ローカーウェイ編

第25話 新たなる依頼

どうも、カイ・サカグチでございます。ここんとこ山も谷もないような日々を送っておりましたが、ようやく話にできそうな事件がありましたので本に書きたいと思います。

取り敢えず読んだら感想と金ください。ノンフィクションですよノンフィクション!!異世界人の実態ってもんを描いております。あなたがた転生者が上で裕福で快適な生活を送っておられる中、私のような下級の人間は苦しい生活を強いられているのです。

この異世界の現状として、気にしていただけるとありがたいです。


あの大臨会襲来の事件から、かなりたった。

大臨会の生き残りはその後村から撤退し、行方をくらましている。

また、トン自身も、自分が村にいては迷惑がかかると考えたのか、近々姿を見ていない。再び山の中へ籠ったのか、旅へ出てしまったのか、僕にはさっぱりだった。

まあそれはともかく、村に平和が戻ったのだ。これは喜ばしいことである。

僕は再び、しがない冒険者として活動を始めた。大臨会を撃退したメンバーの一人として、知名度が上がったので村を歩いていると、チラチラと僕に目線を送る人が増えた。また人と道を譲るか、譲らないかの無言のやり取りにあった時、毎回譲られる側になった。

以前はすべて、僕が譲ってたんだがなぁ。


まあ僕の村での知名度は上がったんだけど、特に僕の生活が豊かになるとかははなかった。今まで通りだ、誰も僕を支援しようみたいな優しい人は現れない。

今まで通り、飯は食えないし、住む家は廃墟だ。悲しいもんである。なにか、大きな仕事来ないかなぁ......村から出てみようかなぁ....いや、でも借金取りに終われるのも嫌だなぁ....。

そういや、僕に屋敷を壊された貴族は今どうしてんだろうか、生きてるかな?あれから5年たったわけだけど、まだ僕を追っているのかな。気になるわ。


若干話それたな、とにかくそんな感じの鬱屈した日々を送っていたある日の昼頃、僕はその時屋根の穴をふさごうと悪戦苦闘していた時だった。


「おおーーい!!サカグチー!いるかー!おーい!」


馬鹿でかい声で僕を呼ぶ声がした。なんか聞き覚えのある声だ、この野太い声は.......。

ドアを開けて見ると、でけえ男が、そこに立っていた。


「よぉ、久しぶりだな!」


....180㎝、胸筋がなんか....かなりある。間違いない、この男はあの洞窟カップルの片割れこと、ラング君である。僕と住む世界がほぼ違うこの男が、一体何の用なのか。


「こんにちは......」


僕は彼の突然の来訪に驚いて、声が思うように出なかった。というか普段から人とあまり喋らないから、話すのが久しぶりすぎて喉が死んでいたのかもしれない。


「なんだ?随分と元気がなさそうだな?どうかしたのかぁ?」


「別に.....それより僕に何のようですか、クエストの賠償なら払えないですよ」


「いや、その話ではない。お前さんに、美味い話を持って来たのさ....」


「.......?」


美味い話......?嫌な予感がする。僕があの救出作戦に行く羽目になったのも元はこの洞窟カップルの推薦が原因という前例があったので、いい予感はしなかった。でもまあ、大臨会の時には助けて貰ったというのもあるので、話を聞くことにした。


「なんですかそれ?」


しばらく黙った後、僕は彼にその話を聞いた。

彼の話は長いもんだったので、要約してここには書こう。

まず上手い話というのはフェイの叔父からのクエストの事で、その叔父の土地に急遽現れたエスキィーファイという妖精を退治してくれという内容だった。

エスキィーファイ.....妖精タイプのモンスターだ、幻術が得意で、攻撃する力は弱い。つまりそんな危険ではないが、倒しにくいということである。

それでまあ退治しに行こうとパーティーをフェイの所属する「ディクショウ」というギルド内で募ったけど、集まりが悪かったらしく、それで僕を尋ねたらしい。あれ?こいつらはここボベダ村のギルドではなかったのか?なんでこんな村にきて既にギルドに入っていたにも拘わらずこのボベダ村のギルドに入ったのか意味不明だ。

それにはラング曰く深い訳が色々あって、今回パーティを集めるのを苦労したのもそれが原因らしい。

その訳を聞いて見たところ深くは語らなかったが、かなりドロドロした物だったので、ここに書くのは控える。多分ここに書いたら、この本は君たちの手に渡らなくなっていたであろう。それぐらい、駄目な話なのだ。僕以外の名前は仮名でこの本を書いているのに書けないこともあるんだなぁ。


「どうする?行くか?」


「本当にいいんですか?フェイさんの了解は?」


「そこはもう問題ねぇ、まあ、かなり反対されたが、最終的には了承してくれたよ」


わざわざ僕の所に来るぐらいだから、あらかた済んでそうだな。


「報酬はどれぐらいで?」


「まぁざっと50000ドックってとこかな」


ドックは円とおなじ相場だ。つまり50000円、前も書いたと思うが、転生者が価値を決めたおかげで同じになっている。50000円かぁ........。バイトだなこれ。


「ええ....?安くないですかそれ?」


「上げてやりたいところだがしょうがない。フェイがこれ以上はやれないってさ、まあ交通費とか宿はこっちで払....」


「ちょっと待ってください交通費って.......どこでやるんですかそのクエストは?」


「うん.....?ああすまんすまん、言い忘れてたんだがフェイの叔父の家はローカーウェイにある、ちょっとした遠出になりそうだな」


マジか........。

ローカーウェイという地名は、日本で言う所の政令指定都市みたいな場所である。そんな栄えた街へ行くなんて.....。どうにかその町にいる奴らで組めなかったのだろうか。

どうしよう、行こうかな?行った方がいいかな?まあ僕は不死身だし、宿とかはあっちが用意してくれるし、今の僕はチャウさんの服を着てるからパンツ一丁ではなくなったし、行ってみてもいいかもしれないな。

本のネタにだってなれそうだ。5年ぶりの都市!!借金取りの連中に追われるかもだが、もう顔忘れてそうだし......行くか!


「わかりました行きましょう!!よろしくお願いします」


「こちらこそだ!!フェイはお前のことあんまよく言わんけど、俺はなんだかんだ期待してるぜ!」


彼は握手をしようと手を差し出してくれた。でかい手だ、いてぇだろうなあと思いつつ握手したら、案の定握る力は強くて痛かった。だがこれはそれぐらい僕に期待を寄せてくれていると解釈して、我慢した。


「んじゃあ3日後で時間は10時、場所は○○○出発だから、準備しといてくれよな!」


そう言って彼は帰って行った。準備なんて無いので、僕はいつも通り3日間生活した。


3日後.....。

僕は朝、特に持ち物など無いので杖だけ持って家から出た。んで指定された場所へ3時間ぐらい早く来た。僕の家に時計など無いので、こんな事をする必要があった。

しばらく待つと、フェイとラングとローがやってきた.......ロー!?


「あの.....荷物とかはないんですか?」


フェイが呆れた口調で聞いてくる。


「ないですね、一切」


「着替えとかどうするんですか......」


「ずっとこのままです」


チャウさんから貰ったぼろい服と、マント代わりのぼろい布切れ、ラピスオニキスの数珠、身につけているものはこれだけである。はなから見れば物乞いにしか見えないだろう。


「.........」


彼女はもう僕に何も言わなくなった。そして、ラングを連れて向こうで話し始めた。何を話しているかは聞こえなかったが、僕にいい話ではないのは確かだ。

一方ローは僕にあいさつすらしなかった。僕も彼と話す気など無い。トンの地図をどうするかの話の時に、物凄い論争を繰り広げてしまったからだ。元々大して仲良くないのにね。それですっかり気まずくなった。

そうこうしているうちに馬車が来た。よりによってローととなりの席だったのでさらに気まずくなった。なんでこいつが来てるんだ?今んとこ全く分からない。

馬車での道中は何も起こらず退屈で、辛いものだった。二日かかった。ただそれだけ、特に書くことなし!外の風景をみてもなんもおもろくなかった。

まあ無理して書くとすれば馬車の中でうっかり眠ってしまった時、起きたらローの膝を枕にしてしまったことぐらいかな、こんな恥ずかしい事まであったのに、あいつとの会話はゼロだ。フェイとも二、三回ぐらい話したのにね。相変わらず辺り強かったけど。


そんなこんなで馬車に揺られてローカーウェイについた。商業が盛んな都市で、人が大勢、街中を歩いていた。ここまで沢山の人を一気に見たのは久しぶりだ。そんな田舎臭い感想を抱いていると、第一の目的地についた。ラング曰く、ここはフェイとラングの所属ギルドであるディクショウの演習場みたいなところだとのことである。

ここで僕らは、二手に別れた。ラングと僕はここでもう一人のパーティーメンバーと合流し、フェイとローは先に叔父の家に向かうとのことだ。


「さて、入るぞ」


僕とラングは、演習場の扉を開け、中に入った。

中では、多くの冒険者らしき人々が、訓練を行っていた。

組み手を行うもの、剣の特訓をするもの、魔法の訓練を行うもの、様々だった。一番驚いたのは、槍の先端を首辺りに当て、食いしばる訓練をしていた男がいたことだ。何故、刺さらないのか不思議だった。だから僕は食い入るように見ていた。

その視線に、ラングが気づいたのか、声を僕にかけてきた。


「なんだ、気になるのか?あれ?」


「凄いですねあれ、一体どんな鍛え方してるんですか?」


「大した仕組みじゃないさ、防御魔法を張ってるだけよ」


「あー.......」


なんだか聞いてがっかりした。魔法では説明できないような特別な何かがあるもんだと思ってたからね。


「いた。あいつだ」


ラングは、演習場の隅で槍を扱う青年を指さした。


「おーい!、カーラン!!」


その青年は、ラングの声を聞いて動きを止めた。彼はラングと違って体は細く、メガネをかけていた。書けそうな身体的特徴はそれぐらい.....あ、髪は長めだ。


「ラング!久しぶりだなぁ、いつぶりだ?ええ?」


二人は握手を交わした。僕はなんだか疎外感を味わった。


「大体一年とちょっとさ、今回も頼むぜ!」


二人はしばらく、こんな調子で立ち話をしていた。フェイのことや、この町のこと、クランのことなどだ。そんな長い話をしているうちに、練習していた他の連中は昼休憩で演習場から出ていった。

退屈な時間だ。僕が不満な表情でラングを見ているとようやく、周りの状況に気づいた。


「おっと、話し込んじまったみてえだ、もう行こうぜ」


「ああ」


2人が歩き出した。それとカーランは今まで僕の存在に気がついていなかったのか、僕を見て若干驚いていた。


「ん?なぁラング、誰なんだこいつ?」


「ああ、彼はサカグチ、今回のクエストのパーティーだ」


「どうも初めまして」


なんだか仲良くやれそうな気がしねぇので、適当に挨拶した。


「うん....ああ...どうも....」


むこうもとっつきにくさを感じていたようだ。彼の歩みは止まった。


「サカグチさん.....あんたは....どういった事ができるんだ?」


そして、疑うような口調で僕に質問を投げかけてきた。確かにこんなみすぼらしい格好をしている人間が僕と組むなんておかしい、そう感じたのだろう。

僕はここで、実力というのを彼に見せたくなった。


「僕は魔法が一つだけ使えますよ。見せてあげましょうか?」


「一つ?一つだけなんて珍しい、それでラングに誘われるなんて、よっぽどなんだろうね」


なんだか挑発されているようで、癪に触った。


「せっかくだし見せてやれ、ここは演習場だから、やっても構わんよ」


ラングからも後押しを受け、僕はやる決意をした。


「よし、ならば見せましょう!!ボッカス・ポーカス!!」


僕は大きく唱えた。なるべく破壊はしないけど、すごいものがでて欲しかった。ここで出てくるものによって、カーランの態度は違って来るだろう。


だが、出てきたのは.........可愛らしい、5匹のウサギだった........。

出てきたウサギは、演習場を楽しそうに跳ね回っていた、その姿、とても可愛らしい。

僕らは、何とも言えない表情になって、ウサギはそのままにして演習場から出ていった。

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