第47話 盗人

昼間の街、通りは賑わいを見せていた。そこそこ大きい街らしい景色だ。

だが僕には若干苦しいものだ。

僕は上機嫌で歩いているリヤイと共に話しながら宿へと向かっていた時だ。

前を歩いていた彼が、突然足を止め、目を皿にして一人の男を見つめていた。


「あの人見てください、怪しくないですか?」


「へ?」


確かにさっきからキョロキョロ周りを見ていて怪しかったが、そこまで気にするものなのだろうか。


「まあ見ててくださいよ、やりますよあの人は」


不信感を持ちつつ、その男を観察すると、男は露店でものを見ていた女性に、急にぶつかった。


「ああ!?」


「あっ、すいませんすいません」


なんだかわざとらしかった。

謝りながらその男の後についていくと、奴はお腹の辺りで握っていた手からオレンジ色の小さい袋を取り出した。

格好からして、この男のものではなさそうだ、だとすると、この男、掏ったのだ、さっきの女性から。

袋をみてニヤニヤしている。これは黒だ。


「やりましたねあの人」


「でしょでしょ!?」


するとリヤイがその男に向かって歩き出した。

袋ばっかり見ていて前を見ていなかった男は、リヤイとぶつかった。


「いて!なんだよ!?」


「ちょっと来てもらおうかー!!」


リヤイは男の手を引いて走り始めた。何を考えているのだろうか。

そのまま彼らは、人気のない路地へと入っていった。


「な、なんなんだよお前!?」


男がリヤイの手を振り払った。


「出して」


「何をだ!」


「オレンジ色の袋だ、お前、取ったろ?」


「とってねぇよそんなの!!」


男はそう言ってその場から去ろうとした。だが、リヤイが引き留める。


「いや、取っただろう?」


「知るか!!」


逃げようとした男に、今度は足をかけた。

男は前のめりになって倒れかけた。


「あるだろう?」


「ねぇよ!」


今度は男に腹パンするリヤイ。トンみたいな優しい感じの青年だと思っていたのだが、あのジジイの血は争えないか。


「ほら出しなよ」


「ね....え」


顔面を殴り、さらに問い詰めるリヤイ。必死に逃げようとする男だが、逃げられない。

背中を殴られて倒れ、さらに足をつかまれ、地面に引きずり回される。


「そろそろ口割った方が身のためだぜ?」


「か、体中が痛い....」


リヤイに散々ボコボコにされた男は、体の痛みを訴えていた。

それを聞いて、リヤイは何か思いついたかのような表情を見せた。


「ああー、そしたら丁度いい、それならこの薬を飲むといいぜ」


リヤイは懐から、薬を取り出した。


「く...くれるんですか?」


「いや、有料だ、1000ドックくれたらやるよ」


「ああ、じゃあ...」


すると男は、オレンジ色の袋を彼に渡した。


「毎度あり!」


リヤイは笑顔で薬を渡した。男はすぐさまそれを飲み込む。

だが、この薬は.....。


「ああ、腹が.......!!」


やっぱり下剤だった。こいつやることがえげつねぇなと若干引いた。


「ええ、やりすぎなんじゃないですかあれ」


「なあに、出すのを渋るからああなるのさ、ハッハッハ」


そう笑いながら歩きだしたとき、一人の白い服をきた老人と僕らはぶつかった。


「ああ、すいません.....」


「.....」


その老人は、僕らの謝罪に対して何も言わず僕らを見ていた。奴の鋭い目線には、若干の恐怖を感じた。

僕らはそそくさと奴の前を去った。


30分後、街を歩いてようやく袋の持ち主の女性を見つけることができた。


「お嬢さん!」


リヤイは声をかけながら彼女の肩を掴んだ。


「いきなりなにすんのよ!!」


びっくりした彼女に振り向いた際にビンタを食らうリヤイ、しゃーないか。


「いや、あの、突然すいません、これ、落としたのを見かけて....」


リヤイは若干動揺しつつも袋を彼女に見せる。


「ああ、ありがとうございますわざわざ」


彼女は紋切り型の感謝をして袋を受け取り、さっさと僕らの前から去っていった。


「ああ、嫌な女だなぁ、こんなことなら中身抜いとくべきだった」


「まあ、いいんじゃないですか疑われなかっただけ」


ブツブツ文句を言いつつも、薬の配達へと僕らは向かった。

後ろから、視線を感じつつ.......。

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