第15話 部活動
俊一との邂逅を経て私は親友の
私の横で翔也が取り留めのない話を展開していて、それに対し千夏が同じような煩いテンションの猫語で応答し、つばさは二人のやりとりをニコニコ聞いてちょくちょく話に入っている。
ちなみに翔也ー千夏間も仲は良い感じ。
同じ中学校だし当たり前よね。
なんでつばさと千夏が一緒にいるのかというと、千夏が「つばさが部活動紹介見に行きたいらしいから一緒に行くにゃん♪」言ったので素直に了承しておいた。
可愛い女の子を侍らせるのは背徳感があっていいからね!
なぜかつばさは自分より身長の低い千夏の後ろに身を縮こませて隠れていたけど。あれはなんだったのかしら?
全然隠れていなくて可愛いかったわ。
適当に相槌を打つ私は先ほどの俊一とのやりとりを思い出していた。
***
「それで、君たちにお願いがあるんだが」
俊一が私と翔也に周囲に聞こえない程度のボリュームで耳打ちしてきた。
「何だ?」「何何〜〜〜???」
相変わらず翔也は元気ね。
常時このテンションだとこちらのテンションまで引き上げられそうになる。
どうやって小さい声でもテンション高く保ててるの。
今度個人レッスンしてもらおうかしら。
「友達になってくれないか?」
恥ずかしがってる顔を見られたくないからか俊一はそっぽを向く。
友達。
かつて七瀬彼方が地位・名声・巨万の富よりも喉から手が出るくらい欲しいものだった。
女優や俳優は職業柄、人気が出れば仕事が増えるため当然友人と関わる時間が減る。
さらに一昔前は事務所側が交友関係を調べてくることがあったため迂闊に友人の輪を広げることができなかった。
近年は「友達くらいは自由に作らせてもいいんじゃない?」との声が多数上がり、マネージャーや担当者に報告さえすればいいらしい。
どうやら良い方向に改善されて行っているみたいね。
私が高校生の時なんて仲良くなりたい人に声をかけただけで事務所側から私に圧力がかかってくるもん。
できる友達もできないわ。
ひどくない?
当時の私はそりゃあまだまだ人間できていないから心の中で大いに憤慨したわ。
「あの社長め、いつか急所蹴り潰す」って思っていたくらいよ。
ほんと、生きやすい時代になったものねえ…
今となっては私の姿形が変わりすでに友人が手に入っている状況だし。
なんか皮肉よね。
俳優に優しい環境が整っているから俊一にはもう友達がたくさんいそうなのに。
しかしながら今の俊一には大きな別の要因があるように思える。
だから私は率直に理由を尋ねる。
「俊一くらいの人気者なら友人くらい引く手数多じゃないのか?」
「有難いことに僕のことを知っていてくれる人がいっぱいいてくれる。だが…」
「だが?」
「女性に囲まれすぎて男の友人がこれまで一人もできなかったんだよね…」
と廊下側に群がっている俊一のクラスの女子たちに向けて作り笑顔で手を振る。
その顔はどこか寂しさを偽っている作り笑顔ようにも見えて。
ハーレム主人公かよ。
しかも男を一人も寄せ付けないとなると、いよいよ夜の帝王感がするわね。
香ばしくなってきたわ。
にしてもこれまで一人も?
「いやいや…」
いやいや、流石にそんなことはない…?
否定しようとしたが、過去の俊一を回想すると疑問形になってしまった。
もともと中性的な顔立ちのためか、同年代の女子とよく関わっていた気がする。
成長するにつれて私が会うたびに可愛い女の子を引き連れていた気がする!
もしかして本当にそうなの?
本当にそうだとしたら小中学校でどうやって生活していたの?
流石にコミュニケーションを取る必要があったでしょう?
自分から作ろうとしても男友達ができなかったの?
こんなコミュ力お化けが?
くだらない憶測もいい加減にして真面目に考察するわ。
もともと仕事で忙しいし運悪く小中学校で仲良くなり損ねた説が濃厚。
どうでもいいことかもしれないけど『濃厚』ってちょっとえっちくない?
すみませんでした。戻ります。はい。
今回俊一は久しぶりに男性と長々会話して、それで意を決してお願いしてきた。
証拠として、過去の経験から拒絶されてしまうことを恐れたのか俊一の手が震えているし。
私がやるべきことは『承認すること』。
友達申請を受け入れてやらないといけない。
事務所が同じだから。
一緒に舞台に立ったから。
相手が吉野俊一だから。
ぶっちゃけ理由なんてなんでもいい。
直感。
だったかも。
今はそれでいい。
今の私の状況を考えても友達は必要。
願ってもない話だわ。
「ま、いないんだったら俺が友達になるわ。こっちからお願いするよ」
俊一に同意を得ようと握手を求めた。
「じゃあ俺たちが友達一番乗りだな!なっ!要!それに俊くんは女の子に囲まれてるから実質俺らも囲まれることになるぞ!!!」
明朗特攻隊一番隊長翔也、ここに見参。
せめて建前でオブラートに包んで言って欲しかったわ。
ここまで本音をおおらかに開示してしまうのは呆れや驚きを通して尊敬に値する。
モチのロンで私も女の子に囲まれたい。囲ってください。囲ってくれる女の人募集中です。
「ああ、そうだな。後半の方はノーコメントで」
本心なのでね?
彩奈を近くで監視…じゃなくて鑑賞するために親しい人物と関係を持っておくのは大事。
鑑賞じゃないです。見守ります。
彩奈とどう知り合ったのか、姉として聞かなければならないからね!
決してやましい思いはないよ!絶対っ!
あと個人的にやっぱり俊一にも興味はある。主に俳優関連。
「ありがとう!二人とも!」
私と翔也に握手を求めてきた。
二人とも順に素直に握手する。
あの小さかった手がいつの間にかこんな大きくなっちゃって…
母性が溢れそう。
子供の成長過程を見るお母さんってきっとこんな気持ちなのよ。
ふと過去を振り返った時、目の前にいる子供はもうあの時の子供ではない。
みたいな?
そして新たな友人を得て再び少年の顔に戻る俊一。
眩しすぎるわね…。
これが青春ってやつね?
***
記憶の糸を遡ったところで青春の一ページをこの胸に刻み講堂へ。
たった数時間前に新入生代表スピーチしたステージが目に入る。
今度はお客さん側。
「いや〜楽しみだよな〜部活動紹介!!!」
翔也が「何部に入ろっかな〜」と紹介を心待ちにしている。
私たちは『部活動紹介』を見に来ている。
現在は放課後扱いになっており、この部活動紹介の参加は任意である。
そのためこの後俳優の仕事がある俊一は「じゃあ!またね」とそそくさと帰っていった。
部活動と聞いて興味ありきにウズウズしてたのが可愛かったわね。
もとより多忙な俊一は部活動には入れないって言ってたし。
何をやっても様になりそうなだけに残念ね。
私も部活動とは無縁だったから部活をやっている生徒を見る度に歯噛みしていたわ。
話しているうちにだんだん興味が湧いてきた。
そういえばみんなは何部に入るんだろう?
まだ時間もあることだし聞いてみましょうか。
「なあ、つばさとか猫ちゃんって部活に入るの?あと翔也も」
「あと、ってひどくない!?」
翔也はこれくらい雑に扱っても大丈夫そう。
今日で大体立ち位置が分かったわ。
結構メンタル強いわよね。
「夏は〜生物部かにゃ〜」
一人称『夏』?
容姿といいこの娘特殊よね。
「そんな部あるのか」
「この部があるから
「まさに猫ちゃんのための部だな」
「『猫ちゃん』?それ私のことかにゃ?」
呼び方が気に食わなかったのか毛が逆立ちそうな凄みで言及される。
おお、本当に猫?
「猫みたいな見た目から当然君のことだろ」
「『ちゃん』は可愛げがありすぎるからやめて欲しいかにゃ〜…」
「でも『猫』だと可愛げがないよな」
「普通に名前で呼んでくれればいいにゃ!」
「じゃあ『夏猫』で」
「じゃあ、ってにゃ!?」
後方にあったきゅうりに驚く猫のように飛び上がる千夏。
「嫌か?」
「別に嫌じゃないにゃ…」
千夏は猫耳フードを目深にかぶり表情がわからなくなっている。
普通に嫌がってそうね。
悪いことしたかな…
でも『夏猫』の響きもいいのよね。
「それでつばさは?」
「私?」
つばさは不服そうに自分の髪の毛をくるくると指でいじり、頬を膨らませている。
あれ?怒ってる?
「なんで怒ってるんだ?」
「別にぃ〜」
語尾を伸ばすせいで心なしか砕けた風になってますけど。
デフォルトがこんな感じだったりして。
「要〜お前、乙女心がなんたるかを理解してないなあ〜!!」
「理解してたらこの状況に困らないな」
女(過去形)の私でも理解できないわそんなもの。
撮影現場で一番言われたら腹が立つランキング第1位「乙女心勉強してきて」。
これを言う監督さん。
おそらくあなたが一番理解できていないわよ?
「まあいいわ。それで私が何部に入るかって?」
「興味があるので教えてください」
地雷を踏みたくないので敬語になってしまう。
隣で翔也と千夏が「ちなっちゃん!あれ!妻に浮気を疑われてる夫みたいじゃね?」「そうにゃね!尻に敷かれている感じが出てて映えるにゃ!!」とか言ってて辛い。
救世主イズどこ。
見ていないで助けてください。
「私は今のところ弓道部かなあ」
めっちゃ似合いそうなの来た!
バレーとかテニスとかの王道のスポーツをやるのも魅力的なんだけど、やはり大和撫子の心を持ち居合わせる日本人には『道』が抜群に合う。
これこそまさに王『道』。
天才か?ひょっとして天才なのかな?
こんな美人が弓道着を装着してみ?
一体何人の人間が尊死することやら。
もはや殺戮よ!大量殺戮よ!!
「様になってる姿が簡単に想像できた。いいんじゃないの?」
「えへへ。新しいことをしたいなって思って、でも体も動かしたいしって思ったら弓道がいいかな〜って」
「ちなみに中学生時代は何やってたんだ?」
「んん…テニス部かな…」
なんか聞いちゃいけなかった内容だったかな?
お互い黙って少し気まずい空気になる。
腫れ物を扱うようにその点には触れずに場を和ませることにする。
「えっちだ…!」
七瀬彼方出ちゃった。
唐突に右頬に痛みが走る。
「何想像してんのよ!要の変態!」
美少女の平手打ちとかなんてご褒美なの!!
ありがとうございます!!もっとやってください!
お金払うんで!どうかもう一発!
「要〜セクハラは良くないぞ〜〜」
「何やってるんだかにゃ」
翔也も千夏も呆れて見てる。
最高だったから別にいいわ。
それにつばさの悲しそうな顔を見るくらいなら殴られる方がマシよ。
決して私がドMとかそう言うわけじゃないんだからねっ!(ツンデレ風)
「そんで翔也は?何部に入るの?」
「俺はサッカー部かな!!!小学生からずっとやってきてるしな!」
「翔也は何でもやれそうだから驚きはしないな」
「もうちょい驚けって!!」
「いや褒めてる褒めてる」
「褒めてるんならOK!」
単純かよ。
甘々のチョロチョロ。
だんだん翔也の扱い方わかってきたわ。
みんな自分がどの部に入るのかちゃんと見当つけているのね。
どの部活がいいかはこれから先輩方が紹介してくれるのでそれを聞いた後で決めてもいいわよね。
七瀬彼方時代に経験しなかった新しいことをやるのもいいかなあ。
文字通りの第二の人生だし謳歌させてもらおう!
そうして部活動紹介が始まるまでの間妄想を膨らませるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます