第26話

 


 


しかしながら自らの身体が不老不死になってしまったというのに、トリードット先生もジェリードット先生も大して悲観した様子はなかった。


まあ、若干驚いてはいたけれども。


でもさ、悲観したくなるよね、不老不死って。


だった自分の親や兄弟、親しい友人などが皆年を取っていく中で自分だけ年を取らないし死なない。


つまりいつだって相手を見送る側で置いて行かれるのだ。


永遠ともしれない人生をずっと送ることになる。


もしかすると人とは違うということで差別をされるかもしれない。


そう思うと私としては不老不死は到底喜べるものではない。


しかし、先生方は落ち着いている。


どうしてなんだろうか。


「トリードット先生、ジェリードット先生。不老不死になってしまったのに、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか?」


そう尋ねるとトリードット先生とジェリードット先生はニヤリと笑った。


「これで精霊の研究に没頭できるというものじゃ。年々感じる老いのせいで研究する体力も奪われておったがそれがなくなる。なんと素晴らしいことだろうか。それに、死というタイムリミットがないのじゃ。これで一気に精霊に対する研究が進むという訳じゃ。」


「うふふ。この私の美貌を永遠に維持できるだなんて素晴らしいじゃないの。もっと私の魅力を世界各地に広めるのよ。」


どうやら二人とも不老不死になったことに悲嘆はしておらず、逆に希望を持っているようだ。


まあ、二人がいいのなら別にいいかもしれないが・・・。


・・・いいのか?ほんとうに・・・。


「・・・ま、まあ本人が納得しているのなら。良かったのかしら・・・。」


「人ではなくなってしまったけれどね。」


アクアさんと私は顔を見合わせてため息をついた。


もっと精霊王の話をちゃんとに聞いておけばよかったと後悔したのだった。


「それにしても、邪竜が孵化したというのに一人の犠牲者もでなくてよかったよ。」


どこからともなくやってきたメリードット先生が私たちに向けてホッと胸を撫で下ろしながら告げた。


「そうですね。邪竜が孵化してしまったら人口が今の1/3になってしまうかと思いました。」


「そうね。プーちゃんがいたから犠牲者が0人でおさまったのね。プーちゃんを孵化させたエメロードちゃんのお手柄ね。」


「えへへ。プーちゃんのおかげです。」


今回、邪竜による犠牲者は一人もでていなかったようだ。


本当によかった。


乙女ゲームのように人口が激減しなくて本当によかった。


・・・と、そこでふと我に返る。


あれ・・・?


犠牲者が一人もでなかった・・・?


邪竜に喰われたと思ったシルヴィアさんはどうしたのだろうか。


シルヴィアさんは確か邪竜に喰われたはずだ。


真っ暗だったのでその姿を見ることはなかったけれども、シルヴィアさんの悲鳴と肉が潰れるような音がそれを示唆していた。


でも、犠牲者が一人も出ていないというのはどういうことだろうか。


まさか、シルヴィアさんが邪竜を孵化させてしまったから、シルヴィアさんの存在自体が抹消されてしまったのだろうか。


まあ、その方がシルヴィアさんのご実家のためにはなると思う。


そうでなければシルヴィアさんの実家であるディバーズ伯爵家は取り壊されてしまうだろう。


いや、取り壊されるだけならまだ良いが国外追放もあり得るかもしれない。


「あの・・・シルヴィアさんは?」


私は邪竜を産み出してしまったシルヴィアさんのことが気になりメリードット先生に確認する。


メリードット先生は少しだけばつが悪そうに答えた。


「まあ・・・あれだ。始祖竜が治療してくれてだな・・・。その・・・。」


どうやらプーちゃんが気をきかせてシルヴィアさんも治癒していたようです。


でも、彼女としてはあの場で邪竜に喰われて死んだ方がよかったのかもしれないと少しだけ思ったりもした。


だって、邪竜を産み出した存在である彼女は各方面から責められることは確実だ。


死ぬより辛い現実が待っているのだ。


「あ、もしかして・・・。」


「ん?どうしたのアクアさん?」


アクアさんが不意になにか思い出したように呟いた。


それが気になったので思わず聞き返す。


「内臓が損傷してるから精霊王が治癒させることができないと言っていたじゃない?」


「え、あ、うん。そうだね。」


「でもね、トリードット先生にしてもジェリードット先生にして胸を邪竜が発した霧みたいなもので突かれてただけじゃない?」


「あー、そうだね。怪我らしき怪我は見当たらかなったよね。」


あの時、動転はしていたがトリードット先生からもジェリードット先生からも血はあまり流れていなかった。


「もしかして、内臓が損傷しているから治癒できないと精霊王が言っていたのは、ジェリードット先生ではなくシルヴィアだったんじゃないかしら?」


「あっ!確かにっ!!」


「だから、精霊王はプーちゃんに治癒させてもいいのかと再三念を押してきたのかもしれないわ。」


「なるほど・・・。」


確かにそれだと辻褄が合う。


トリードット先生もジェリードット先生も瀕死の状態だったとは言っていたけど明確に二人の内臓が損傷しているとは誰も言っていなかったような気がする。


「ふむ。ようやく気付いたのかの?だから妾が言ったではないか。治癒してしまって良いのかと。明確に治癒対象を指定してあげないとプーちゃんのことだからその場にいた瀕死の状態の人間は全て治癒させてしまっただろうのぉ。」


私たちの会話をどこかで聞いていたかのように精霊王が姿を現した。


 


 


 


 



 


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