第37話 ただ、終わっただけ

マジックアローの攻撃が僕らに向かってきた。

皆すかさず門の壁やら岩やら物の陰に隠れる。

奴らのマジック攻撃は、しばらく止まない。フェイがふと、静かに顔を上げて見てみると....。


「危ない!、あの子、爆裂魔法を!」


僕も見てみると、確かにあのメイドがこちらに赤い魔法陣を向けているのが見て取れた。

これには後退せざるを得ない。僕らはすぐさま離れる。


ズガドーン!!


隠れていた所は、粉々に破壊された。

騎士団が、マジックアローを連発しながらこちらに詰めてくる。低コストの魔力消費だから魔力切れまで待つのは厳しい。

屋敷の西側にある、林にずっと隠れているってのはあまり得策ではないだろう。


「ここいらで、ちょっと使ってみるか....?」


ラングが、緑の棒を取り出した。簡易ボッカス・ポーカス、いいものしか出ない方だ。


「気を付けてね.....」


「ああ....」


彼は木陰やらに上手く隠れつつ、敵との距離を詰めて行き、唱えた。


「ボッカス・ポーカス....だったか?」


緑の棒を上手く振りかざした。出てきた物は.......。

スイカやらジャガイモやらステーキやら食べ物ばかり。


「こっちだ!!」


当然戦いでは使えない。それどころか敵に大体の位置がばれてしまった。

全速力でラングがこっちに戻ってきた。


「全然使えない...」


「まあ、こんなもんですよ」


今度は僕が前に出る。赤い棒を手にしながら。


「出てきたぞ!!ねらえ狙え!!」


敵の目の前で、僕は唱えた。


「ボッカス・ポーカス!!」


唱えた瞬間、体中を針で刺されたかのような痛みが走った。思わずその場に転げまわる。


「ぐあああ.....」


騎士団たちも跪いたり、倒れこんだりした。

痛い、がちで痛い。体の中から痛みがくる。

ふと自分の足を見ると、斑点模様ができてて、赤紫色に変色していた。

ああ、これは、毒だな。

僕はそう実感した。


先方隊が壊滅したとはいえ、まだまだ攻撃は止まない。馬車の陰から、とか色んな所から連中はマジックアローを撃ち込んいる。

止めなければ。痛みに耐えながら僕は這う。

奴らの部隊の中心まで。


林の中に、緑の光が見えた。ラングがまたボッカスったか?

いいものは出てくれたのだろうか。

静かに、静かにはっていくことで、馬車を防護壁にしてマジックアローを売っている連中の近くまで進むことができた。

最後の一回、ここで使うか、もう体の痛みも引いてきたし。


「ボッカス・ポーカス!!」


連中はびっくりして僕の方を見た。


「なっ....?」


たちまち、魔法陣からモンスターが10体ぐらい召喚された。大半はゾンビとか基本的な雑魚だったが、中には両手に巨大なバトルアックスをもち、たちまち人間をバラバラにする巨大なトロル種の「エーオー」みたいなヤバい奴も召喚された。

そこにいた連中はモンスターによって殺されたり、ビビって逃亡し、壊滅した。

残りはあと何人ぐらいだろうか、エーオーから逃れるために林の中へ入ると、ローがメイド率いる騎士団連中に鉢合わせているのが見えた。

彼らは互いににらみ合いを聞かせていたが、遂に激突した。

剣を構えて突撃する騎士団!だが、ローの相手ではない。振りかざす一瞬の隙を付かれ殴られたり、ツボをつかれたり、首の骨を折られたりしてあっという間に8人やられた。

これには、ずっと無表情だったメイドも失笑を隠せない。


「来なさい」


挑発するロー、メイドはゆっくりと歩み寄り、ローに殴りかかった。互いにパンチで牽制しあうも、当たらない。

ひと呼吸おいて、互いに構えをとる、今度は蹴り合いから、隙をついて鶴手をメイドの目に仕掛ける。ローの手は、メイドの左目をうまくこすった。

目潰しだ、これには彼女も怯み、下がった。

左目がうまく開かない。焦りの表情が伺える。

意を決したのかメイドが殴りかかった。だがそれが大振りで隙だらけだったのか、よけられて脇の下を付かれた。

カウンターでもう一方の手で殴るも、足払いを受けて倒れた。


「早く立つんだ」


ツボをつかれた腕が思うように動かないのか、苦悶の表情を浮かべながら立ち上がるメイド。

彼女は立ち上がり、動きやすいようになるためか上着を脱ぎ棄てた。


「打ってこい」


ローは相変わらず挑発するような言動を取っている。腹立たしいものだ。わざとか?

そしてお互いに構えあった。ここからが本当の戦いだ。


ずっと見ていたいのは山々だが、ラングが心配なので、僕はローにこのまま任せてラング達を探しに行くことにした。

林の中、僕は騎士団の一隊とめぐり合ってしまう。


「いた!」


マジックアローの攻撃が僕の方へと飛び交う。僕はすかさず逃げながら、ボッカス・ポーカスを唱えた。


「ハァっ!ボッカス・ポーカス!!」


赤い棒の奴はもう使い切ったので、本元のボッカス・ポーカスだ。

出てきたのは.....猫!

だめだこりゃ。すぐさまマジックアローに貫かれて死んでいった。

必死ににげていたのだが、僕は遂に足を木の根に取られて転んでしまった。


「捕まえるぞ!!」


僕の方に騎士団が次々と迫る。ああ、終わったか。


「ふん!」


突然木の上から、重そうな鎧を着た謎の騎士が現れた。

誰だ?と思ってよく見てみると.....。


「悪くねぇな、これ.....」


ラングだった。彼はマジックアローをものともせず、敵に切りかかった。

恐らくボッカス・ポーカスで出た装備を着たようだ。

騎士団は、たちまちラングによって切り殺された。


「大丈夫?ローおじいちゃんは?」


後ろから、フェイが声をかけてきた。


「メイドと戦ってますね、見た感じ全然勝てそうだったんでほっときました」


「うーん....心配だからちょっと見てくるね、場所は?」


僕は彼女に場所を教え、別れた。


「後はあいつぐらいか.....」


ラングはため息をつきながらいった。

するとその時。


バァン!


一発の銃声、ハッと胸を見ると、胸に打ち抜かれた傷が......。


「あいつ....!!」


ラングはすぐさま銃声の方向に向かって走る。胸が痛むが、僕もついて行った。

林を抜け、キャンプ地みたいなとこにたどり着いた。

焚火の跡がある.....。


「ラングさん!!気を付けて!!」


ムーンの声が聞こえた。その方向に振り向こうとすると、また銃声が響いた。

ラングが無理やり頭を下げさせたので、回避できた。


「ちきしょう!!てめぇ!!」


顔を上げると、ムーンが囚われている檻にチンシーが銃を向けていた。


「おい!俺を見逃さないってなら....こいつの頭をぶっ飛ばすぞ!!」


「うるせぇ!」


ラングが素早く緑の棒を投げた。綺麗にチンシーの頭へと命中し、のけぞった。

僕はそのすきに銃を拾って投げ捨てた。


ラングは...チンシーの首に剣を突きつけた。


「地獄へ行くんだな、糞野郎!」


チンシーは尻餅をついたような体制で、震え上がる。

その辺に転がっていた剣で檻を切断し、ムーンを出した。


「カーランはどこ....?」


一瞬動揺した。


「後で言います、けがはないですか」


「ええ」


僕らは、ラングの傍へと向かう。

ラングは剣を握りしめた。


「これで終わりか....最後まで、転生者に振り回されっぱなしだ」


僕の方を見て、チンシーが言った。その目には、僕に対する憎悪が、ありありと見て取れた。


「世の中理不尽だ!!神は...狂っている!失敗も、何も知らない馬鹿に世界を変えるような能力を与えておいて、俺には....何も」


「グダグダぬかすんじゃねぇ.....しっかり償えよ、地獄でな」


「俺よりも償うべき人間が、すぐ隣にいるというのに.....どうして、俺...!!」


剣先が、チンシーの首を貫いた。


「戯言は、悪魔にでも言うんだな」


ラングは冷めた目でチンシーを見ていた。もはやチンシーは力なく地べたに倒れ、物言わなくなった。


「行くぞ」


僕らはすぐさまロー達のもとへ向かった。僕は、チンシーの死体から目が離せなかった。視界から消えるまで、ずっと見ていた。


林の中を進むと、ローとフェイに出会うことができた。


「フェイ、無事だったか.....良かった」


「ラング....終わったのね、これで」


二人は笑顔を見せることはなかった。疲れ切っていたのだ、精神的に。

勝利したのに、こんなにも嬉しいという感情がわいてこないのは始めてだ、只々、終わったという終末感のみ漂った。

ふと地面に目をやると、メイドが全身から血を流して死んでいた。


ドルの死体を見た時とは違って、可哀想という情が湧き上がってくる、そしてそれは吐き気となって、喉の奥に現れる。

僕は苦しかった、もう書きたくない。この先の事は、もっと辛い......。


ああ、もう最終的にどうなったかだけ書いて、この章の執筆は終えよう。


ムーンはカーランの死を聞き、散々取り乱して行方不明になった。


ラングたちはシューホーさんの活動により、国から追われることはなくなったが、ローカーウェイにはいられなくなった。

クランもやめることにしたらしい。

僕はそんなラング達から一緒にくるように誘われたが、断った。

僕は貧乏神だ、もう彼らの傍にいることなんて許されない。今回の件は僕が悪いんだ。僕が、僕がみんなを狂わせた。


死にたい。でも僕には必ず明日がくる。たとえ僕が望まなくても、日は登る。

一日が始まる。


永遠に。

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