第21話 昼休みの時間
日常生活で切っても切り離せない『食』。
衣食住の『食』。
あなたが昨日までに食べたものが血となり筋肉となり、赤ん坊だったあの頃の小さな体を何倍にも成長させてくれた。
そんな『食』。
今では、様々な食材、様々な調理法、様々な料理は日進月歩している。
私_
みんなもきっと教えられてきたと思う。
ご飯を食べる前には「いただきます」を、食べた後には「ごちそうさま」を、手を合わせて言うわよね?
まさか…やってないなんてことはないよね?
もし、やっていない人がいたら次の食事の時から実践することをお勧めするわ。
感謝することの訓練だと思って。
成長するにつれて食べることが当たり前になって、いつしか食べ物に感謝することを忘れてしまう。
分からなくはないんだけど、いささか嘆かわしいわね。
当たり前に対する感謝を常にしろって言うつもりは全くなくて、食事の時、朝起きた時や寝る時、道路工事をしてくれている作業員の方を見た時、「自分の生活を支えてくれているんだな」って感じられる局面に差し掛かった場合はやるように心がけてほしいの。
最初は意識してやらないといけないけど、そのうち自ずと無意識にできるようになるから。
きっかけを作って感謝する、そうして人生を豊かにしましょうね。
彼方お姉さんからのお願い。
これ以上何かを言及してしまうと、そろそろ「出馬してください!」と言われかねないのでやめておくわ。
高校生だからできないからそんな心配は杞憂かしら。
ぐうぅぅぅ…
私にしか聞こえないサウンドでお腹の虫が鳴る。
お腹すいたし、早速いただきましょうか。
弁当箱が包まれている小さめの風呂敷の紐をほどき、灰色の弁当箱があらわになる。
中を開けると左側半分がご飯で敷き詰められて軽くごま塩が振られており、右側半分は卵焼き・小松菜のおひたし・プチトマト・唐揚げが共存している。
ちなみに作成者は現妹_
最高すぎます。
もうほんと頭が上がりません。
辻井家の両親は仕事の関係上、早くから仕事に出かける、または遅くに帰ってきて次の日の昼まで寝ている為、子供たちに家事が任されている。
辻井家で過ごし始めてからわかったことなんだけど、梓がめちゃんこ家事ができるのよ!
彩奈に続き、こんなできた妹を貰っちゃっていいの?いいのね!?
私が貰っちゃうからどこぞの馬の骨にはやらないわ!
うちの彩奈と梓は私が守るからね!
それでね、高校生活が始まると小中学校みたいに給食が出てこないから「平日毎日のお昼ご飯はどうしよっかな〜お小遣いは結構あるし購買か学食で食べればいいかな〜」ってぼんやりと今後の昼食の展望を考えながら玄関を出て学校に向かおうとしたら、梓様が玄関までツインテールを揺らしながらパタパタと走ってきて、布に包まれた何かを渡してきたの。
それが今も食べようとしている超絶美味しいお弁当な訳であって。
彼女は中学生で、昼食は給食が出るから本来なら作る必要はないのに…
私のために作ってくれたわ。
お兄ちゃん、シスコンが捗るわ!
私自身の問題だったんだけど素晴らしい兄妹愛のおかげで綺麗さっぱり解決してしまったわ。
当の本人は「どうせ私が高校生になったらお弁当を作るつもりだったし予行演習だと思って作ったよ。兄貴のことだからどうせ購買か学食で済ませるつもりだったんでしょ?」とのこと。
見事に行動が予測されていた。
妹って最強すぎないかしら?
お兄ちゃん、お姉ちゃんの行動を社会心理学者以上に予測して的中させているのではなかろうか。
私には梓が神様に見えてしまったわ。
その時の土下座している私の姿は今も記憶に新しい。
梓様お手製のお弁当をいただくとしましょう。
私がお箸を唐揚げに箸を差し向けた、その瞬間だった。
「あっ!唐揚げじゃん!!!いただき〜!」
目の前の目標をあろうことか、親友の来間翔也がかっさらっていった。
「おい、貴様。その箸で挟んでいるものを返せ。然もなくば…」
「ん〜〜〜!!!美味しい〜〜〜!!!」
食べられた。私の唐揚げ。梓様が創生した唐揚げ。
翔也の言動にいちいち驚いていたら付き合っていけないから許すけど。
その代わりに対価を支払ってもらわないと。
「唐揚げ食べる代わりに何か頂戴」
ここ最近のやりとり。翔也とお弁当を食べていたらおかずが毎回の如く奪われるのでこちらもおかずをもらう。
おかず交換の法則ね。
「じゃあこの鶏肉をお返し!美味しいよっ!!」
「サラダチキンっぽいね。うまいな」
「だろ〜!」
サラダチキン。
最近はよくコンビニで見かけるわね。
主に鶏むね肉が使われていて高タンパク質低脂肪を売りとしている。
ダイエットしている人からの注目を集めているらしい。
私も食べたことはあるけど結構美味しい。
思っていた以上に種類があって味変できるからお勧めするわ。
翔也がくれたサラダチキンは粗挽きの黒胡椒が見られて手作り感がある。
お母さんが作ってくれているのかな。
運動系の部活をやっている翔也のことを考えられている。
今度、梓に作ってもらおうかしら。
正面に座っていた幼馴染みのつばさ_最上つばさが私の弁当を見つめていることに気がついた。
「つばさ…?」
もぐもぐと咀嚼していながら食べていたものをごくんと飲み込んでこちらを見る。
「要のお弁当ってお母さんが作っているの?」
「いや、妹だな」
「梓ちゃんか。要ではないとは思っていたけど」
「俺かもしれないだろ」
「それはない!」「ないな!」「ないにゃんね〜」
この場の全員(つばさ、翔也、夏猫_舞浜千夏)が否定してくる。
「なんで?」
「いや、要。中学の家庭科の調理実習の時間に盛大にやらかしていたからね?」
「記憶にございません」
こういうときに記憶喪失って便利ね。
要くんも家事苦手?
七瀬彼方も家事全般は苦手だけど最近は洗濯物を取り込んだり食器を並べたり少しずつできること増やしてる。
環境が変わったなら生き方も変えなきゃいけないからね。
そのうち料理もできるようにするわ。
「あの時の要はひどかったよな〜。こっぴどく先生に怒られてたし」
「小麦粉被ってた要くんを写真に収めたかったにゃ〜」
「ただのドジなやつじゃないか、一体誰なんだそいつ」
私ですね。
共通の話題を持てていないやつになりつつあるので話題を弁当に戻す。
「過去の俺は置いといてくれ。俺が置いていかれるわ。それより…つばさの弁当は…自分で作っているのか?」
「うん。自分で作っているよ」
すごっ。
素直に尊敬した。
女性って身だしなみを整えていて朝の貴重な時間が奪われるからお弁当を作る時間が基本はないものなんだけど、その中で時間をやりくりして全てをこなしているのね。
そう考えると男って結構楽かもしれないわね。
やることが少なすぎていよいよ新聞を片手にコーヒーを飲める時間すら生まれてる。
彩奈のお手伝いくらいしようと思っているが、「兄貴はゆっくり座って待ってて〜」と言われる。
要くんの周りってどうしてこうもスペックの高い人間が多いのかしら。
今日この頃いつも感じている。
「それで足りるのか?つばさ」
つばさも夏猫も小さいお弁当だから少なすぎて午後の授業で倒れないか心配。
ちなみに夏猫のお弁当は予想通りの猫のキャラデザインのお弁当。
お弁当の中も猫なんだからもう猫。
猫缶とか食べても全然違和感ないわ。
「これで十分かな。男の人ほどは食べられないからね」
「要くん、違うんだにゃん。それは建前で〜本当に言いたいことっていうのはにゃ〜ふとっ」
殺気。
そう感じてしまうほどの脅威が夏猫を襲った。
「む〜〜〜〜〜にゃ〜〜〜!!!!」
何が起こったかというと、つばさが自分のお弁当からひと摘みご飯をとって夏猫の口へと押し付けたのである。
恐ろしく速い箸捌き。私でなきゃ見逃しちゃうね。
「余計なことを言おうとした口はこれかなあ?」
上半期笑顔に怒りマークが似合う女性第1位、
普段が温厚な人ほど怒らせるとどうなるか分からないほど怖いもの。
夏猫は一体何を言おうとして他のかしら?
「あっはっはっは!!!」
翔也は夏猫とつばさのやりとりを見て大爆笑している。
3人を見ていると自然と笑みが溢れる。
これも一つの幸せ…ってやつね。
微笑ましい限りである。
「むうううう!!!にゃはーーー!!!ふう…夏が悪かったにゃ」
「分かればよろしい」
「おっかないな。遊んでたら食べる時間なくなるぞ」
「そうだよ!!!早く食べようぜー!」
談笑しながらみんなでお昼ご飯を食べている楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
梓が作ってくれたお弁当を食べていたこの時は予想もできなかった。
まさかあの人物に今日この学校で出会うことになるとは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます