第10話 狂気の英雄
「神よーー!!」
ボクは神でもないのに自称300歳のおじいさんに捕まった。 しかしおじいさんすまない、ボクは神でもなんでもなくてただそこら辺にいる陸上専用に進化したタコなんだよ。 ——本当にいるかは知らないけど。
第一に彼らが言ってる神がなんなのかも知らないし、そもそも神なんているのかも疑わしい。 もし本当にいるのならこのボクの目の前にでも見せつけてほしい。
さて、この状況はどう乗り切ろうか。
このおじいさんはもしかしたら————いや、今このご時世精神的に安定している人は僕たちが思っているのより衰弱している人がほとんどなのかもしれない。
しかしとりわけこのおじいさんは衰弱しているようにも見えなくもない。
すると後ろから砂を踏む音、そして石と石がぶつかり音が後ろからしてきた。
「何の騒ぎですか?」
後ろから。お姉ちゃんにとても良く似た声が聞こえた。
この女性は銀髪に栗色の瞳。 年はお姉ちゃんより幼く見える。 だけど率直に見れば大変失礼承知の上で言わせてもらうとお姉ちゃんより大人っぽく見える。
加えて胸の大きさはお姉ちゃんより断トツで大きい。 何故って? それはお姉ちゃんとは何回が風呂に入ったことはあるけど胸はここまでおきくなかった印象だからだ。
「————どこを見ているんです?」
「うわ!」
今まで強く僕の触手を握っていたおじいさんが手を放し、その反動でボクは勢いよく地面にぶつかった。
「イタタタタ…」
おじいさんはお姉さんを見るや否や即座に駆け寄り一回お辞儀をした後話し始めた。
「あぁ、貴方か。 よく眠れましたか?」
「そらあんなに騒いでたら……ね」
お姉さんと目があった。 しかしそのお姉さんの顔は一見とても笑顔で優しそうに見えるのだがその反面とても怖かった。 何故だか知らないけど。
目があった後はさすがに地面に寝転んだままだと失礼だと思ったボクは起き上がり、お姉さんの方を向いた。
そんな時エビくんがボクに近づき、こう呟いた。
「……あの女には気を付けろ」
「どう言う?————」
「どうかしましたか?」
お姉さんはボクとエビくんを不思議がって見つめていた。
いや、申し訳ないがエビくん。 この人はもしかしたらそんなに危険はないと思う。 それにこの君が悪いほど崩れない笑顔だって僕たちが初めて見るから怖いのであって、本当は怖くないのかもしれないでしょ?
その最中、おじいさんとお姉さんはボソボソと話していた。
「——————」
「……この人たちはいわゆるかの神話の英雄たちでしょう」
「————どこにそんな保証が」
「神話?」
「いえ、こちらの話です。 それではあの者たちについてなのですが————」
おじいさんは事実を混ぜながらあることない事を言っていた。 それはよく聞いてみると自己紹介見たく、そして今の会話はボクたちを紹介していたみたいだ。 それを終えたおじいさんは自身まんまの表情をしているが、お姉さんは明らか疑っている。 仕方ない、だって新生命体はいくら壊滅させたとはいえマジの生命体が来たらビビるよね。
それにボクは生まれてまだ一年もしていないし、それに神話なんて知らない。
加えてこの人たちが何者でかさえ知らない。 当たり前だけど。
お姉さんはボクたちをしばらく凝視した後、少しつづ近づいてきた。
この時のお姉さんの顔は今まで通りの笑顔のように見えたのだが……少し違和感を感じた。 何故ならどう考えてもボクたちを見て何も動揺しないのはおかしいからだ。 というもの動揺しないのならしなくてもいい。 現に神記さんと会ったときは彼は特に動揺しなかった……いや、ボクそもそも生身の人間にあったことはそれほど多くはないのかもしれない。
気づけばお姉さんはボクを無視してエビくんのは背中で眠ってるチカの方に向かい、悲しい顔をして頭を優しく撫でた。 だがそれは本当に悲しい顔何かは知らない。 ボク自身としては彼女の身に何かがあって、それを心配してくれているのなら嬉しいのだが、それとは全然違う。
だって……。
口は気持ち悪いほど笑っているからだ。
お姉さんはしばらく彼女を撫で、手を止めた。
そして落ち着いた口調でエビくんに話し始めた————。
「...そこの竜。 彼女も人間ではないのでしょう?」
なんで気づいて————。
「言って何になる。 もし本当ならお前はどうるすのだ。 この子を殺すのか? 」
「何? 歯向かうの? それと一応言っとくと私はこの子を殺すつもりはないわ。 ただ今まで怖いことがあったそうだからこの建物に引き取ってあげようと思ってね?」
「その必要はない。 この子のことは私が一番知っている」
「そう。 じゃ、いつこの子のことを知ったの? あなたはみる限りの新生命体。 そして彼女と一緒に知るのなら彼女も新生命体。 違う?」
「なら違うな。 この子は研究所の研究員の娘だ。 反乱を起こした際この子の泣き顔を見て胸が苦しくなったから助けたのだ」
「————へぇー」
「これ、お二方おやめなさい」
おじいさんが仲裁に入る。
「一つ言うのならそこの竜。 そちのその心は潔白。 むしろ腹黒い政治家に見せたくなるほどの潔白さだ。 だから君。 彼をこれ以上追い詰めるな」
おじいさんはそう言ってお姉さんにこれ以上エビくんに過干渉するなと警告した。
それを聞いたお姉さんは何か申したいことがあったのだろうか悔しそうな顔をする。
「はぁ……わかったわ。」
だがお姉さんはそう言って身を引いた。
けれどお姉さんとエビくんの周囲にヤバイオーラが未だに立ち続けていた。
ヤバ、そうしよう。
…ちょっとふざけても許してくれるかな? いや、そんなはずは無い。 なら喧嘩を見過ごすのか? それも出来ない。 ならどうすれば良いのか。 そんな事は決まってる。 喧嘩の対象をボクににしてしまえば良いのだ。 そうすることで二人が争うことはないだろう。
なお、争い自体は完全い消えない模様。
————でも! これが最終手段!!
ボクはそう決心した後お姉さんとエビくん、そしておじいさんの中に割り入った。
「ねぇ、お姉さん」
「…どうしたの?」
「エビくんは甲殻類だから竜じゃないよ?」
「…は?」
「そもそも竜は神話や伝承を聞く限り蛇の親戚だから生物で言うと爬虫類。 そそしてエビくんは甲骨類だから全然違うよ。 むしろ近いのはサ……ソリ」
「舐めてるの?」
お姉さんの顔が怖くなってしまった。 笑顔だけど。 わかりやすく言うと例えばメイお姉ちゃんで行こう。 うん。 メイお姉ちゃんは普段は優しくて怒らない。 けど一回だけあった。 たけるお兄ちゃんに怒るときとても笑顔だったけど後ろには鬼の姿が見えてとても怖かった。 そう、言うなれば今のお姉さんはその時と同じなんだ。 そして察したうん、やらかしたと。
それと舐めてるってそういう意味だろう……舌で物体に触れる行為のことかな?
それをいうならボクは舐めていない。 そしてそれをいうならやっても良いはず————。
「舐めて良いの?」
そう言うとお姉さんはボクを全世界に存在する悪魔を結集させた物体を見るようか顔————要するにゴミを見る目でボクを蔑み、おじいさんはと言うとツノがハリセンボンでもびっくりすぐるらい生えてる、そして晴れるすると言いたいぐらい怒りのあまりに恐ろしい顔になってる。
「貴様!! その態度はなんだ!」
おじいさんがブチ切れてボクとお姉さんとの間に入ってきた。 うわーめんどくさい奴だよこれ。 ボク何か悪いことしたっけ?
うんしたねさっき。 で、エビ君はと言うとボクにどうするって感じで見てくる。
ならボクはこう答えよう。 知らない。
何故なら最初におかしなことを言い出したのはお姉さんだし、ボクら自身はここの人たちには敵意など一切抱いていない。
けどエビくんの目は明らか殺りそうだから少し誤解を解いておこう。
ボクはエビくんの方を振り向く。
「ねぇエビくん」
「なんだ」
「殺すのはまだダメだよ」
「あぁ、分かった」
無論この会話を聞いたおじいさんはさらに怒る。
「殺す!? 貴様ら彼女を殺す気なのか!!」
「うん。 場合によっては」
「場合によって……この…」
おじいさんは何も言わなくなった。
うーん。
何だろう。 もうどうでも良くなってきてしまったせいか適当に答えてしまっている。 でもそもそも突っかかってきたのはそっちだからボクは別に悪くない。 うん悪くない。
そう思ってるとお姉さんがため息をついておじいさん————もといじじいを勢いよくどかす。
「…まぁ別にいいです。 それに一番気がかりなのはあなたよ」
お姉さんはボクを指差して話した。
「ボク?」
「えぇ、だからその、ここじゃ何だし中で話しましょう。 じじいは外で警備よろしくね。 それとここには誰も近付かないようにお願いね」
「じ、じじい…」
*
彼女に案内された部屋はとても広く、神聖な感じがした。
部屋に入って目の前には幕が掛かっており、その奥に何があるのかは分からない。
今部屋にいるのは僕とエビくん、そして未だなお眠ってる可愛い女の子チカ。 そしてボクたち目の前にはお姉さんが座っている。
「それでは、今から話すのはとても重要なお話。 絶対他言無用でお願いします」
お姉さん真面目な顔でそう言った。
重要な話?
いったい僕たちにはどんな価値が? ただボクたちは宿を借りにきた感覚できたんだけど————。
しかし今この場で余計なことを口走ると本当に危険が迫るため、ここは同意しておこう。
「うん」
ボクが返事をすると彼女は立ち上がり、幕のほうに移動した。
「では、こちらを見てください」
お姉さんは幕を上げ、そこにあったのはボク——いや、スグヨに似た像だった。
「えっとこれは……」
「心当たりはありませんか?」
お姉さんはニヤリと笑う。
なんだろう。 見てて気持ち悪い。
————スグヨ。 いや、名前を出すのはまずいだろう。 もし彼が実はとんでもないことをしていた場合ボクにも被害が被るかもしれない。
だから、ここは濁しておこう。
「う、うーん。 なんとなくだけど夢に出てくる人に似てるかな」
「……そう」
そう言って彼女はボクに近づき、そして勾玉を僕の額につけた。
「えっとこれは?」
「————」
彼女は何も言わない。
そして偶然なのか一回夢であった記憶がある。
でもその時の夢は、あの神——奴が出てきた夢の前に見た記憶がある。 それはあの時までは頭に残っていたはずなのに、あの夢を見た瞬間に消え失せた。
しばらくして彼女は勾玉を僕の額から離し、胸にぎゅっと抱きしめ、元の場所に戻った。
彼女はしばらく沈黙し、ポツリポツリとボクに質問を始めた。
「…あなたの名前は?」
「チトセだよ?」
「本当に?」
「うん」
「一応聞くけど私が聞いているのは人間に名付けられた名前ではなく、本来の自分が持っている本当の名前について聞いているの。 あなたは本当にチトセだと思ってるの?」
お姉さんの顔が怖くなってくる。
「うん。 だってこれが名前だから」
「——ならそれは間違い。 あなたはチトセじゃない」
「いや、ボクはチトセだって…」
「ならわかりやすく言うわ————」
お姉さんはすっと立ち上がりこう言った——。
「あなた自身は誰の手で作られ。 そして何て呼ばれていた? 現にあなたは私の知っている限り初期からここに存在している生命体でないことはとっくに知っている。 むしろあなたみたいな生命体が存在していたら堪ったもんじゃない」
「ボ……ボクは徳田千穂さんの手によって作られ、そして徳田タケルがボクを誕生させ、徳田メイの手で育てられた新生命体……!!」
「徳田千穂……ふふふ」
「な、何がおかしい」
お姉さんはボクを見て嘲笑した。
馬鹿にしているのか? ボクは嘘を言っていない。 全て真実だ!!
お姉さんはボクに近い、視線を合わせるかのようにしゃがんだ。
「言っとくけどあの女のことを話してもあなたはチトセと証明できませんよ?」
「だから————!」
「あなたが言いたいのはチトセじゃないと言う意味の真相よね?」
「————」
「あら、図星ね」
お姉さんはクスクスと笑う。
「そんなのっ! バカバカしいわね? 私にはあなたの必死になって人の手によって作られたからチトセとか、そんなの弁明にすらならないわよ? だってそうでしょ? 歴史上に出てきた妖怪だってそれは妖怪が本当に自らが名乗ってたの? 違うじゃない。 それは後世の人間が決めたからそうなだけ。 そして神話から恐怖の象徴として語り継がれ続けている怪物——偽りの神も同じように後世の人間がそう呼んだの。 で、本筋に戻るけどあなたの名前はチトセじゃない。 偽りの神。 それがあなたの名前よ?」
「————偽りの神?」
「ええそうよ。 あなたは偽りの神。 それにその女は本当は何していたか知ってる? 彼女は長年封印されている伝承があった石碑をあさりそこからたかが伝承のものとされてきた偽りの神と思われる肉塊を発見した。 そこで彼女はそいつを蘇らせるためにDNAプログラミングの研究を行った。 その成果である程度は解明できた。 しかし覚醒させる手段は見つからなかった。 何故なら遺伝子が通常の地球上の生物を蘇らせるための物質では不可能だったから。 そこでどうしたかって? そう、彼女が研究していたDNAプログラミングの他に秘密裏に開発していた物質プログラミングを使ったの。 このプログラミングはこの世界、いやこの次元の物質なら全て作れる優れものだった。 まぁ、この技術が流失したのは今起きている事件の後だけど————。 でもこの技術はとても優れていて後少しのところまできた。 でも無理だった。 ではあなたを作り出すのに何をしたか。 そう————」
彼女は胸につけていた勾玉をボクに見せびらかした。
「この勾玉に宿る力。 言霊を使った————。」
彼女はその無頓着な話をさらに飛躍させて続けた。
しかしそんなことは今はどうだっていい。 とりあえず何を言ってるのかの解説書が欲しい————。
いや、この解説なんていらない。
これは危険だ、ボクの本能がそう言ってる。
「ごめんなさい。 あなたの言ってることはさっぱり分からない。 ————この話は要約すると千穂さんが全ての黒幕って言いたいわけ?」
「————ええ、そうよ」
「じゃ要約して言えよ。 こんな難しいことをベラベラ喋るより要約して簡潔に話してくれる方がわかる。 それに言うけどボクは生み出された側であるけど何か悪いことした? もちろん君たちが恐れる偽りの神がボクなのかもしれない。 けどそのボクは何もしていない。 ほらこの状況を見てよ何もしてないでしょう?」
「じゃ、言うけど今この国の惨状はなんで? 今問題になってるのは新生命体じゃなくてあなたの配下である偽りの者たち。 そいつらは本来神が復活しない限り出てこないはずなの————」
「————ボクを殺すってこと?」
「————」
辺りを沈黙が襲った。
お姉さんはボクの声を無視しては後ろに下がり、畳を上げ、剣を取り出した。
「あら、やっぱり生物って命の危険が近づいたら気付く者なのね? ふふふ」
「いや、今この状況で気づかない生物はいないと思う」
「あら、そうよねやっぱり! ————あなたが人だったら話があったかもしれないのに残念だわ」
「————例えボクが人間であっても君とは知り合いたくもない。 だって会話が無駄に長くて融通が気なくて面倒くさいから」
「あら、それは残念」
お姉さんは立ち上がった。
その目はまるで英雄のように見えた。
「なら、可哀想だけど殺すね?」
彼女はこちらに飛びかかろうと構えた————。
「危ない!!」
エビくんは声を上げた後ボクの前に瞬間的に現れ、彼女に光弾を放った。 だが彼女には一切通用せず。 むしろ退屈そうね顔で軽く剣で跳ね返され、エビくんは光弾に当たり、吹き飛ばされた。
「————!!」
エビくんは声にならない悲痛な叫び声を上げ、壁に勢いよくぶつかった
「エビくん!!」
ボクはエビくんに駆け寄った。 光弾がぶつかったところは白い煙が立ち上がっていた。
「大丈夫?」
「あ、ああ。 なんとか」
よし、エビくんはなんとか大丈夫そうで良かった。
ボクはお姉さんの方を向いた。
お姉さんはまるで当たり前かのように笑っていたが。
しかし目はなんとなくだけど……迷いとともに、動揺しているようだった。
だがボクは彼女のその態度にイラッとして、少し低い声で文句を言った。
「……これはどういうこと?」
そう言うと彼女は女神みたいな美しい顔で——。
「見たまでのこと。 ならさっきの話と合わせて今から真実を話すわ」
彼女はいつの間にか僕に近づき、勾玉が輝いたと同時に体が動かなくなった。
————あの勾玉には確か言霊が…宿ってるって言ってたけど、こんなこともできるのか。
そう感心していると彼女は話し始めた。
「————あなたは見たでしょう? あの浮遊する大きな未知の生物。 そいつの登場と同時にこの国は壊滅し、現在は生き延びた皇族の人が軍を再結集させて国の秩序をなんとか守ってるぐらいにまで文明が崩壊したことを。 けどそいつも神がいないと出てくることもない生命体」
皇族………イザキのことなのかな?
でも、あの時彼は新生物の抹消、いや保護と研究者の殺害では?
「ねぇ、もしかしてたけどその皇族の方は皇籍を剥奪されたイザキさんのこと?」
「————!! なぜ知ってる?」
お姉さんは驚きの表情をしていた。 そうだよねうん。 だって偽りの神が当たり前のように皇族の方と会ってたら誰だってびびるはずだよね。
ボクはそんな妄想をしてクスクスと笑い、目の前にいたはずのお姉さんがいなくなってた。
あれ、どこに?
「もしかして…殺した?」
「チトセ!?」
「ふぇ?」
お姉さんはいつの間にかボクの後ろに移動しておでこに剣を当てた。 あれ、いつのまに剣を鞘から取り出したの?
ん、いやいやこれは先に誤解を解いておこう。
「一応言っとくけどボクはあの人は殺してない。 むしろ許されたよ」
「そんな……信じられない。 ————偽りの神なのに」
よし! なんとか解けそうだ。
「……そんなの嘘に決まってる。 そんな筈がない」
彼女は動揺しているのか、気持ち悪い笑顔ではなくなっていた。
後はあの浮遊していたやつとの関連性をなくせばなんとか行けそうだ。
そして同時に話の一部を捏造しよう。 だってあれは本当に正直に言っても明らかボクが怪しいと思われるかもしれないからだ。
「それと君はそいつの登場は偽りの神であるボクが原因と言いたいの? でも、これだけは言えるねボクはあの時お兄ちゃんとお姉ちゃんの家にいたからねどうあがいても復活させようと思ってもないしむしろ知らなかった」
けど、彼女はその言葉には何一つ関心を示さないばかりかボクを絶対悪だと決めつけようとこう言った。
「————あなたがこの世界に誕生した段階で奴ら復活は確定事項で、そして復活までのタイムリミットが動き出した」
なるほど、お姉さんはとりわけボクが偽りの神であるから悪いらしい。 そしてなんとしてでもボクが絶対悪だと言いたいみたいだ。
でもごめんね。 ボクは偽りの神ではなくてチトセ。
「ふーん。 じゃ、最後にどこにボクが偽りの神だと言う保証があるの?」
そう言うと一回驚いた顔を見せ、そして少し動揺しながらもお姉さんは大笑いした。
この大地よりも重い沈黙の中でただ一人。
「————ええあるわよ。 だって私にはわかる。 貴方は偽りの神。 偽りが偽り以外を言うなんて実に滑稽じゃないの」
彼女はそう言った。 しかしその顔の彼女は口だけしか笑っておらず、目は少しも笑ってすらいない。
「もう容赦しないわよ?」
彼女はボクたちをギロリと睨んでそう言った。
お姉さんはそう言ってボクから離れて、こちらを向きながら何歩か後ろに下がった。
そう言ってお姉さんは上に着ていた巫女服を脱ぎ、いつでも戦えるようにしていたのか下には戦士の服を着ていた。
そして彼女は剣を顔の前に持っていき————。
「なぜなら私はかつてこの国を救った英雄、筑紫原美蘭つくしははらのちゅらの末裔の筑紫笹宮花美つくしささのみやけみその人だから!」
彼女はそう良いボクに斬り掛かってきた。
「くそ!!」
なんとか奇跡的に避けれたみたいだ。
「くっ」
「あ、ごめん大丈夫?」
「いや、別にいい」
あれ、チカは……。
あ!
気がついたボクは即座にチカの方に視線を移した。 すると目の前にはお姉さ——ケミが剣を下ろす寸前だった。
「やめろ!」
ボクはそう言って止めに向かったが、彼女はさすあ勇者といいた。 そんなの予測していましたと言わんんばかりに避け、そして右の触手二本を切り落とされた。
「ぐはっ!」
ボクはバランスを崩して勢いよく畳に衝突した。
「う、うーん……あれ、チトセ、マロ?」
そしてその音でチカも目を覚ました————瞬間にケミは剣を彼女の首を切り落とそうと振り下ろそうとしたが。
「————」
「クリッパオアラ」
チカはボソボソと呪文のようなものを唱え、エビくんの隣に瞬間的に移動した。
「へぇ」
「————マロ…エビ、大丈夫?」
「あぁ、やっぱ————」
「そんな暇ある? ——風神、笹尾保君彦ささほおきみひこよ我が剣、そして我が身に力を」
ケミは勾玉に何かを祈ると剣に風がまとった。
「私は殺す。 この美ちゅらの聖剣の名の下に」
「そうはさせん!!」
エビくんはそう言うとあの時ボクと戦った時と同じように真っ赤に変色した。
だがその光景を見てもケミは恐れるどころか————。
「消えろ」
ケミは目で追うことができない、風よりも速く、エビくんの前に移動し、硬い甲羅を切り裂いた。
「な!?」
「まだまだよ」
「マロ!! パックラササゲミ!!」
チカの呪文でエビくんは間一髪で避けれた。 が、しかし。 彼女は今度はと勾玉に何かを祈るとあたりが真っ白い空間になった。
「————もうこれ以上騒いだらバレる。 だからここであなた、いやあなたたちを殺す」
彼女は剣に何か力を込めた。
だが、その時チカが————。
「チトセ…」
「よーし再生できた。 ん、あ、ありがとねチカ」
「————」
チカは何も言わず、ケミの方を見た。
なんとか触手は再生できた。
もしかしたらこれは今一番まずい状況なのかもしれない。
「————本当。 厄介。 私だって——」
ケミはないかをボソボソと言った後——。
「大天狗斬り」
「は?」
辺りは血飛沫で真っ赤に染まり、隣を見てみると、チカの頭空高く吹き飛んでいた。
「え…」
「ふふふ」
その時のケミの顔は一生忘れることはないだろう。 なぜなら————。
笑ってるからだ。
この時ボクは一瞬無心となった。 そして気がつけばエビくんとケミが激しい熱戦を繰り広げていた。
「貴様!! よくも!!」
「ははは何怒ってるのかしら。 そもそもあの子もよく見れば偽りの生命体。 ここにいては行けないのよ」
「そんなの…なんでわかる」
「なんでって?」
ケミはそう言うとエビくんの硬い殻をお構いにしに剥ぎ取り、そして悶え苦しんでるすきに蹴り飛ばした。
「そんなの、この勾玉を見ればわかるわ」
ケミは僕たちに真っ黒な勾玉を目の前に持ってきて見せた。
「この勾玉は勇者の系統のものしか持っていなく。 そして偽りの生命体ではないかを見分けることができる————そしてあれを見て彼女がただの人間と言える」
「————!!!」
彼女の剣の先に見えた光景。 それは頭を失ったはずのチカの首から触手が頭の残骸の方に向かっていた。 そして頭の残骸の方も一つにまとまり、元に戻ろうとそしていた。
するとケミは悲しそうな顔をしながらもこう残酷なことを口走った。
「でも言っとくけど偽りの生命体には良いもの悪いものなんて存在しない。 それは人間と同じ」
そう言うとチカにとどめを刺そうとチカのほうに歩いて向かった。
「させない!!」
ボクはケミの前に立ちはだかった。 彼女はこのボクを見てどうおもてるのかはどうだってもいいでも……!!
「とりあえずまずあなたを殺そう」
そう呟いた後彼女は剣でボクを突き刺そうとした。 でも今のボクには…。
「へい」
「————!!」
彼女はいきなりボクの体をまとう磁気を見て驚き後ろに下がった。
「どう?」
「めんどくさ…」
そう言って彼女は磁気を切り裂こうとするができる筈がない。 ただの剣——。
——ピシ。
ごめんなさい嘘です思いの外この剣と彼女の力は強いみたい。
なら、もっと強く!!
「くっ! よし!!」
「無駄よ」
「はぁ!!」
「ちっ! しつこい!!」
ケミはさらにボクに攻撃する。
そもそもなんでボクは彼女に殺されないといけない? ボクは何か悪いことしたの?
ただボクはお姉ちゃんを探していただけなのに。
「後ろがガラ空きだ————」
「女の下を覗きながら攻撃なんていい趣味じゃなくて?」
エビくんの下からの攻撃は上に飛び上がることで回避され、失敗した。
そして彼女はエビくんの後ろにスタッと綺麗に着地し「そんな悪い子には制裁ね」と優しく言った後エビくんの片目を手で抉り取った。
「ガアア!! アアアア!!!!」
エビくんはもう抵抗したが一切効かず、むしろボクを一歩も動けなくしたの勾玉を使って抵抗できなくしたのだ。
「へぇー!! 綺麗な瞳ね!」
狂ってる。
目をえぐられたエビくんはその場でのたうち回った。
「エビくん!!」
「あら? 自分の心配はなくて」
その最中エビくんは痛みに耐えながらも立ち上がった。
「待て! 我々はただチトセの家族を探していただけだ!! なぜ攻撃する……、それでも英雄の子孫か!!」
「家族? こんな危険な怪物を生み出した時点でそんなものは存在しない。 逆に言えばこいつを作り出して国家転覆を画策していた可能性の方が高い」
ケミは笑いながらこう言った。 なんでボクの家族を馬鹿にされないと行けない……!!
「違う!! お兄ちゃんとお姉ちゃんはそんなこと思ってない!!」
「何が違うの? そしてなんであなた————偽りの神がなぜいる?」
彼女は会話が終わると勾玉を今度は別の紋章が描かれたものを緑色に輝かせる。
もう! なんでわかってくれないの!!
「偽りの神って何!? ボクは神じゃない!! チトセ!! チトセなの!!!!」
「ふふふ、こんな戯言はここま————!!」
背後からエビくんがケミを尻尾で弾き飛ばす。 だが彼女には特に効果はなくすぐに起き上がった。
「よくもやってくれたわね?」
そう言うと彼女は長い髪の毛を後ろにまとめ、垂らした。 これはもう本気で殺しにかかる合図だろう。
そしてふふふと笑いながらこちらを向いた。
「諦めて殺されればいいものを——。 そこまで死にたいなんて英雄としてはとても————」
「何をなさってる!!」
じじいの声が白い空間に響き渡ったと思ったら再び眩しい光に包まれ、元の建物の中に戻ってきた。
そしてじじいの声がした方を振り向くを息を荒らしながら襖を開けていた。
じじいはこの部屋の惨状を見て憤怒の表情を浮かべながらケミを鬼の形相で睨み、ドスの聞いた声で叫んだ。
「ケミ!! 話が違うぞ! あなたは最初ここに神記様および神話からの英雄の末裔たちを結集させ、偽りの神を封印すると言っただろ!!」
だが、その言葉は虚しく、彼女には罪悪さんはないのか渇いた笑いしながら答えた。
「あぁー確かにそう言ってたわね。 ごめんそれ嘘ね。 本音は拠点がないからここを貸して欲しい名目でそう言っただけで何もない。 そして神話から見てこいつは英雄じゃなくて全ての原因と思ったから、こいつが来るのを待ち伏せしていた。 ただそれだけ。 邪魔するようならあなたも消すわよ? かの時の英雄零ぜろの末裔さん?」
「……そうか。 それが其方の正義か…君たちここから逃げろ。 こやつには少し教育が必要なようだ」
じじいはそう言って懐から勾玉を出す————それと同時に腕が転がり落ち、血が吹き出した。
「————!!!!」
「あら? 時の英雄様は時を操れるのにこんなに遅いんだ? むしろどっちにしろ風神様の言霊の力の方が強いから無駄だと思うけど?」
「かはっ!」
じじいは苦しみの表情を浮かべながら腕を押さえて出血を止める。 この状態でも彼は立ち向かおうとケミの前に立ち塞がる。
「あら? まだ動けるの? なら、これが止め————!!」
「はぁ!!」
ボクは間一髪にじじいを助けた。
じじいは驚きの表情を浮かべながらも小さな声で「ありがとう」と言ってくれた。 なんだ、この人は優しい人なんだな。
「くそ!」
ケミは悔しそうな声を出す。
「は!!」
今度はエビくんが目から血を流しながらも後ろから急襲し、彼女を吹き飛ばす。
流石に元の世界に戻り、そして少しながら騒ぎになっていたのか外側には白装束の人たちがやってきて、それと同時にチカが体の修復が完了したのか起き上がった。
「何…してるの?」
本当にただの女の子。 純粋無垢の少女が再び目覚めた。
チカは復活したてで寝ぼけているのか何が起きているのかの処理が追いついていないようだ。
だがこの状況は非常にまずい、早く避難させないと。
「チカ!!」
ボクはチカを起こそうと叫んだ。 しかしこれが仇となったのかケミは無慈悲にも彼女を標的にした。
「————!!!!」
ケミはチカを見て剣に勾玉の力を宿らせ、風の斬撃を飛ばした。
「危ない!!」
「ケレエフルカラモヤラ」
だがチカが呪文を放つと斬撃があっけなく消滅した。
「へぇ、結構あんたやれるんだ」
これを見た一人の白装束の男が覆面を地面に叩きつけ激怒した。
「貴様はそれでもかの英雄の子孫か!!」
その罵声を聞いたケミが彼を睨む。 そしてまぶたを閉じることなくして彼は声を出すこtなく首が転がり落ちた。
「え?」 「は、え英雄様?」
あたりから困惑の声が聞こえてくる。
「……次いらないこと口走ったら今度は誰が殺されるでしょうね?」
彼女がそういうと白装束の人は皆血飛沫をたてて即死した。
「……なんてことを」
「ほら、これで邪魔者はみんな死んだわ。 …今度はあなたたちの番」
ケミは人の死体を見ても動じず、むしろ嬉しそうに笑っていた。
これを見たエビくんはケミに対して皮肉を放った。
「人をたくさん食べた俺がいうのもあれだがお前相当狂ってるぞ」
だがケミには良心がないのか————。
「あら、そう」
ケミがそう言った途端エビくんが甲羅の隙間から大量の血飛沫がでた。
エビくんは声にもならない……とても悲痛な叫び声を発した。
「貴様!!!!」
ボクは初めて怒った。 理性を失ったボクにはじじいの静止の声関係なくケミに突っ込んだ。
今のところわかったことだが彼女はとんでもなく速い。 ならばタックルの方が————。
「遅い」
その言葉を聞いた時ボクは自分の死を悟った。
が、生きていた。 よく見てみるとチカが呪文を唱えてでケミを動けなくしていた。
「もう、やめて。 私から何も奪わないで…」
「黙りなさい。 あなたのせいで何人が死んだと思ってるの? この国のほとんどの人があなたたちのせいで死んだのよ」
「……あなたが…あなたの方が人殺してるじゃない!! マロとチトセは正当防衛の時以外しか殺していない。 あなたはどうなの。 無実の人を殺すあなたの方が酷いじゃない! あの人たちなんて何もしていない、ただ止めようと————」
「うるさい。 死ねクソガキ」
ケミはチカの呪文関係なく体を動かし、そして純粋無垢の小さな女の子……チカの言葉には一切耳を貸さず首を切りつけた。 深く。
「が、ががががが……」
幼い子供を躊躇いもなく切るつけた狂気の英雄ケミは「楽にしてあげると」と笑顔でとどめを刺そうと剣をチカの真上に持ってきた。
「あら、まだ声を発せれるのね? なら声帯を——」
もうやめろ!!
ボクは問答無用で彼女をボクの協力の磁気の餌食にした。 食らった彼女は耳がおかしくなったのが声にならない声でもがく。 よし、今のうちに。
「チカ、チカ!! エビくん!!」
チカはやはり人間ではなかったのか傷はとっくに塞がっており、ケミを睨んでいた。 そしてエビくんは目の光が失いそうなほど弱っていた。 そしてその隣ではじじい——おじいさんがエビくんを守っていたのか勾玉を背中に乗せていた。
「まずい、エビくん!! エビくん!!」
「一応この勾玉で血が出る時を遅くしていたが……やはり最初にあの量が出たからには…」
「チ……トセ…」
「もう、もう喋らないで。 お願い…」
「————」
その時チカが近づき無言でエビくんの背中に手を添えた。
「一体。一体何を?」
「パラクパータラ」
謎の呪文を言った後、エビくんは静かに息を引き取った。
「————!!」
その時チカが泣き出した。
「ごめんなさい…ごめんさい……もうこれしか……マロ…ごめんなさい…」
チカは泣きじゃくりながらボソボソと言う。
マロ…多分エビくんのことだろう。 ボクは今までずっと共に旅していたエビくんが死んだ。 どうして…どうしてボクの周りの人は死んで……いなくなるの?
でもエビくんはボクの家族の友人ヤスケさんを殺した。 許さないと誓ったはずなのに…なんで、何で悲しいの?
そして殺したはずのチカには怒るどころか同情してしまう。 だって自分の大切な人がこんなにも苦しく、そして治すことも出来ず死んでしまうなんていやだ。 多分ボクでもこのような状況であったが同じことをするだろう。
すると後ろから寒気がした。 そして振り向いてみるとケミが薄笑いをして、こちらを見下していた。
「あら、そんなことしてて良いのかしら?」
ケミは勢いよく剣をこちらに突き刺し————。
ボクは意識が途切れた。
*
ごめんなさい、ごめんなさい。
私は殺してしまった。 あの暗い怖い研究所の中で唯一私のそばにいてくれたお父さんみたいな存在のマロを。 彼は私が施設唯一の人型の生物なだけあって、新生命体たちの、研究所の人間に対しての恨みが私にきた。 なんで、なんで?
その時私は何度も自殺しようとした。 けどその時にずっと私のそばにいてくれたのは貴方…マロなの。
嬉しかった。 だって私に優しく接してくれたのは貴方だけだったから。
ご飯が足りないと泣いたら貴方は自分の餌を腹が空いてるだろうと言って渡し、そして遊び相手が欲しい時は貴方が率先して遊び相手になってくれた。 本当にありがとう。
そして研究所が謎の爆発を遂げた時貴方は薬物を投与されてたみたいでとても暴走していた。
私の方にも来て、この時私は死を覚悟した。 でも貴方は殺さずこう言ったよね?
「ごめんね」
なんで謝ったの?
私はあの時再会を果たした時…二人きりになった時にこれについて聞きたかった。 それと再開して山道を登った時貴方を知らないって言ってごめんね。 本当はよく覚えてる。 とても嬉しかった。 けど少しだけ嫉妬してしまった。 赤いタコ————チトセを連れてたから。
でもチトセと話したらなんで人付き合いが悪いマロが彼についていったのかがわかった。 だって一緒にいたらとても楽しいもの。 そして出来たら三人でどこかにお出かけしたかった。 でもそれはもう無理。
私がマロを殺してしまったから。 ただ、マロが苦しむ姿を見たくなかった。 もし私に体を治す術を持っていたら使いたかった。 でも私にはそれはない。
そして挙句には————。
「————!!」
「ふふふ、血は現実と同じ生命体と同じく赤いのね」
チトセが殺された。
許さない。 許さない。
「じゃ、今度は貴方の番よ? 貴方の大事な人たちに会わせてあげる!」
「が…クルップ——」
「させない」
彼女は笑顔でこちらに突っ込んできた。
「————綾羽原義神あやばはらのかみ、時空我に司らせよ」
——————。
————。
——。
じじいが勾玉を残り一本の手に握りしめ、何かぼそっと言った瞬間にあたりの風景が変わった。
そこは少し不気味な感じの山で、気をゆくと殺されるような感じがした。
目の前を向くとじじいはチトセを抱えていた。
チトセは剣に貫かれて死んだはずなのに…なぜか傷が無かった。 もう再生したのかな?
「あ、あの————」
「静かに。 ————あんな状態だ。 そう遠くまでは移動できていない。 バレたらもうおしまいだ」
私はじじいの指示に従い…静かにした。
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