第42話 連鎖

剣を手にしたダビット。ここからが勝負だ。

チャーロンは縄をブンブン回し、動きを警戒する。

ダビットはさやから剣を抜き、構え始める。

鎖鎌の一撃が、ダビットを狙って放たれた。だがその一撃は、簡単にはじかれる。少々驚いたような反応を見せるチャーロン。これはもう、短期で決着つけるしかない。

そう考えたのだろうか、彼は飛びかかった。それに応じて、ダビットも飛ぶ。


ズッ!


何か刺さったような音がした。

空中であった二人は互いの肩をつかみ密着しながら降り立った。どっちかが、刺されている。

下にぽたぽた落ちる血液が、そう示しているのだ。シリーが駆け寄ろうとしたので、僕は引き留める。

涙を流して僕の顔を見るシリー、今はまだ、駆け寄るべきではない。彼を信じて待ってほしい。僕はそう目で訴える。

2人が、離れる。その瞬間、カムカイが笑みを浮かべた。


刺されたのは....チャーロンの方だった。


「見事な剣術よ....本当に貴様は、チョーシュンの、弟子なのか?」


「ああ、そうさ、これまでも、この先もだ」


怯むチャーロンの首を、サッとダビットが切った。首は地面に転がり、ルーミンのもとへと行く。


「お父様ーーーー!!」


叫び、取り乱した。首を抱いて、泣き始める。

そんな彼女を、ダビットは無視して、僕らの前に来る。


「終わったな....」


「そうね....やっと」


このやり取り、どこかで聞いたなぁ....。この何とも言えない雰囲気も、どこかで。

その後、ダビッドとシリー、二人は師匠の墓へと向かった。


僕はもう彼らを追うようなことはしなかった。復讐が終わった彼らの後を追う必要はない。そう思った。

いや、だた単に復讐が終わった雰囲気が気味悪く思い、去りたかっただけなのかもしれない。


その後、僕は別の街で冒険者業を再開した。あの事件に関わったことでの弊害無く、いつも通り行えていた。

あの日までは......。


大体二週間ぐらいたった日の事、山奥でクエストを終わらせて、麓へ戻ろうとしたときのことだ。

山中を歩いている時、それは起こった。

突如、草むらがガサガサと動いたかと思えば、一人の女性が飛び出して来て、首を切ってきたのだ。


「おわぁ!!」


突然の攻撃にびっくりした。山賊か何かかな?と思い、平然な顔をして立ち上がると、そこにいたのは、あのルーミンだった。


「なぜ.....立ち上がれる!?」


驚愕した表情で、首から血を流す僕を見た。


「悪魔なのか.....貴様は!!」


「人間です、不死身ですけどね。というか、なんで僕の首を切るなんてことしたんですか?」


「父の...仇だ」


「おかしいですね、それならダビッドを狙うはずじゃ....」


「お前のふざけた魔法がなければ、あの男は父の前に現れなかった。そう考えたからだ!!」


確かに、そうかもしれない。だが直接殺したのはダビットだ。彼を殺さずして、僕に挑む理由は一つだ。

彼が恐ろしいのだろう。実際、彼女はダビットにワンパンで倒されているのだ。

僕は得意げな表情で、そこを指摘する。


「....もしかして、ダビットさんが怖いんじゃないですか」


彼女の動きが、一瞬止まる。


「....そんなことはない!あの男の事など、恐れていないわ!!」


明らかに動揺する様子を見せたので、笑ってしまった。


「私には、強力な味方がついている。出てきなさい!!」


突然、僕の奥の方を向いて叫んだ。後ろから、何者かが飛び出てくる。

頭を思い切り殴られた。僕は何もできず、その場に倒れる。


「この男か.....あんたの仇ってのは」


「もう一人いるわ....隣の街のどこかに奴が....」


薄れゆく意識の中、ダビット達に危機が迫っていることは、なんとなく分かった。

数時間立って、起きた後、僕はすぐさまあの町へ戻り、ダビットを探し始めた。街中に彼の姿は無く、シリーの屋敷も空家になっていた。

となると、山の中か.......もしかしたらもうどこかへ行ったしまったか?いや、この辺りに師匠の墓があると言っていた。なのに引っ越すのはおかしい。

必ず、この辺りにいるはず.....。4日間の山奥での捜索の末、足を滑らせ滝に落ちて川に流されている途中、ダビットと会うことができた。


川に流されている途中、突然、僕の体に何かが刺さった。

驚く間もなく、僕の体は地面へ引き上げられる。

地面へ上がると、周りには同じように棒に刺さった魚とかがあった。

周りを見回していると、とある男に、声をかけられる。


「おい、こんなとこでお前何してんだ......?」


質素な服に身を包んだ男だった。

僕を見てもあまり驚かない様子で不思議に思っていたら、気づいた。よくよく見たらこの男、ダビットだったのだ。


「ダビットさ.....ん....?」


「おい、しっかりしろよボケ」


軽く顔をはたかれた。彼は僕の体に刺さった棒を引き抜いた。

なんとか自分の心を平常心に戻す。


「お前....こんな所で何してんだ?クエストでも受けてたのか」


「いや、違うんです、貴方を、ずっと探してて....」


「なんでだよ」


僕は彼に、ルーミンの事を話した。彼は、神妙な顔つきで俯いた。


「そうか......」


恨みを持たれることは承知だろうけど、いざ戦うとなると、複雑な気分だろう。

そう頭を悩ませていると、それは起こった。

突然強風が、僕らを襲った。


「うおおーーっ!?」


吹き飛ばされないように、地面に這いつくばるのがやっとなレベルのものだ。

ダビットさんが取っていた魚とかも、全部吹き飛ばされていく。

ふと対岸を見ると、一人の男が、旗を持って立っていた。


「ふははは!!」


僕らと目が合うなり笑い出す。この声、どこかで聞き覚えがあると思ったら、ルーミンに襲われた時にいた、あの男の声だ。


「何のつもりだ?」


ダビッドが聞く。だが奴は何も言わず。旗をサーフィンの板代わりにして、こっちにやってきた。

僕らの前へ来るなり、ニヤつきながら言った。


「ハハハ、これで何も食べられなくなったな」


魚がおいてあった場所をみる。


「誰だてめぇは?」


不振に思ったダビッドは、奴を睨んで言う。


「私はウィルラン、クラン”龍封”の者だ」


僕はここで確信した。こいつは確かに、あの時僕の頭を殴って気絶させた張本人だと。


「一体なんの用だ?」


「あなたに、勝負を挑みに来た」


僕は身構えた。正々堂々と戦うそぶりをウィルランとか言う奴は見せているが、奴はルーミンの仲間、警戒せざるを得ない。


「ダビットさん気を付けてください!こいつは、ルーミンの仲間です。彼女の復讐を、手伝おうとしているんです」


僕はダビットにそう伝えた。


「勘違いしてもらっては困るなぁ」


急にウィルランが、声を若干張り上げ言う。


「復讐の手伝いなど、そんな泥臭いことに手などかさん、あの女は、所詮我々に利用された愚者にすぎぬ」


そう言って、彼は背中から何かを取り出した。

一本の剣.....これは、ルーミンが使っていた剣。まさか、ルーミンは......。


「まさか、貴方が殺したんですか!?」


「ああ、我々はただ、剣豪と戦いたかっただけだからな、壊滅したクランにただで手を貸すなんて馬鹿な事はしないのさ」


僕はそれを聞いて、いたたまれない気持ちになった。こいつらは、カムカイと似たタイプの奴で、カムカイよりたちが悪い物だ。

ダビットはそれを聞くと、ため息をついていった。


「そうか.....じゃあ、戦うこともないな」


「なにぃ?」


ウィルランはダビットを睨む。


「俺はもう戦わん」


ダビットはその場に座り込んだ。ウィルランは僕を突き飛ばしてダビットの前に立つ。


「そんなのがまかり通ると思っているのか?」


「殴るなり殺すなり好きにしろ、俺はもう剣士であることをやめたんだ」


「ふざけるな!!」


ウィルランはダビットの態度に腹が立ったのか、彼を殴った。ダビットは殴られても、やり返そうとせず、座ったままだ。


「お前と戦って何になる?もう剣も師匠の墓に返した。もう戦うことなんて俺にはできない」


彼もどうやら、復讐を終えて心がすり減り、剣士として戦わなくなってしまったようだ。

いささか復讐されたルーミン側にとっちゃ勝手過ぎてたまったものではないが、もうルーミンはいない。もはやダビットはある意味で無敵となったのだ。


「俺は死ぬまでのんびりとここで暮らすんだ。もう誰とも、戦わない」


「そうか......」


顎を撫でながら、ウィルランは考え始める。

そして。


「ならばまずここで、跪いてもらおうか」


ダビッドは一瞬、ハッとした表情を見せた、彼はプライドが高い男だ。僕ならハイッとできることだが、元誇り高き剣士である彼にとっては相当屈辱であることは間違いない。

だが彼は地に手を付け、頭を下げた。

ウィルランは優越感を感じたような表情を見せる。


「これで、十分か?」


心底イラついているのを我慢しながらダビッドは顔をあげる。平穏な生活を送るために、ここは我慢せざるを得ない。

一方で、この時の僕は平然を装いながら、心の奥で、不満を持っていた。ウィルランの態度に、只々むかついた。


「いいや、まだ満足しないね、礼儀作法を、貴様の体に教え込んでやらねばなぁ?」


そう言うと、彼はダビッドの手を足で踏みにじった。


「ぐ、あああ~っ!!」


かなり強い踏みつけに、ダビッドは苦しみ始める。だが彼は、抵抗はしない。二度と戦わないという意思を、彼は曲げなかった。

手の甲を十分踏みつけると、今度は手首を踏み始めた。段々と、皮膚が紫色に染まっていく。


僕は我慢出来なかった、他人が屈辱されるのを、僕は黙って見過ごせる性分ではない。彼の意思は、この世界において尊重されるべき物である。


「ボッカス・ポーカス!!」


僕は唱えた。が、出て来た物は宝石、投げるのが精一杯、しかも当たらない。ウィルランは僕に向かって旗を振った。すると、僕の足元で爆発が起きる。


「ほう.....私への贈り物かね?」


やっぱり僕はダメだ。だがダビッドを、なんとか彼の足元から離すことができた。


「彼は....戦わないと言っています!だから、諦めてください」


僕は戦えないダビッドのかわりに、戦おうと決めた。あの夜に見た、シリーとダビットのやり取りを思い出すと、ダビットを再び戦わせようとは思わない。

僕が、僕が戦わなければ。


「貴様が来るか.....まあいい」


ウィルランは、完全に舐め腐った態度を見せる。今に見てろ。

この魔法の恐ろしさを、教えてやる。

僕は棒切れを、強く握った。

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