第46話 強さ

2時間後.....すっかり日が暮れ、辺りは暗くなった。僕は今、トイレの前に、もじもじしながら立っていた。

トイレがしたいのだが、できない。かれこれ10分ぐらい待ち続けている。原因は....リヤイが2時間前入ったっきり出てこないのだ。


「ちょっと!!はやく出てくださいよ!こもりすぎでしょう!」


僕は叫びながら、トイレのドアをダンダン両手で叩いた。


「もう少しだけ...もう少しで全部できると思うんです....」


中からか弱い声が聞こえる。僕はそれを聞いて、ますますジジイに対してむかつき始めた。元を考えればあいつのせいである。あいつがお茶に下剤なんて仕込まなければ.....。

ケツの痛みに苦しみながら、ジジイに対してブツブツ言っていると、ようやくリヤイが出てきた。

僕はようやくトイレに入ることができた。危ない危ない......。


トイレに入っていると、ジジイとリヤイの話し声が聞こえた。僕はそれを耳を傾けて聴いた。


「リヤイ、どうして調合した薬なんて飲んだんじゃ.....?」


「.......言い難いことなんだけど、薬の効能で、体が強くなるなんていうのをお客さんから聞いて、飲んでしまったんだ」


「はぁー、アホじゃな」


バッサリと言った。清々しいぐらいだ。


「飲んでから少しの間は、体中から力が湧いてきて、いい気分だったんだけど....」


「馬鹿言え、そんなもんに頼っても、本当の意味での強さなんかじゃないわ」


「...じゃあ本当の強さって...何ですか」


「自分の努力と才能で成り立つものじゃ、楽に強くなろうなんて、ろくなことにならんさ」


リヤイはそれを聞いて、何も返せなかった。トイレの中にいたので、彼の表情も読み取れない。

確かに強さというものは、ジジイの行った通りのものだと思う。となると今の僕の強さは、神から与えられた才能だけなのか.....。


「二度とするんじゃねーよ」


「はい......ウッ!!」


突然、リヤイが苦しんだので、どうしたのかと思っていたら、突然、トイレのドアがドンドン叩かれた。


「サカグチさーん、サカグチさーん、入れて!!!」


またかよ!!僕はすぐさまトイレから出て、リヤイに譲った。

トイレから出て、庭に行くと、ため息をつきながらジジイがブツブツ言っていた。


「うかつなんだよ....お前の父さんも、それで....」


「ビリーさん?」


僕に気づいたジジイは、ハッとした表情をみせ、僕から目を背けた。


「何言ってたんですか?一人でブツブツと.....」


「何でもないわ!!いいからほら、洗ってこい!!」


そう言って、僕にお椀を押し付けた。ジジイが言いかけたことばが、気になってくる。

だがここで掘り下げてしまえばこの家から追い出されてしまいそうなので黙っていることにした。


次の日、リヤイが仕事するというので、僕もついていった。


「て...店長、お茶、どうぞ」


リヤイがさっきからこそこそ作っていたお茶を、店主に渡した。


「ああーなんて素敵な行動でしょう」


笑みを浮かべながら、店長はそれを受け取る。


「いえいえ、昨日助けてくれたお礼ってやつですよ」


指を立てながら、自身満々な表情で言った。

早速、店主はお茶を一気に飲んだ、美味しかったのか、飲んだ後の表情は安らかだ。


「店長、今日の仕事は?」


「この薬草を○○宿に配達してくるんだ」


店主はそう言ってリヤイに一つの小包を渡した。


「了解了解、すぐ終わらせますよ」


口ではそう言いながら、外へ向かう彼の表情は若干不満そうだった。なんだよパシリか....といった感じで唇をかみしめている。


「ん?」


リヤイが出口から出る前、店主が何かに気付いたような表情を見せた。


「おいまてリヤイ!?お前これに何入れた?」


店主がお茶に入っていたものを尋ねた。なんだか、予想できる気がする。


「ああ、家にあったお薬ですよ、爺ちゃん曰く、滅茶苦茶いい薬だって」


「ど、どんな効能が?」


冷や汗をかきながら尋ねる。


「便通がよくなるとかなんとか、店長苦しんでましたよね、最近便秘で」


やっぱりあの下剤だった。リヤイは多分分かってる、こうなること絶対に分かってる、昨日店主に怒られたことに対する仕打ちである。なかなかの畜生だ。


「あっ....お腹が...やばい....下がってくるっ!」


店主はすかさずお腹を抑え、店の奥へと消えていった。リヤイは笑顔で配達に向かった。

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