第9話
「ああ、そう泣きそうな顔をしないでおくれ。綺麗なお顔が台無しだよ、シルヴィア嬢。泣いているシルヴィア嬢も可愛いが、私は可愛く笑っている女性が好きなんだ。どうかわかっておくれ。私はエメロード嬢と婚約しているのだから、シルヴィア嬢とは婚約することができないんだよ。この国では一夫一妻制なんだ。」
って、ランティス様。
その発言は、取りようによっては私という婚約者の存在が邪魔のように取ることができますが・・・。
本当はシルヴィアさんと婚約したいけれど、すでに私と婚約しているからシルヴィアさんとは婚約できないということですか。
そういう意味にとることが可能です。
特に、その前のシルヴィアさんに向けた言葉がその可能性を大きくしているような気がします。
私でもそう捉えてしまうのだから、きっとランティス様をお好きなシルヴィア様はそう思っているような気がします。
ちらりとシルヴィア様の表情を伺えば、頬を赤くして潤んだ目でランティス様を見つめています。
やはり。
今のシルヴィア様の中での私の立ち位置は、ランティス様とシルヴィア様の中を邪魔する存在ということになっているような気がします。
障害がある恋ほど燃えるといいますしね。
「ランティス様。私は・・・。」
「シルヴィア嬢。今はまだ入学式の途中だ。あとでゆっくりと話をしよう。」
シルヴィアさんがランティス様に何かを告げようとするが、それをあっさりとランティス様が遮った。
ランティス様ってばシルヴィアさんをどうしたいんだろうか。
ランティス様ったらシルヴィアさんを突き放したり持ち上げたり忙しいな。
いまいちランティス様の考えていることがよくわからない。
ただ、これ以上続けると醜聞にもなりえるので、入学式をさっさと終わらせることも大事だろう。
後は、入学生が一人ずつ卵を与えられるだけで入学式は終わりだしね。
「それでは入学制の皆さん。一列に並んで壇上へと一人ずつ上がって来てください。これから皆さんには、精霊の卵を一つずつお渡しいたします。精霊の卵を大事に育て上げてください。」
ランティス様がそう言うと、一人ずつ入学生が壇上に上がり始めた。
私の順番はなぜか一番最後だ。
なにやら魔力の少ない順に呼ばれているらしい。
それは卵を育てるにあたり公平性を期すためとのこと。
実は卵にも意思があって自分を育てるのに相応しい相手を選ぶようだ。
ちなみに、どでかい四角い箱の中に精霊の卵がいっぱい入っている。
そこに入学生は手を突っ込んで自分が育てる精霊の卵を一個だけ取り出すのだ。
箱は透明になってはいないので、どんな卵が当たるかは卵を取り出してみないとわからないつくりとなっている。
だいたいはピンク色の卵だったり水色の卵だったり、緑色の卵だったりする。
ピンク色の卵は火の精霊が、水色の卵は水の精霊が、緑色の卵は木の精霊が産まれてくるという。
その他にも卵の色は存在するが、メジャーなのが今あげた三つのようだ。
さて、私は何色の卵かな。
邪竜じゃなきゃなんでもいいや。
一人ずつ卵を手にしていく。
思った通り、ピンク色の卵や水色の卵ばかりだ。
緑色の卵にあたった人もいたが1人だけだった。
次にシルヴィアさんの番になった。
シルヴィアさんも箱の中に手を入れ、卵を一つ取り出す。
取り出された卵は真っ白だった。
「真っ白な卵ですね。初めて見ましたわ。これはなんの精霊が産まれてくるんですか?」
シルヴィアさんは真っ白な卵を初めてみたようだ。
鶏の卵などは真っ白なものが存在するが、精霊の卵で真っ白なものというと私も初めて見たし、初めて聞いた。
今まで精霊の卵に白い色があるということを私は知らなかった。
「ふむ。興味深いですなぁ。私も長年精霊の研究をおこなっていますが、白い卵は初めてみましたの。」
そう言ったのは、この学院の先生でもあり長年精霊の研究をおこなっているトリードット・メンフィス先生だった。
トリードット先生はシルヴィアさんから白い卵を受け取ると、光にかざしてみたりしている。
光にかざすと何か変わるのだろうか。
「ほぉほぉ。色がまったく変わらない。完全なる白い卵ですな。どんな精霊が孵るのか楽しみですな。」
そう言って、トリードット先生は笑った。
先生も見たことがない色の卵って不思議だ。
もしかして邪竜の卵だったりしないよね・・・?
でも、邪竜の卵だったらイメージとしては黒い卵だよね。
そうして、次にアクアさんの番が来た。
アクアさんの次が私の番だ。
どうやらこの学年の中で一番魔力が高いのが私で、次にアクアさんの魔力が高いらしい。
もしかして、私の魔力が高いからランティス様の婚約者に選ばれたのだろうか。
ぼぉっとしていると「「おおおおおおっ!!!!」」という歓声が聞こえてきた。
慌てて何事かと壇上に目をやるとアクアさんが卵を持っている姿が見えた。
その卵がなにやら虹色に輝きを放っている。
これは、乙女ゲームでも見た気がする。
たしかヒロインが卵を選んだら卵の色が虹色だったんだよね。
それで、確か虹色の卵は聖竜の卵だって大騒ぎになったような気がする。
あれ?
そう言えば、悪役令嬢の卵は何色だったっけか?
よく思い出せない。
「伝承にある聖竜の卵が虹色でしたなっ!これも聖竜の卵かもしれませぬ!おぉ!すごいですの!!」
トリードット先生の感激に満ちた声が辺りに響き渡った。
それもそうだろう。
聖竜と言ったら混沌に陥った世界を救った存在とされているのだから。
やっぱりアクアさんはヒロインなんだね。
ここまでは乙女ゲームの通りだ。
ちなみにシルヴィアさんは乙女ゲームには出てこなかったような気がする。
のめり込んでプレイしていた訳ではないから主要なキャラクター以外の名前と容姿を覚えていないのであくまで「でてこなかったような気がする」としか言えない。
でも、乙女ゲームの中では白い卵の話題はなかったような気がするんだよね。
さて、次は私が卵を箱から取り出す番なんだけど、聖竜が産まれるかもしれない卵の次に卵を取り出すのってなんだか勇気がいるよね。普通の卵だったらがっかりされそうだし。
というか、聖竜以上の卵なんて存在しないだろうし。
私は緊張とプレッシャーに負けそうになりながらも、箱の中から一つの卵を取り出した。
その卵は闇を詰め込んだのではないかと思われるほど真っ黒な卵だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます