第19話
「で、ですが精霊王ならば精霊の頂点に立つ存在でしょう?邪竜よりも強いのではないですか?」
私は諦めきれずに精霊王に確認をする。
「妾は始祖竜によって生み出されたの精霊王なのじゃ。ゆえに竜種には敵わぬのじゃ。」
「そ、そんなっ・・・。」
唯一の聖竜という希望を失って思わずふらついてしまった。
すると、私のふらつく身体をアクアさんがそっと支えてくれた。
「精霊王様一人だけでは敵わなくとも私たちが力を合わせても邪竜に打ち勝つことは難しいのですか?」
「無理じゃ。」
アクアさんが精霊王に進言するが、精霊王は考えるまでもなく無理だと答えた。
「邪竜は竜種でなければ退治することはできぬのじゃ。」
思案気な表情を浮かべながら精霊王が告げる。
私たちの間に重い空気が漂い始める。
邪竜からは逃げるしかないようだ。
ただ、逃げたところで完全に逃げきることなど不可能に近いだろう。
「孵化しそうですがまだ邪竜は生まれていません。それでも退治することは不可能でしょうか?」
「無理じゃ。卵の状態でも退治することはできぬのじゃ。」
アクアさんが重ねて質問をするが、やはり精霊王の答えは否だった。
「「そんなっ・・・。」」
アクアさんとメリードット先生の声がハモる。
アクアさんの精霊の卵から聖竜が孵化しなかった今、私たちに打つ手は・・・あった。
私は胸元に保管しておいた真っ黒な精霊の卵を取り出した。
この真っ黒な卵はいったい何が孵るのだろうか。
乙女ゲームの通りならば邪竜が生まれてくるはず。
しかし、邪竜はシルヴィアさんの卵から今まさに孵ろうとしている。
それならば、私の持っている精霊の卵からは何が孵るのだろうか。
もしかして、もう一体邪竜がでてきてしまう・・・?
でも、お父様もお母様も言っていた。
私が育てたのだから邪竜のはずがないと。
また、たとえ邪竜だったとしても私が育てたのだから性格のいい邪竜が生まれてくるとお母様は言っていたではないか。
それならば、この真っ黒な精霊の卵は最後の希望になるかもしれない。
「聖なるピックを貸してください。この精霊の卵を孵化させてみます。」
私は、メリードット先生とアクアさんに向かって告げる。
「そ、それは・・・っ!!」
私の手の中にある精霊の卵を見てメリードット先生の顔が真っ青になった。
きっと先生もこの卵が邪竜の卵であるかもしれないと思っているのだろう。
二体目の邪竜が生まれてくるのではないかと懸念しているのだと思う。
だけれども、アクアさんの持つ卵が聖竜ではなかったのだ。もう、他に方法がない。
「はい。何があっても一緒だからね、エメロードちゃん。」
アクアさんが聖なるピックを手渡してくれる。
私はアクアさんから受け取った聖なるピックで真っ黒な精霊の卵をつっついた。
真っ黒な卵を聖なるピックでつっつくと、パァンッと勢いよく卵がはじけ飛んだ。
「きゃっ・・・。」
卵の殻が目に入りそうになって思わず目を手でガードする。
「ほぅ。久しぶりじゃのぉ。」
「へ?蛇っ!?」
精霊王ののほほんとした声とアクアさんの驚いた声が重なった。
メリードット先生は声を失っているようである。パカッと口を大きくあけていた。
精霊王とアクアさんの視線の先には手のひらサイズの小さい蛇がとぐろを巻いていた。
まさか、精霊の卵から蛇が出てくるとは思わなかった。
蛇が出てきてどうするというのだろうか。
唯一の希望だったのに。
「お前が我の母親か?さあ、我に名前をつけるのだ。」
そして、その蛇は私を見るなり開口一番にそう告げるのだった。
っていうかどうして私がこの蛇の母親なのっ!?
もっと、もっとこうふわっふわで可愛い毛並みの子が子供ならいいのに。
どうして爬虫類!?しかも、私、蛇って苦手なんだけどなぁ。
「ど、どうして、私が母親なのかな?」
「どうして?そう教わったのだ。卵から孵って初めてみた相手が母親だとな。」
蛇はそう言って顔を持ち上げた。
ぎょろりとした目が私を捉える。
うぅ。あんまり可愛くないよぉ。
「だ、誰に教わったのかな?」
「以前、供に過ごしていた人間に教わったのだ。」
「そ、そうなんだ。」
以前一緒に過ごしていたってことは、その人死んじゃったのかな?
そう思うと少しだけ目の前にいる蛇が可哀相になってくる。
「さあ、早く我に名前をつけるのだ。」
そう言って目の前の蛇はキラッキラとした目を向けてくる。
どうやら名前をつけてもらうのが待ち遠しいらしい。
「なんで名前・・・?」
「というか、なぜこの蛇はこの状況で落ち着いてられるのか・・・。」
アクアさんとメリードット先生が同時に突っ込む。
確かに、邪竜のことなど全く無視をしているこの蛇。なんで平気なんだろうか。
精霊王だって邪竜にはビビッていたのに。
「ぷぷっ。名前とはのぉ。どんな名前なのか楽しみじゃ。」
あ、あれ?
そう言えばさっきまで邪竜に怯えていた精霊王が笑っている。
なぜだろう。
状況は好転していないはずなのに。
「さあ!早く!早く我に名前を付けるのだっ!名づけるのは母親の役目であろう?」
目の前の蛇が飛び掛かってくるのではないかと思うほど、こちらを睨みつけてくる。
い、いきなり名前って言われても・・・。
でも、この調子じゃあ名前をつけないと名前をつけるまで迫ってきそうだし・・・。
名前・・・名前・・・。
卵から孵った精霊の名前・・・。
あっ!
「プーちゃん!!」
唐突に思い出したのは某アニメのマスコットキャラクターの名前だった。
見た目は全く一致しないが、卵から孵ったというのは同じだろう。
うん。プーちゃんだ。プーちゃん。
良い名前だろう。
と、思ってプーちゃんを見ると驚愕に目を見開いていた。
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