第31話

アクアさんの方を見るとアクアさんは顔を真っ青にしていたが、首を横に振っていた。


アクアさんはどうやらランティス様とは関係ないようだ。


最初からアクアさんはランティス様のことを気に入らなかったようだしね。


それにしても、ランティス様の言う精霊の王とはいったいなんなんだろうか。


ふいに真横に気配を感じてそちらを見れば、アクアさんの卵から孵った精霊王がいた。


精霊王はジッとランティス様を見つめている。


その瞳は深淵を見ているようにも思えた。


「精霊王は一人だけなのじゃ。妾だけじゃ。」


精霊王は静かにそう告げたが、その言葉は重く辺りに響き渡った。


それはもちろん、ランティス様の耳にも聞こえていたわけであり、ランティス様の表情がはじめて揺らいだ。


「おまえは精霊王ではない。私の精霊こそが精霊王なのだ。なにを言っている?」


「ふむ。では、その精霊と妾を会わせるのじゃ。」


精霊王は静かにそう告げた。


ただ、精霊王からは若干の怒りの感情を感じた。


やはり精霊王を名乗られて嫌な気分なのだろう。


「いいだろう。私の精霊王の前に皆ひれ伏すがいい。」


そう言ったランティス様の目の前にひょろひょろの精霊が姿を現した。


精霊は姿を現すなり、その場に力なく座り込んだ。


どういうことだろうか。


「もっと堂々とするがいい。おまえは精霊王なのだから。」


ランティス様はそう言って精霊王だという精霊を立たせようとする。


ランティス様の力で精霊は立ち上がったが、顔は始終うつむいていた。


本当にランティス様の精霊は精霊王なのだろうか。


ずいぶんと自信がないように思える。


「・・・わ、わたしは・・・精霊・・・王などでは・・・ありません 。なぜ・・・何度言っても聞き入れてくださらないのでしょうか。」


その精霊は小さな声でそう呟いた。


が、ランティス様は自分に不都合な呟きは耳に入らないのか得意気な笑みでこちらを見ていた。


「私の精霊こそ精霊王なのだ。そこにいる市松人形が精霊王だなんて見え透いた嘘はやめることだ。」


市松人形とはアクアさんの卵から孵った精霊王のことだろう。


真っ白な肌とストレートの黒髪が市松人形にそっくりだった。着物も着ているしね。


「ふむ。その精霊を解放させてもらうぞ。なにやらひどく弱りきっておるからの。」


そう言って、精霊王はランティス様の精霊に向かってなにやら光を投げつけた。


「なっ!精霊の王を攻撃するとはっ!!」


ランティス様は驚いて叫んでこちらを睨み付けた。


「その精霊は精霊王ではあらぬ。ただの光の精霊じゃ。しかも下級精霊じゃの。その光の下級精霊が妾の名を名乗るのは相当な負荷だったはずじゃ。消えかけておったぞ?」


精霊王が投げた光が収まるとそこには精霊の姿は無くなっていた。


かわりに、精霊王の隣に精霊の姿があった。


その姿は先程の精霊とは思えないほどに輝きを放っていた。


「私は精霊王ではありません。ただの光の下級精霊です。」


光の精霊はシャキッとした姿勢でそう告げた。


「ばかなっ!!私が選んだ卵から孵化したしたのが下級精霊のはずかあるか!!嘘を言うな!」


ランティス様は声をあらげた。


「いいえ。嘘ではありません。そして、こちらにいらっしゃる御方こそ精霊王様でございます。」


光の精霊は穏やかにそう告げた。その言葉を受けて精霊王は「ふふんっ。」と得意気な笑みを見せた。


それはあきらかな挑発に見える。


「諦めるのじゃな。妾が精霊王たる事実は変わらぬのじゃ。それに、お主の精霊はお主との縁を解除したからの。もう、お主の指示には従わぬ。」


「なっ!!」


精霊王の力により精霊を解除されたことを知ったランティス様は怒りにより頬を真っ赤に染めた。


まさか、精霊王とはそんなことまで出来てしまうのかと感心する。


精霊王にかかれば出来ないことはほとんどないのではないかと思った。


「妾は不愉快じゃ。よってお主を封じるとしよう。」


精霊王はそう言って目を細めてランティス様を見つめた。


封じるとは、いったいどういうことなのだろうか。


「なっ!私を封じるだと!!そんなこと・・・!!」


「妾には出来るのじゃ。それだけの力があるゆえ精霊王と名乗っておるのじゃ。」


ランティス様は焦った様子を見せたが、反対に精霊王は冷静だった。


ただ静かにランティス様を冷たい眼差しで見つめるだけだ。


「くそっ!!」


ランティス様は精霊王には敵わないと思ったのか、地下牢の階段をかけ上った。


逃げようとしたのだろう。


だが、それを逃すような精霊王ではなかった。


精霊王はシュンッと姿を消すと次の瞬間にはランティス様の目の前にいた。


そうして、無表情でランティス様に向けて手を振りかざす。


「ぐぁっ!!」


その瞬間ランティス様が苦痛の声をあげた。


ただ、見た目からではなにをされたのか見当もつかない。


痛がって転げ回るランティス様がそこにはいた。


「口ほどにもないやつじゃ。」


「ど、どうして私が・・・。」


「妾の名をいいように使ったからじゃ。悔いるがいい。」


ランティス様の声が消えていく。


それと同時にランティス様の姿もその場から消えた。


もしかして、最期の力を振り絞ってランティス様は逃げたのだろうか。


いや、精霊王を前に逃げ切るのは難しいだろう。


そうすると、精霊王がなにかをした?


「あの・・・ランティス様は?」


精霊王にそう問いかけると、ニィッと精霊王が笑った。


「異空間に封じこめたのじゃ。あそこは怖いぞぉ。魑魅魍魎たちが封じ込められておる。ただの人間は一日も持たぬじゃろうな。」


そう言って、精霊王はケタケタケタと笑った。



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