第30話 トラブル
隣の席にいた連中のうち、ガリーとその彼氏っぽい奴以外の男どもが、一気に踊り場へと向かった。
そしてムーンたちの近くで踊り始める。彼女らは特に不信に思わず。踊り続けている。
しかし恐ろしいことに、男どもは次第にムーンたち3人を取り囲み始めた。中の様子はよく見えないが、上げていた手が下がっているあたり、何か気づいたことは間違いないようだ。
まあでも、カーランが近づいたので、包囲は一回溶けた。
しかしこの男どもは、カーランにわざと肩をぶつけたりして牽制している。
さっきまで笑顔だったカーランの顔は、曇り始める。僕も状況をしっかり見るために、踊り場へ向かうことにした。
「おお~可愛いねー」
ムーンたち女子が逃げるように場所を移動しようとするが、連中が前に立ちふさがって思うように動けない。
男どもの数は見た感じ十人ぐらい。カーランは逃げようとする女子たちの方へと向かおうとするが、人が多いのと、連中が邪魔をしているのですぐには迎えなさそうだ。
僕は幸いにも連中に対して認知されていないようなので、上手く傍まで近づくことができた。
「始めるか....」
不意にボソッと耳に入った言葉だ、連中はまさか。この人ごみの中、彼女たちを拉致しようというのか.....。
「ヘイ、お嬢さんたち、俺たちと一緒に踊らねえか?」
だが、その次に聞こえたのは非常に雑な誘いだった。
「い...いえ、私たち、もう踊り疲れたので....」
嫌な予感が身を襲っていたであろう彼女たちは、当然断った。
そして、無理にでもその場から離れている。僕は連中が彼女たちについていこうとするのを体をぶつけたりして妨害した。
「チッ....!」
「ああ、すいません」
ちょっとわざとらしかったか、無茶苦茶睨んでくる。
「おい!大丈夫だったか?」
カーランもなんとか、彼女たちの元へたどり着いたようだ。連中はカーランとの合流をみて、不満気な顔で下がっていった。顔をみて思うのだが、やはりどこかで見たことがある気がする。
「物凄く怖かった.....」
「あいつら....いったい何者なんだ?」
カーランが問う、僕も気になるところだ。
「あの連中は.....実は騎士団なのよ」
「ええ!?」
騎士団!?あのチンシーが作った騎士団!?正義の組織じゃなかったのか?
だから顔に見覚えがあるわけだ。
「なっ.....あいつら、この町の不法を取り締まるいい奴じゃなかったのか?」
「それは表の顔、あいつらの本性は....騎士団の身分を利用して、脅迫したり....トラブルを起こしまくってるのよ」
ええ....チンシーに苦情が行ったりしないのかよ.....いや脅迫してるみたいだし、悪事つっても目立つことはしてねぇから裁きにくいのか。
今のやつも実力行使には出てはいない。面倒だ。
「嫌な話だな....どうするか」
て、転生者に....いや、大事にならないと動いてくれんか?
「なあどうするサカグチ?」
急に振られた。
「うーん.....かないっこなさそうですけど....」
どうしようもないだろう。この世界は下の立場であれば下の立場であるほど不利な世界だ。自己防衛でなんとかするしかない。
「もしかしたら.....私たちが標的にされたのって...ガリーのせいかも....」
ムーンの友人がポツリと言った。なんか、話が嫌な方向へ行きそうだ。
「ガリーって?」
カーランが聞く。一体彼女は何者なのか、僕も非常に気になっていたところだ。
「元々私たちの友人で....一緒にここに来て、ダンスしたり、遊んだりしていたんだけど。最近は騎士団とつるむようになっちゃた子なの」
「あの子....きっと私たちを売ったのよ!隣の席で、奴らと一緒に話してるのを見たもん」
いや、それはない。ムーンたちが標的にされたのは話を盗み聞きした限りたまたま奴らの目に入ってしまったからだ。
....でも、ガリーも友人が狙われていたのを分かっていたはず。何か言えなかったのだろうか。あの子にも、何らかの事情があるはず。
「断定するのはまだ早い。なんとかして.....その子に今じゃなくて、別の日に会えないか?」
いい判断だカーラン。
「確かあの子は週に一度スケートをしていて....その時に会えるかも」
「そうか、分かった。今日はもう帰ろう。送ってくよ、明日、また会おう」
「そうね、皆、行きましょう」
ようやく僕らはこの七色の空間から出られることになった。
そう思って安心していると、突然、僕の肩に何者かがぶつかってきた。
「うっ!?」
「おい!どこ見て歩いてんだてめぇ!!?」
面倒な奴にぶつかってしまった。騎士団のメンバーだ。
チンピラみたいに怒鳴り散らしてくる。
「あ...ああ...」
僕という男が、あまりの迫力にびびってしまった。情けない。
「てめぇ!!謝り方も知らねぇのか!!」
こんなのが町の安全を任されてるのか?まるでチンピラみたいだ。
「はぁ!お前がぶつかってきたんだろ!?」
キレやすいカーラン。まずいぞこのままじゃ手が出る。
「黙れ!お前は関係ないだろ!」
「見てたわよ!あなたがぶつかってきてたわ!」
女子たちからも応援が入る。
「だから何だってんだ?てめえらの証言は、あてになんねぇよ」
質の悪い奴だ。室内じゃなきゃボッカス・ポーカスを食らわせてやったのに。
むかむかしていると、カーランが僕を引っ張った。
「いこうサカグチ、こんな奴相手にしても時間の無駄だ」
カーランが身を引いた。大人だなと思う。
「そうですね....こんな面倒臭い奴」
僕は捨て台詞を吐いていこうとした。なんでこんなこと言ったんだろう、今思えば、これは悪手だった。
「どういう意味だぁ!!」
背を向けた瞬間、頭に打撃が入った。
突然の奇襲に対応できるすべはなく、その場に膝を付く。
「なにしやがる!?」
カーランが素早く、相手の腹に蹴りを放った。そして、そこからしばき合いが始まってしまった。
「この糞野郎!」
立ち上がろうとすると、男の仲間らしき人が僕の首を絞めてきた。苦しさに、思わずもだえる。
視線の先には、ムーンたちが連中に襲われているのが見えた。このままではヤバい。
たちまち室内はパニックになり、人々がどたばたと逃げ回っている。僕は、ボッカス・ポーカスを使うか使わないか、物凄く迷った。不死身なので死にはしないが、不死身だということが簡単に見破られるのはあまりいいことではない。
「ボ....ボッカス・ポーカス....」
僕は唱えた。視線の先ではぼやけながらもカーランが男に膝蹴りをかましてる姿が見えた。
魔法陣は頭上に展開した。何が出てきても、首を絞めている男の頭に当たるようにはなっている。
出てきた物は.....。
「おらぁ!?シネっ....おわあああああああ!」
何やらでかい物体が落ちてきたと思ったら、ジュークボックスだった。
男がひるんだすきに、僕は逃げた。
周りの情報を確認していると。
「ぬあっ!」
僕の方に男が飛んできた。へ?となって、飛んできた方を見ると、バーのカウンターの上に、ムーンが構えて立っていた。
すぐさまカウンターから降りて、連中と戦闘を開始する。
感心して見ていると。
「くたばれぇ!!」
さっきの奴が、ジュークボックスを僕の後頭部にぶつけてきた。なんて奴だ。
一瞬気を失いそうになったが、気合で耐える。つうかこいつ、殺意高過ぎだろ。
「おいてめぇ!」
追撃を食らわせようと、寄ってくる奴に、カーランからの飛び蹴りが入った。
奴は吹っ飛んで、ダンスフロアに転がった。
「サカグチ......」
後頭部から血を流している僕を見て、助からないとでも思ったからか、若干引き気味だ。
だが、僕はケロッとして立ち上がった。
「えっ..!?お前....平気なのか.....?」
驚きを隠せないカーラン。
「ええ、行きましょう」
僕らはムーンたち女子の救出へ向かった。
彼女のいるダンスフロアでは、騒ぎを聞きつけてやってきた野路馬たちが観る中、激しい肉弾戦が行なわれていた。
テーブルをもって挑もうとした奴を、テーブルごと突き破って蹴り飛ばしたりと圧倒している。
もはや、彼女に挑もうというものはいなかった。
「全員片付いたか!行くぞ」
カーランはすっかり腰を抜かしたムーンの友人一人に肩を貸す。
僕ら5人は急ぎ足で、クラブの出口へと向かった。
早くとんずらしなければ、巡回しているであろう遅番の騎士団につかまってしまう。
そうなったら詰みだ。
「おうおう散々迷惑をかけてどこに行くつもりだ?」
出口には、悲しいことにガリーとその彼氏らしき人が佇んでいた。
げえっ!!不運だ。
ガリーの目は、悲しそうな目か、静かに僕らを嘲笑う目か判断しにくい表情をしていた。
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