第18話

 


「・・・確かにアクア嬢の卵ならば、聖竜の可能性はある。しかし・・。」


メリードット先生はそこで言葉を切った。


孵化ふるのが早すぎる場合は精霊の制御ができないということを気にしているのだろう。


聖竜も強大な力を持っているのだ。


制御できなければ大きな被害をもたらすことも否定できない。


「このまま、何もしないままでいれば邪竜により多大な被害を被るでしょう。一か八かにかけてみませんか?」


何もしなければ甚大な被害がでる。


でも、もしかしたら聖竜が邪竜をやっつけてくれる可能性があるのだ。


「うぅむ。私では判断できない。トリードット先生にも意見を伺ってみる。」


「ええ。お願いします。」


メリードット先生はそう言ってトリードット先生の方に向かった。


トリードット先生のいる方角からは何やら重々しい空気が漂ってくる。


これが、邪竜が生まれる前兆だろうか。


メリードット先生は二言三言トリードット先生と話をするとすぐにこちらに戻ってきた。


「精霊の卵を無理やり孵化する方法を教える。」


「そうこなくっちゃ!」


この緊急事態に先生方は生徒を守るだけではダメだということに気づいたのだろう。


「精霊の卵を無理やり孵化するためにはこの聖なるピックを精霊の卵に突き刺すんだ。」


そう言ってメリードット先生はポケットから金色の爪楊枝のようなものを取り出した。


ってか見た目まんま爪楊枝なんだけど・・・。


叩いても落としても火の中に突っ込んでも割れない卵が爪楊枝一本で孵化すると・・・?


どんな冗談ですか、それ。


「にわかに信じがたいわね。」


どうやらアクアさんも私と同意見のようである。


信じられないような目で金色の爪楊枝・・・もとい聖なるピックを見つめている。


「まあな。信じられないかもしんないけど、これでちょんっと精霊の卵を突っついてあげれば精霊が孵化するんだよ。」


そう言ってメリードット先生は精霊の卵をちょこんと突っつくふりをする。


「まあいいわ。メリードット先生。その聖なるピックでこの精霊の卵を突っついてください。」


アクアさんは胸元から虹色に輝く精霊の卵を取り出すと、メリードット先生に差し出した。


すると、メリードット先生は勢いよく首を横に振った。


「違う違う違う。精霊の卵を育てている者が自分で聖なるピックを使用しないと孵化しないんだ。」


メリードット先生は慌てながらそう言って、アクアさんに聖なるピックを手渡した。


そう言うことは最初に言って欲しい。


アクアさんはメリードット先生からピックを受け取ると躊躇なく聖なるピックを虹色に輝く精霊の卵に突き刺した。


瞬間周囲に金色の光が立ち込める。


「なんじゃ。気持ちよく寝ていたのに妾を起こすとは・・・。」


すると、光の中心から不機嫌そうな声が聞こえてきた。


 

 


今聞こえてきた声は聖竜・・・だろうか。


聖竜というイメージから低い男の人のような声を想像したが、聞こえてきた声は甲高い少女のような声だった。


光がおさまるのを待ってから光の中心にいるであろう精霊に視線を移す。


「むぅ・・・。辛気臭い空気だのぉ。」


光の中から現れた精霊は眉間に皺を寄せて右手を高く上げた。


すると、奥から漂ってきていた邪竜のものと思われる邪気が少しだけ和らいだような気がした。


「・・・市松人形?」


現れた精霊は黒髪で前髪ぱっつんだった。


しかも着物を着ているので、どこからどうみても市松人形のように見える。


どうにも聖竜というイメージからは遠いように思える。


「市松人形とはなんじゃ?」


きょとんとした表情を浮かべる精霊。


その姿からは他の下級精霊とは一線を画しているような雰囲気を感じられた。


「あ、いえ、なんでもありません。あの・・・。」


「何でもないなら話しかけるでない。全く人間というものは・・・。しかし、空気が暗いのぉ。なんじゃこれは?」


「邪竜が生まれようとしているのです。」


アクアさんが精霊に向かって邪竜が生まれてくるということを説明する。


その瞬間、精霊の顔が曇る。


「よりによって邪竜とはのぉ。妾にとっても脅威じゃのぉ。さっさと逃げるのじゃ。」


「えっ・・・。邪竜を倒してはくれないのですか?」


てっきり聖竜が生まれれば邪竜を倒してくれるものと思っていた。


邪竜も元をたどれば精霊だから同族殺しにはなってしまうが、それでも邪竜が生きていれば他の精霊たちも危険な目にあう。だから、聖竜の助けを得られると思っていたのだが・・・。


「なぜ、妾が倒さねばならぬのじゃ。」


そう言って精霊は眉を吊り上げた。


やっぱり孵化するまでの期間が短かったようで聖竜を従わせることはできないようだ。


それでも、聖竜に頑張ってもらわなければこの世界は破滅してしまう。


「聖竜様。どうか、邪竜から世界を救ってください。」


アクアさんはそう言って、聖竜の前にひざまずいた。


しかし、聖竜と思われる精霊からは意外な返答が返ってきた。


「妾は聖竜ではないぞ。ゆえに邪竜には敵わぬのじゃ。」


「「「えっ?」」」


どうやらアクアさんが持っていた精霊の卵から生まれたのは聖竜じゃなかったようです。


あまりの自体にメリードット先生もアクアさんも私も驚きの声を漏らしてしまった。


イメージしていた聖竜とは若干・・・いやかなり違っていたが、聖竜だと思い込んでしまっていたのだ。


この事態を好転させるためには聖竜の力が必要だから、そう思っていた。


「妾は聖竜などではない。精霊王なのじゃ。」


 


 


 



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