第43話 ひとまず、終わり
戦いが始まった....。僕の体の全神経に、緊張が走る。一対一で、人と戦うのは初めてだ。
不死身だから楽勝だと思うじゃん?全然そうじゃない。ここまで読んでくれた人なら分かると思うが、僕自身は魔法以外何もできないのだ。人を素手で、殴ったこともない。
勝てる気がしない。だが、挑まなければならない。人生生きてて、こういうことはたまにある。
僕は早速唱えた。
「ボッカス・ポーカス!!」
何が出るかわからないので、僕から若干離れた所へ魔法陣を出した。
出て来た物は.....なんと伝説の鎧!!やったぁ。光り輝く鎧を、すぐさま拾いにいく。が
「させるか!!」
ウィルランは旗を振りまわして風を起こし、鎧を吹き飛ばした。
輝く鎧は、川の中へ沈んでいった.......。ああああああ!!
なんでこう伝説の装備は使わせてくれないんだろうか。
にしても、このウィルランという男は厄介だ。風やら爆発魔法やらを操って....なかなか強敵じゃないか。
再び唱える。
「ボッカス・ポーカス!!」
出てきたのは、モンスターだ。まぁ棒とか花とかよりは遥かにましだ。
ステインクルというモンスターで、体は青く、象並に大きい。能力は目を合わせた相手を洗脳して操るというものだ。
ウィルランが驚いているうちに、僕は近くで戦いを見ていたダビットを連れ、逃げることにした。
「逃げましょう!」
「ああ」
僕はダビッドの体を引っ張ったが、逆に引かれて川に飛び込んだ。
え?なんで川に?
ダビットは僕を抱えて泳ぎ始める。川から逃げて、本当に良かったのだろうか。
後ろから爆発音が聞こえた。まさか、もう倒されてしまったのだろうか、びくびくしながら進んでいく。
すると突然、ダビッドが川から飛び上がった。なんだ!?と思うと、僕らが泳いでいたところが爆発した。
どうやら、もう追いつかれてしまったらしい。後ろに、旗の上に乗って川を進むウィルランが見える。
「ボッカス・ポーカス!」
慌てて僕は唱えた。だが、出てきたのは、モンスター召喚の書。ふざけてんのか?
ウィルランが手をかざした。また、爆発魔法だろう。僕らは再び跳んで逃げる。
そしてそのまま、山奥へと向かった。最初はそのまま逃げるもんだと思っていたが、開けた場所についたとき、そうではないと察した。
その開けた場所には、彼の師匠の墓と思わしきものがあったのだ。
墓の前に刺さっている剣を、彼は引き抜く。まさか、戦うつもりなのだろうか。
僕は剣を手に取り、うつむくダビッドに駆け寄る。
「戦うんですか.......」
「ああ、どうやら俺は、戦いから逃れられなくなっちまったみたいだ.....」
彼は、苦悶に満ちた表情を見せていた。彼の苦しみに、僕は何も言えなくなった。
やはり、こうなる運命なのかと、落ち込むことしかできなかった。彼を再び戦いの渦に巻き込まれるのを阻止できなくて、申し訳ないと、心の中でシリーさんに謝罪することしかできなかったのである。
「こうなっちまったのは俺の責任だ、このまま誰かに任せてどうにかなる問題じゃねぇ、だから、戦う」
そう落ち込んでいると、森の中から奴が現れる。
「見つけたぞ....」
ゆっくりと歩んでくるウィルラン。ダビッドの手に剣が握られているのを見ると、彼は足を止めた。
「やっと戦う気になったか」
「ああ、そんなに俺と戦いたいのなら、望み通り挑んでやるよ」
さやからゆっくりと、剣を抜く。
「切り捨ててやる!」
ダビットが飛びかかった。ウィルランも、高笑いを上げながら彼の攻撃を受け止める。
しばらく鍔迫り合いを行った後、ダビットは大きい岩の上に飛び移る。
「逃がさんぞ!!」
ウィルランは大きく旗を振り回そうとした。が、旗はなんと、真っ二つに切れていたのだ。
「なっ」
驚く間もなく、ダビットが切りかかり、ウィルランの左胸を切り裂いた。
力なく、ウィルランは倒れた。
息を切らしながら、ダビッドはその場に座り込んだ。
戦いが終わって一瞬、ホッとしたのだが、よくよく考えれば、このウィルランはクランのリーダーではない。つまり、まだ戦いは続くかもしれないというわけだ。
ふと森の方を見ると、シリーと共に、見たことのない連中が僕らを見ていたのだ。
奴らは、クラン”龍封”のメンバーなのか?シリーと共に僕らに近づいてくる。
シリーが、ダビッドに駆け寄った。僕は連中が脅迫しに来たわけではない事に安心した。
「あなたたちは......?」
「我々はクラン龍封、そして私がリーダーのタショウだ」
その答えに、一瞬身構える。
「ウィルランの暴走を止められず、本当に申し訳なかった....ウィルランは我々の中で一番の実力者だ。我々の力では、君たちを倒すことはできぬ」
落ち着いた様子で、答えた。
「それ故に、実力者を失った穴は大きい、そこで一つ君に頼みたいことがある。迷惑をかけた上に、いきなりで申し訳ないが」
ダビッドの方をみていった。
「なんだ」
「実は、今日から三日後にこの近くの○○町から西にいった所にある森で”ルッドハーヴェイジ”を討伐して欲しいというクエストがあってな、是非とも、協力していただきたいんだ」
タショウは深々と頭を下げた。すると、隣にいた側近が前に出る。
「お金に困っていないか?多く報酬を分けてやるぜ」
タショウの側近みたいなのが、偉そうな口調で言う。
ダビットは、シリーと顔を見合わせたのち、いった。
「お断りいたします、私は、もう何も切りません」
そして彼は、剣を差し出した。彼はやはり、戦いからできるだけ自分を遠ざけたいみたいだった。
「この剣を、貴方にお渡しします。優秀な剣士が現れたら、渡してください」
タショウは剣を受け取り、満足そうな顔を見せた。
「誰にもこの剣を渡すことなんてしない、君がまた、戦うというその時まで、私は、この剣を取っておこう」
「それは多分、永遠に来ないでしょう。この山奥で暮らしていくつもりです」
去っていく連中に、シリーが声をかける。僕は彼女が望んでいる生活が、いつまでも続くことを、心から望んでいた。
なぜならウィルランを切った時にダビットが見せた表情は、この世のものとは思えないほど、疲れ切っていたものだったから.....。
ひとまずこれで、ダビットの戦いは一旦終わった。一旦だ。この話には続きがあるのだ。
それはまた、別の機会に書きたいと思う。
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