第30話


「シルヴィア。嫉妬深く欲深くそれでいて美しい女性。私は君のことも気に入っていたのに・・・。残念だよ。どうして君は私の命令に従えなかったのかな?」


ランティス様はシルヴィアさんに向き直るとその美しい顔を歪めてシルヴィアさんに問いかける。


ランティス様の命令・・・?シルヴィアさんに不振に感じながらもその場から動けず、二人の動向を見守る。


「メリードット先生。私はあなたに失望いたしました。生徒の言うこともきいてくださらないなんて。」


ランティス様は今度はメリードット先生にそう告げた。


どういうことだろうか。


ランティス様は、シルヴィアさんとメリードット先生になにかを依頼していた?それを二人とも叶えることができなかったからランティス様が二人を責めているのだろうか。


ランティス様は自分の願いが必ず叶えてもらえると、そう思っているのだろうか。


「私の願いを叶えてくれないのなら、そんな者はいらないんだよ。消えてもらうよ。」


「えっ!?」


私は思わず声をあげてしまった。


まさか、ランティス様からそんな言葉が飛び出すとは思わなかったのだ。


消えてもらうって・・・。それって死ねってこと?


どうして、ランティス様が?


ランティス様は優柔不断なところはあったけれども、とても優しい方だと思っていた。


それに、皆からの評判もよかったし。


そんなお方がどうして・・・。


「ああ、驚いた顔をしないで、エメロード。だから君にはここから出ていってほしかったんだけどねぇ。」


私が驚いて声をあげてしまったために、ランティス様の視線が私を貫いた。


もしかして、私もランティス様に殺される・・・?


背筋を冷たい汗が伝う。


思わずプーちゃんの方を見るとプーちゃんはランティス様を睨み付けていた。


「まずは・・・シルヴィアからだね。」


ランティス様がそう言うと恐怖で何も言えなくなってしまっているシルヴィアさんの身体を黒い霧が包み込んだ。


それはまさに邪竜がおこなった攻撃に酷似していた。


「きゃああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・・。」


辺りにシルヴィアさんの悲鳴が響き渡る。


「シルヴィアさんっ!!」


私は慌ててシルヴィアさんに近づこうとするが、それをプーちゃんが制した。


どうして!?という気持ちでプーちゃんを見ると、プーちゃんは首を横に振っていた。


「大丈夫だ。シルヴィアは不老不死だ。何をされても死なぬ。すぐに回復するから心配するな。」


プーちゃんは私の耳元でそう囁いた。


確かにそうかもしれないけれど・・・。


どこか私とプーちゃんの感覚は違うようだ。


ややあって、シルヴィアさんを包んでいた黒い霧が晴れた。


そこにはシルヴィアさんの姿はなく、かわりに変わり果てたシルヴィアさんと思われる肉塊があった。


「あ・・・ああ。」


私は思わず顔を両手で覆い隠す。


「さて、次はメリードット先生の番ですよ?」


ランティス様の無情な声が地下牢に響き渡った。


「そこまでじゃ!!」


ランティス様がゆっくりとメリードット先生に近づく。


そうして、メリードット先生に向かって手をかざした瞬間に、トリードット先生の声があたりに響いた。


「トリードット先生っ!!」


よかった。


トリードット先生が間に合った。


トリードット先生の後ろにはジェリードット先生とアクアさんの姿も見える。


「ああ。トリードット先生でしたか。そんなに急いでどうしたんですか?」


ランティス様は慌てるわけでもなくにっこり笑ってトリードット先生を迎えた。


ゾクッと背筋に鳥肌がたつ。


今、ランティス様はシルヴィアさんを殺したばっかりだ。そして、今にもメリードット先生を手にかけようとしていた。


それなのにも関わらず、笑っていられるなんてどういうことなのだろうか。


「ランティスよ。どうしてこのようなことを・・・。」


トリードット先生は嘆かわしいとばかりにランティス様に訪ねる。


しかし、ランティス様は動じる様子もなくただ微笑んでいる。


その微笑みが異常すぎてとても怖いと感じる。


「ふふふっ。私は世界で特別な人間なのです。選ばれた人間なのです。その私に逆らう者などいらないのですよ。」


ランティス様はなにを言っているのだろうか。


ランティス様が選ばれた人間というのはどういうことだろうか。


確かにランティス様は家柄もよく、人からの評判もいい。


それが選ばれた人間ということなのだろうか。


「不要な人なんていないと思います。ランティス様が選ばれた人間というのはどういうことでしょうか?」


思わず恐怖も忘れてランティス様に問いかけていた。


ランティス様の視線が私に向けられる。


その視線はとても冷たく熱を全く持っていなかった。


「君は私の婚約者として素晴らしいっ人材だったのだよ。なによりも誰よりも多いその魔力。それが私のほしかったものだ。」


ランティス様は私の問いかけには答えてくれなかった。


ただ、私がほしいとだけ言ってきた。それも過去形で。


きっと、今のランティス様にはいろいろと知ってしまった私は不要になったのだろう。


「勘がいいねぇ。エメロード嬢は。そういうところも気に入っていたんだがね。残念だよ。私の邪魔をするのであればいかしてはいけないんだよ。」


「・・・ランティス様。どうして。」


冷たく笑うランティス様を止められる人は誰もいないのだろうか。


それに、シルヴィアさんを瞬殺したあの能力はいったいなんだったのだろうか。


・・・精霊、なのだろうか。


「私は選ばれたのだ。精霊の王たる存在に。ゆえに私はすべてを手にいれるのだ。」


ランティス様はそう言って不敵に笑った。その視線はすでにこちらを見ておらず、はるか遠くを見ているように思えた。


でも、精霊の王って・・・アクアさんの卵から産まれてきた精霊王のこと?それとも、精霊王は二人いるのだろうか。


私は視線をアクアさんに移した。

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