第27話 部屋

時刻はまだ10時ぐらい。日はまだ上りきっていないが、雲一つない青空だったので、町は明るく照らされていた。

僕らは再び馬車に揺られ、ローカーウェイの中心街までやってきた。ここはローカーウェイの中で一番栄えており。人も大勢せわしく活動している。


「よし、いくぞ」


馬車の料金を払い。地に足を付け、僕らは馬車の乗り場から出ていった。

さすがは大都会、村では立て札一つしかなかったが、都会じゃまるであっちの世界の駅みたいな場所になっている。

そんな感じで関心して見回していると。


「あっ、フェイ!」


「ラング!」


カップルが無事再会を果たしていたようだ。


「ここに来てくれるって思ってたよ.....ごめんなさい、叔父さんと今回の件について話してて」


「そんな事だろうと思ったよ、地図持っててよかったぜ......」


「ようフェイ」


「カーラン、久しぶりね、いきなり迷惑かけてごめん.....」


「全くだぜ本当、いろいろ苦労したよ」


僕は彼らの会話に入る余地ないとみて、街を見渡しながら、大きく深呼吸した。都会の空気というものを、味わってみたくなったのだ。

だが、深呼吸した後。なんだか不快な気分になった。胸の中に、なんだか黒いもやがかかったみたいだ。


「ゴホッゴホッ.....」


思わず咳をしてしまった。


「おいおい、魔術師さん、ここにくるのは初めてか?そんな事、しない方がいいぜ、ここの空気はそこそこ汚れている」


カーランはそうニヤつきながら言った。そんな一昔前の都市みたいな話、この異世界でもあるのか..........なんだか一気に現実に引き戻された。なんとも表現しがたい不快な気分だ。

後で調べて見れば、この都市は商業以外にも魔法の研究に力を入れているらしく、大規模な実験がいくつかの施設で行われているために若干汚染されているというわけだ。

魔法も万能じゃないんだな、科学とさほどかわらんなぁ。


「さぁ、叔父さんの家に行きましょう」


フェイが先導して、彼女の叔父の家へ向かおうとしたその時。


「どけっ!!」


さっきからフェイの後ろでチラチラ見えていた。物凄い速さで走っていた男三人のうちの一人が、フェイに思いっきりタックルをかました。

ぶつかった拍子に、男の手から袋が落ちる。


「きゃぁ!?」


フェイは一瞬倒れかけたが、そばにいたラングに支えられてこらえた。


「ちきしょう!!どこ突っ立ってんだこの糞アマ!」


男が逆ギレしながら袋を拾おうとする。


「ああ!?言いがかりもいい加減にしろや!!」


沸点が低いラングは、怒鳴りながら足で袋を抑え、拾わせないようにした。


「なにしやがる!?」


それに切れた男は、ラングに飛びかかろうとした。が、それが行けなかった。

彼の懐に入る前に、フェイの蹴りが胸に入った。


「ガァッ!?」


男は仰向けに倒れた。


「野郎!ぶっ飛ばす!」


隣で見ていた残り2人も挑みかかった。が、一人はラングのビンタに沈み、最後の奴もフェイの回し蹴りを顔面に食らって敗れた。


「流石!やるなぁ~」


特に何もしていない僕とカーランは、二人の戦いっぷりに関心するだけだった。

やられた連中は何とか立ち上がるが、もう彼らに喧嘩を売ろうとしなかった。


「くそ.....ずらかるぞ!」


そう言って逃げて行こうとした。が


「止まれ!!」


前からやってきた騎士にあえなく全員つかまってしまった。


「畜生......」


「よし、連れていけ」


騎士は連中の手を縛り、どこかへ連れていった。

これでしまいかと思ったら、騎士の1人が僕らの前にやってきた。一瞬、僕のことかと思ってびびってしまった。


「ご協力、感謝します」


騎士の人は見た目通り丁寧にお礼を述べた。


「ご苦労様です。厳しく罰してやってください」


ラングはこんな感じで冗談半分にいった。騎士は、苦笑いで答えた。


「その袋を渡してもらえますか?」


騎士にそう言われると、ラングはせわしく袋を拾い、渡した。

騎士が開けて中身を確認する。取り出した一つを見てみた限り、中に入っていたのは麻薬のようだ。


「ありがとうございました。では」


そう言って騎士たちはその場を去っていった。


「やっぱローカーウェイの騎士は役に立つなぁ.....治安レベルが他の市と段違いだぜ」


「ほんと、いい人達ばかりね」


ラングとフェイは彼らに関心していた。確かに皆誠実で、頼りがいがある感じだ。


「この機関を作ったのもチンシーなんだぜ、知ってたか?」


カーランは得意げのある顔をして、彼らにいった。僕はその名前を聞いてドキッとした。


「マジか、スゲーな」


語彙力は糞げろだが、驚いているのはガチなようだ。このような法的機関まで作っていたとは........。昔会ったときはそこら辺貴族と変わらない利益、派手重視の印象しかなかったのに、えらく優しくなったなぁと思った。

人間年月たてば変わるもんである。いい方にも、悪い方にも.....。


僕は変わらないが。


「ついたよ」


そんな事を考えながら歩いていると、僕らはフェイの叔父の家へとついた。


「おお、すげぇでっけぇ家だな」


ラングの言う通り、でかい家.....というより豪邸だ。貴族の家とため貼れるぐらいのものだ。


「さあ、入って、部屋に案内するよ」


僕ら三人は啞然としながら、でかい板チョコみたいな扉から家に入った。

中は外見通りの清潔感、そしていたるところに高価そうな家具から植物が絶妙な場所へそれぞれ置かれていた。飾り付けという奴だろうか。


「はー、すっごい......」


これには僕はもちろんラングとカーランまでもが田舎者みたいな反応を示した。


「これ、私が配置を考えたんだよ、どう?」


確かにすごさは感じたのだが、それを上手く言葉にするすべはなかった。なので僕らはしばらく黙りこくっていた。ラングはなんか使命感を感じていたのか知らないが、唯一口を開いた。


「......ああ....おう、綺麗にできてると思うぜ」


ラングには上手く褒めるほどの知識はなかったようだ。だがフェイは機嫌が良さそうだった。

その後僕らはリビングを抜け、二階にあがり、それぞれ個室へと案内される.......とばかり思ってたが、まさかの二人部屋。

ラングとフェイが一緒の部屋なのは大体分かっていたのだが、僕とカーランが一緒だってのは予想できなかった。そんな仲良くねぇのになあ.....しかも前日みたいに一泊じゃなくて、二日三日これである。

当然、カーランは猛反発した。


「おいおいおい!!おかしいだろ!!なんで俺がこいつと一緒の部屋なんだよ!」


僕がそばにいるのにも関わらず、強い口調で文句を言うカーラン。


「申し訳ないけど、ちょうど空いてる部屋がここしかないのよ、我慢して頂戴」


「勘弁してくれよ......一人部屋とか文句言わないから.....せめてお前の部屋に入れてくれぇ....!」


「嫌だよ、ベット二つしか無いし」


「ラングと二人で一つ使えばいいじゃん」


この失言の後、フェイはムッとした表情をしてドアを閉め出ていった。

二人部屋の中、僕らは気まずい空気に支配されていた........。互いに部屋の隅に椅子をおいて、黙っている。

僕はしばらく黙っていたのだが、体感時間一時間たって、退屈に我慢できず、布団に思い切り飛び込んだ。一体何の素材を使っているのだろうか、元の世界のベッドと似たような弾性力を感じた。この感触に僕は我を忘れ、しばらく跳ねて遊んでしまった。

今思えば大分幼稚な事だが、その時の僕は多分、懐かしい感触に心まで昔に戻ってしまったのだと思う。

20ぐらい弾んで、ハッと我に返った僕はすぐさまカーランの方を見た。案の定、ドン引きだ。彼の目には、軽蔑、いや恐怖の色が見えた。


「お前......おとなしい奴かと思ったんだが.........」


カーランの問いに、何も答えられず、只々目をそらした。

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