第9話いつかの記憶


 いつからなのだろう、俺はよく夢を見る。いや、正確には過去の出来事でおこったかもしれないことを思い出しているのかもしれないが......。


 俺はよく小学生の頃の夢を見る。起きてからはいつも断片的な言葉しか思い出せないが....。その中でも、いつも覚えている言葉がある。


「なんで、俺を見捨てたんだよ!!」

「お前が、先生なんかに言ったから!!」

「お前は、俺の友達じゃねえのかよ!!」

「もう、お前のことなんか知らねえからな!!」

「俺のことを二度と友達なんて呼ぶんじゃねえ!!」


 その夢を見た後、俺は決まって涙を流す。


 俺は、友達が少なかった。いや、友達と呼べる人だけが少なかった。


 学校で、話しかけてくれる人はいる。でも、遊びに誘われたことは一度もない。


 クラスでのレクリエーションには参加する。でも、休み時間に校庭に行ったことは一度もない。


 休み時間は、決まって図書館で過ごしていたから......。


 でも、いつかは忘れたがそうじゃない期間があったことは覚えている。そのことについては、深く思い出せないけど......。

 

 そしていつかを境に、俺は学校には行かなくなった。正確には学校に行く意味が分からなくなった。 

 

 その日は暑い日夜だった。俺がこっそり飲み物を取りに一階に下りた時


 母は泣いていた。俺の入学式の日の写真を見て。桜の木の下で楽しそうに遊んでいる写真を。


そのとき、俺は無意識のうちに母親の前まで行っていた。


「おかあさん!!俺、明日からもう一回学校に行ってみる!!」


 おもえば、この時からかもしれない。俺が失敗しないように生きようと思ったのは。





 俺は、久しぶりに一人で家に帰っていた。吉田が声をかけてくれなかったのもあるが、今日は一人だけで帰りたかった。


「ただいま」


そういって、俺はすぐに部屋にこもった。一人だけにしてほしくて。


次の日、俺は学校を休んだ。母親には体調が悪いと言って。俺の母親は深く尋ねてこなかった。そうして俺は深く眠りについた。


 

*



 どれくらい眠っていたのだろう。もう、夕日も沈みかけている。

 

 俺は晩飯を食べるため、リビングに向かう。そして母親と二人で晩飯を食べる。俺の父親は転勤していて普段は家にはいない。


 「ゆうすけ。そういえば、これあなたにってだれかが届けてくれたわよ」


俺は、無言でその袋を開ける。その中身は学校のプリントや今日あった授業の内容がまとめられているノートが入ってた。そのノートの中身を確認すると、一枚のメモ紙が貼ってあった。そこには、


「ゆうすけは、どう思ってるかはわからないけどぼくたちは、ゆうすけのこと、親友だと思っているよ」


それを読んだ俺はすとんと、理解することが出来た。どうしてあのとき、あの言葉がすぐに出てきたか。


 考えてみればとても単純だった。ただ、俺は欲しかったんだ。


 友達という言葉を。


 だって一人は寂しいから。桜の木の下の俺は、とても輝いてみえたから。


そこで、ふと母親が語りだした。


「わたしはさあ、ゆうすけがとても心配だったのよ。高校であなたに友達が出来るか」


そこで、一呼吸おいて母親は尋ねた。


「ゆうすけにも、友達ができたのね」


そこで、俺は全く迷うこともなく自分の本心をさらけだす。


「ああ、できたよ。大切な親友が」





 





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