第45話 薬

「じっちゃん~!!じっちゃんー!!」


お腹を抑えながら、家の庭へと入ったリヤイ、彼は焦燥感に襲われていた。


「おお、今日はえらい速かったなぁ...」


ジジイは庭で湯を沸かすために火を起こしていた。恐らくお茶を飲むために。


「にしてもお前ーどうしたそんな慌てて、首にでもされたか?」


「いや、実は....仕事先で飲んじゃダメな薬飲んじゃって.....気分がすぐれないんだ...」


「そうか.....」


あまり興味なさげな態度をとるジジイ。その態度が、リヤイの焦燥感をさらに駆り立てた。


「本当に、ホントに気分が悪いんだ....何とかしてよーぉ」


お腹を抑えながら言うリヤイ。


「落ち着けリヤイ、病は気からとかいうじゃろ?お前のその焦りが、気分を悪くしとるかもしれん」


笑みを浮かべながら、爺さんはいった。


「そ...そうかもしれない....」


「深呼吸でもして、気持ち調えろ」


リヤイは言われた通りに深く息を吸込み、気分を落ち着かせた。

彼はその後、特に体に不調が出た様子は無く、ケロッとしていた。

僕はその様子を門の陰からしばらく見ていたのち、家の中へと入った。


「どうも」


「ん?お前、何で帰ってきた?」


ジジイは僕が帰ってくることは予想外と言わんばかりの顔を見せた。まあそうだよな。


「ハハハ.....宿を探したんですけど、どこも開いてなくてですねぇ」


「それは...大変、です、ね」


リヤイはつり革に手足をかけ、空中で構えを取っていた。姿勢を維持するのがとても辛そうだ。


「というわけでビリーさん、お願いがあるんですがー」


「嫌じゃ」


「まだ何も言ってないのにぃ!?」


やっぱりただでは了承しないか.....。

僕は懐から、アレを取り出した。


「これでどうですか.....」


宝石、ゴルダンの塊だ、手のひらサイズだが、売ればそこそこの金が手が入るだろう。

ダビットとの戦いの時にこっそり手に入れたやつだ。

ゴルダンを見たジジイは、しばらく考えたのち、それを受け取り。


「ただでは.....住ませないからな」


「了解、家事なら何なりと」


僕はこの家にしばらく滞在することになった。


「というわけでよろしくねリヤイ君」


僕は吊られているリヤイを見上げていった。


「ああ、は、はい、よろしくです....」


苦悶の表情を浮かべながら、彼は答えてくれた。


「癪に触るようなことしたら直ぐに出てもらうからな、覚悟しておくんじゃぞ」


お湯を作りながら、ジジイはいった。


「気を付けます」


追い出されてしまってはたまったもんではないので、誠実に答えた。


しばらく僕はリヤイの修行を観察した。彼は本当に辛そうだ。つられながら体のバランスをとって、構えを取るなんて僕にはできない。

すごい力だが、ジジイはまだ満足していないのか、止め、とは言わない。


「もう....限界....」


「お茶ができるまで待つんじゃ」


リヤイの体はプルプル震えていた。本当に限界が近いのだ。


3分ぐらいたって、お湯が沸き始める。


「いい....?」


「ここから1セット、行け」


リヤイはせわしく動き始めた。散々吊られてからのこれなので、つらいなんてレベルのもんじゃないだろう。


「ぐっ...あっ....」


リヤイの筋力は限界を迎えていたのか、腕が上がらずだらんと、体が下がりそうになったその時。


「おっと」


ジジイが彼の足元にお湯の入った器をやった。


「あっち!!」


リヤイはそれに足が一瞬ふれ、暑がった反応を見せた後、腕が上がって、無事に懸垂することができた。


「続けろ」


リヤイの体はとっくに限界を迎えているはずなのに、なぜ無理やりやらせるのか、僕は理解できなかった。


「物凄い厳しいですね....あなたの指導って」


「なあにこんなの当然じゃ」


つり革を使ってグルんぐるん回るリヤイを尻目に、彼はお茶を沸かし続ける。

一通り終えたリヤイが、こっそり地面に降りようしたとき、再びジジイはそこにお湯が入った器をやった。


「あっつ!!」


リヤイは再びつり革を使って動き始めた。


「戦いというのは、気力と気力のぶつかり合いじゃ」


お湯がちゃんと沸いたのか、ジジイはお椀にお湯を注ぎ始めた。


「そして全身の力が無くなったとき、体を動かすのも気力じゃ」


お茶ができたのを確認したリヤイは、最後まで体制を崩さず、綺麗に着地した。


「まずは、それを鍛えない限り、強くはなれない」


疲れてその場に寝ころんだリヤイに、ジジイはできたお茶を飲ませた。


「どうだ、もう気分は悪くないか?」


「ええ、上々です」


彼はつり革を掴んで2回転ぐらいした。


「体が軽ーい!!」


そう叫んだ。が、着地すると再び腹を抑えだした。


「どうしました!?」


「ヤバい.....腹が、くだって.....」


彼はトイレへと駆け込んでいった。


「ハハハ、下剤が効いたかな」


ジジイが笑ってそう言った。やはりこいつはクソだと、改めて思えた。

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