第5話  学校

休み時間、次の授業まではあとわずかだ。


「はあ、授業か………」


萌笑に振り向いてもらうために勉強は頑張っていた。だからといって好きになっているわけではない。


萌笑のために何かをしている時間はそこそこ楽しかったが。


「柊斗君……お疲れさま」

「ありがとう……」


萌笑が俺をねぎらいながら微笑んでくれる。


俺の彼女だという事実と、その微笑みの柔らかさに疲れが吹き飛んでいく。


「萌笑にそうやって笑いかけてもらえるとすげえ癒される……」

「そ、そっか……私も……嬉しい…かな?」


萌笑が照れたように少し頬を赤くする。


「……照れる要素あったか?」

「わ、私も……柊斗君の役に立てるんだなあ……って……」


なんだその天使的な思考は。めちゃくちゃ役に立ってますよ。


「俺が頑張れてるのはほとんど萌笑のおかげだよ」

「あ、え……………ありがとう…」


ぼん、と顔を赤くしてうつむきながら、ほとんど聞き取れないぐらいの声で小さくお礼を言われる。


めちゃくちゃ癒される…………


言わずもがな授業は頑張れた。



………………


………




「しゅ、柊斗君………!!………い、一緒に帰ろっ!」


ものすごく恥ずかしそうに頬を染めながら一緒に帰ろうとお誘いされた。


「ごめん……すっごい嬉しいんだけど……この後仕事があって…」

「そっか………」


悲しそうに眼を伏せる。


「ほんとごめん……」


俺の中の罪悪感が暴れまわってる。あそこまで覚悟をもってお誘いをくれたのに断るとか……最悪だ。


「………なんのお仕事?」

「日直の、日誌と窓閉めと掃除かな」

「じゃ、じゃあさ………私も手伝って………いい?」

「いいのか?」

「………しゅ、柊斗君と一緒にいられるから………」


うおう。


天使か?


「ありがとう。助かる。俺も萌笑と居られてうれしい」

「……あ、ありがと……」


うん、天使だ。


「窓閉め、やってもらっていい?終わったら掃除しててもらえると助かる。俺は日誌書き終えちゃうから」

「わかった!」


萌笑が窓を閉めようと一生懸命背伸びをしているのを眺め、癒されながら日誌を書く。


あ、やべ…


日誌にいつの間にか、萌笑かわいい萌笑かわいいって書きまくってたわ。慌てて消して、その日の出来事やら何やらを書いていく。


体育の授業に、国語………あとは外で活動した時もあったな………。思い返してみると俺はずっと萌笑といたような気がする。


萌笑も友達と話したくなったりするよな……迷惑かけたかもしれない


日誌を手早く書き上げて萌笑の手伝いをしに行く。


萌笑は箒をもって教室の隅でほこりを一生懸命になって掃きだしていた。


「……終わったから手伝うよ」

「私ももうちょとで終わるから待ってていいよ!」


ぱたぱたと走って塵取りを取りに行く。


こうやって、動き回っている萌笑を見守っている時間が好きだ。なんとも言えない温かさと幸福感に包まれる。


「終わった!いっしょに帰ろ!」

「帰ろうか」


机の上に置いてあったバックをもって昇降口のほうに階段を下りていく。


「………萌笑、俺とずっといるけど………友達とかと話したくなったら言えよ」


俺は友達と一緒にいたいとか思うまでもなく、萌笑と話してる時でも関係なく話しかけてくる野郎どもがいるので逆に迷惑だと思っているぐらいだが。


友人同士仲のいい萌笑だったらもしかしたら友人といたいなんてことがあるかもしれない。


「……そうなったら言うけど………まだ思ってないから言ってないだけだよ」


少し寂しそうにつぶやく。


「柊斗君は私といるの………嫌?」

「嫌じゃない」


だったら私も嫌じゃない、と言って笑う。


なんだか無性に愛おしくて、嬉しかった。


「だ、だって………わ、私は………柊斗君……大好きだから…………」


自分で言っておきながら恥ずかしそうに目を逸らして、真っ赤に頬を染める。




やっぱり俺の彼女さんは最高だ。

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