第27話

 


 


「精霊王様っ!?」


「知っていて教えてくれなかったんですかっ!?」


私とアクアさんは突然の精霊王の登場に驚いて声を上げた。


ちなみに精霊王に詰め寄っているのはアクアさんだ。


プーちゃんが誰を治癒するのか、プーちゃんが治癒させると相手がどうなるのか知っていて教えなかったのは精霊王だ。


「教えてほしいとは言われなかったのでな。なぜ、妾が親切に教えねばならぬのじゃ?」


精霊王はそう言って目を細めた。


確かに、精霊王にとっては私たちは縁もゆかりもない人間なのだ。


その人間を無償で助けたり、無償で助言したりすることはないだろう。


よっぽどのお人よしでない限りはあり得ない。


だが、精霊王はお人よしではないのだ。


だって、精霊の頂点に立つような精霊なのだ。


その精霊王がお人よしでは精霊たちはやっていけないだろう。


ゆえに精霊王がわざと重要なことを教えてくれなかったとしてもそれは仕方がないことなのだろう。


「あなたの母親は私でしょ?」


アクアさんが強めに精霊王に詰め寄る。


その姿はまるで毒親のようだ・・・。


「妾の母はおらぬ。妾はプーちゃんから生まれたのじゃ。決してお主を母とは呼ばぬのじゃ。」


「そう。なら、なぜ卵の姿だったのかしら?」


なおもアクアさんの質問が続く。


それに対して精霊王はのらりくらりと質問をかわしていく。


「プーちゃんが卵になったのじゃ。妾はプーちゃんのことが心配での。一緒にいたのじゃ。ゆえにお主が育てた卵から妾が孵化したのは、お主がエメロードの傍におったからじゃ。他の者がエメロードの近くにおればその者の卵から妾が孵ったじゃろう。」


「プーちゃんの母親としてのエメロードちゃんが精霊王には必要なのでしょう?ならば、エメロードちゃんの害になるようなことは避けるようにアドバイスしてくれてもいいんじゃないのかしら?」


「試練も時には必要なのじゃ。流されるまま生きていているような母親はプーちゃんには相応しくないのじゃ。」


精霊王はそれだけ言うとまた姿を消してしまった。


精霊王って素直じゃないけれどもどこか憎めない。


だって、今回のことだって事前にプーちゃんが治癒させることに警告なんて言わなくたってよかったんだもんね。それをわざわざ警告してくれたくらいだから面倒見はいいのだろう。


ただ、素直じゃないから伝わっていないだけで。


それに、精霊王からはプーちゃんへの確かな愛情を感じた。


つまり精霊王は私のことを試しているんだと思う。


私がプーちゃんの母親に相応しいかどうかを見ているのだと思う。


だから、試練を与えるのだろう。


きっと今回の試練はシルヴィアさんとの決着だ。


邪竜に頼るのではなく自分自身でシルヴィアさんと決着をつけることを精霊王は望んでいるのではないか。と、そう感じた。


「メリードット先生。シルヴィアさんはどちらにいらっしゃるのでしょうか?」


精霊王の話だとシルヴィアさんは生きている。


そうして、プーちゃんの血を飲んだのだから欲望に忠実になっているだろう。それに、不老不死にもなっているはずだ。


シルヴィアさんが改心してくれていればいいが、ランティス様に夢中になるあまり、また邪竜のようなものを呼び寄せてしまってはいけない。


「・・・職員棟の地下に部屋があるのは知っているかな?」


「いいえ。知りませんでした。そこにシルヴィアさんがいらっしゃるのですか?」


メリードット先生は声を落として教えてくれた。


職員棟の地下の部屋にシルヴィアさんがいるということを。


そうして、その部屋は牢屋となっているということを。


やはり、邪竜を孵化させてしまったことで牢屋に入っているのだろうか。


それとも、トリードット先生やジェリードット先生を害してしまったからだろうか。


「保護しておるのじゃ。」


「えっ?」


突如トリードット先生の声がして思わず振り返る。


トリードット先生の目には哀れみの色が浮かんでいた。


保護しているとはどういうことだろうか。


「シルヴィアを誰から保護しているのですか?まさか、私からでしょうか?エメロードちゃんに害をなそうとしたから私がシルヴィアに復讐するとでも思われているのでしょうか?」


アクアさんがトリードット先生に確認をする。


トリードット先生はアクアさんの問いかけに首を横に振った。


っていうか、アクアさんの考えがちょっと怖い。


そんなことを言うってことはエメロードちゃんに復讐しようと少しは考えていたってことだろうか。


「違う違う。シルヴィア嬢の卵から邪竜が孵るように誘導した人物がいるようなのじゃ。だから、シルヴィア嬢から話を聞きたいんだがのぉ、シルヴィア嬢が怖がってしまって相手の名前を言わないのじゃよ。だから保護しておるのじゃ。」


「つまり、シルヴィアさんはその何者かに狙われているということですか。」


「そんなの放っておけばいいじゃない。自業自得なのよ。」


アクアさんは過激だ。


まあ、自分を害してきた人物がどうなろうと知ったことではないというところなのだろうけど。


ただ、私としてはとても気になる。


だって、元々は私が邪竜を孵化させる予定だったんだもの。


シルヴィアさんは何者かに巻き込まれただけなのかもしれない。


その何者かがわかれば・・・。


「トリードット先生。シルヴィアさんに会いに行ってもいいでしょうか?」


 


 




 


 


 


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