第28話 中心街はイメージと違う

次の日、僕らはエスキィーファイのいる叔父の土地へ向かい。エスキィーファイ以外のモンスターの数、居場所などをあらかた調べた。

調べた結果、モンスターの数が予想以上だったので一旦引き返し、街へ道具やら色々と買いに行くことになった。


街中には、人があふれていた。ちょうど日中なので、一番人が行き来する時間帯だろう。ボベダ村の5倍ぐらい、僕の視界の中に人が映る。

人だけではない、建物だって斬新なものばかりだ、村では.....いや、この時代に似合わないような高い建物がいくつものある。まるで....まるであっちの世界の東京にいるかのような感じが一瞬するのだ。内装も、なんだか村に比べるとファンタジー感が全然ない。

3人は、この建物に驚く様子を見せない。もはや彼ら現地人にとっては、当たり前の物のようだ。

なんだか、不思議な感じがした。転生者である僕が、現地人に知識で劣っているように思えたからだ。というか、この都会チックの建物そのものも僕は気に入らない。塾に週五回通っていた昔のことを思い出す。塾があった場所の周りも、こんな風景だった。


様々な店を楽しそうな感じで回っている3人を、僕は一歩後ろから黙って見ていた。彼らの会話に入る余地などない。僕はただただ黙って、しかめっ面で、退屈そうに彼らを見ていた。

すると三人が、一軒の店の前で足を止めた。その店は、こじんまりとした服屋だった。


「見て、この店が私の叔父がやってる店の本店なの」


後で調べてみると、この店は様々な地域で展開している人気店らしい。その本店の割には、なんだか侘しい感じで、人目を引くものではなかった。


「案外小さいな....建て替えとか考えてないのか?」


「叔父さん。この店の雰囲気が気に入っているから....ずっとこのままにしてるみたい。入ってみたらわかるよ」


フェイはラングの手を引いて、わりときれいなドアから入って行った。僕らもそれに続く。

入ってみると、スッと懐かしい.....いや、求めていた雰囲気に出会えた気がした、店の内装のほとんどが木でできており、爽やかな香りがする。中心街の店の内装にある鮮やかな色は服の色のみ、服を主役とした調和が取れた空間。いやファンタジーさが、そこにはあった。

ボッチで店を見回していると、後ろから声をかけられた。


「君、何か似合う服を探しているのかい?」


当然だったので、ビクッとしながら振り返った。


「ああ...どうも......いや、あの、服を探しているわけではなくてその....なんか店の内装が気になって..それで...」


なんだか人との話し方を忘れてしまったかのような話し方をしてしまった。なんだろうか、この異世界に住んでから精神的にマウントを取れない人間に対する話し方が、ボロボロになってきている。


「そうでしたか、それならじっくりとご覧になってください.....では」


少し年を取っているように見えるこの男は、そう言って、店の奥へと消えていった。


「おい。サカグチ、あの人と何を話してたんだ?」


入れ替わりで後ろからラングが来た。


「いや....大したことは話してないですよ」


「あの人、フェイの叔父さんだぜ、何も無いってことはないだろー。てっきり服でも買うのかと思ったぜ」


なんだか心の中では大体予想がついていたからか、それを聞いても大して驚かなかった。あの人は、僕がこの店の内装を気にいった事を感じ取っていた。話す時間は短かったのだが、なんだかそんな感じがしたのだ。


僕らは目的から若干外れながらも、買い物を終えた。

そして家に戻り、そこそこ豪華な夕食を済ませて、部屋に戻った。

部屋の中.....カーランは寝る直前までフェイとラングの部屋に行っていたので、あまり僕と話すことはなかった。僕は町でラピスオニキスの腕輪を売った金でペンとインクと日記帳を買い。昨日今日の出来事を書いていた。あとでこの様に文章にまとめるためだ。

僕はここで、改めて三人から除け者にされかけていることを改めて感じ、悲しい気分に浸かる。

普段一人でいるのに、それよりも深く、心に響いた。皆いじわるってわけじゃないから.....自分が悪いんだろうけど。


物思いに更けていると、カーランがいきなり部屋に入ってきた。ドアをバタンと力を入れて閉めたので、イライラしているのだろうか。

顔色はそんな悪くない。

彼は無言で自身のベッドに座り、横になった。

僕もそれになんとなく合わせなくてはと思い。灯りを消し、横になった。部屋の中が黒く塗りつぶされて、自分の視界も同じようにした時、横から呼ばれた。


「おい」


寝たふりしよかと一瞬考えたが、答えることにした。


「なんですか」


「聞いたぜお前、フェイの叔父と話してたんだって?」


なんか無理にでも話題を引き出した感があるが、答えずにはいられない。気を聞かせてくれたのだから。


「ええ、でも一言だけですよ」


「でもよぉ、フェイの話じゃあの後の叔父さん。そこそこ期限が良かったらしいぜ」


「そうだったんですか」


話が広げられないし、おかしな話だ。


「せっかくだしさ、この際叔父さんにさ、新しい服選んで貰った方がいいんじゃねぇか?」


予想外の広げ方だ。僕の目は覚めて、カーランの方へと体を向ける。だが顔は見えない。


「いつまでもそんな格好は嫌じゃん?」


まあ確かにこんな物乞い嫌だが、これはチャウさんの形見でもあるので、複雑な気分だ。でも、この際変えてみるのもいいかもしれない。


「まあ、確かに嫌ですね」


「そうだろう?」


ぎこちない会話だ。今でも苦しくなってくる。その後話がかみ合わなくなり、静かになって終わった。


次の日、エスキィーファイの討伐に僕らは望んだ。

結果は....あっけなく終わった。モンスターが弱すぎて話にならない。フェイが剣を横に一回振ったので3体殺したのを皮切りに、どんどん倒されていった。

エスキィーファイも中心街で買った対策アクセサリーで完封。僕は何もしなかった。あっさり過ぎて書くことはない。

このまま大都会での旅も終わるもんだと思っていたが......。その提案は、いきなりやってきた。

その日の夜、夕食の準備をしていた時だった。

テーブルを拭いたり、食器を並べたりしていたその時、フェイがキッチンから出て言った。


「ねぇ聞いて、明日からの予定なんだけど....」


「何時解散だ?」


「解散はしないよ....」


「じゃあなにすんだ?」


「皆に、店の手伝いをしてもらえないかって...叔父さんが.....」


皆、一瞬固まった。不自然で、以外な話だったのである。


後日、僕らは一昨日行った本店で店の手伝いをさせられていた。皆最初は驚いていたのだが、まあこの不景気、仕事があるのはいいことなのだと、誰も文句は言わなかった。

僕は、次いででやっているという服の補修をやることになった。針と糸を使い、ほつれたりした部分を治す仕事だ。

「君なら上手くやれるだろう」と、叔父さんことシューホーさんは言ったが、実際にやってみるまで、心は不安に包まれていた。

いざやると、すらすらと、丁寧にこなすことが出来た。昔、母に教えてもらった経験が生きたのだろうか、それとも手先が器用なおかげか....それはともかく快適な時間を過ごせたと思う。

狭い作業場で..黙々と作業をこなす、煩悩を捨てて、ただ無心に....。


夕方、作業を一通り終わらせ、部屋に戻り、出来事を書いていた時だ。

カーランが、静かに部屋へと入ってきた。僕は特に何も話さない。えらい早くに部屋に入ってきたもんだなぁとばかり、思っていた。

しばらく日記みたいなのを書きながら黙っていると、なんだか視線を感じて落ち着かない。後ろに振り向くと、カーランがこちらを見ていたのだ。


「おい」


カーランが声をかけてきた。


「なんです?」


「ちょっと出かけないか?」


急な話だ。


「.....いいですけど、何処へ?」


「一人じゃ行きにくいとこさ」


「ラングさんでも連れていけば.....」


「それが出来ねぇからお前に頼んでんだよ。行けるんだろ?行こうぜ」


予想外の提案に、僕は戸惑う。こんな夜も近い時間に、何処へ行くのか。

するとカーランが僕の方に、服を投げてきた。清潔でイケてる感じのやつをだ。


「そんな服じゃ、笑われるし、恥ずかしいだろうから、貸すよ」


一体何処へ行くのか、酒場ではないことは薄々理解したんだが....。

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