第24話 決戦
ラングとローが、同時にドルに挑みかかった。が、ラングはやはり一瞬で背中に打撃をくらい怯んだ。
「歯が立たねぇ.....」
でかい剣を振り回す力はあるが、武術の技量はからっきしである。
一方ローは一見いい戦いができているように見えるが、押されている。果てには追いつめられて、とどめを刺されようとしていた。
「まずは一人!!」
僕は自転車に乗って奴に特攻し、そのとどめを何とか妨害した。
まあすぐさま投げ飛ばされて小屋の玄関を突き破った訳だが。
「もう見てられません!!」
次はフェイが挑んだ。彼女の片手剣の技量は寝ながら見てもなかなか物だったが、ドルには通じない。
彼女はローと同じく押されて、小屋の中まで後退して来た。僕は気絶したふりをして、ドルの足が前に来た時、それを掴んで邪魔をしてやった。
「ぬうっ!」
ドルはよろけ、壁に手を付いた。
「覚悟なさい!」
チャンスとばかりに縦に切りかかったが、寸前の所で交わされた。んでカウンターに鷹爪でのパンチを顔面に食らった。彼女の頬には引っ搔き傷ができてしまった。
「ぐうっ.....」
彼女は窓から逃亡した。ドルはそれを追わず。辺りは静かになった。そよ風で葉が揺れる音が聞こえるぐらいだ。皆、どうやら隠れてしまったようだ。奴はそれでも、みじんも慌てることはなかった。ゆっくり、そろりと歩き始めた。
「なんと味気の無い連中なのだ、こんなのが、大臨会のリーダーとして戦う私の最後の相手だとは.......物足りなく感じてしまう」
なんだか一人でグダグダと言い出した。そんな事言うなら転生者とでも戦って死ねや。
「昔に戻りたいものだ.....!!皆活気よくこの世界を冒険していた....あの日に.....時というのは残酷なものだ」
にしても、ローとラングは何処にいったか.....まさか逃げたか?と思ったが、下、つまり床のしたから何やら荒い息遣いが聞こえてきて、この家が若干高床だったことを思い出した。
「よくよく考えたら......こうやって我々が争っているのは、転生者のせいではないか?あんな強大な存在が冒険者の頂点にいるから、それで生活が苦しくなって、みな活気を持たなくなってきている...そしてこうやって人間同士の争いが始まる....そうは思わんかね?」
こいつ独り言がやべぇ.....僕はグッと息を止めた。不死身なので苦しいけど我慢はいくらでも出来る。頑張るしかねぇ。床下からガリガリ引きずる音が聞こえる。
ふとドルの方を見ると、彼は薪用に持ってきた。そこそこの長さの丸太を手にしていた。
「そうは思わんかね!!君たちっ!!」
そう強く怒鳴ると、彼は丸太をおもっきし床に打ち付けた。バキッとという音が聞こえる。床に穴が開いたのだろう。どうやら床下に隠れていたことはすっかりばれてしまっていたようだ。
したから「うわっ!」などの驚く声が聞こえた。ドルは床下の何処にいたかさえお見通しだったようだ。これは恐ろしいことである。
ドルは、何度も何度も床を突いた。気絶したふりがばれなくて良かったと一瞬思ったが、よくよく考えたらばれているのではないかと思い始めた。分かっていた上で、僕をスルーしている。そう思ったのだ。僕という存在は、急いで倒す価値はない。そう判断したのではないだろうか。
そう思うと、僕は無性に腹がたった。一泡吹かせてやりたい。そう思えた。僕という情けない存在に自身の体が傷つけられた。その屈辱を合わせてやりたい。
ガキッ!と音が聞こえた。
「手応えあり、これで一人逝ったな」
どうやらローかラングが丸太に押しつぶされたようだ。
僕は願うしかなかった。決心をきめ、そして。
「コノヤロー!!ボッカス・ポーカス!!」
目をかっぴらいて、寝転がりながら唱えた。ドルの顔を見ると、特に驚いた表情を見せなかった。僕の考えは、間違っていなかっただろう。
出てきたものは..........ラピスオニキスの数珠.....祈りが足りないってか?僕は自分に失望した。
「それで神にでも祈る気かね?」
ドルが、こっちにターゲットを変えたようだ。丸太を持ちながら、こっちに来る。
もうダメだ!とあきらめかけたその時。
バコッ!と音がした。なんとドルの後ろにしたからローとラングが現れた。二人はどちらも、丸太に潰されていなかった。ドルが言ってた手応えは何だったか?そういえば自転車がなくなってたか。
無事で良かった。
「しまった!?」
ドルは反応するのがやっとで、上手く反撃出来ず、彼らのダブルキックをくらい、壁を突き破って外へ出ていった。僕はどうやら、奴を上手く引き付けることに成功した様である。
「よぉし!!ようやくあの糞ったれをぶっ飛ばせたぜ」
「浮かれるな、まだ彼は余裕がある」
「なぁに、このまま4人でかかれば.....いけると思うぜ!」
「そうだといいが」
この状況を切り抜けられるのは、トンしかいない。
「僕たちでは...厳しいと思います」
僕は立ち上がりながら呟いた。
「馬鹿っ!そんな弱気でどうするよー!」
「すいません....でもあいつを倒せるのは、実際トンさんしかいないと思います」
僕は地面に落ちてた数珠を拾い上げ、腕に付けた。
「けっ、あんな青二才が来る前に、俺が仕留めたらあ!」
ラングが素手で飛び出した。
「動きが遅い!」
彼の突き、蹴りは全く当たらず、終いにアッパーをくらって上がり、屋根を突き破って転がり落ちた。
「ああ....くそ...もう最悪だ」
鍛えてるおかげか、生きていた。タフな奴だ。
「次は君たちだ....」
ドルが、じりじりとこちらに迫ってくる。タフなゴリラと違って、ローは次の攻撃で瀕死となるだろう、そうならないためにも、僕が挑まねばなるまい。
グッと足に力を込めた。その時であった。
ドルの横から、跳び蹴りが入った。
「うん!?」
肩にくらったドルは、受け身を取りながら転んだ。蹴りを放った男が、僕らの目の前に佇む、彼は僕が待ちわびていた....英雄だ。
「ドル!貴方の企みは.....ここまでだ!!」
若干赤く染まった道着に身を纏う、トンの姿があった。
「そうか.....君が財宝を守る最後の番人というわけか.......面白い!!大臨会の最後の相手として不足はないな」
財宝をめぐる最後の戦いが、今始まった。
まずトンがその辺にあった丸太を振り回し、ドルに挑みかかった。武器を持っていて損することはあまりないが.....丸太ってのはどうだろうか?
振り回しまくって攻撃するが、ドルには交わされまくり受け流しまくりで全く通用していない。それどころか両手で丸太を握られて、投げ飛ばされてしまった。受け身を取ったのでダメージはほぼないが。
だがトンは諦めずに足を狙って転ばせようとした。これもドルは華麗なステップでかわし、上半身にきた攻撃ははじいた。はじいた丸太が木の幹を擦れると、皮が剝がれた。恐ろしい威力である。
自体は一向に好転しないし、誰も手を出そうとしなかった。僕はそれがもどかしく感じて、魔法を唱えることにした。
「おりゃっ!!ボッカス・ポーカス!!」
出てきたのは......赤い魔法陣。あかんわ、爆裂魔法だわこれ。辺りに沢山出るからたちの悪いこと悪いこと。
「ああっもう馬鹿っ!!」
フェイが僕をしかった。そう、彼らが手を出さなかったのはこうしてトンの邪魔になることを恐れていたからなのだ。
トンが丸太を捨て、一目散に逃げた。僕らもローやラングに肩を貸して逃亡した。ドルも当然逃げた。
ズドガドバボボボボボッボ!!!
ローの小屋が吹っ飛んでしまった。当人は苦い顔をしていた。
再び二人の所へ戻ると、彼らは爆心地でいち早く戦闘を開始していた。が、今度はドルが攻勢を握っており、トンは苦戦していた。ついてきてはいるが、攻撃はできていない。以前のトン対ヴォングみたいな状況である。急にドルが跳びかかり、背後についた。トンは、急な攻撃に上手く対応できない。そしてそのまま背中を鷹爪で引っかかれてしまった。
さらにそれでよろけた所へドルは正面に周り。裏拳を浴びせた。これで僕は確信した。このままトンに任せてたらやばい。と.....
隣で見ていたフェイも、そう思ったのか、トンに追撃をかけようとするドルに挑んだ。彼女の剣は、もはや一瞬で見切られるようになっており。素早く腕をはじいてフェイに背中を向けさせ、そこに打撃を加える。
「ああっ!!」
ダメだわこれ、もう勝てんよ。
僕の脳内には、”負け”の二文字があった。このままじゃ僕以外全員死ぬ。だがうかつにボッカス・ポーカスは放てない。運というものは常に変動し続けるのでタイミングは解らない。
眺めることしか、あの頃の僕にはできなかった。
トンは逆に全く焦る様子はなかった。彼はまだ自分の勝利を信じているようで、懸命に攻撃をかいくぐり、ドルの胸に打撃を加えた。だが奴はみじんもひるまず、逆に反撃を重くくらってしまった。彼の腹に、鷹爪での切り傷ができる。
ドルは自信満々な様子で構え始めた。
「私を倒したくば、師から授かった秘拳で挑むがいい!!」
マジか、トンはどうやらまだローから教わった善勝寺の拳を使っていなかった。奥の手として取っておいたのだろうか。うーん?
トンは見透かされていたことにハッとし、人差し指と中指を立て挑んだ。今度はドルの動きにちゃんとついていけている。しかも奴はトンの秘拳に手を焼いているようで、トンの攻撃を受けきれないと感じたのか、一度距離跳んで距離を取ったり余裕ではなくなってきている。
あと一押し、何か、何かあればいけそうだ。
遂にトンの攻撃が奴の腹部に入った、一瞬奴は怯んだ。この善勝寺の拳は有効だったようだ。さらにトンは、その後も奴の攻撃をかわし、一撃一撃しっかりと入れてきた。
だがドルもなかなか粘る。ツボを突こうとしまくるトンの攻撃をほぼないが弾き、反撃している。お互い、息切れして来た。
「ふふ.....戦いとは、こうでなくては.....お互いが命を削れば削るほど面白い!!」
ドルが飛び蹴りを放った。その蹴りはトンの胸元に入ってしまった。だがトンは倒れず。その勢いをバク転で受け流し、そのまま後ろへ下がっていった。
かわりがわりに、フェイが再びドルに挑んだ。時間稼ぎを目論んでいるのか。
剣を捨て、素手で攻撃を仕掛ける。流石ローの孫というべきか、拳法の心得はラングよりもありそうだ。だが、さっきと似たようなパターンで敗北した。
次は僕が挑んだ。だが僕という人間は拳法の心得もクソもないので来る攻撃すべて受けてしまった。顔も体も奴のラッシュを受けて一瞬で真っ赤だ。ボッカス・ポーカスを唱える隙は当然くれなかった。
僕が地に落ちた後、呼吸を整えたのかトンが再び攻撃を仕掛けた。だが、すぐにボディブローをくらった。だが彼は諦めない。今度は下がらずこのまま立ち向かう。でも動きが鈍ったのかもう一回くらった。さらに怯んで下がった所に木があったので上手く逃げられず。もう一度くらった。トンの腹部に血が滲んでくる。
もはや反撃すらできない。顔、腕、肩、次々と攻撃を受けた。僕とフェイはただただやられているのを黙って見ることしかできない。絶望的な雰囲気が僕らに漂った。フラフラになったトンは見ていて痛々しいものだ。だが彼は倒れなかった。僕らの目が死んでいる中、彼の目は鋭く、ドルを見ていた。
「終わりだ」
ドルはついに、最後のラッシュを仕掛けた。顔、腹交互に鷹爪で仕掛ける。トンはよけることすらできず。そのまますべて受けてしまった。終いにはトンの腹に指を二本突き刺し、そのまま投げ飛ばした。
トンは受け身を取らず、そのまま地面にゴロゴロと転がった。
そして木にぶつかり、動かなくなった。
「ああ......」
僕は思わず声が漏れてしまった。涙も出そうになった。トンは死んだ。そう思った。
力なく地面にうつ伏せで倒れる彼の姿は、人形のようだった。
「これで終わったか.....」
ドルはゆっくりと、トンに歩み寄った。
「悲しき姿だ.....君の事は忘れないよ、君は、立派な男だった.....最後まで鋭いまなざしを私に向けたことは、尊敬に値する。さあ、ゆっくり眠るがいい.....」
彼の前まで来て、ゆっくり手を合わせた。悔しくて悔しくて、地面をおもっきし殴った。後ろを見ると、ローが涙を浮かべて膝をついていた。
「.....嫌です」
彼の声が、確かに聞こえた。
「!!?」
ドルは驚いて逃げようとしたが、その前に彼の体にトンの足が、がっちりと絡みついていた。
瞬時に仰向けになり、ドルを足でホールドしたトンは、腕の力で木を上り、ある程度の高さまで来た後、ドルをおもっきし投げた。
奴は地面に頭から落ちてしまった。いくら体が頑丈だとしても、頭にくるのは厳しいだろう。実際立つのがやっとな状態だった。
地面に降り立ったトンは、ふらつきながら苦しんでいるドルの体のツボを突きまくった。動くのがやっとのドルには、抵抗する力など当然なく、やられるがままだった。
頭から太ももまで、くまなく突いた。
「あが...ぐ.....」
途中から、ドルの体の穴という穴から血が流れ始める。全身の内蔵が、死に始めているのだ。もはや助かる見込みなどない。
「終わりです.....」
突き終えたトンは、そう呟いてドルに背を向けた。完全なる逆転勝利だ!僕の心は、すっかり歓喜に満ちていた。周りの連中の顔も、眩しいぐらいに輝き始める。
「おわりだど.......?」
トンの後ろで語り始めた。だがトンは奴の事を見向きせず、僕らの方へと歩んでいく。
「きさまのたたかいは、おわらだい..われわれいがい...ねらってる...はじまあ、き..く........」
奴はこういって倒れ、物言わぬ物となってしまった。なんだか気になってしまうワードもあったのだが、今は勝った事が、ただただ嬉しかったです。
彼の努力が報われて、ほんとぉに良かったよ、本当に。ここで負けて死んだら、彼は天国でも自分の無力さを恨み続けたに違いない。
「やりました......やりましたよ、サカグチさん、ローさん、僕は、僕は強くなれました!!本当に..ありがとうございます....」
「ああ...ええ...」
虚ろな返事しか出来なかった。
トンはそう言って僕の前で倒れかけた。僕はトンを上手く支えて、3人の方へ駆け寄った。
まずは、治療に専念しよう。それまでが、彼の戦いなのだ。
僕は気を引き締めた。
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あれから一か月ぐらいたったか、僕らはあの後、応急処置した後、すかさず全員で村へ下った。
トンのけがは、かなり深刻な状態だったらしく、治療費がかなりかかったし、時間もかかった。
トンが再び目覚めたのは、3日後だった。
費用の方は僕が救出作戦の時に稼いだ金すべて使った。ためようと思ってたが、まあこれはしょうがない。
トンの回復は目覚めてから早かった。大体一週間ちょっとだ。
財宝の地図は、爆発に巻き込まれて消失したかと思ってたが、ローが所持していて無事だった。
「戦ってる隙に奪われたら大変だから懐に入れておいたのだ」
本当弁償、償いどうしようかと考えていたから、助かった。僕は始めてローに心から感謝した。
これで万事解決である。
そして、これからこの地図をどうするか、トン、僕、ローの三人でチャウの店で話すことになった。
地図をテーブルに敷いて、囲むように座り、僕らは話し始めた。
「......どうします?」
僕はほうづえをついて言った。
「一番重要なのはトン自身がどう考えているかだ、どうなんだね?」
「僕は.....燃やして無くすか回収してしまうかのどっちかで迷っています.....意見を頂けたら、ありがたいです」
「燃やす方に賛成ですね、こんなの...持っていてもつらいだけですよ、処理した方が、今後のためだと思います」
「私は反対だ、回収するかはどうであれ、地図自体は残した方がいい、トン君の父が残しておいたのは、きっと重要な思いがあったからだ。それを無駄には出来ないだろう」
「これからも大臨会のような連中と戦うとなると厳しいでしょう、しかも大臨会自体もなくなってないわけですし、これからの戦いも、一筋縄ではいかないはずです。だから地図を燃やして、身を隠した方がいいでしょう」
この僕とローの論争は、まあまあな時間続いた。僕はトンにこれ以上、地図に縛られた人生を送って欲しくなかった。だから燃やすことに賛成していたのだ。トンの父親の思いなんて、背負う必要はない。
あらかた語った後、トンは重く口を開き、判断を語った。
「僕は..........」
彼の判断は、今は書かないでおこう。すべて終わった後に、書こうと思う。
こんな尻切れ悪い終わり方で申し訳ないが、これも彼のためである。
では、また、いつか会おう。
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