第16話 変人部活動
部活動紹介が終わって、私_
先ほどまで一緒にいた親友の
部活動ねえ…。
部活動紹介で様々な部活動がパフォーマンスを繰り広げてるのを見て「すごいな〜」「面白いな〜」って小学生並みの感想は出てきたが、出てくるだけでしかなかった。
私を突き動かすだけの影響力はなかったわね。
というわけで張り紙を見てどの部活があったかをチェックする。
サッカー部、野球部、テニス部、バスケ部…この辺は王道よねえ。
卓球部、水泳部、陸上部、剣道部、柔道部、弓道部…結構いろんなスポーツがあるわね。
吹奏楽部、茶道部、科学部、生物部、放送部…文化部も豊富ね…。
ん…?
大体が部活動紹介をしていた部活の中、聞き覚えのない部活の名前が目に飛び込んでくる。
『文学部』
文学部?
鉛筆や万年筆、原稿用紙が描かれたいかにも文学部というポスターを眺めて私は首を傾げる。
私の記憶が正しいなら部活動紹介していなかったわよね?
いなかったはず。
部員募集と書かれているけどまるで募集する気がないみたい。
紹介するまでもなく人は集まってくるっていう余裕の現れなのかしら。
それとも来なくていいほど人がいるのか。
ところで『文学』と聞くと『小説』という単語が真っ先に主張してこない?
女優という職業をやっていた身の私としては脚本家や演出家の人たちが別次元の存在に思えたわ。
小説家とか作家とかのクリエイターの人たちって、己の経験や思考を頼りに0から1を創造する素晴らしいお仕事だからいつも尊敬していたわ。
世界観を作るお仕事なのだから畏敬の念しかない。
私とか俊一_
1の作品を10まで引き出す義務があるわ。
当然失敗するわけにはいかないから何度も脚本を読んで原作も読み込んで役作りしたわ。
収束しかけていた興味が湧いてきた。
へえ…文学部ね。
面白そうじゃない。
他の部活はどれもピンとこなかったけどこれは良いかもね。
一度、自分で物語を作りたかったのよね。
というわけで早速文学部部室へ。
***
「こんにちわー!!」
元気よく部室に突入して中にいる人がどんな表情で変に目立っている私を見るのかを期待した。
期待の矢は的に当たらず虚しく空を切ることになった。
「
部室に入るとハイトーンのアッシュべージュでロングヘアが窓から吹き込む風で
「
歌を詠み終えたらしく、その人物はぷるっとした柔らかそうな唇を強調するかのように人差し指で軽く押さえ、小首を傾げて余韻に浸ったようなうっとりした瞳で私を見つめて歩いてくる。
押し出そうとしていないのに豊満な2つの果実が胸部を強調し、軽く腰をうねらせて誘惑してくる。
煽情的で目のやり場に困ると思われるが、私は絶賛ガン見中です。
綺麗な蝶々に魅せられて足元に気がつかないうちに沼に嵌りそう。
『妖艶』
と言うのがこの場合は正しいのだろう。
私の心が
女の子に迫られると毎度のこと思っちゃうんだけど、男の子って脆く壊れやすい理性をどうやって守っているの?
理性といい童○といい大切な人といい守るべきモノが多いの?
ここ最近の究明すべき謎よ。
「君はそれでも旅人になる…?」
その問いかけは文学においてか、はたまた人生においてか。
どちらにせよ答えは言わずもがな。
「俺たちは死ぬまで旅人ですよ。いえ、死んでからも旅人なのかもしれません」
「へえ…面白いわね。入学式で受けた印象通りの人。もっとあなたのこと…知りたいわ…」
素面で小っ恥ずかしいセリフを言う圧倒的強者感。
この先輩、何者よ?
知りたいと言われたので事故らないように自己紹介しましょう。今日の教訓。
「俺は辻井要と言います。文学部に興味を持って部室まで足を運ばせていただきました」
「ふふ…君があの辻井要くんね。存じているわ。きっとここに来ることもね」
私がスーパーコンピュータ並みに超絶賢い人間だと見越した上で
できる女!
この先輩はちょっとオーラじみたものを纏っている感じがする。
よく「オーラが出ている」って言うじゃない?
私って結構なナルシストだから自分の舞台挨拶とか記事とかをよく見るのよ。
今で言うエゴサーチってやつ?
あまりにもその『オーラ』って単語が使われているもんだから、遂にはオーラって調べたわよ。
オーラとはある物事に真摯に取り組み、積み上げられた密度の濃い時間が必然的に発する膨大なエネルギーの片鱗である。
体内に取り込んだ心のエネルギーが大きければ大きいほどオーラも輝くとか。
女優時代の私は意図せずオーラを発揮していたのかな?
自分じゃ意外とわからないものなのよね。
「さっきの返答も素晴らしかったわ…あなたが欲しくなりそう」
どきっ、としてしまう。
同性(異性)に欲情しそうになる。
魔性の女とはこの人だわ。
「買いかぶり過ぎですね。ただのノーマルです」
「あら?『ノーマル』。その言葉があなたを特別たらしめているわよ、ふふ。本当に普通の人はそんなことは言わないわぁ」
「まあ俺のことは一旦いいでしょう。先輩の名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「いけずねえ…私の名前は『
「副部長???」
少なくとも部長がいる。ってことね。
「そう。副部長よ。ちなみに部長はそこ」
美咲先輩は部室入り口付近にあるデスクを指差す。
「うおっ!?」
今の今まで全く気がつかなかったわ。
禍々しい負のオーラが滲み出たオブジェクトがあった。
この世の終焉の入り口が存在するならば多分これのことね。
「美咲先輩!何ですかそれ!」
「これね…」
「うぅ…これとは飛んだご挨拶だな」
「あら、起こしちゃったかしらぁ?」
「会話してたら流石に気がつく」
負のオーラが漂ったそのオブジェクト、否、その人はむくりとデスクから顔を上げて私と美咲先輩を交互に見る。
「んで、みさちゃん誰そいつ?新入生?」
「そうですよ、
だ・い・が・く?☆
高校に大学?????
「『大學』って名前ですか?」
「なんでフルネームぅぅぅ…ZZZ」
「また寝ちゃったわ…挨拶くらいしっかりしてもらったけれど…徹夜明けだし仕方ないわね」
そう言って黒い毛布を大學さんに掛けてあげる美咲先輩。
「徹夜…」
「何か思うところがある…?」
「そこまで根を詰めて作品を作り上げていたんですか、大學さんは」
「そんなところね…」
彼女の寂しそうでどこか諦めたような声が虚しく私の心に届く。
美咲先輩が過去の友人と重なる。
女優を諦めたあの友人と___
「大學さんの作品にはね」
彼女はまだ得体も知れない1年生の私に告げ始める。
「ほんとごくまれに執念のようなものが宿っているの。読者を、彼の作品に没頭しろと訴えるような、そんな執念がね…私ももっと頑張らないとね…」
私は真剣に聞き入る。
美咲先輩は口を滑らしてしまったと我に返った。
「ごめんね、新入生である君にこんな話をして」
「いえ、今のお話は何となく分かる気がします」
美咲先輩の人を試すかのような目はなく、今は同じ土俵にいる感じがした。
「大學さんには才能があると。皆まで言わなくてもわかります。しかし美咲先輩ご自身はその執念のようなものがご自分の作品からは感じられないと」
「へえ…やっぱり君、面白いね」
品定めする目を取り戻した美咲先輩。
ほんの一瞬だけ露呈した化け物には触れない方がいいわね。
いつか向き合わないといけない時が美咲先輩に来るかもしれない。
もしかしたら他の文学部員が対面することも視野に入れなければならない。
「それはこっちのセリフですよ。美咲先輩」
美咲先輩の方がよっぽど面白い。
この文学部には問題だらけの匂いがぷんぷんするわね!
ああ〜!!!香ばしいわぁ〜〜〜!!!
よし、決めたわ。
「俺、文学部に入部します」
「…!変人の要くんならきっと入ってくれると思ったわ、よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして私は変人の集う文学部の一員となった。
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