第20話
「ふ、ふははははっ。プーちゃんとはのぉ~。実に面白い人間じゃ。」
精霊王は何が面白いのかゲラゲラと笑い転げている。
プーちゃんはその反対にしかめっ面だ。
名づけろといったから名づけたというのにどうしてそう浮かない顔をしているのだろうか。
首を傾げて意見を伺うようにアクアさんを見るとアクアさんの頬が引きつっていた。
あれ?
と、思ってメリードット先生を見るとこちらも頬が盛大に引きつっていた。
さらには、邪竜と相対しているトリードット先生の方に視線を向けると、トリードット先生の頬も引きつっているような気がした。
「えっとぉ。みんなどうしたのかな・・・?」
恐る恐るアクアさんに確認すると、アクアさんは「はぁ・・・。」と大きなため息をついた。
「エメロードちゃんってさぁ、ネーミングセンスなさすぎだね。さすがにプーちゃんって名前じゃあちょっとこの精霊さんが可哀相だと思ったのよ。」
「そ、そうだぞぉ。さすがにプーちゃんという名前は間抜けすぎるというかなんというか・・・。こうもうちょっとまともな名前はなかったのか?」
どうやら、私のネーミングセンスの問題らしいです。
アクアさんもメリードット先生も私がつけた名前に反対のようです。
「でも・・・プーちゃんってイメージなんだよねぇ。」
そうなのだ。
一目見たときからプーちゃんって名前が一番相応しいような気がしていたのだ。
「・・・プーちゃん。よりによってまたプーちゃん・・・。」
プーちゃんは何やらブツブツ言っているが気にしないことにする。
「ちょっと!!少しくらいはこっちを気にしなさいよね!そんな蛇モドキを構っていないで!なんで私の育てた精霊の卵から邪竜が孵るとかそんな話になっているのよ。この私が育てたのよ!邪竜が生まれてくるはずないじゃない!まったく失礼な人たちだわ。お父様に言って、あなたたち皆罰してもらいますわっ!」
プーちゃんの名づけでもめていると奥の方からシルヴィアさんらしき声が聞こえてきた。
シルヴィアさんったらこの状況でも動じていなかったんだ。
「ジェリードット先生でしたっけ?私の卵をよくも邪竜、邪竜と・・・。私の精霊の卵が怒っても仕方がありませんわ。だからジェリードット先生が負傷していても私のせいじゃありませんわ。」
「なぜじゃっ!その卵は邪竜なのじゃ!!早く手放すのじゃ!」
トリードット先生が必死に言葉を紡ぐ。
しかし、シルヴィアさんはその言葉には耳を貸さなかった。
シルヴィアさん・・・無事だったんだ。
まだ卵が孵化していないからかシルヴィアさんは無事だったようだ。
「私の精霊の卵は邪竜ではないと何度言ったらわかりますの!!失礼ですわっ!!」
そして、シルヴィアさんが激高した瞬間、シルヴィアさんの胸元から黒い霧が立ち上り、その霧はトリードット先生の胸に突き刺さった。
「かはっ・・・。」
トリードット先生は黒い霧が胸に突き刺さった瞬間に口から血を吐いてその場に倒れこんでしまった。
動かないところを見ると意識がないようである。
「「「トリードット先生っ!!」」」
アクアさんとメリードット先生と私の悲痛な声が重なる。
精霊に関して一番詳しいのはトリードット先生なのだ。
それに、ジェリードット先生とトリードット先生の様子も気になる。
無事・・・なのだろうか。
ここからでは、トリードット先生とジェリードット先生の安否がわからない。
二人の元に近づきたいがシルヴィアさんがこちらを睨んでいるので難しい。
「・・・っ!?私が悪いんじゃないわよ!トリードット先生が私の精霊の卵を邪竜呼ばわりするからいけないのよ!私のせいじゃないわ!私のせいじゃないわ!!」
シルヴィアさんも自分の精霊の卵が人を攻撃したことに混乱しているのか、両手で頭を押さえながら首を横に振っている。
その瞬間、シルヴィアさんの真っ白い精霊の卵のヒビがさらに大きくなった。
「いかんっ!孵化するぞ!!」
そう叫んだのは誰だったか。
誰かが叫んだのと同時に卵の殻がはじけ飛ぶ音が聞こえてきた。
途端に辺りが真っ黒に染まる。
自分の手を顔の前に持ってきても自分の手が目視できないほどの闇だ。
それと同時に寒気が私の身体を襲う。
ガタガタと身体が震えだし、立っていられなくなる。
『ぐぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』
これまで聞いたことがないほど低い叫び声が聞こえてきた。
まるで地の底から声がでているような恐ろしい叫び声だ。
叫び声を聞いていると耳が痛くなってきて、めまいまでしてくる。
当然起き上がるような気力もなく、その場に力なく横たわることしかできない。
そうして私は、この世界が混沌に支配されてしまうのだと直感的に感じた。
「きゃあああああああああ!!!!!どうして!どうしてなのよ!!私が育てたのにっ!!こっちにこないでちょうだい!!!」
耳をつんざくような悲鳴が聞こえてくる。
これはシルヴィアさんの声だろうか。
耳が正常に機能していないのか、シルヴィアさんの声がエコーがかかったように聞こえてくる。
「いやっ!いやっ!!いやっ!!こないでちょうだいっ!!こないでったら!!こないでよ・・・。こないで・・・。ああああああああああああ!!!」
一際シルヴィアさんの声が大きくなり、その声が絶望に染まっていく。
一体なにがおこっているのだろうか。
真っ暗な闇の中ではなにも見えない。
ぐちゃりっ。
何かが潰れたような音が聞こえてきた。
それと同時にシルヴィアさんの叫び声も聞こえなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます