第35話 凶弾
呼吸を整え、僕は物陰からバッと飛び出した。たまたまそこにいた騎士を思いっきりどついて転ばせた。
「いたぞー!!ぶっ殺せーっ!!」
野蛮な連中が、僕に対してマジックアローを一斉に飛ばしてくる。僕はそれを可能な限りかわしたり、物陰に隠れてやり過ごしたりした。
だが、こう長々と隠れているわけにも行かないので、僕は奴らにボッカス・ポーカスで対抗した。
「おらあ!!ボッカス・ポーカス!!」
黄金に輝く魔法陣から現れたのは.....。
なんか黒くて四角い謎の機器だった。敵の攻撃を転がったりして回避し、それを拾ってみると、リピーターというのが裏に書かれていた。
うーん....とりあえず使えなさそうなので敵めがけてぶん投げた。連中は見慣れない物だったのか、結構ビビってた。
ふと横を見ると、ラングが二人を救出していた。よし、ひとまずは成功した。
「ずらかるぞ!!」
僕らは一丸となってその場から逃亡しようとした。と、その時。
目の前に火柱がたった。ラングが僕らを抑えなければ燃えていたなぁ、危ない危ない。
火柱が消えて、前を見てみると、そこには一人のメイド服を着たエルフの少女が立っていた。
僕はこの少女に、見覚えがあった。確かこの子は.....3年前、チンシーの屋敷にいたメイドだ。
僕の顔は青ざめて、だんだんと腰が引けてきた。
「どうする?」
「私が行ってみる、あの子には、昨日散々やられた借りがあるからね」
フェイが騎士団から奪ってきたであろう剣を構え、彼女に向かって行った。
彼女がだすマジックアローだのフロストボールとかをかわし、接近戦ができる距離まで詰めた。
「このっ....!」
メイドめがけて剣を振りかざした。だが、その攻撃は交わされ、腕を取られてねじられてしまった。
「ぐっ....」
が、何とか蹴り飛ばしたことによって大事には至らず。そのままブローをかまし、ガンガン責め立てる。
「俺たちも行くぞぉ!」
僕らも黙って突っ立ているわけにはいかない。向かってくる騎士団を迎え撃った。
僕が前に立って敵の攻撃を受け止め、そのすきに横からムーンとラングが奴らをバッサバッサ切って行った。
「ボッカス・ポーカス!!」
騎士団二人を目の前に、僕は唱えた。
出てきた物は......。
「ウンンンンー!」
毛むくじゃらの....なんだこれ。あ、ラマだ。
ラマが召喚された。
「変なもん召喚しやがって!!くたばれ!!」
騎士団二人はラマごと僕に切りかかった。が、真正面から立ち向かってしまったためか。ラバに唾を吐かれてしまった。
「ゲッほ!なんだこれ.....?くせぇ!!」
怯んでいるうちに後ろからラングにバッサリやられてしまった。
あらかた片付いたか、騎士団の連中はほぼ切られたか逃亡した。
あとはあのメイドぐらいだが....そのメイドがなんだかんだ言って強いのだ。
ふとそっちの方を見ると、フェイはメイドに背中を思い切り蹴とばされていた。
たまらずラングが駆けつける。
倒れているフェイにメイドは魔法を唱えようとしている。
「おらぁ!!」
が、全速力で駆け付けたラングによって思い切り殴り飛ばされた。
倒れてゴロゴロ転がる彼女に、ラングは剣先を向ける。
「さぁ、覚悟決めてもらおうか?」
ああ、終わったかぁ、と油断したその時。
「待て」
僕の後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。そういえばさっきからムーンを見ていない......ああ。
だが、このまま振り返らないのもアレなので、ゆっくりと、後ろを見る。
「ごめんなさい....皆さん....」
やはり、チンシーがムーンの喉元に、ナイフを突き付けて脅していた。
ラングも負けじと、メイドの首に刃を向ける。
「おいてめぇ、ムーンを離しやがれ!俺もこいつを離す。そしたら一対一で勝負だ」
男らしく勝負を提案するラング。だが。
「まあそう焦るな、取引をしようではないか」
とくに動揺する様子を見せず、僕らに取引を持ちかけた。
チンシーとは、さっきから何度か目が合っているが、僕が3年前の爆弾魔だとは気づいてないようだ。
「止めて...!!こいつの話なん....!!」
「黙れ!!死にたくないのなら口を開くな!!」
取引はやばいと叫ぶムーンを、チンシーは無理やり黙らせた。
「分かった。何が望みなんだ....」
圧倒的不利な状況に持ち込まれてしまった。これでは相手の話を飲み込まざるを得ない。
「俺の望みは一つだ....貴様らに捕まっているガリーを俺に引き渡すことだ」
メイドを要求するのかと思いきやまさかのガリー。これにはラングも動揺する。
「分かった.......フェイ、サカグチこの女を見ていてくれ、俺はガリーを連れてくる.....」
なんだか.....いやな予感がする。ラングが去ったあと、フェイと僕は不安しか感じなかった。
それは、当たってしまった。
しばらくすると、僕らの周りに続々と騎士団が集まってきた。いや、まさかまさか付き合いの長い仲間を見捨てるようなレベルの下種野郎ではないだろう。
すると、チンシーがムーンを連れてこずに僕らの前へとやってきた。
「何をする気なの....ムーンを返しなさい!!そうしないとこの子....殺すよ!!」
「ふん、返すつもりなら....最初から君らを拉致したりなどしないさ」
ああ、やっぱりこいつは下種野郎だ、手段を選ばず。僕らを殺しにかかってくる。
「私達を散々つけ回して....一体何が目的なの!!」
「賠償さ」
「それならもうあの時の取引で済んだじゃないですか」
たまらず僕も口を出す。
「そんなものでは、償いになどならん」
一体こいつは何を言っているんだ。僕は理解できなかった。
「じゃあどうすれば...」
「なに、簡単なことだ。貴様らが絶望の底に落とされる。そうすれば、私は満足できるのだ」
とんでもないことを言い出した。こいつといい、あのドルといい、性根の腐った奴ばかりだ。
「どうして、どうしてそんな.....」
あまりの発言に、フェイも理由を聞かずにはいられない。
「金やらなんやら、物での償いなど本当の意味での償いにはならんからだ、貴様ら加害者は、被害者と同じ絶望の底へ心理的に感じることによって、始めて償いというものが完成する....あのクラブの店長は、あの日から客が全く入らなくて苦しい思いをしているんだ。その意味が、解るかね?」
チンシーと周りの騎士団が、じりじりと詰めてきている。
剣を握るフェイの力が、一段と強くなった。
「動かないで!!この子もガリーも私たちが...殺しますよ!」
「今の話を聞いて、私達を脅せるとでも?君たちの償いが多くなるだけだね」
じりじりと詰めてくる連中どもには、僕らも下がらずにはいられなかった。
「君たちは既に、騎士団を多く殺したり、傷つけたりしているのだ。罪は、果てしなく多い....!!」
チンシーの表情も、僕らを思い切り憎んでいると言わんばかりの表情だ。なんで、なんでだ。先に手を出したのはこいつらなのに。
「私はただの貴族ではない。3年前のあの日から、私は真の償いをあの男にさせるために、非道へと歩んだのだ」
僕は只々青ざめた。
チンシーはそう言って、煌びやかな上着を着た。
それが、襲撃の合図だった。後ろにいた連中が、僕らに切りかかってきた。
ここまでか....。ここで捕まってしまってもいいかもしれない。僕はそう思った。チンシーがこんな鬼畜な男になったのは僕のせいなのだ。僕が、あの時逃げなかったら、ここまでの事にはならなかった。絶対、ただの貴族で、彼の人生は終わっていた。
だが僕が、僕がチンシーの屋敷を爆破してしまったばかりに.......!!
僕は諦めて、体の力を抜いた。
その時だった。
後ろの連中が、バタンと地に伏せた。
「何とか間に合ったか.....」
後ろを見ると、ラングとカーランの2人が立っていた。
「ラング.....」
「幸運だったぜ、叔父さんの家、案外近いもんだな」
ああ、こうなるともうあきらめていられない。僕は再び立ち上がる。
メイドが隙をついてチンシーの方へと逃げたが、そんなことはどうでもいい。
パーティーのメンバーが揃ったのだ。負ける気がしない。
「ふん、それで全員か?」
「ああ、もう負けねぇぞ」
チンシーが、攻撃しろ、と手でジェスチャーした。奴らと僕たちの戦いが、再び始まった。
皆それぞれ、連中と交戦を開始した。
僕は開始早々騎士団に頭をぶった切られた。
頭部から鮮血が、どくどくと流れてくる。情けない。
フェイもメイドに再び挑みかかるが、やっぱり強いのか苦戦気味だ。
カーランは敵から奪ったであろうナイフで次々と騎士団を切っていく。
僕もこのままやられっぱなしではいけない.....。
「ボッカス・ポーカス!!」
意を決して唱えた。
が、出てきたのは仏壇。こんなの盾にしかならねぇよ。
チンシーの方は、見なかった。多分僕があの男だと気が付いただろう。
そうこうしているうちにフェイが壁際へと追い込まれていた。あ、やばい、メイドがとどめとばかりに剣を振りかざそうとしている。
もうダメだ。
振りかざしたその瞬間、刃先がフェイの首....ではなくカーランの肩を切り裂いた。
ギリギリで、カーランがフェイをかばったのだ.....。
「っ......!!」
「カーラン!!」
フェイはメイドを殴り飛ばし、カーランに駆け寄る。
彼の肩からは、血が死ぬほど流れている。書いている通りの意味だ。
「馬鹿....俺はいい、早く奴を殺せっ!!」
肩を抑えながら叫んだ。血気迫る彼の様子は、僕の頭に不安の二文字をよみがえらせた。
遠くの方からチンシーが嘲笑う表情で僕を見ている。そう簡単に勝てると思うなよ、と言わんばかりだ。
「逃げるぞ!!!」
カーランの負傷に、ラングは撤退を宣言した。カーランを救うために戦い始めた彼にとって、カーランの負傷は大事だ。
騎士団を蹴り飛ばした後、カーランのもとへと向かい、彼を助け出そうとする。
僕らは走り出した。敵から背を向けて。
だがそれが、それがいけなかった。
「何処へ行く?」
バァン!
突然鳴り響く、轟音。後ろを見れば、チンシーがこちらに銃を向けているではないか。
カーランの足が、突然止まった。
ああ、いや、そんなまさか........。
僕は信じたくなかった。ラングに肩を貸されていて、それで、その背中はがら空きで、それで、そこ、背中には。
銃で撃たれた跡が、そこにあった。
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