第26話 忘れがたい過去

微妙な雰囲気のまま、僕らは外へ出ていった。

街路樹が道に沿ってある道をラングとカーランが先導して歩いている。僕は彼らから一歩下がった後ろを歩いていた。

前では、2人が僕の事を話していた。


「あの男が、只者でないことはよく分かったよ」


「面白い奴だろ!見所が多くあるぜ」


「いや、同時に戦闘で役に立たない奴だってことも分かった」


「どうしてよ~」


「お前の説明聞く限りじゃ意味不明だ。ボッカス・ポーカスとかいう魔法が意味不明だ。起こるが毎回違うなんてばかけてるぜ」


「でもよ~それで俺は命を救われたんだぜ、出てくるものは悪いものばかりじゃねぇ、上手く扱えば強いはずだ」


「うーん......?」


カーランが後ろを振り向いた。


「なぁ、その起きる出来事って、何で決まってくるんだ?」


ボッカス・ポーカスの基準を彼は聞いた。そんなの当然一つだ。


「運ですよ」


「運!?」


彼の抑揚はおかしい調子だった。


「運って......制御できないも同然じゃないか!ラング!やっぱりダメだこいつ!」


「で.....でも操作できなくもないですよ」


彼は僕の説明を最後まで聞かず。ラングに文句をぐちゃぐちゃ言っていた。心が痛かった。

そうこうしているうちに、フェイ達との待ち合わせ場所についた。大きな噴水がある公園の、端にある木の陰で、僕らは幹にもたれかかるようにして休憩し、僕らは待った。

だが、1時間ぐらいたっても、日が沈みかけて空がオレンジ色に染まっても、彼女は来なかった。

初めはぼちぼち話していた僕らも、3時間したら黙りこくってしまっていた......。


「ああー!!もうなんで来ないんだよおい!!」


暗黙に禁句となっていたワードをついに、カーランが放った。


「おいフェイ!!ガチで来てないなんて噓だよなぁ!!どっかに隠れてんのか!出て来てくれ!!」


待っている間何かとソワソワして落ち着きのなかったカーランの不満は、思いっきり爆発していた。こういうタイプの人間は、人生の一瞬一瞬無駄にできまいと常に動き回っているタイプのやつである。


「馬鹿、落ち着け」


「なんでそんな落ち着いていられるんだよ、僕たち見捨てられたかもしれないってのに」


「早とちりだ、多分何か用事をこじらせたんだろう」


「ああーもうそれだったらこんな待たなくて良かったじゃねぇか!宿探すぞさっさと」


カーランはすぐさま立ち上がった。

そのすぐあと、ラングがカーランのズボンをおもっきし下げた。

彼のズボンはすぐさま綺麗に下がり、パンツがモロで見えてしまった。


「オワァ!なにすんだ!!」


「ヘッ、せっかちなお前さんへのちょっとしたいたずらさ、もっと余裕を持って行動しようや、ゆっくり行こうぜ。そんなんだから、彼女が出来ねぇんだよ」


「余計なお世話だよ、ケッ、俺は明後日辺りに中心街で、フェイよりいい女、ひっかけたらぁ」


彼らはそんなやり取りをしながら、ようやく動き出した。

その後、2時間ぐらい宿探しをした。どこも満杯なのでなかなか見つからなかった。流石都会というべきか、僕らは結局、貧困街にあるぼろい宿に泊まることになった。

人気なさそうな宿だってのに、一部屋しか取れなかった。

んでその部屋も入って見たら......。


「うっ!?土くせぇ!」


「おいおいおいおいマジか!ベッド一つしかねぇじゃん!」


「........」


まるで僕が住んでいる廃墟を思い出すかのような汚さに、家具はベッド一つとテーブル、椅子が一つと三人用の部屋には考えられない家具のバリエーションの少なさ、そして床が地面とマジでやばかった。

でも今からこれをキャンセルしてほかの宿を探しに行く体力は、もはやなかった。


「ああ、こんな奴らと一つのベッドで寝るなんて最悪だ.....せめぇよ、もっとそっちに行けや」


「無茶いうな、俺らが落ちちまうぜ」


「無駄な筋肉だよ全く....」


「うっせぇ、小言いうな!」


狭苦しい思いをしながら、僕らは床に就いた。目をつぶりながら寝るまでの間、僕は彼らの関係を羨ましく思ってた。対等な関係とは、まさしくこんな事だろう、僕は前の世界でも、この異世界でも、こういう本音で語り合える友人を持ったことがなかった。トンと話すときは、いつも彼に弱みを見せることがなく、彼に対しては精神的に余裕がある存在としてふるまっていた。

だから僕には彼らが尊く感じて、輝いて見えた。だから二人の会話に、僕はついて行けなかった。ああ.....僕はこの先、こんな友人ができることがあるのだろうか、こんな、僕に。

いつの間にか、僕は眠りについていた。



僕は潰れたベッドの上で目覚めた。


「ちょ....なんだこれ」


「俺らの体重でつぶれちまったってか」


ラングがそういった時、僕らの視線は彼の体を見ていた。ラングの体重は、僕ら二人を足しても届かないだろう。


「なんだよ、俺のせいってか」


「そうだラング、弁償はお前が払え」


「ええ!?3人で寝るって提案したのはお前じゃねぇか!!」


こんなやり取りをいくらか繰り返した後、弁償は二人の割り勘となった。


「畜生、安物買いの銭失いとはこんなことか......」


疲れなど当然取れてるはずもなく、げんなりとした感じで僕らは宿を出た。朝食は町で取ろうということで、貧困街から出ようと歩いている時、どこかから人々の騒ぐ声が聞こえた。


「なんだなんだ?」


僕とラングはその騒ぎの内容が気になってきて、声の元をたどろうと町の中心辺りに向かい始めた。


「そんなんどうだっていいだろ、はよいくぞ」


カーランの注意を無視して、僕らは進んだ。そして、人々の群れを僕たちは見つけた。多くの人間が、なにかを取り囲んでいるようだった。


「祭りか?」


ラングは人々を押しのけ、集団の中心へ向かっていった。進んで行くと、なんだか煌びやかな鎧を付けた馬が目に入った。そして無理やり前に出てみると、華やかな装飾を馬車が、そこにあった。

窓から手を振っている一人の男が見える。


「誰だ?」


手を振っている男は金髪で、いかにも貴族って感じの格好をしている。こんな貧困街に何の用なのか、普通の貴族なら襲われるの防ぐために通らないはずだ。

そんなことを考えながら、僕は笑顔で手を振っている貴族の顔をまじまじと見ていた。なんだか、見覚えがあるような、ないような、スッキリしない。

人々は歓声を上げて、貴族に全力で手をブンブンと荒く振り、なけなしの花一本やらなんやらを投げている。

声をよく聞いてみると、「チンシー様ー!!」と皆叫んでいる。なんだろう、ますますもやもやと何かが浮かび上がってきたが、つかめない。


「なあ、カーラン、このチンシーってのは誰なんだ?」


「知らないのか?ローカーウェイ三大貴族の一人、この貧民街の領主に進んでなった変わり者で有名さ」


「はぁーなるほど......でもここに来ただけでこんな騒ぎっぷりは変だぜ.....まさか金でもばらまいてんのか」


「そのまさかさ」


ラングはぎょっとして、カーランの方に向いた。


「ええ!?」


「ほんと、何考えてんだかわかんねえよな、しかも金あげてるだけじゃなくて、この貧民街から人をいくらか雇ってるんだってさ、全く人が良すぎるぜ」


僕はそんな会話を尻目に、自分のもやもやをなくすために色々思い出していた。そして、僕は気づいた。

チンシー、昔僕が爆破してしまった。貴族の家の主だ。

僕は前列から人ごみの中へ入って行った。顔が見られては困るからだ。


3年も前の話だ。貴族の名前は忘れていたが、この出来事は忘れもしない。この世界にきて一番最初にできた思い出だ。

その当時、僕はこのボッカス・ポーカスを使って宝石商をやっていた。運を上げる魔法を使って宝石を狙ってだし、それを貴族に売りつけていた。なかなかうまくいって僕はその当時成金になっていた。

なかなかいい使い方出来ていると、当時は思ってたもんだが、ある日、事件が起きた。ちなみに、この運を上げる魔法というのは、先の時間の運を前借りして使うというシステムだ。だから狙ってものを出すレベルにまで運を上げると、その先十回ぐらいは最悪なものが出る。だから僕は宝石を魔法で出す裏では、最悪な物を山奥とか出していた。

チンシーの家で、取引を僕はその日受けていた。だが指定された宝石の量に持ってきたでは足りなかったので、彼らの前で、宝石を出すことにした。宝石を魔法で、瞬時に出す。そんな魔法はこの世界に存在しないので、屋敷中の人々が、僕の周りに集まった。

僕はその中で、緊張しつつも喝采を期待し、唱えた。


「ボッカス・ポーカス!!」


だが、煌びやかな宝石は、僕たちの前に現れなかった。出てきたのは、赤い魔法陣。爆裂魔法である。

そう、僕は最悪な物を一回分ぐらい出し忘れていたのだ。なぜ忘れたのか、未だにはっきりとわからない。多分爆発とかで吹っ飛んだり、モンスターにボコボコにされたショックで忘れたのかもしれない。

何とか僕が避難を誘導したおかげで死者は出ずに済んだ。だが重症は出てしまったし、屋敷は粉々になってしまった。僕は謝っても許されないのが分かっていたため、何も言わずに逃げてしまった。僕はこの時思った。


こんな生き方では生きていけないと..........。


だから僕は宝石商を辞め、冒険者として生きていくことになった。目立たないように、寂れた村であるボベダ村に住み着いた。

そして人と合わない生活をしているうちに、パンツ一丁の男になってしまったのだ。

僕は今まで借金に追われているとこの本で書いてきたが、本当はない。ちょっとしたカモフラージュで、本当はこの通り犯罪者。チンシーに、謝罪は今までしていない。

僕は最低だ、本来はちゃんと責任を負うべきなのだが、僕はそれを恐れ、逃げてしまった。


彼はあの時のことを、今どう思っているのだろうか、気になるところである。


「おい、もういいだろ、早く行こうぜ」


「ああ、行くか.......あれ、あいつどこ行った?」


人ごみの中で物思いに更けていると、どこかから二人のやりとりが聞こえた。

僕は遅れまいと、人の流れを押しのけ、声の元へと向かった。


「ここですよ」


「うおっ!?びっくりしたぁ!!」


「おいおいやめてくれよ......ただでさえ不気味な見た目してんだからさぁ」


後ろから2人に声をかけたら、滅茶苦茶驚かれた。多分僕がこんな感じでチンシーに声をかけられたら、腰を抜かすだろう。

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