるってさ。頑張ってくれてるわよね」

「おっけ。じゃあちょっと部屋こもるから」

「……萌笑ちゃんね。悲しませちゃだめよ」

「連絡とるだけで悲しませることなんてあるか?」


何も想像つかないんだが。


「……ちょっとね。苦い思い出があってね」


母さんが遠い目をして言う。絶対父さんだ。なんかやらかしたんだな。


俺もそっちの方向だけでは気を付けよう。


「じゃ、父さん帰ってきたらした降りてくるから」

「はーい。邪魔しないようにするわよ」

「ありがとう」


階段を駆け上って部屋に入る。


スマホの画面にはかわいらしいスタンプとともに、メッセージが浮かんでいた。




──今日は楽しかった!!大好きだよ!!



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