第12話
「そうか、そうか。よぉくわかった。じゃあ、アクア嬢を探そうかのぉ。」
そう言ってトリードット先生は意識を集中させるためか、目を閉じた。
しばらく緊迫した沈黙が辺りを包み込んだ。
「ううむ。まずいのぉ。」
「まずいってどうしたんですかっ!?アクアさんになにかあったんですかっ!?」
トリードット先生の言葉に思わず前のめりになってしまう。
アクアさんになにか良くないことがおこっているのではないかと心配になる。
「アクア嬢を迎えに行こうかの。エメロード嬢は、治癒室に先に行っていてもらおうかの。ジェリードットに待機しているように告げるのじゃ。」
「・・・治癒室?ジェリードット先生?」
トリードット先生の言葉に思わず息を飲む。
治癒室ってことは、アクアさんが怪我をしているということだろうか?
ジェリードット先生は治癒のスペシャリストだ。
その先生が治癒室に待機させるということは、アクアさんが大怪我を負っているからではないのだろうか。
嫌な予感がする。
ゾクッと背筋が寒くなる。
「さあさ、私はアクア嬢を迎えにいくからの。治癒室で落ち合おう。」
ポンポンと私の頭をあやすように軽く叩いてトリードット先生は忽然と姿を消した。
どうやら転移の魔術を使用したようだ。
トリードット先生は私にも魔術を使ったのだろうか。
先ほどまで恐慌状態に陥っていた私だが、トリードット先生が頭に触れたら心が落ち着いたような気がする。
私は私が今できることをやるだけ。
そう思って、アクアさんのことはトリードット先生に任せて、トリードット先生に言われた通りに急いで治癒室に向かった。
「ジェリードット先生!!ジェリードット先生!」
急いで治癒室に駆け込みジェリードット先生を呼ぶ。
「ん~なぁにぃ~。急患かしらぁ~。」
すると治癒室の奥の方から気だるい声が聞こえてきた。
「トリードット先生がアクアさんを運んでくるんです。ジェリードット先生、どうかアクアさんを診てくれませんか?」
もうすぐトリードット先生がアクアさんを連れてきてくれるはずなのだ。
「あらぁ~。トリードット先生がわざわざ連れてくるなんてぇ~。トリードット先生にもとうとう遅すぎる春が来たのかしらぁ~。」
「違います!きっとアクアさん怪我をしてるんです。」
ジェリードット先生がキシシと面白そうに呟く声に反論する。
アクアさんが怪我をしているかもしれないのに、冗談を言っているわけにいかないのだ。
「冗談よぉ。そんな怖い顔をしないでちょうだいな。」
私の剣幕に驚いたのか、ジェリードット先生が顔の前で手を横に振っている。
「おお!大変じゃ!大変じゃ!ジェリードット先生はいるかの?」
ジェリードット先生を睨み付けていると、トリードット先生が大慌てで治癒室にやってきた。
そんなにアクアさんの状態が悪いのだろうか。
ドキドキと心臓が大きく脈を打ち始める。
トリードット先生によって、アクアさんが治癒室に運びこまれてきた。
アクアさんは意識がないのか、トリードット先生の腕の中でぐったりとしている。
「アクアさんっ!!」
「まあ!早くそこのベッドに寝かせてあげてちょうだいな。」
私はアクアさんにかけより顔を覗き込んだ。
アクアさんの目は固く瞑られている。
ジェリードット先生も緊迫した声で治癒室にあるベッドにアクアさんを寝かせるようにと指示する。
トリードット先生は、年齢に似合わず素早い動きでアクアさんをベッドに横たえた。
「今から彼女を診察します。」
そう言うと真剣な目をして、アクアさんを見つめた。
だが、それに対してトリードット先生は待ったをかけた。
「待ってくれ。その前にやることがあるのじゃ。」
何故だろう。
アクアさんが意識のない状態だというのに、それ以上に重要なことがあるのだろうか。
焦る気持ちを抑えてトリードット先生を見る。
だが、ジェリードット先生はトリードット先生が言いたいことに気づいたのか「ハッ」とした表情をした。
「そうね。そうだったわね。私としたことがすっかり忘れていましたわ。最近はなかったから安心していたのに・・・。」
そう言ってジェリードット先生は綺麗に整えられた眉をひそめた。
「あの・・・。なにが・・・?」
私だけ置いてけぼりな気がする。
そう思って、先生方に尋ねた。
「精霊の卵じゃよ。」
トリードット先生が重々しい声で答えた。
「精霊の卵・・・?この卵が危険なの?」
私は胸にしまってある精霊の卵を服の上からギュッと掴んだ。
精霊の卵は直径5センチほどの丸い小さな卵だ。
生命の息遣いが感じられほんのりと熱を帯びているのが特徴だ。
まさか、精霊の卵が悪さをするだなんて思えない。
しかも、アクアさんの意識を奪うほどの悪さをするなど到底思えない。
「卵自体に危険性はないのぉ。ただ育てる者によって危険にもなる。」
「まさかっ!アクアさんの育てた卵が危険ってことですかっ!!?そんなっ!アクアさんはとっても優しい人です。そんなアクアさんが育てている卵が危険なはずはありませんっ!」
私はそう言って、トリードット先生に詰め寄った。
「まあまあ。心配する気持ちも痛いほどわかるがの。だが、アクア嬢が悪いのではない。アクアさんの卵に誰かが危害を加えようとしたのじゃ。卵は無意識に自分を守ろうとするでの。近くにあった魔力を自分を守る盾として使ったのじゃ。」
「アクアさんの精霊の卵が危険にさらされた・・・?」
トリードット先生は静かに教えてくれた。
精霊の卵は危険に陥ると周囲の魔力を取り込む性質があるのだとか。
でも、精霊の卵は貴重な卵なのだ。
その卵に危害を加えるなど通常は考えられないことなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます