第12話 事故紹介?2
先ほど着席したばかりなのに無意識に私_
「高瀬先生!『七瀬』って!あの『七瀬』?」
「まあ、話題にならない方がおかしいよね」
高瀬先生は続ける。
「みんなも知っていると思うけど、そこの席は『七瀬
『そこ』とは私の席の隣である。
しかしそれ以上の驚愕の衝撃を私は受けている。
「1週間ほど休むと連絡が来てますが、いつ頃学校に登校するのか分かりません…」
高瀬先生の沈んだ声でクラス全体がお通夜ムードになる。
あの煩い親友_
一方の私は全然別のことを考えていた。
まさかこんな近くに彩奈がいるとは…
そういえば春から高校生って聞いてたけど
最近いろいろありすぎて、彩奈に関する情報が抜け落ちてたみたい。
不甲斐ないわ。
私は彩奈ちゃんが大大大好きだから会話内容は全部録音して、後で彩奈ちゃんがいない時に一人で聞いてニヤニヤしてるくらいよ!
会話内容だって再現できるのに!
なのに!
彩奈ちゃんが通う高校を忘れるなんて!
姉失格だわ!!!なんて不甲斐ないの!!!
彩奈ちゃん検定、予選敗退よ!!
シスコン全開フルスロットルでいたら、前の席の翔也がちょいちょいと私の腕をこづいてきた。
(どうしたんだ、翔也?)
周囲には聞こえないレベルの小声で返答する。
(あの『七瀬彼方』の妹さんだぞ!テンション上がってこないか!?)
小声でも超テンション高いやんけ、こいつ。
悲しみやシリアスみたいなネガティブさが存在しないのかな?
(あの『七瀬彼方』だからね。その妹さんとなるとさぞかし美しいんだろうな)
自分を評価していることを言うと少しむず痒くなるわね。
それに彩奈が美しいのは間違いないわ。
(要って妹さんの方が好きなんだよな?)
誰にも開示していないはずの事実を問われる。
(え…)
なんで。
「なんで」は声に出たかも分からない。
私が彩奈のことが好きなのがバレた?
(?どうした?固まって?)
(ほら、俺って記憶喪失なわけじゃん?単純に疑問で、なんで有名な姉の方ではなくて妹の方が好きだと言ったのか〜と思ってな)
翔也は賢いところがあるから何かしら看破されているかもしれない。
事故前の要が無類の彩奈好きとか!?
それはそれで負けられないわね!!!
謎の対抗心が出てしまう。
(ああ、要のスマホのホーム画面が妹の彩奈ちゃんの画像だったから大ファンになったとかと思った!!)
そっか。
なんだったんださっきまでの時間。
きっと彩奈成分が不足しすぎていて無意識にホーム画面にしていたのだと思う。
彩奈成分は空気と同じでなくてはならない要素。生きていく上で欠かせないよね。
やっぱり周りが見えているよね、翔也は。
記憶喪失後の要(旧七瀬彼方)と翔也の付き合いはまだ1ヶ月にも満たないのに。
素直に称賛の拍手を送りたいけど、送ったら送ったで狂ったように調子に乗りそうだからやめておくけど。
(バレたら仕方ない。俺は彩奈ちゃん派だ)
(何にせよ美人な娘が来るって、学校生活最高のスタートだな!!!しかも近くの席!!!!要、席交代しようぜ!)
(嫌に決まってんだろ。授業中に横顔を拝ませてもらうからな)
(卑怯だぞ!!!)
(この席を掴めなかったことに己の運の悪さを呪うんだな!ほら、前向け。先生に怒られるぞ)
怒られるのが嫌なのか、席交換を諦めたか、翔也は大人しく引き下がって前に向き直った。
彩奈がこの学校に…しかも私の隣の席に…
顔がにやけそうになるが、今日の登校時のつばさからの「気持ち悪い」発言を戒めになんとか表情筋を保てている。
しばらくは画面越しにしか見られないかな〜、と肩を落とす気分になりそうだったけど生彩奈ちゃんが見られるとは…
なんて僥倖!
棚からぼた餅!!
雷に打たれるくらいには低い確率を引き当てたわね!!!
これはもはや運命と言ってもいいわ!!!
神様が息抜きしろと私と彩奈を巡り合わせようとしているのね!
ありがとう!!神様!
神様へお祈りポーズをしそうになるのをグッと堪えて、窓の外の景色から教室へ。
幾分か前の重い雰囲気が若干は残っているのかなと感じていたが、特に暗めの雰囲気はなく逆に明るさを取り戻している。
いやなんでだろう?
窓の外を眺めていたとはいえ、多少なりとも自己紹介の内容は耳に入ってくる。
なんか語尾が「にゃ〜」と猫らしき人が自己紹介していたあたりから流れが変わった。
多分。
というか絶対それだ。
どうやら翔也以外にもこのクラスにムードメイカーがいるみたいわね。
自己紹介の方は終盤に差し掛かっていた。
「は〜い、じゃあ最後は最上つばささん。お願いします!」
高瀬先生が緩めにつばさに声を掛けた。
タイミングが良かったのか、ちょうどつばさ_最上つばさ、我が幼馴染みがトリを飾るようだ。
幼馴染みというよしみってことで、つばさの自己紹介はしっかり聞いておくことにする。
後で「私の自己紹介聞いてなかったでしょ!」と怒られるのも面倒だからね。
(主に彩奈に)怒られ慣れているから別に怒られてもいいけれど。
特に美人の方から怒られても、怒っている姿も可愛いからむしろ怒られたいまであるわ。
そう、怒られることはご褒美なの!!!ご褒美!ご褒美!
今回は今更聞かないふりをする理由も利もないのでしっかり聞きます。
「はい」
つばさは透き通った声で先生の言葉に迷いなく返事をする。
『声』というのは人間関係を構築する上で重要な要素となり得る。
もちろん演技をしていく中でも、『声』は雰囲気作りとして重要である。
女優時代の私は当然ながら他の人のおかげで成り立っていた。
デザイナー、演技指導者、ディレクター、プロデューサー、映画監督など多岐に渡る業種の人々と一緒に仕事をさせてもらってきた。
仕事で初対面ということが多い。
その人の印象を知るために、まず服装や髪型の外観を見る。
度が過ぎた点がないかチェック。
「何を履き違えたの?」と言いたくなるような絶望的なファッションセンスを繰り広げる人とか。
「せめてもう少しなんとか出来なかったかな…」っていう呆れを通り越して芸術を創作した爆発した髪型を披露してくる人とか。
たまーーーーーにいる。
次に顔ね。
私はそこまで厳しい方ではないが、自分の毛がついていたり、髭の剃り残しがあったりしたらちょっと残念な気分になる。
鏡はお家から出る際に要チェックよ。
そして最後に声。
外観、顔の試験を突破してようやくの声。
声、私たちが身近に最も用いる伝達手段の一つ。
何を語るのかも大切だが、その声音も重要。
といった感じで、『声』についてだけ語るつもりだったのに前置きが長くなってしまったわね。
つばさの声は『透き通って』『迷いない』声だった。
その声だけでつばさが『真面目で清楚な人間』であるということがわかる。
「最上つばさです。よろしくお願いします」
名前を言っただけで男子諸君から歓声があがる。
クラスの他の女子を見ても、素の美貌においてつばさは頭一つ二つは抜けている。
今日からマークする男子は増えていくだろう。
幼馴染みの私が外敵から守らなきゃ!(使命感)
女子からは羨望の眼差しを向けられている。
その証拠に「お肌、白っ…!」「髪綺麗〜」「柔らかそう、触りたいな〜」とちらほら好印象な声がかけられる。
分かるよその気持ち。
私も触りたいもん。
「え〜っと」
ほんの刹那、つばさが私を見て視線が合った。
どうしてこっち見たし。
背中に悪寒が走る嫌な予感がした。
つばさが手で僕の方を指す。
「あそこの入学式でやらかしちゃった変な人の介護役やってます」
まさか教室に入った時と同じ感覚を再び味わうことになろうとは。
全員がギロリとこちらを睨む。
なんで高瀬先生も据わった目で見てるの。
おい、翔也。お前はこっち側!
それよりも、つばささん!?
なんとかしてくれません!?
私まだ何も悪いことしてませんけど!?
これからもするつもりはないですけど!?
恐る恐る「助けて」の意を込めてつばさに送るが先の発言はジョークだったらしく、かなり焦っている感じがし、あわあわしていてダメみたい。
どうすればいいの?
収集がつかないわ。
打開案を考えるも全然思い浮かばない。
キーンコーンカーンコーンー。
あ。
ああああああ!!!!!
終わったわ。私の学園生活。
本当に事故紹介になってしまった私は頭を抱えるしかないのであった。
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