第40話 戦い、戦い、戦い
あの話が終わった後。僕はダビッドと共にシリーの家に来ていた。あまり人の家とかには進んではいる性分ではないのだが、この時の僕はおかしかったので、彼女に誘われると、ほいほいついていってしまった。
ダビッドは、心底迷惑そうな顔をしていた。
僕らはテーブルを囲んで椅子に座り、酒とか飲みながら、色々話し始めた。まぁ僕が何者かとか、そういった話だ。
「ハハハハ!!」
しばらくすると、ダビッドは酔ったのか、笑い始めた。
そして、ドンッとテーブルを殴り、ブツブツ文句を言い始める。
「畜生.....あのカムカイとか言う奴、ふざけた話持ち込みやがって.....糞野郎」
あの場では平気な顔をして聞いていたダビッドも、心の中では反対していたようだ。
「こちとら、早く終わらせたいってのによぉ.....!!」
シリーに注がれた酒を、グイっと一気に飲み込んだ。
その後突然立ち上がり、剣を抜いて強い口調で言う。
「あいつ...絶対に何か企んでやがる....」
カムカイの提案には、若干僕も思う所があった。
「多分、適した場所で戦うと言っておきながら、自分達に有利な場所で戦う気でしょう」
「ああ、そんなとこだろうなぁ!!」
彼はその後も、ヤケになっていたのかぐいぐいと酒を飲み続けた。酔いは、有頂天に達している。
剣を抜きながら、ろれつがうまく回っていない状態で語り始める。
「俺は....この復讐を絶対に成功させる....そうすりゃあ、ししょうと俺の気は、きっと、晴れ晴れとするんだろうなぁ」
「そうとも....限らないですよ」
「なんだとぉ....?てめぇ」
ふらつきながら、僕に顔を近づけた。
「経験したことあんのかぁ?」
「僕は.......ないですけど、一人の友人が、復讐を行ったんです。自分の父親を殺した相手を、殺したんです」
「そいつぁたいしたことじゃねぇかぁ」
「そうでもないんです、彼は復讐を終わらせたあと、自分の気持ちについてこう語っていました”嫌な感じが.....ずっと僕の手に残っているんです。人を殺した感覚が、手にずっとついたままで....”と」
「.......ふん!俺はそんな軟弱な男じゃねぇ!きっと、心地よい眠りにつけるようになるさ!!」
そう言って、笑っていた。
次の日、いつの間にか、僕らは眠っていたようだ。
テーブルに顔を伏せて、眠っていたようだ。そんな僕らには、毛布が掛けてあった。
僕はいつの間にか寝ていたことに驚きつつも、起き上がり、ダビッドを起こした。
「朝ですよ....ダビッドさん」
「うん.......」
酒を飲んだ影響か、目覚めが悪いようだった。だが、彼はあることに気づき、ハッと目が覚める。
「....ん......あ.....俺の..俺の剣がないっ!!!」
彼が肩身離さず持っていた剣が、彼の手元からなくなっていたのだ。
部屋中を慌てて探すが、剣などどこにも見当たらなかった。
それと、もう一ついないものがあった。
「シリー.....シリーはどこだ!?」
シリーが、家中どこを探してもいないのである。
これで大体のことが察せた。
「シリーの奴....俺の剣を持ってどこか行きやがったんだ......!!」
こういうことである。
僕らはすぐさま、外へと飛び出た。
「なんか....心当たりみたいなのないんですか?」
「ない....」
街中探したが、どこにも彼女はいない。
仕方なく、森に入っていった。
「こっちにいって、本当に大丈夫なんですか....」
「無理してこなくてもいいんだぜ?」
「いや別に僕は構わないんですが....」
こんな森の中に、彼女が一人で入り込むなんてとてもじゃないが考えられないのだ。
そんな感じに思いつつも、僕らは森の中をずんずんと進んでいった。
しかし突然、ダビッドが足を止めた。突然の事だったので不振に思ってよく彼を見ていると、斜め上を彼は向いていた。
一体何が見えているのだろう?と思っていたら。
突然、斜め上から矢が降ってきた。
僕の反応速度では対応できず、僕に向かって飛んできた矢の大体は僕に刺さった。
一方ダビッドは矢をかわしたり掴んだりして全てやり過ごした上に、矢を投げた。
ドサドサっと、重いものが落ちたような音がする。当たったのだろうか?
「ケッ、ふざけやがって」
ダビッドが愚直る。
体に刺さった矢を抜きながら、左にある斜面の上を見てみると、カムカイとルーミンの仲間がいた。
あいつら、いつの間にか手を組んでやがる。
それをみてむかむかしていると、今度は上から岩が多く降ってきた。
ま、まずい.....逃げきれない....。そんなことを思っていると、ダビッドが僕に近づいてきた。
いったい何をする気なのだろうかと思ったら、僕を頭上に持ち上げた。
僕を盾にしてやり過ごすようだ....頭やら背中に滅茶苦茶石がぶつかって死ぬほど痛い。
しかも大量に降ってきたので、最終的に、僕らは埋もれてしまった。
頭に多く石がぶつかったので、意識が朦朧とする中、僕はダビッドが無事かどうか心配していた。
埋もれてから、特に動きがない、まさか、死んだか?
外から歓声が聞こえる、奴らは僕らがくたばったとでも思っているようだ。
すると、なんか体が持ち上がる感じがした。上にかぶさっていた岩が持ち上がって、周りが一気に広くなった。
「なっ.....!?」
周りの連中が、驚いたような表情を見せた。
「かかれっ!!かかれぇ!!」
周りの連中が、僕らに襲い掛かってきた。見回すと、途方もない人数が周りにいることが分かった。
切り抜けるか....?僕ら二人で?
ダビッドは素手でも十分強い、槍もち、剣持ちを殴り飛ばし、十分善戦している。
僕も、頑張らなくては。
「ボ....ボッカス・ポーカス...」
死にかけの表情を見せながら唱える。
出てきたのは......希少金属ゴルダンの大きな塊。
こんな状況ででていいものじゃねぇだろ!!と思ったが、これをダビッドは持ち上げ、投げ飛ばした。
「ぐあぁっ!!」
何人かの頭に激突する。それに周りの連中が怯んだ隙に、ダビッドは僕を抱えて崖上に飛び上がった。
崖上にも何人かは敵がいたのだが、それを全てダビッドが蹴り落とし、うまく逃げることができた。
と思いきや、逃げた先に敵がいた......。15人ぐらいも。
逃げようがないので、僕らは戦わざるをえなかった。
ダビッドに投げ飛ばされた後、僕は唱えた。
「ボッカス・ポーカス.....」
いつもみたいに叫ぶ気力はない。
運もそれに引っ張られたのか、まさかの木の棒一本。
だが、ダビッドはそれを拾い上げ使い始めた。
向かってくる敵に振り上げでうち飛ばし、木の枝にひっかけていく。
敵は続々とやってくる。キリがねぇ。
「ボッカス・ポーカス」
もう一回唱えた。
出てきたのは、木でできたフォーク.....。
まさか木の棒以下のゴミが出てくるとは思いもしなかったが、ダビッドは特に文句を言わずそれを取り上げ、敵の目を刺した。
しばらく戦っていたのだが、本当にキリがなかった。
頃合いをみて、ダビッドは再び僕を抱えて遠くに跳んだ。
が、跳んだ先にまた敵が現れた。どんだけおんねん....。
「ボッカス・ポーカス!!」
むかついたのでボッカス・ポーカスを唱えたら、洞窟の中で出てきたあのマグマスライムが召喚された。
「なっ....あっ....」
連中が混乱している隙に再び跳んだのだが、また先に敵がいた。
「わざとですか!?」
「違うわ!!奴らがしつこいんだよ!」
あまりの遭遇率に僕は思わず言ってしまった。
しかもそこで遭遇した連中は弓持ち。ダビッドは僕を盾にして逃亡した。
が、逃げた先にいたのはさっきと雰囲気が違う黒服に身を包んだ格闘集団。
僕らを見て構え始める。
リーダーみたいな奴が言った。
「ふふふ....貴様らはこの森で包囲されている、逃げられんぞ」
これもう逃げられないんじゃね?
ダビッドと連中の戦いが始まる。2対10、連中は僕らを取り囲み、ダビッドの腕に絡みついて寝技をかけにいく。
上手く切り抜けるが、周りの連中からくるパンチ、キックの押収!!
流石のダビッドも、されるがまま、僕も初激が頭にきたため、上手く動けず、倒れる。
ここまでか.....ダビッドが5人ぐらいに押さえつけられている。もう、動けない。
かに思えた、が。
「こんなとこで........終われるかーっ!!」
気合で振りほどき、連中に次々と飛び蹴りをかける。
ここで、気を失ってもいられない。
僕はなんとか気を確かにして、ボッカス・ポーカスを唱える!
「ボッ.....ボッカス・ポーカス!!!」
出てきたのは、ラピスオニキスの塊!なんでこんな微妙なものばかり出てくるのだろうか。
だがダビッドはそれを持ち上げ、一気に五人ぐらいダウンさせた。
が、投げた隙をつかれ、リーダーに後ろから首を絞められる。
「死ねぇ.....!!」
僕は体を動かすことができないので、助けにはいけない。
ダビッドは必死で抵抗した。前からくる連中に蹴りを入れ、寄せ付けないばかりか背負い投げをきめ、振り切った。
その後も、連中の腕をおったり、顎の骨を掴んでおったり、して次々と倒していき、リーダーとの一対一になった。
僕は気をもっているだけで精一杯。不死身なのにこのざま、ってかダビッドの耐久力がありすぎるのだ。
「はあっ!」
落ちていた大きな岩を踏み台にリーダーが飛びかかるもかわされ、地面に顔からすりすり、砂利だから痛そうだ。
諦めずにまたもや飛びかかるが、倒れた仲間をぶつけられ失敗。
ダビッドは息を切らしつつ、集中して戦っている。
今度は頭突きをくらわそうと突撃したが、ラピスオニキスの塊でガードされた。痛い。
怯みつつもまた突撃したが、交わされつつぶん殴られた。しかも二度。
これには、リーダーも膝をついて悶えざるを得ない。だが、彼は頭を打った影響か、あきらめなかった。
三度目の突撃、最初のキレはもはやなく、ダビッドに石を口に突っ込まれた。そして地面に顔から投げ飛ばされ、石が口の中に入って終了。
なんとか、ダビッドは彼らを倒しきった。
「ああ....これで、これでしまいか」
若干ふらつくダビッドに僕がなんとか駆け寄る。
「終わりましたね....」
「....肩かせ、もう疲れた」
死闘を繰り広げた彼は、僕の体にもたれかかりながら歩いた。
「帰り道分かりますか?」
「そんなのわかんねえよ....でたらめにいったからよぉ」
「ええ!?どうするんですか」
「戦う」
「無理ですよそんな体じゃ!」
彼の体は、滅茶苦茶限界がきてそうだった。もうボロボロである。
「俺の気合と....お前の変な魔法がありゃ、多分行けるさ...」
「いやそんなんじゃ絶対こっちが先に限界を.....」
「こんなとこでヘタレたこというな!!どの道戦わなきゃここから出られねぇ!!」
そんなこんなで言い争いながら歩いていると。
「見つけたぞ!!」
槍だか剣だか武器をもった連中が、多く出てきた。
僕の目はこれをみて死んでいたであろう。だが、ダビッドの目は、輝いていた。
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