第39話 提案

外へ出ると、門の前に一人男が立っていた。クランの連中とはまた雰囲気が違う。

硬鞭を構え、僕らに対峙した。

もうなんか、男、男と書くのは見分けがつかなくて面倒くさいので、ダビッドという名前を剣士の方に付けておこう。

ダビッドは素早く男に飛びつき、剣を一振りした。

男が持っていた硬鞭は、先のほうが折れた。


「結構なお手前で....」


彼は懐から一枚の紙を取り出して、あいさつをする動作を取った。

彼を敵ではないと判断したのか、ダビッドは剣を鞘に納める。


「何者だ?」


「私はヤンヤンといいます。セッキン師匠の命で、あなたに手紙を届けに参りました」


このヤンヤンとかいう青年は、ダビッドのことを知っている?のだろうか。


「はぁ.....今更何の用があるってんだ」


うんざりしたような表情を見せ、答えた。

ヤンヤンは緊迫した表情で、言った。


「実は....あなたが今なさっておられる復讐.....チャーロン達に対する恨みを忘れて頂きたいというもので....」


彼は申し訳なさそうな表情を見せ、彼に手紙を渡した。

だが、ダビッドは手紙を受け取ると、それを一瞬にして剣でバラバラにしてしまった。

ヤンヤンは、何も言わなかった。最初からこうなるのが、わかっていたかのような反応だ。


「こんなもの、読む価値が無いね」


「....セッキン師匠は、あなたを心から心配なされて....」


俯きながら、彼はなんとか返答しようとした。


「知るか、俺は止めない、たとえどんな奴らが相手になろうが、自分の身大事に生きてるてめーらとは違って、俺は戦う。」


彼はヤンヤンに背を向けて、そのまま去っていった。僕はその後について行く。

ヤンヤンと途中、目があったが、彼は僕から目をそらした。僕の事を、亡霊かなんかだと勘違いしてんのかな?

まあ、腹に大きな傷があって、顔面に血がついている姿じゃそんなもんか.......。


数時間後......。

僕らは空が真っ黒に染まった街を歩いていた。

僕の前を、ダビッドはつかつかと歩いている。それに僕は数歩後ろにつき、ついていっていた。

うんざりした表情を見せながら、彼は僕の方に振り向いた。


「てめぇ、いつまで俺の後ろについていやがるんだ?」


「さぁ、僕が飽きるまでですかねぇ」


「いつだよそれ、さっさと失せろ亡霊野郎」


なんで僕がここまで彼に執着していたか、今となってはよくわからない。なんか多分メンタルがぶっ壊れて、自分が制御できなくなっていたのかもしれない。


「走って振り切ろうとかなさらないんですか?」


「めんどくせぇ、そんなことに貴重な体力は使えないんだよ、俺はこれから何人も切るっていうのに....」


「恨みを持つ人間が、そんな多いですかね」


「とりあえず失せろ、てめぇがいると目立つんだよ」


そう言って、彼は再び歩み出した。

と思いきや、突然飛び上がって、近くの家の屋根に着地したかと思いきや、僕の方にバッと飛びかかってきた。


「うあああ!?」


僕としたことが、情けない悲鳴をあげる。

だが実は、このときダビッドが飛びかかったのは正確に言うと、僕ではなかった。僕の後ろにいた、一人の女性だった。

飛びかかったダビッドは、彼女が被ってた唐傘帽子を小突いて落とし、顔を晒す。


「さっきから何なんだ....どいつもこいつも、俺をつけて来やが....」


彼女の顔を見た瞬間、ダビッドは急に口を止め、彼女に背を向けた。

一体どうしたんだろう?思っていると。


「ダビッド.....!!」


急に彼女が、ダビッドに駆け寄った。なにも言わぬダビッドに寄り添い、声をかける。


「どうしても、いかないといけないの.....」


「.......」


彼は彼女のかける言葉全てをはねのけるように無言で何も言わず。只々俯いて、何も返さなかった。

まるで、閉じこもっているみたいだ。


「なんか....なんか言ってよ!!」


泣きながら、彼の肩を叩いた。見ていられないが、口もはさめない。

ただ苦しくなるだけだ。


「すまない......」


完全に無視することは、どうやら彼にもできないようだ。

すまない、一言だけ言った。


「誰にも、何にも強制されているわけでもないのに、どうして戦うの.....?心配で、心配で、あなたのことを考えると、眠れない」


「やらなくては、ならないんだ。これは自分で決めたことなのさ。なに、心配はいらない。俺は剣術に関しては天才、必ず勝って帰ってくる」


彼は彼女から離れて歩み出した。


「だから待っていてくれ、シリー」


これを最後に、彼は去ろうとする。だが、彼女は駆け寄り、止めようとした。


「駄目!!復讐なんて、何にも、何にもならないのに、今の生活がいいのなら、それでいいじゃない!」


彼女は腕を掴んで、引き留めようとする。だがその腕は、ダビッドに振り払われた。


「....確かに、恨みも何も忘れて、幸せになるのなら、それに越したことはない。だが俺は、今でも夢でありありと思い出しちまうんだ。師匠がフラフラで帰ってきて、俺に遺言を言いながら、この剣を託す、全て、全て思い出すんだよ、その時の悔しさも、奴らに対する恨みも!!!」


彼は強い口調で、叫ぶように言った。

その言葉には、強い説得力がある。


「....本当に、やめないのね」


「ああ、現に俺は師匠を殺すよう計ったクランの一つを壊滅状態に追い込んだ。そこにいるボケがその証拠だ。もう引き下がれはしねぇ。」


彼女は僕の方を向いた。


「いや....僕はただの雇われだったんで別にそんな.....」


あのクランには別に愛着もなんもない。ダビッドは再び歩み出した。


「ダビッド、忘れないで、あなたには.....帰ってこれる場所があることを」


「ああ」


彼らのやり取りは、ここで終わった。

帰る場所か.....僕にそんなものはない。転生者だからだ。

家族も、何もかも向こうの世界に置いてきたままだ。僕はダビッドがうらやましく思えた。そして、そんな場所がありながらも、復讐という禍々しい渦に突入する彼の心強さは、果てしないものだと感じることもできた。

僕は彼の復讐の成熟に、ますます興味を持ったのかもしれない。僕は彼についていくようにして、歩み出したその時だった。


突如建物の屋根から、二人ぐらい降りてきた。


「危ない!!」


シリーが叫ぶ、だが叫ぶまでもなく、ダビッドはそれに対応していた。

見覚えのある顔をした女性が、ダビッドを剣で突こうとした。

ああ、この人、よく見たらさっきのクランの女の人だ。


もう一人の男が、シリーに戟で切りかかろうとしてきた。だがその攻撃を、突然暗闇から現れた黒い服を着た男が、センスで頭を叩いて妨害した。


「何者だ!」


「ふふふ.....皆さん武術がご達者のようで」


いや誰だてめぇは。


「こんな路地で戦っては人目についてしまう」


誰という問いに返さず、男はペラペラとしゃべり始める。


「名乗りなさい」


クランの女性が改めて問う。

センスをバッと開きながら、男は答える。


「私はカムカイ、”遊び人”というクランのリーダー.....」


彼が名乗った直後、棒をブンブン回す物、なんかでかい算盤みたいなのを持って現れるものなど筆頭に、次々と現れてきて。

15人ぐらいが、僕らの周りを囲んだ。

なんだか、ややこしいことになりそうだ。


「聞いたことないですか.....?私のクランの話」


「ああ、名がある戦士に次々と勝負を挑んでるって連中か....」


嫌なクランだなぁ。


「そう.....なら、この男と戦うがいいわ」


クランの女性...なんか面倒くさいからルーミンとでも名付けるか。

彼女がダビッドに指をさしていった。


「我が父のクラン...."大白虎”をたった一人で半壊に追い込んだ人物....あんた達の相手にとって相応しい男よ」


カムカイはそれを聞いて、ダビッドの方を向いた。


「挑戦ならいつでも受けてやるぜ....」


えっ!?みたいな表情をするシリーを尻目に、彼らを挑発する。


「ほう.....勇敢なものだな」


カムカイは手を後ろで組んで言った。


「私に提案がある。この勝負、この場では置いて、ちゃんとした場で改めて始めないか?」


「ぶざけんな!!そんなヤワなもんじゃねぇぞ!」


ルーミンの仲間が反発する。


「まぁまぁそうおっしゃらずに...」


彼らは仲間を後ろに引き連れ、僕らに近づいた。


「こんなしけた場所で、決闘なんて馬鹿らしい。戦士たるもの、十分な時間と場所を持って臨むのが最善ではないか」


彼はそんなことを言いながら、ゆっくりと歩む。


「まあ断るというのなら、この場でゆっくりと、貴様らをなぶり殺しにするのも悪くはないのだが」


カムカイがそう言ったとき、彼のクランのメンバーが一斉に武器を構えた。


「.......」


誰も、この提案に反対する者はいなかった。

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