第9話 彼らは何者か?
「・・・・・信じられない」
チカの怒りがボクからエビくんとタケヒコに移った。
チカは仁王立ちで、腕を組み。 その前で正座しているタケヒコとリラックスしているエビくんをゴミを見る目で話しかけた。
「貴方たちが話し合いがあるからチトセが起きるまで待ってっていってたくせに、やったらやったで10分もかからず寝るなんて頭おかしいんじゃないの?」
「いや、ははは・・・・・・」
「なめてんの?」
「い、いや」
「あんたが基地に無線かけて今は言っても大丈夫かって聞いて、そしたら急に基地から迎えが来るから小屋で待っといてって言ったの忘れたの? 」
「まぁ、それはあちらにも事情があって」
「事情? 貴方は私を見つけたとき布をかけてくれたから優しい人って判断したのに。 ただの変質者だったんだ」
ん、待って。 タケヒコさん、どんな状況でチカに近づいたの?
「それは君がはーーーー」
「言ったら殺す」
何だろう。 何を言っているのか理解できなかったけど、察しました。
タケヒコは何も言えずその場に座り頭をかいているだけだ。 そしてエビくんは何故かリラックスしている。 いや、本当になんで。
「ねぇ、エビくん・・・・・・」
「この体で正座が出来るわけがないだろう? だから頭を低くーーー」
だからなんで心を読めーーーーー。
「ゴミだこは黙れ!! アノマロカリスも!!」
こっっっわ!!!
・・・・いや、チカは結構いい子なんだけどあまり表情を見せず、怒っているような顔に見えるだけあって、怒っている顔はもっと怖い。
「何であんた達はそんなにマイペースなの!! 今何時だと思ってるの!? 11時よ!!」
「いや、今は午後7時だ。 歩き始めたのは午後6時だったからな。 外が暗いのは、半透明な奴が光を遮っているからだ」
タケヒコは裾をまくり、腕時計を見ながらそう言った。 チカはもういいと言って膝で顔を隠すようにして座った。
・・・・・・。
「何してるの?」
「・・・・・・機嫌がよくなるかなって思って」
「-----」
チカの機嫌を直すにはどうしたらいいのかと少し考えたが、抱きしめてみたらどうかなって思って今背中にしがみ付いてる。
「・・・・・・ちょっとだけだから」
「------」
「なら、そろそろ本題に入らせてもらおう」
エビくんは先ほどの空気を払うかのようにして、話し合いを再開させた。
「お前たち・・・・・特にチカは俺と同じところに収容されていたはずだから我を知っているだろ」
「……さぁ、記憶にないわ」
「そうか、分かった。 タケヒコ、チカはどこの研究所で保護した?」
「……彼女は事故が起きた研究所で保護をしました。 そして事故が起きたのはその研究所だけで、残された資料からアノマロカリス……それとこいつが」
エビくんはタケヒコの言葉を聞いてチカをさらに問い詰めた。
「どうだ? 我が逃げ出したのもその研究所だぞ?」
「そうとは限らないじゃない? 他の研究所の可能性もあるでしょう?」
チカは否定し、話が平行線になった。 タケヒコは少し悩んだ後、口を開いた。
「一応、ここにいるのはほぼほぼ研究所つながりだから一応いっときますけど……我々ウガヤ王軍は君たち新生命体は一部除いてほとんど討伐済みだ」
「はぁ?」
ボクはタケヒコの言ってることにいまいちわからなかった。 何故ならヤスケさんは史上最悪のバイオハザードと言っていたため、新生命体が漏れたとしか思っていなかったからだ。
「わが軍が今している行動はこの世に存在してはいけない……偽りの者たちの討伐だ。 そしてその偽りの者はあの事件を起こした研究所が無断で蘇らせたんだ。 そいつらは完全に把握しきれていないが分かっているのは……チカ、お前だ」
タケヒコは絶対このタイミングでしたら駄目なことを言った気がする。 うん、こういうのは後にするべきでしょ。
「……私はそんなんじゃない」
チカはボクを強く抱いた。
「……なら聞くがニブァル・クッルプ」
「……!!」
僕を抱きながらチカは勢いよく立ち上がった。
エビ君はタケヒコに何を聞いたんだと聞いたが何も答えなかった。
チカは興奮しているんかふーっ、ふーっと息を荒くした。
「……安曇・山戸・神記・筑紫・吉備を知ってるか?」
{……!! キヤ・ッコヤタ」
チカがよく分からない呪文を言ったとたんタケヒコの頭が爆発音とともに吹き飛んだ。 辺りは血にまみれ、隣にいたエビ君は真っ赤に染まった。
「チ…チカ?」
チカは呼びかけに答えずそのままボクを胸に抱いて何処かに走り去った。
「はぁ、はぁ」
下から土と砂利をける音が聞こえてくる。 チカは今山奥で必死に走っているのだろう。
彼女はタケヒコを殺害し、山奥に入ってからずっと走り続けている。
ボクの胸に顔が埋まっているため今山のどのあたりか理解できないが多分かなりの距離を走っている。
長い時間……ずっと。
どのぐらいは知ったかは分からないが、彼女は突然足を止め、その場に座り込んだ。
「グス…なんで生まれただけなのに……ごろされないと…いけないの…えぐ」
頭に温かい水が落ちてきた。
「私はただ…普通に生きたかった……自由にやりたいことをして…うわぁーーん!!」
チカはそのまま大声で泣いた、その時ボクを掴んでいた手が離れ少し転がったが体勢を立て直し、彼女に近づいた。
彼女はぺたんと地面に座り込んで泣いていた。 彼女はひょっとしたらあの研究所でひどい目にあっていたのだろう。 タケヒコを殺したのも何か原因があるはずだとボクは思い、彼女に近づいた。
「チカ……」
「ひっぐ……」
ボクはそっと彼女に抱き着いた。
「私は何で……なんで生まれてきたの…。 お母さんが生きてた時は……もっと楽しかったのに…」
「お母さん?」
「…チホお母さん……私に名前をくれた人…私を一人の人間として…初めて見て!!」
チカの会話を遮って抱きしめた。 彼女はそのまま何も言わず黙った。
「…大丈夫だよ」
ボクはそういって離れると彼女が突然ケタケタと笑い始めたのと同時に周りが赤黒く染まった。
「ミツケタ! ワレラガ主ミツケタ!!」
声が空から聞こえた!
空を見るとそこにいたのは逃げている時にいた半透明の奴がギロリと大空を覆う赤い眼でこちらを見ていたのだ。
奴の眼が裂け、そこからドロドロした液体がこちらに向かってきた。 危ない! チカを守らないと!
「ケタケタケタ」
「チカ!」
ボクは不気味に笑うチカを触手で担いで大空に飛び立った。
「ワガ主ヨドコニニゲル」
どろどろとした者たちはこちらにどんどん近づいてくる。 これはどうあがいても捕まる…よし!
「はっ! どうだ、これで近づけない!」
ボクは体に磁気を張ってチカに指一切触れさせないとそのまま逃げた。
「イタ! ユダンダベアイタ!」
奴はさらにドロドロしたやつは分裂して数を増やしさらにめんどくさいことをしてきた。
「くそ!」
「チトセ!」
後ろから大きな牙を2本持った竜、エビくんがやってきた。
「ヒ! ヒヒヒ!」
エビくんが近くに来ると奴らは何故かそのまま消え去った。
「……何だ? 今のは?」
「いかれた生命体」
しばらく間を開け、休憩した後エビ君が先に口を開いた。
「まさかチトセとニブァルがこんなとこまでいるとは思いもしなかった」
「いや、そのごめんね」
チカはエビくんがきてドロドロとした生命体が去った後、気味の悪い笑いをやめ眠りについた。
「そういえばタケヒコは…そうか死んだんだったね」
「いや、生きてる」
「まじ?」
「気持ちの悪い話だがお前らが逃げた後いきなり立ち上がって頭を生やしながらダッシュで追いかけたんだが…会ってないのか?」
「…うん」
タケヒコさん……普通に気持ち悪い。 ていうかあの人…人間じゃないの?
「まぁ、会ってなくてよかったな。 あれは殺しに向かってる走りだったからな」
「なおさらよかったよ」
そんなことを言いながら空を見るとあの半透明のはいつの間にかいなくなり、月が輝いていた。
「ねぇ、どうする?」
「どうするも何もあの場所に戻れば殺されるだろ?」
エビくんがアイコンタクトを取ってきた。 なるほど遠くに逃げるね。
「ならもう軍からも完全に敵認定されたからいっそ開きなおって人前に堂々と現れよう。 状況もこんなだしお姉ちゃんがどこにいるか分からないから道行く人を捕まえて聞きながら進もうよ」
エビくんはボクの言葉を聞いてしばらく考えてから。
「そうしよう」
ボクとエビくんは難民を見つけるため飛び立った。
「いやぁ、意外にも見つからないものだね」
あれからボク達は空から探していたが、見つけたのは新生命体と思われる者の屍骸とそれと戦ったであろう軍人の屍骸。
そして逃げようとしたが間に合わず殺された者たちの屍骸も見つけた。 この中にはお姉ちゃんとお兄ちゃんは見つからなかった。 そしてチカはまだ眠る。
「一体どこに行ったんだろう?」
「…チトセ、あそこに建物がある。 入るか?」
エビくんが示した方向に木でできた建物を見つけた。 よく見てみるとあそこに白装束の集団がいた。
そうだな、あそこに行ってみよう。
「じゃ、あそこに行ってみよう」
ボクとエビくんとチカはあの建物に向かって降りた。
「ボク達はあの集団が驚かないように気づかい、少し離れたところに降りて近づいた。 ボクはエビくんが戦闘機と同じように反射的に殺さないようにチカをエビくんの背中に乗せ、先頭に立って歩いた。
建物はだいぶ年季が入っているのかところどころボロボロで、天井からぶら下がっている長い枯葉をぐるぐる巻いたやつはもう少しでちぎれそうだ。 ボク達は周りを見渡してもこのボロボロな建物と物置小屋しか見えなかったため、その建物の裏に回るとあの白装束の集団を見つけた。
そしてあの集団はボクたちに気づいたのか一斉に近づく。
あ、これやばそう。
「エ、エビくん? やっぱり出直す?」
「……囲まれたな」
周りを見るとざっと30名いる。 これだけの相手なら余裕で殺せるがあの戦闘機と違って対面交渉が出来るため、その考えはよそう。
集団はボクをじっと見た後今度はボクの前に行き、頭を下げた。
「我らが神、よくぞ戻ってくだされた!!」
一番の前のおじいさんがそういった後周りが続いてボクを崇め始めた。 なんで? 怖い。
「すみません、間違えました。 帰りますね」
「いや、ちょ…神よ! お待ちください、貴方がいないとこの世界が滅びるのです!!」
ボクは別のところに行こうとしたが、おじいさんがボクの後ろの触手を両手で掴んで止めてきた。
「いや、ボクお姉ちゃん探すために冒険しているんで」
「そのお姉ちゃんを探すのを手伝いますのでどうか話を聞いてください!!」
おじいさんは引きずられながらそう言ってきた。 ていうかエビくん徐々に後ろに下がりながら関わらないようにするのを止めて助けてくれるかな? ていうか他の人たちはよく酸化して錆びた血をまとってるエビくんを見ても何も思わなの。
ていうかそろそろ面倒くさくなってきた。
「いやおじいさんボクのお姉ちゃん知らないでしょ」
「大丈夫です、このおいぼれ、生まれて300年。 予言を外したことはございません」
そうどや顔を浮かべながら自慢している顔が安易に想像できる。
「じゃ、おじいさんボクの今の気持ちは?」
「神と呼ばれ、喜ばれているご様子」
「ちゃうな。 では帰ります」
「神よーー!!」
ボクはもう面倒くさくなっておじいさんを振りほどいて飛び立とうとしたがおじいさんの握る力が強すぎて全然動かない…まじで? え、本当にびくともしないんだけど。
「何の騒ぎですか?」
後ろから。お姉ちゃんにとても良く似た声が聞こえた。
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