第34話 地獄門
朝、異臭漂うゴミの山の中、僕らは目覚めた。
昨日は全く気にならなかった鼻を突くような匂いは、酷く感じられるようになった。
「ああ、最悪だ...貧困街のやつらでも、こんなとこでは寝ないだろうな」
ラングは頭に果物の皮を乗せながら、苦笑交じりに言った。
「まあ、今の僕らはここら辺の人よりも深刻な立場ですからね、まあしょうがないかもしれないです」
「ああ、そうだなぁ~」
僕らはそう話しながら、貧困街から脱出し、店の近くまで来た。
「どうだ?奴らは見張ってるか?」
店の周りにはそれらしき人物は見当たらなかった。ただ、一人の男が、哀愁漂う背を向けて、店の前にポツンと立っている。
ああ、あの人は......。
「......」
彼の顔が見える位置まで出てみると、背中通りの絶望的な表情を一瞬見て取れた。でも僕らに気付くと、その表情を隠して、僕らと応対した。
「良かった....無事だったんだね....君たち」
「すいませんシューホーさん。店をこんなことにしてしまって」
僕らは深々とお辞儀をした。
「一体君たちの身に何が....フェイは無事なのか!?」
「えっ!?叔父さんの家に帰ってきていないのですか!!?」
「ああ、誰も帰ってこないから心配したよ.....!」
僕らは店の中に入り。詳しく今回の事について話した。
「そうか...大変な出来事に巻き込まれてしまったなぁ...チンシー様が、まさかそんな」
「俺も最初に聞いた時は、ここまでの事になるとは思いもしませんでした」
滅茶苦茶になった部屋の中で床に座り込み、僕らは話していた。
「うーん....とりあえず、解決できるかはわからんが、貴族の友人に相談してみようと思う。あと、父さんを呼ぼう」
貴族の友人....もう貴族なんか誰一人信じられない。また、あらぬことに巻き込まれそうだ。
「大丈夫なんですか?その人」
「多分.....娘を転生者の嫁にやったとか聞いたからまあ、チンシーよりかは信用できるな」
と、その時。
ゴッ
裏口から、なにか物事が聞こえた。僕らはすさまじく冷たい空気に、身を包まれる。
ラングは震えながら、「自分が観てくる」とジェスチャーで示した。僕らは、黙って頷いた。
ラングが裏口のドアへと忍び寄り、ドアをバッと開ける。そこに立っていたのは。
ボロボロの服装に身を包んだ、カーランだった。
「カーラン!!」
「ラング....最悪だ。俺たちは、一回捕まっちまった」
「じゃあお前、どうやってここに....」
「フェイとムーンを解放するという条件で、チンシーは俺に貧困街の連中から薬を奪ってくるように命じた」
....まさか騎士団に始めて出会った時の逮捕劇は、こういうことだったか?
「それで俺は貧困街の連中から薬をふんだくったんだが....帰る途中で騎士団に殺されかけたんだ.....また、騙されたんだ」
カーランはぬいぐるみのように脱力してその場に座り込んだ。
「何とか逃げ切れたが....置いてきた二人のことを考えると、とても.....とっても悔しい!!畜生!!」
彼は床を思い切り殴った。そんなカーランを見たラングは、彼の肩に手を置いて言った。
「2人が捕まってる場所....わかるか?」
「ああ....はっきり覚えてる....でも、今行っても、もう....」
「馬鹿、早く行くぞ!!たとえ奴らに何されてようが!取り返さにゃ行けねぇ!!」
威勢よく、僕らを奮い立たせようとするラング、だがその腕は、震えていた。
「カーラン、奴らの場所は!?」
「......○○○○○だ」
「今から俺ら3人で駆け込むぞ!!手段は選んでいられねぇ!!叔父さんはローさんを呼んでくれ」
「ああ、分かった」
僕らは一斉に立ち上がった。死に恐れてはいられない。それぞれの思いが、僕らを戦いへと差し向けた。
表の方から、叫ぶ声が聞こえる。
「出てこい!!そこにいるのは分かってる!!」
僕ら三人は、その声を聞いて、凄まじい勢いで外に飛び出た。
外には、剣を構えた騎士団どもが立っている。
「うーん....これは巻こうか」
僕らは町の中へと逃げていった。だが、どうせ逃げるなら魔法を使いつつ逃げようと僕は考えたので、ボッカス・ポーカスを唱えた。
「ボッカス・ポーカス!」
出てきた物は、なんと伝説の弓!!
だが、魔法陣を展開した場所は、奴らの足元なので、使うことはできず。奴らもスルーしていった。
全力で走って逃げてはいるのだが、二人ぐらい、僕らの真後ろに付いていた。
「これ...まけるか?」
「分からん、とりあえず全力で走るんだ」
僕らはとある建物内の階段にさしかかった。
追いつかれるのを何となく察したか、もしくは階段では囲まれる心配ないから行けると考えたのか。突然急旋回して奴らと戦った。
ひとり、二人、ラングが殴り飛ばして行く。カーランは切り付けをギリギリで回避していた。服の繊維が宙に舞った。
僕は切られまくるのがやっとである。体中から血が出まくるが、まあ胴体なら大丈夫だ。
すると、ラングが、切りかかってきた騎士団の腕をねじり下げ剣を奪い、相手の腕を思い切り切断した。
「ぎゃあ!?」
痛々しい光景だが、殺さないだけ、ましなのかもしれない。
「もう十分だ、行くぞ!!」
3人ぐらい削って再び走り出した。体力はどこまで続くかなぁ?僕らは丸一日何も食べていない気がする。
現代のショッピングモールみたいな店を、僕らは全力で走っていた。途中で何回か追いつかれたり先回りされることが多々あったので、その度に戦闘になった。
なぜ何度も追いつかれるか、それは僕の体から流れている血が原因だったようだ。その時は、二人にあまり相手させたくないという気持ちから攻撃を受けまくっていたが、今思えば馬鹿な行動だ。
戦闘時はなんだかんだ言ってこっちが押していた。数さえ少なければ楽勝だったなぁと惜しく感じるぐらいだ。
騎士団どもは簡単に蹴り飛ばされたり、足を切られたりしている。だがいくら倒しても倒しても、どこからか現れてくる。
「ああ、もう鬱陶しい!!」
「こっから飛ぶぞ!!」
「ええ!?」
僕らは最終的に、二階の窓を突き破って、下にある屋台の屋根に着地した。屋台は僕らを支えきれず。おもっきし潰れてしまった。痛い。
「ああ畜生!重いんだよお前!」
「こんなの、奴らに切られるよりかはましだから我慢しやがれ!」
すると、僕らの前を一人の女性が通った。
ガリーだ。僕らの顔を見てそそくさと立ち去ろうとした。
だがそれを、カーランは逃がさない。
「待ちやがれくそアマぁ!!」
カーランは彼女を捕まえ、建物の壁に押さえつけた。
苦しそうな表情を見せるも、ガリーは叫んだりする様子はない。
「カーラン、その女は?」
「こいつは....騎士団のリーダーの彼女だ...人質ぐらいにはなりそうだ」
「....ふん、馬鹿な事するもんだね、今助けに行ったところで、奴らはもうそこにいない」
若干余裕があるかのような態度をみせて言った。
「ああ!!てめぇ!?今のもう一回いってみやがれ!!」
カーランは押さえつけた状態のまま思い切り膝蹴りをかました。
「待てカーラン!!もう十分だ!こいつを連れていって、奴らの居場所を聞こう」
僕らは白昼堂々、人攫いをしてしまうようだ。
ラングとカーランはガリーを抑え、そのまま人目の付かない路地裏へと向かった。
路地裏で、ガリーを地面に叩き付け、尋問を開始する。
「言え!ムーンたちをどこへやった!?」
ガリーは痛めつけられても顔色をあまり変えない。不機嫌そうな表情のままだ。
「そんなの、私が知るわけないでしょ、馬鹿」
罵倒する勇気もあるようだ。
そんな彼女に苛立ちを感じたカーランは、彼女の目の前に奴らから奪った剣を見せる。
「話さねぇなら.....殺す!!てめぇの首かっ裂いて、クラブにさらしてやるよ!」
「そんなの言っても無駄、あたしを殺したところで、あなたはただの人殺しになるだけ、ますますあなた達の立場が悪くなるね」
剣を見せられても、彼女は態度を全く変えなかった。汗を流しているあたり、怯えはしているようなんだが....。
「それに、あなた達の状況はもう終わりといっても過言ではない、仮にチンシーを殺して、ムーンを救出したとして、戦いは終わらない。あなた達は貴族殺しとして、一生国から追われ続けるのね」
確かにそうだ。全く、嫌な世界だよ。
「そんな話、今はどうでもいい」
黙って聞いていたラングが言った。
「俺は今、ただ、奴らから彼女を救いたいだけだ、今後どうなろうなんて予測はついてるし覚悟は出来てる」
「ここで奴らから取り戻さなきゃ、男として、終わっちまうんだ」
そうだ。僕らはあの滅茶苦茶になった家で覚悟を決めているのだ。たとえ追われる身になったとしても、案外何とかなるんだよね。
ガリーはその言葉を聞いて、複雑な表情をしながらラングの方を向いた。そんな彼女に、カーランが詰め寄る。
「話す気になったかぁ!?」
彼女はただ、無言でうなづいて、口を開いた。
「○○○○の漁港、地獄でも見てくるんだね」
「よし、ようやく吐いたな、糞女」
カーランは彼女に唾を吐きかけた。人間ここまでひどくなれるもんなんだな。
「行こうぜみんな」
「いや、俺とサカグチだけで行く」
「何でだよぉ!」
「お前には、あの女を見張っていて欲しい。いざという時の人質だ」
カーランは腑に落ちないような表情を見せた。
「叔父さんの家に、彼女を連れていけ」
「でもよ.....」
「十分重要な役割だろう?」
カーランは何も言わず、無言でガリーを連れて路地の奥へと向かって行った。
「行くぜサカグチ、運の見せ所だ」
僕らは、ガリーの言っていた漁港へと、向かった。
磯の香り漂う漁港。そこでは、今にもムーンとフェイ二人の殺害が行われようとしていた。
二人は身動きの取れない状況で海面の上につるされ、沈められようとしている。
騎士団の数は30人ぐらいか。
僕らは建物の陰から、その様子を見ていた。
「作戦は?」
「何もない。強いていうならお前に盾になってもらうぐらいか?」
「ひどいですねそれ」
「自分から盾になってたくせに....まあはっきり言って、このまま突っ込むのは無謀が過ぎる。かと言って長々と作戦を立てる時間はない。お前、どのぐらい奴らの攻撃に耐えられるんだ?」
「頭に攻撃食らって失神しなけりゃいくらでも」
「そうか...じゃあお前がまず先に行って、なるべく敵を引き付けてくれ、そのすきに、二人を助ける」
「上手くいきますかね?」
「悩んでてもしょうがない、とりあえず行ってくれ.....」
ラングは僕に頼み込んだ。断ってもしょうがないので、僕は建物の陰から飛び出した。
戦いの、始まりだ。
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