第10話
「ふ、不吉だわっ!!」
「うぅむ。今年は見たことのない卵ばっかりでてきおるわい。」
真っ黒な卵を見て真っ先に声をあげたのはシルヴィアさんだった。
トリードット先生も眉間に皺を寄せている。
どうやらこの真っ黒な卵もトリードット先生は見たことがないようだ。
もちろん、私も真っ黒な卵なんて初めて見たし、乙女ゲームの中でも真っ黒な卵なんてなかったような気がする。
気がするというのは悪役令嬢が持っていた卵が何色だったか思い出せないからだ。
どうして、そう肝心なところを思い出せないのだろうか。
「きっと、その卵からは邪竜が孵るわ!絶対よ!!」
何の根拠があってか、シルヴィアさんが大声でそう叫んだ。
その声はこの広間にいる人なら全て聞こえるだろうというくらい大きな声だった。
案の定、広間に集まっていた生徒の間に動揺が走る。
半ばパニックになって泣き出すものまでいる。
こちらを睨みつけるものもいる。
どうしていいかわらかず、ただ呆けるものもいた。
「まだ、わからんがのぉ。エメロード嬢が、邪悪な心でその卵を育てれば邪竜が孵るかもしれん。でも、純粋な心でその卵を育てれば邪竜ではなく良き精霊が孵るじゃろう。いつの文献にもそう書かれておった。邪悪な心で育てれば害悪なる精霊が誕生し、清らかな心で育てれば聖なる精霊が誕生すると。まあ、今までこの高等魔術学院でもいくつもの精霊の卵が孵化するのを見てきたが、害悪なる精霊が誕生したことはないでな。安心するといい。」
トリードット先生は慌てた様子を見せずに、そう穏やかに告げた。
「トリードット先生・・・。」
私は、慰めてくれようとするトリードット先生に感謝をして頭を下げた。
「じゃが、未知の卵ゆえ、定期的に卵の状況を調べさせてもらうぞ。ああ、そうじゃの。シルヴィア嬢とアクア嬢の卵も見たことのない色じゃから、お主らの卵も定期的に調べさせてもらうぞ。」
トリードット先生はそう言って、シルヴィアさんの白い卵とアクアさんの虹色の卵の様子も定期的に調べると告げた。
私としては、そうしてもらえた方が安心する。
だって、乙女ゲームでは悪役令嬢の私が、邪竜を孵化させてしまったんだもの。
もしかすると、トリードット先生なら邪竜が産まれるということを回避してくれるかもしれない。
そんな淡い期待が産まれた。
「あら、私は真っ白な卵なのよ。真っ白な卵から悪さをするような精霊が産まれるとは思いませんけれど。ですが、先生の言うことですから従いますわ。」
「私も従います。」
シルヴィアさんはしぶしぶという感じでトリードット先生の言葉に従う。
アクアさんは淡々と答えた。
そうして私たち3人は毎日放課後トリードット先生の元に卵を持って通うことになったのだった。
「はあ。全く嫌になりますわ。庶民のような伯爵令嬢と男爵令嬢と一緒にトリードット先生のところに毎日通わなければならないだなんて。ついていないわ。ねえ、アルティマ。私と卵を交換しないこと?」
シルヴィアさんは教室に戻るなり、そう大きな声でアルティマさんに尋ねた。
シルヴィアさんったら私たちを目の敵にしているようだ。
「シルヴィア、ですが卵の色はすでに先生たちに控えられています。今更卵を交換することなんてできませんよ。」
「・・・そう。そうよね。全く。私の卵に問題があるはずないのに、なんで私が毎日辛気臭い女たちと一緒に行動しなければならないのかしら。ああ、庶民臭くなってしまわないか心配だわ。」
シルヴィアさんは芝居かかったような口調で周りに聞こえるように言ってきます。
「それに、黒い卵なんて不吉だわ。そんな卵を持っている人と一緒にいるだなんて。不幸が移ってしまいそうだわ。それに黒い不吉な卵を持っているだなんて、ランティス様に相応しくないわ。」
どうやらシルヴィアさんは私がランティス様に相応しくないということが一番言いたいことのようです。
やっぱりさっきのこともあって、シルヴィアさんはランティス様のことがさらに好きになってしまったようでした。
ランティス様もランティス様よね。
なんであんなにシルヴィアさんに気を持たせるような発言をするのだろうか。
「どうしてあんな女好きがモテるのかしら。」
アクアさんはこっそりと私に耳打ちしてきた。
だから、私もしっかりと頷いた。
「本当に。私の両親が決めてきた婚約者でなかったなら婚約を破棄したいくらいだわ。」
「婚約破棄したいのならば手伝うわよ。」
「今はまだ大丈夫。婚約破棄なんてしたらお父様とお母様もビックリさせてしまうことになるから。」
「そう?辛いようだったら言ってね。いつでも、エメロードちゃんの力になるからね。」
「ありがとうございます。アクアさんも何かあったら教えてください。私もアクアさんの力になりたいのです。」
「ありがとう。その時はよろしくね。」
シルヴィアさんをよそにアクアさんと私は友情を深めるのでした。
ですが、やはり黒い卵というのは他の人たちには不吉に見えるのか、せっかく同じクラスになった他の子たちとは打ち解けることができませんでした。
私から話しかけても皆上の空で、出来る限り私との話を早く切り上げたいと思っているようにも見えた。
私は影で「はあ。」と特大のため息をついた。
折角同い年の子たちばかりだから、学院にいる間にある程度交友を深めたかったのにな。
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