第20話 日常の一端
私_
隣の空っぽの席を見る。
そろそろ来てもいい頃なのになあ…
期待と不満の入り混じった呟きが溢れる。
生彩奈を拝みたい。
彩奈の半径1メートル以内で呼吸して彩奈成分を吸収したい。
早くしないと不足して死んじゃう〜
あ、もう一回死んでるんだっけ。
ここまでテンプレ。
きっと今日も来ないのね…。
めちゃくちゃ悲しくて沈んでいるんだよね?
それくらいお姉ちゃんを愛していたってことね?
お姉ちゃん大好きだったんだね!?
私も大好きだよ!!!
彩奈の席から視線を外し校庭を眺める。
桜の全盛期は超えたのか緑とピンクの2色が混在する葉桜がちらほら見られる。
そういえば入学式の日、美咲先輩_
パシっ。
後頭部が叩かれるが痛くはない。
振り返るとそこには数学担当教師の
愛称:もゆるんせんせー。
「どうしたんですか。もゆる先生」
「どうした?じゃない、今は授業中だよ?あと授業中は高瀬先生で」
授業外だともゆる先生でいいのね。
ゆるゆるもゆるんだわ。
「ちゃんと頭働かせていますが」
「余計なこと考えていたでしょう?」
「必要なことです」
授業にはほとんど関係ないけど。
「へえ?しっかり授業を聞いていたってことね?じゃああの黒板の問題をプレゼントしようかな?解いてきてね」
屁理屈返してたら問題いただいちゃった。
あー、また面倒起こしてしまったわ。
入学してからわずか1週間。
現在、私は校内一先生方の監視の目が厳しい存在だ。
いや他の生徒からも悪い意味で一目置かれている。
幸い、翔也に弄られるおかげで笑いが起こってくれて助かっている。
もちろんこの授業だけでなく他の授業でも何かと質問・出題される。
授業は面白いよ?
先生が興味深い余談をしてくれるし、周りの人と相談させてくれる。
面白いが故に連想ゲームのように別のことを考えてうわの空になってしまう。
うん。私は悪くないわね。
まあ「解け」と言われたら素直に解く。
反論したところで駄々を捏ねてる子供みたいで器が小さく見えちゃうからね。
「はーい」
今は数Ⅰの授業後半でちょうど演習問題をみんなが集中して解いている。
先生に指名されたら黒板に問題の解答を各々書きにいくという時間だ。
授業中に復習させるのはいいことよね。
さて、私に指定された問題はと…
あれ?
今日は因数分解に入ったばっかでまだ授業をしていない問題…。
というか現段階だと難易度かなり高い問題よね。
そもそも分野が違うじゃないですか。もゆるん。
明らかに他の人が解いてるレベルの問題とは思えない。
ニヤニヤと腕を組んで黒板前に立つ私を不敵に見るもゆるん先生。
どうだ!解けないでしょ!って心の声が聞こえてくるわ。
ほいっと。
さらっと解答して颯爽と自分の席へ向かう。
もゆるん先生は膝から崩れ落ちていた。
出直してきなさい。美人が台無しになっているわよ。
クラスの数名がザワッとするのが分かる。
自分の席に戻ったら前の席の翔也が反応してきた。
「いや〜要〜やっぱお前すげ〜な〜〜!!!」
「えっ?何が?」
「とぼけんなよ〜〜〜ふつ〜に難しそうな問題解いててすげ〜なって思ったんだよな〜〜〜!!!」
「ああ、そのことか」
実は入学前にかなり勉強したわ。
少し学業について話させてもらうわ。
七瀬彼方の最終学歴は高校卒業である。
大学受験は全く視野に入らなかったわ。
女優やるって決めていたからね。
中学生の途中から女優を初め、勉強が疎かになり成績が落ち始めて危機感から塾に通い始めたわ。
とにかく高校に通ってみたかったので、なんとかしてその塾の塾長に受験に合格するためのメソッドを教えてもらった。
なんとか県内の公立高校に合格したけど、あまり満足に通えなかったから塾長には申し訳ないわね。
そんな高校卒業程度の学力を持つ七瀬彼方が一般高校生として学校生活を送るためには、最低限の勉強能力が必要 。
じゃあ残り少ない春休み期間の時間を毎日勉強に費やしていたわ。
ひとまず、国英数の3教科を重点的に勉強したわ。
国語は古文、漢文の文法知識を取り入れ、一通り昔の作品を楽しみながら読んだ。
だから文学部が魅力的に映ったのかしらね。
英語は単語帳で英単語と熟語の知識をつけて、興味のある論文を読んだり英語で会話している動画を見て勉強をした。
英語って本質的に国語と変わらないのよ?
言語が違うだけで同じ文章だからね。
数学は…いつもふざけてるからかそんなイメージを持たれることはないんだけど、わたくし七瀬彼方。数学が超得意です!
明確な答えが存在することってことが私の性に合っているのだと思うの!
特に好きなジャンルが『証明問題』。
あのスルスルと解答に近づいていく感覚と解き切った時の快感が最高なのよねえ。
そんな感じでとりあえず1学期の範囲は予習したかな?
もちろん大の大人だった七瀬彼方がいざ勉強してみようと思ったら、全然できないのよね。
わからないところがあるたびに中学レベルの学習に戻って学習し直したものね。
でも勉強し続けていたら過去に先生や友達に教えられている映像が蘇って、頭の中でニューロンが繋がって論理のネットワークを構成していくようにどんどんいろんなことを理解できるようになっていったわ。
それに、
学生の本分は『勉強すること』
って大人たちが言うよね?
一応、大人の端くれであった私からも言わせてほしい。
学生の本分は『勉強すること』ではなく『青春すること』である。
ここで言及している『青春』とは何か。
それは『友人と遊ぶこと』だったり『部活動に全身全霊を懸けること』だったり『恋人を作ること』だったり。
学生として、高校生として、今しかできないことをみんなにはやってほしいってこと。
今の私の青春の中には、『勉強をすること』が入っている。
勉強するのは個人の自由で、それを自分の『青春』に加えるのも個人の自由。
それだけのお話。
もちろん勉強することに重視することは悪くないと思ってる。
「なんだよ〜嫌味か〜〜??」
「できることをできるって言っただけ。できないことはできないな」
「かっけえ!!!じゃあさっき解いてた問題の質問したいんだけど!!!」
「『じゃあ』がちょっとよくわからないけど聞くよ」
「あの因数分解ってある文字に注目して見ればいいのかって…
翔也も青春している。
自分のわからないことはわかっている身近な人に聞く。
学ぶ上での正しいセオリーを無意識に体得しているわ。
時間対効果が高くて授業時間内で復習を済ませることができている。
おそらく翔也はテストの点数が良さそうね。
つばさとか夏猫はどうなんだろう?
キーンコーンカーンコーン___
入学式の日でトラウマになりつつあったチャイムが昼休み休憩に入ると告げた。
今となってはチャイムの音が聴き慣れたものの一歩間違えたら頭がイカれていたわ。
まあ?私みたいな鋼のメンタルお化けはそんなちっぽけなことでくじけはしないわ!
さて、お昼休みだしお弁当食べようかな。
「要」
リュックからお弁当と飲み物を取り出しているところを呼び掛けられた。
「どうした?つばさ?」
ちょっと素っ気ない感じで床を見ている三つ編みロングヘアのつばさ様。
今日もお可愛いわ。
我が幼馴染みです。
「い…一緒にお昼ご飯食べない?」
「も…」
あまりにも恥ずかしそうにこちらの顔を伺うもんだから即OKしそうだったわ。
七瀬彼方が出ちゃいそう。
即OKしなかった理由は他にもある。
つばさの斜め後ろでニヤニヤしてこちらの様子を伺う猫耳パーカー姿の
ははーん?
さては夏猫、お前の仕業だな?
という意味を込めてジト目で視線を送る。
(夏は何もしてないにゃんよ〜)
千夏は舌をぺろっと出して可愛らしく首を傾げてとぼける。
何もしていないって言う人がなにもしていないことがないのよね。
人生における3大信じてはいけない。
残り二つは『当社比』と『行けたら行く』ね。
焦点をつばさに戻す。
断る理由もないんだけれど2人で食べると周りからの視線が痛い。
やれ「なんでてめえが美人と食べているんだ!」だの、やれ「つばささんが汚れてしまう!」だの、「私もつばさ様食べたい!」だの、意味ありげな目でこちらを見てくる。
最後のは違うか。
気づいてないフリしてるだけで結構感じてしまうのよ。視線って。
撮影の現場でも意識していないと怒られる。
さてどうしたものかな。
「4人で食べようぜ!!!」
私の心を代弁するかの如く翔也が話に割り込んできた。
私が迷ってたら毎度毎度登場するのなんなの?
ナビゲーターなの?道標なの?親なの?
そんな私は迷える子羊なの?
とにかくありがとう!
「え?え?ああ、うん?」
困惑な承諾が生まれる。
「ちょちょちょちょ!?」
驚いて人間に戻ってるわよ、夏猫。
「いいんじゃないか?みんなで飯食べたほうが楽しいだろ?」
仲のいい友人たちとワイワイ会話しながらお昼ご飯を食べる。
これぞ私の憧れる学校生活!!!
「んにゃ〜…」
千夏は不服そうに翔也と私を見る。
「そうね!それが一番よね!」
つばさは手を合わせて目をぐるぐるにして賛成する。
思考が追いついていないのがまた可愛いわ。
少女回復中…
「それじゃあ!」
翔也が音頭を取る。
「「「「いただきま〜す!」」」」
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