第2話 女優から男子高校生へ
一体全体何がどうなっているの…?
私_七瀬彼方はテレビに映る自分の演技している姿を食い入るように見る。
私はここにいるというのに、目の前の光景が私の存在を否定してくる。
未だに信じがたい私はリモコンを操作してチャンネルを変える。
しかし変えたところでどの番組も『七瀬彼方は亡くなった』という事実を突きつけ、その事実に信憑性を持たせてくる。
気分が悪くなってしまいそうだったのでテレビの音量を消し、ベットに仰向けになり天井を見つめる。
すうぅ…はあぁ…
思考をクリアにするためにまずは呼吸を整える。
さて状況を整理していきましょう。
私は世間からするとすでに死んだことになっている。
信じがたい事実だけど客観的に見てここは暫定的にそういうことにしておきましょう。
でもテレビを見て、その音を聞き、ベットの感触を感じ、手足もとい体全体を動かせる。
これは生きていることの証拠に他ならないはず…。
『私は死んでいるけど生きている?』
ひどく矛盾した文章が創生されたしまった。
ここで一つの疑問が生じる。
『私は一体誰なのか?』
ということだ。
疑問が思考を中断させたところで部屋の扉が開く。看護師と医師と思われる人が入ってきた。
私は再び上体を起こす。
「突如ナースコールが鳴ったから来てみたが、まさか目を覚ましているなんて」
医師の人が驚いた表情でこちらを見る。
「原因不明だがとりあえず無事そうだね」
医師はふむふむと頷きながら私の全体を見渡す。
「よし、とりあえず一通り検査を受けてもらうよ。君、『彼』の状態を調べておいてくれ」
そう言って部屋を出て行く医師。
『彼』…?
私のことを男だと勘違いした?
いや、そんなはずはない。
自慢ではないが生まれてから今日まで私の記憶を辿る限りでは『男性』と間違えられたことは一度もない。
女優という職業で『男性』と間違われたら、すぐさま廃業して別の人生を歩む方がいいだろう。
私は女優としてのプライドが崩れ落ちかけたが、『男性と言われるありえない』状況の不可解さが優ったのでなんとか持ち堪える。
『男性』と言われる容姿。
何かとんでもない事実が迫っている気がした。
奇しくもその予想は的中することとなった。
「それでは、『辻井要(つじいかなめ)』さん。今からいくつか質問をしていきますので正直に答えてくださいね」
聞いたことのない名前が看護師さんの口から出てくる。
私は思わず聞き返してしまう。
「『辻井要』?それって私のことですか?」
「ええ。そうですが…?」
看護師さんは怪訝な顔をして答える。
私は少し考え込むように口を手で覆い、
いや、誰!?
心の中で思いっきり叫んでしまった。
だってそうでしょ?いきなり知らない人の名前が出てきて、その人が自分だと告げられて、自分は既に死んでいて、アイデンティティが10回くらい崩壊した気分にもなるよね?なるよね!?じゃあ何、私はこの男性としてこれから生きて行くことになるの?いやいやいや天変地異が起こって世界がひっくり返ってもあり得ないでしょ?え、私死ぬの?あ、死んだことになってるのか。なるほど納得…できるわけないでしょおおおお!!!!!
ここまでの心の叫び、約5秒。
はあ…はぁ…疲れたわ。
何か返答しないと看護師さんに心配されると思った私は返答する。
「分かりました。質疑応答の前に一つお願いがあるのですが、鏡を持ってきてもらってもいいですか、少々自分の顔色を確認したくなったので」
まだ私は信じてない。自分が死んで、知らない男になっていることを。
看護師さんが手持ち鏡を持ってきたので自分の顔を覗く。
いや、本当に誰!?
認めたくない、がしかし、ここまで根拠が揃ってしまえば認めざるを得ない。
『私_七瀬彼方はすでにこの世にはいなくて、なぜかこの男性_辻井要となってしまった』と_。
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